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24話 市街戦


 今回は5層まで潜ってみた。

 エンカウントした敵は、まるで木のような魔物のトレント。

 やはり、深部に行くほど敵が強くなる。


 途中から鉄道もなくなるし、あまり金額的にも美味しくない。

 なぜ、深部に潜る連中がいるのだろう――と思ったのだが、ドロップアイテムを狙っているらしい。

 そういえば、トップランカーが持っているビキニ鎧も、レアアイテムだとネットに載っていたな。

 珍しいもの、能力が有用なものには、法外な値段がついてもおかしくない。

 レベルの高い彼らは、ダンジョンの深部から、そういうレアアイテムを持ち帰ろうとしているのだ。


 それはさておき――1日のルーティンをこなして街に戻ってくると、いきなりの非常事態。

 街の中に甲高い音が響き、顕現した黒い穴から魔物が這い出てきた。

 湧き――と言われる現象らしい。


 街中に突然湧いたのは、5層にいるトロルという魔物。

 5層の魔物ということは、推奨される冒険者のレベルは30前後。

 かなりの強敵だ。


 現れた魔物は、辺りを破壊し始めた。


 俺がアイテムBOXから武器を出そうか迷っていると、トロルの近くでひっくり返っている男に気がついた。

 見覚えのある顔だと思ったら、特区にやって来たときに出会った望月という青年だった。


「うわぁぁ!」

 彼はまだレベルがそんなに上がっていないはず。

 これはマズい。


 俺はアイテムBOXから、武器を取り出して皆に手渡した。


「レン! 早速、防御力アップの魔法だ」

「う、うん! む~――防御力上昇!(アビリティアップ)

 青い光が舞って、皆の身体に染み込むが、変わった印象はない。

 それを確認する前に、眼の前の敵をなんとかしなくては。


「わぁぁ!」「高レベル冒険者を呼んでくれ!」「逃げろぉ!」

 逃げる冒険者が多いが、果敢に戦闘を挑む者たちもいる。


「光弾よ! 我が敵を撃て!(マジックミサイル)

 四方から次々と魔法が撃ち込まれる。


「グラァァァ」

 黒い影が巨大な体を揺らし、その喉から轟音が荒々しく吐き出された。

 その咆哮は闇の深淵から湧き上がるように、全てを圧倒する力強さを持って街中に響き渡る。


 魔物の咆哮が空を裂き、その凄まじい音は街の人々の耳をつんざき、恐怖の震えを引き起こした。

 人々の顔には恐れの表情が広がる。

 道端にしゃがみ込む者、物陰に隠れる者、あるいはただ立ちすくむ者。


 これも魔物の特殊能力だろうか?

