21話 眉毛のない女
ギルドメンバーが増えて、食事が大変だ。
ギルドを作ったってことは、メンバーの面倒を見なくちゃな。
レベルアップしたレンが、温めの魔法を覚えたというので、料理に使わせてもらった。
十分に役に立つ。
俺も魔法を使いたいぐらいだ。
攻撃の魔法などはいらんから、温めと、洗浄の魔法は欲しい。
どちらかといえば、利用価値が高い温めの魔法がほしいな。
加熱できるということは、害虫、害獣の駆除に使える。
たとえば、屋根裏を加熱してネズミを追い出したり、布団や絨毯を加熱してダニ退治もできるだろう。
それだけではない、魔法は外でも役に立つ。
地面を加熱すれば、刈っても刈っても生えてくる雑草を根本から退治できる。
まぁ、地面を加熱すると、雑草の種々どころか微生物まで全滅させてしまうので、不毛の地と化すけどな。
別に家の周りが不毛の地と化してもなんの問題もない。
それはさておき、レンに手伝ってもらって大鍋でカレーを作り、みんなで夕飯を食べていたのだが――。
突然、あの女が部屋に上がり込んできた。
あの女ってのは、俺たちにつきまとっていた魔導師だ。
「カレー! 私にもちょうだい!」
「はぁ? なに言ってんだ。勝手に上がり込むなよ」
「カレー! お腹空いた!」
「知らんがな。自分の飯はどうしたんだよ。まさか、食糧もなしでダンジョンに潜ったわけじゃないだろ?」
「行きと帰りで、ゴブリンやら狼の群れに絡まれて、魔法を使っちゃったから……」
魔法を使うとカロリーを消費するらしい。
それで、蓄えていた食料を食い尽くしてしまったのだろう。
本来ならパーティの前衛がいるから魔力も節約できるだろうが、今回はソロも同然だ。
俺たちがいたが、この女を助ける義理もないわけだし。
「ダンジョンで言ったが――戦闘が嫌なら、エレベーターやら列車を使えばよかっただろ?」
「……お金がなくて……」
女がしょんぼりしている。
「単独であそこまで来れるってことは、それなりのレベルなんだろう? なんでギルドに入ってないんだよ」
「……そんなのあなたには関係ないでしょ?!」
「うん、関係ないな。だから、お前も出ていってくれ」
「やだー! カレーたべさせてぇ~!」
「うぜぇ!」
なんなんだ、この女は。
サナやレンのほうが、よほどわきまえている。
「ダイスケさん――可哀想ですし、食べさせてあげたら?」
「サナだって、迷惑がってたろ?」
「それはそうですけど……」
一応、レンの意見も聞く。
「レンはどうだ?」
「まぁ、カレーぐらいならいいんじゃね?」
「ミオちゃんは? このオバちゃんにカレー食べさせてあげてもいい?」
「オバちゃんじゃねぇ!」
「いいよ」
ミオがカレーを頬張りながらそう言うのだが――まぁ、まったく興味ないって感じ。
「ミオちゃんは、いい子だなぁ」
彼女の頭をなでてやる。
「カレー美味しいよ!」
「そうか~、ふ~――仕方ねぇな」
アイテムBOXを見せたくないので、部屋の外に出てから食器などを出した。
ご飯を盛り、カレーをかけてやる。
「私のカツは?」
「欲しがりません、カツまでは――って言葉知ってる?」
「カツぅ~! 私も食べるぅ~!」
なんだか、ジタバタしている。
「いい歳こいて止めろ」
「歳は関係ねぇだろ!」
「おおあり名古屋は城でもつ! だいたい、お前ぐらいになると、そろそろ引退を考える歳じゃないのか?」
「それ言ったら、あんただってそうでしょ?! ハグハグ……」
女がカレーをかきこんでいる。
「俺は、冒険者になったばかりの新人だぞ」
「うそ!?」
「嘘ついてどうする。本当だぞ」
「でも――ダイスケさん、すごく強いですよね」
「ははは、冒険者になりたての頃に、偶然大物を倒してな」
嘘は言ってない。
「あ~、いるよねぇ。そういうラッキーなヤツ……」
女がスプーンを咥えたまま、もごもごなにか言ってる。
「それよりも――役所の女から連絡はいったか? 俺たちにつきまとうなって言われたろ?」
「……言われたけど……」
「だからもう、ここで終了な。カレーは食っていいから、もう俺たちの前に姿を現すなよ」
「……」
女が不満げな顔をしているが、知らん。
――見ればそれなりに美人だし、スタイルもいいみたいだが、性格が悪すぎる。