 俺は影響を受けていないので、望月君の所に駆け寄った。


「望月君!」

「……え?! に、ニワさんですか?!」

 彼の身体もカタカタと震えている。

 手足も上手く動かないようだ。


「こっちへ!」

 魔物の咆哮の影響だけではなく、どうやら彼は怪我をしているらしい。

 彼の身体を抱えあげる。

 オッサンに抱えられるのは彼も嫌だろうが、今は非常事態だ。

 諦めてほしい。


 魔物の咆哮から正気を取り戻した魔導師たちの魔法攻撃が再び始まったのだが、効き目が薄いようだ。

 ダンジョンの外では魔法の威力が減衰する。

 それに、あの黒い毛は魔法に耐性があるのかもしれない。


 同じく5層にいたトレントも、サナの光弾を受けつけなかった。

 ――となると、物理攻撃ってことになるが。

 それができる高レベル冒険者が近くにはいないらしい。

 ――ということは、やっぱり俺か。


 少し離れた所に望月君を下ろすと、俺も戦闘に参加することにした。

 このままじゃ被害が増大するし、死者が出るかもしれん。

 アイテムBOXを晒すことになるかもしれんが、やむを得ない。


「魔法が効かないってことは、やっぱり俺がやるしかねぇか」

 あまり乗り気ではないが、戦闘するなら撮影のチャンスだ。

 俺はアイテムBOXのカメラをセットした。

 よく見ればカメラが宙に浮いているので、不自然だろうが、この騒ぎで気づくやつもいないだろう。


 接近戦なんてやる技量はないから、遠距離攻撃――となると。


「やっぱりこれか」

 俺はアイテムBOXからミサイルをまた取り出した。

 固い樹皮っぽいトレントにも刺さったんだ。

 トロルにも効くだろう。


 投槍器にミサイルをセットしたのだが……。


「くそ! 後ろに人がたくさんいるし!」

 力の加減を間違ったら、魔物の身体を貫通して街の人に被害が出てしまう。

 俺のパワーで投げたのが直撃したら、即死もあり得る。


 実際、北の大地でエンカウントしたヒグマの胴体は貫通してしまったのだ。


「そうだ!」

 俺はひらめいた。

 ならば上から攻撃をするのはどうだ?

 貫通しても地面に突き刺さる。

 そうと決めたら、行動に移すしかない。

 魔物は暴れ続けて被害が拡大しているのだ。


「うぉぉ!」

「ダイスケさん!」

 サナの声が聞こえる。


 俺はミサイルを持ったまま、ダッシュした。

 露店の荷物や瓦礫を踏み台にしてジャンプ。

 高レベルの俺の身体はスーパーマンと化している。


 俺の身体は天高く飛び上がった。

 眼下には黒い毛むくじゃらの魔物――あのドタマに、このミサイルを打ち込めばいい。


「おおおっ!」

 俺は渾身のパワーを込めて、鋭い先端の武器を投擲した。

 放たれた矢は黒い毛皮に食い込み、そのまま貫通。

 地面に突き刺さって、停止した。


「グォォォ!」

 飛び上がった俺の体は放物線を描いていて、止めることはできない。

 そのままトロルの上に落下した。


 それを迎え撃つように、黒い腕のラリアットが俺を襲う。


「うぐっ!」

 身体をぎゅっと丸めて、完全防御の姿勢をしたが、そのままホームランボールのように弾き飛ばされた。

 また俺の身体は放物線を描いて宙を舞い、露店の上に落下して、辺りに破片を撒き散らす。


「いてぇ……」

 大の字になっている状態からを目を開けてみると、周りにたくさんの人がいる。

 身体を起こしてみる――動く。

 手と脚をチェック――問題なし。


 トロルのいる位置から数十メートルは離れている。

 普通ならこんな距離を飛んで落下――地面に叩きつけられたら、タダでは済まないだろう。

 これも高レベルのせいか?

 いや、多分――レンの防御力アップの魔法のお陰だな。

 これは、パーティやギルドに重宝されるんじゃないか?

 巷では、攻撃力アップの魔法もあるというし。

 そいつを使えば、かなり戦力を底上げできる。


「まてまて、それどころじゃ……」

 まだトロルが動いている。

 俺は再度戦闘態勢を整えようとしたのだが、突然敵の動きが止まった。

 故郷でヒグマと対峙したときもそうだった。

 致命傷を受けても数十秒は動くのだ。


 周りにいる人たちが、固唾をのんで見ていると――黒い毛むくじゃらがその場に崩れ落ちた。


「「「うぉぉぉぉっ!」」」

 一斉に皆が湧く。

 観衆は一つの塊となり、熱狂的な歓声を上げている。

 その興奮とエネルギーが街全体を包み込み、一体となった喜びが空間を満たす。

 なにかすごく一致団結感を感じる。


 これが特区か。

 俺はカメラをアイテムBOXに収納した。


「あんた、すげーな!」

 ヒゲを生やした小太りのオッサンが話しかけてきた。

 どうやら、俺がぶち壊してしまった、露店のオーナーらしい。


「あ~いや――すまない。露店を壊してしまって……」

「いやいや、いいんだよ! あんな化け物に暴れられていたら、こんなものじゃすまなかった」

 そこに他の人たちも入ってきた。


「ここに高レベル冒険者がいてくれてよかった」

「やつら、ダンジョンに潜って中々出てこないからな」

「紋章隊が来てくれればいいが、こんな所にくるはずがねぇし」

「やつら、都内を守るのが仕事だからな」

 ここで話が出た紋章隊というのは、特区外で悪さをした連中などを取り締まる特殊部隊のようだ。

 そういうのがいると聞いていたが、そういう名称だったのか。

 彼らは、都内に湧いたこのような魔物退治もやっているという。


「……」

 ここには俺のアイテムBOXに突っ込む人はいないようだ。

 雑談をしていても仕方ない。

 皆の所に戻ろう――心配だ。


 人混みをかき分けて、彼女たちの姿を探す。

 けが人もいるようだが、回復ヒールを使える魔導師が治療に当たっている。

 重症なら、ダンジョンに担ぎ込む必要があるだろう。


「お~い! サナ! レン!」

 俺の声に反応があった。


「ダイスケさん! こっちです!」

 高レベルで耳もよくなっているからな。

 神経を集中すると聴覚の解像度がすごい。


 声がする方向に向かうと、彼女たちを発見した。


「皆、大丈夫か?」

「大丈夫です」「うん」

「ちょっと、一時はどうなることかと思ったわよ」

「一発で仕留められてよかった――あ、そうだ。望月君はどうした?」

「え? ああ、ダイスケさんが連れてきた人ですか? 知り合いなんですか?」

「そうなんだよ。ここで知り合ったんだ。冒険者初心者仲間なんだ」

「トロルとか一発で仕留める冒険者が、初心者なわけないでしょ?!」

 キララのツッコミが入ったが、事実なんだから仕方ない。


「あの建物の陰にいます」

「わかった」

 彼女たちに案内してもらい、望月君の所に向かう。

 皆で向かうと建物の壁に背中をつけて座り込んでいる彼がいた。

 顔色がよろしくない。


「望月君、大丈夫か?」

「あの――魔物は?」

「大丈夫だ、沈黙したよ」

「よかった……」

「ダイスケ、私の回復ヒール魔法をかけてやったよ!」

 レンが胸を張っている。


「おお、ありがとう」

 あ、そういえば、アイテムBOXの中に回復薬もあったはず。

 俺は彼に背中を向けると、収納から薬を出した。


「ほら、一応回復薬ポーションも飲んでおきな」

「ええ? こ、こんな高価なものはいただけませんよ……」

「いやいや、なにかあると困るからさ。ここじゃ効き目が悪いかもしれないが」

「すみません……」

 彼が薬を飲み干すと、顔色がよくなったように見える。


「調子が悪いようなら病院に行って、検査を受けてな」

「大丈夫だと思います」

 頭とかは打ってないと思うが……。


「そうか――それじゃ俺は獲物の所に行ってくるかな?」

 また人混みをかき分けて、黒い魔物のむくろの所に向かう。


「おおい、通してくれ」

 毛むくじゃらの前には、すでに業者がやってきていた。

 地面に突き刺さったミサイルを回収したかったのだが――これじゃ無理だ。


 周りにいる連中は、スマホを向けて撮影をしている。

 動画サイトやらSNSに上げたりするんだろうな。


「おお~」「すげーな」「ダンジョンの中にいるやつよりデカいんじゃないか?」

「すみませ~ん! 一応、俺が仕留めたんだが……」

「お!」「売ってくれ!」「ウチが買う」

 手を挙げたのは、オッサンの3人組。


「だれでもいいよ高く買ってくれた人に売るが、武器を打ち込んだので、中はズタズタだぞ?」

「肉もそうだが、この毛が高いから大丈夫だ」

「へ~」

「普通は火炎系の魔法で丸焼けになったり、ボロボロになるまで切り刻まれたりするからな」

 ウンウンと、腕を組んだオッサンたちが頷いている。

 ダンジョン内ではそうなのだろうが、ここでは魔法が減衰しているので、毛皮には損傷がない。


 それにしても、この毛をいったいなにに使うんだろうな。

 編み物をしたりするんだろうか?

 周りの人たちに話を聞くと、魔法を弾くので魔法防御用の布としての価値があるようだ。

 そういえば、さっきの戦闘でも魔導師の魔法を弾きまくってたな。

 火炎系の魔法を使わなかったのは、屋台などに延焼を恐れたからか。

 まぁ、こんな密集している場所で火事になったら、大惨事だな。


 話によると、魔法を使ってくる魔物もいるようだが、まだエンカウントしてないな。


「「「よっしゃ!」」」

 大声でセリを始めるのかと思ったら、オッサンたちが円陣を組んでボソボソなにかやっている。

 時間がかかりそうなので、俺はアイテムBOXを使わずに地面に突き刺さったミサイルを回収することにした。


「ぐぬぬ!」

 かなり地面に埋まっていて、力任せに引っ張ると千切れそうだ。

 アイテムBOXに収納すればいいのだが――人目があるし……。


 こんな感じじゃいずれは壊れたりロストしそうだな。

 新しい単管を買って追加で作ったほうがいいか。

 ここらへんだと新品しかなさそうだから、高くつきそうだな……。


 魔物の買い取り金額は軽く150万円ほどになった。

 この黒い毛皮にはそんなに価値があるのか。

 確かにダンジョンの深部でこいつをしとめても、運んでくるのが大変だ。


「……」

 解体する業者が決まったので、連絡を受けた作業員がたくさんやってきた。

 皆が、胸まで覆われているゴム製のつなぎを着ている。

 いくら洗浄の魔法があるとはいえ、積極的には汚れたくないだろうし。


 野生動物だと感染症やら寄生虫の心配もあるのだが、魔物にはそれがない。

 においもしないし、クリーンといえる。


 ――だからといって、生食は止めたほうがいい。

 どうやらゲテモノ食いで、やっている連中がいるようだが。


 解体の様子をスマホで撮影する。

 アイテムBOXのカメラは使えないが、スマホでなら撮っても問題ない。

 当然、作業員たちにはモザイクを入れる。


 解体する様子を撮影していると、見知らぬ男が話しかけてきた。

 近代的な防具をつけているから冒険者だろう。


「あんた」

「なんだ?」

「さっき、なにもない所からものを出してなかったか?」

 やっぱりアイテムBOXに気がついたやつがいたか。

 ここはもう、とぼけるしかないな。


「さぁ? 気のせいだろ?」

 俺の言葉に、男はムッとした様子だった。


「動画撮ってるんだけど?」

 彼がスマホで撮った動画を見せてきた。

 しまった、いつのまにか撮影されていたのか。

 俺はかろうじて動揺を隠した。


「そんな動画、AIでいくらでも作れるでしょ? 証拠としては弱いなぁ……」

 もうとぼけるしかない。

 まぁ、どこかにたれ込まれたりして、当局から呼び出しを食らったら仕方ない。

 黙って従うしかないだろう。


 男が食い下がってきたが、ここで俺がアイテムBOXを持っているという証明にはならない。

 もっと複数人の目撃者がいれば、話が違ってくるがな。


 俺は男を無視して、魔物の所に向かう。


「こんなものをぶち込んだのか?」

 作業員が、単管ミサイルをしげしげと見ていたのだが、そいつを手渡してきた。

 血まみれで触りたくないが――受け取ったのだが、ミサイルはボコボコになって、先端が取れてしまっていた。

 これじゃダンジョンに捨てて、新調したほうがいいか。


「ああ、それでも30秒ぐらい動いていたがな」

「アニメや漫画みたいに一発で仕留められれば簡単なんだがな」

「そうなんだよ。熊を仕留めたときも、全力で走りまわったりしてたしなぁ」

「あんたも牙熊やったことをあるのか?」

 牙熊?


「いや、ヒグマな」

「ええ?! 本物の熊の話かよ」

「今や、試される北の大地は、ヒグマの天国だからな、ははは」

 武器を回収したので、皆のところに戻った。

 途中で話しかけられたが、適当に「ありがとう」「大変だったよ」などと、テキトーに相槌を打つ。


「またせたな。あれ? 望月君は?」

「あの男の人なら自分のギルドに戻りましたよ。お礼を言ってました」

 スマホを見ると、彼からのメッセージも入っていた。


「まぁ、大丈夫なようならいいけど」

「なんか――ちょっと落ち込んだような感じでしたけど……」

「あれは――あまり長くないかもね」

 キララが変なことを言い出した。


「彼が冒険者を辞めようとしていると?」

「まぁ、そうねぇ。こういうのは合わないと思ったら、すぐに足を洗わないと――命に関わるし」

「そうか」

 命に関わるってのは、今回のことで強く感じたのかもしれないな。


「忘れてた。サナ、こいつに洗浄クリーンの魔法をかけてくれないか?」

「はい」

 サナの魔法でミサイルが綺麗になった。


「は~やっぱり洗浄の魔法は便利だな。俺も覚えたいぜ」

「さっきは言い損ねたけど、無茶しすぎよ!」

 キララが俺に詰め寄ってきた。


「そんなことを言っても、高レベルの冒険者が俺ぐらいしかいなかったみたいだし。被害が拡大するのはマズいだろ?」

「それはそうだけど……」

「ヤケクソで、誰かが火炎系の魔法をぶっ放さないとも限らんし」

「そう、それ! 誰かがやらかすんじゃないかと、ヒヤヒヤしてたわ。こんな密集している場所で火炎系の魔法なんてつかったら大惨事間違いなしよ」

「まぁ、理性的な魔導師が多くて助かったな、ははは」

 それより、皆に分前をやる。


「ええ?! いりませんよ」「あたしもさすがに」

「もらうものはもらうけど?」

 キララは遠慮なしだな。


「レンの防御力アップ魔法はとても助かったよ。あれはすごいな」

「えへへ、褒められた」

「もっと高レベルの防御力アップなら、無敵になるんじゃないか?」

「そんな感じだから、魔法の防具を求める冒険者が多いのよ」

 キララの言うとおりだ。

 魔法の防具を装備して、さらにバフの上掛けをしたら?

 もう無敵じゃないか?


 なるほど――そう言われると、ドロップアイテムなどに血眼になる高レベル冒険者にも頷ける。

 魔法のアイテムは、レベルに関係なく底上げをしてくれるからな。


 今日の冒険が終わったので、皆で宿に帰った。

 ギルドは一緒になったが、キララの部屋は別だ。

 さすがにあの部屋で5人は無理だし。


 部屋に戻ると、すでにミオが帰ってきていた。


「ただいま~」

「おかえりなさい~」

 ミオが走ってきて、俺に抱きついた。

 なんだか懐かれてしまったな。


「あたしもあたしも~!」

 レンも一緒になって抱きついてきた。


「なんで、レンちゃんまでダイスケさんに抱きついているの?」

「いいじゃない。サナちゃんも抱きつけば?」

「……」

 サナはそういうタイプではないらしい。


「はいはい、離れて離れて。仕事をしないと。ミオちゃんは宿題があるだろ?」

「「は~い」」

 アイテムBOXからカメラと、ノートPCを取り出した。

 カメラから取り出したHDDと接続する。


 今日の目玉は、トレント戦と、さっきのトロル戦だ。

 多分、また再生数が伸びると思うが、魔物の種類が一回りしてしまうと、同じことの繰り返しになってしまうだろうな。

 そうなったら、再生数が落ちるに違いない。

 視聴者は常に新しい刺激を求めているのだ。


 まぁ、その頃には十分に稼げて引退時になっているだろう。


「お、両方ちゃんと撮れてるな」

「「すごーい!」」

 俺の肩越しに、サナとレンがPCの画面を覗き込んでいる。


「ミオにも見せて!」

「ほら」

「すごい!」

 女の子たちが、キャッキャしていると、キララがやって来た。

 すっかりと化粧を落として、眉なしバージョンである。


「毎日、塗りたくったり、落としたり大変だな」

「そうよ、女は大変なのよ」

 皮肉として取らなかったようだ。


「明日、もう1台PCを買いに行こう。サナが最初に動画編集を覚えて、レンに教えてやってな」

「はい」

「あたしも買おうかな」

「自分の金で買うのか? まぁ、あったほうがいいとは思うが――」

 現状、大量の動画を扱ったりしなければ、スマホで済んでしまうのだ。


「ずっと欲しいと思ってたから! お金も入ってきてるし」

「貯金もしておけよ。なにがあるか解らない世界だからな。それと――動画の収益が入ってくると税金の心配をしないと駄目だし」

「うえ~面倒くさそう」

「実際、面倒くさい。毎月どのぐらいの収益が出るか、経費がどのぐらいか――全部申告しないと駄目になる」

「そうよ~」

 キララは余裕そうだ。


「キララは、自分のサイトを持っていると言っていたが、税理士でも入れてるのか?」

「ええ、収益もそれなりにあるからね~」

「それじゃ、俺たちより先輩だな。ふたりとも、税金で解らないことがあったら、そこのオバサンに聞きなさい」

「「「は~い」」」

 なぜかミオも返事をしている。


「オバサンじゃねぇ!」

 キララを無視して、皆の動画を切り分ける。


「キララの分はどこに送ればいいんだ?」

「共有サイトがあるから、そこに送って」

「解った」

 簡単な編集して、動画サイトにアップした。


「そんなに難しくないだろ?」

「……た、多分、大丈夫だと思います」

「若いからすぐに覚えられるよ。オッサンなんて、次の日になると忘れてるからな」

「だから、オッサンって同じ話をなん回もするのよねぇ」

 キララが呆れた口調で話すのだが……。


「お前だって、いずれそうなるんだよ」

「残念でした。私は違いますからぁ」

 残念でもなんでもない。

 老いってのは、男女平等に誰にでも訪れ、避けることができない。

 彼女もいずれ解ることになるだろう。


 俺とサナの動画をアップしたのだが、やっぱりレンの動画が少ない。

 魔法が補助系だからだ。


「う~!」

 レンは悔しそうだが、動画映えしないといっても、補助系の魔法は冒険者に需要があるだろう。

 そっちで勝負する手もある。


 夕方になったので夕飯にした。

 今日は肉を買ってきて、屋上で焼き肉だ。

 これは部屋の中ではできないだろう。


「美味しい!」

 ミオも美味しいそうに食べている。

 ミオとレンも美味しそうだ。

 やっぱり若い子が食べている姿を見ていると、もっと食べさせたくなるねぇ。


「美味しいけど、においがつくのよねぇ」

 相変わらず一言多い、キララだ。


 俺たちは宿の屋上で、焼き肉を堪能した。


「いいにおいさせやがって!」

 ――などという、わけがわからんクレームも周りの建物からやってきたのだが――知らんがな。

 周りからにおいが漂ってくることもあるし、こんな密集している場所ではお互いさまだ。


 ――地上でトロルと戦った次の日。

 朝起きて、朝食の準備をする前に、動画の再生数を確認しようとしたのだが。

 役所から重要メッセージが入ってきた。


 これは、冒険者だと入れなければならないアプリからの通知だ。


『丹羽ダイスケ――指定の場所まで出頭を命じる』

「あ~、これは……」

 もしかして、アイテムBOXのことをたれ込まれたんだろうか?


 こいつは無視できない。

 まぁ、ずっとダンジョンにいましたで逃げられないこともないが、冒険者の資格を剥奪される可能性もある。


 くそ、行くしかねぇか……。



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