魔導師としても実力もあるみたいだし、レベルもそれなりなんだろう。
それでどこのギルドにも入ってないってことは、本人に問題があるに違いない。
まぁ、この図々しさがあれば、食うには困らないとは思うが。
食事の時間も終わったので、女を部屋から追い出した。
いつかれたらたまらん。
暗くなったので、ライトの魔法で照らし、みんなで寝転がってネットを見る。
なんでか知らんが、レンとミオが俺の腹に乗っている。
「お?! ダンジョンの情報が更新されたみたいだぞ?」
「これって、マジか~」
「まるっきり新しい階層ですか?」
サナもレンと同じサイトを見ているようだ。
モグラとかいう、ダンジョンの地面や壁に穴を開ける専門のやつらがいる。
そいつらが新しい階層を発見したらしい。
2層の下につながる層だが、3層ではない、未知の層のようだ。
ここが、ダンジョンのおかしなところでもある。
階層になっているから、下に穴を掘れば下の階層に穴が開きそうなものだが、そうはならない。
まったく違う場所につながる。
どういう魔物がいるのかも不明だし、しばらくは、高レベル冒険者のアタックが続くに違いない。
未発見のアイテムやら、一攫千金のチャンスでもあるし、ダンジョン初踏破は名誉にもなる。
高レベル冒険者なら、生活の金には困ってない。
相手が未発見ダンジョンなら、腕が鳴るだろう。
「俺も行ってみるかな」
「え?!」
「ダイスケさん、危ないですよ!」
「そうだよ!」
女の子2人がオッサンのことを心配してくれている。
オッサン冥利につきるってもんだ。
いや、自分たちの生活が困るってことかもしれないが、ははは。
「俺1人ならどうとでもなるし」
「ダイスケさんは強いでしょうけど……」
「2人は、2層辺りで金を稼いでいればいい。レベルが上がっているから、2層でも余裕のはずだし」
「そうですけど……」「……」
2人は不安そうだ。
「俺がいなくなったときのことも考えておかないと駄目だぞ? ダンジョンの中なら、なにが起きてもおかしくないし」
浅い階層だからといって油断をしていると、脚を掬われることもある。
2層で余裕なレベルでも、俺たちが遭遇した白い狼みたいなイレギュラーが生まれることもあるし。
「そういうことを言わないでくださいよ」「そうだよ!」
「そうは言われてもなぁ。俺も一攫千金したら、引退して故郷に帰るつもりだし……」
「そうなんですか?」
「あの女が言ったとおり、オッサンの俺がずっとできる仕事じゃないからな~」
「ダイスケ、いなくなっちゃうの?!」
黙って話を聞いていた、ミオが声をあげた。
「すぐじゃないけど、自分の家もあるしね~」
「やだー! ダイスケのカレーもっと食べたい!」
止めてくれ――その攻撃は俺に効く。
それは嬉しいが、この仕事がいつまでも続くとは思えん。
深い階層に潜って、大物を狩り続けない限り、徐々にレベルダウンしてくるだろうし。
「はは――まぁ、ここにいる間は作ってあげるよ」
「……」
ミオは納得はしていないようで、黙って俺の貸している玩具をいじっている。
そう言われても困るなぁ。
一緒に試される大地に行くわけにはいかないしな。
若い子にはなんの魅力もないだろう。
マジで試されることになるし。
とりあえず食料自給率100%オーバーなので、食うのには困らないだろうけどな。
――皆でカツカレーを食べた次の日。
朝食は皆でパンとカフェオレ。
ネットは新しい階層の話題でもちきりだ。
しばらくは騒がしいだろうし、アタッカーが殺到するだろうが、侵入経路も定まってないはず。
記事によると――新しい階層にあるデカい回廊の真上に出たようで、下に下りる階段などを設置しないと駄目なようだ。
時間がかかりそうだな。
「お?! サナの魔法の動画、20万以上再生されているぞ?」
「はい! 今観ました!」
彼女がニコニコしているのだが、コメ欄は――。
『むっ!』
『むっ』
『むっ!』
『光弾の魔法だな。ダンジョン内でどうやって撮影しているんだろう』
『むっ』
『むっ!』
『グロ注意!』
こんなコメントしかないのだが、視聴者はサナの胸を注視している。
これを見る限りサナの戦略は成功していると言えるだろう。
「私のほうは10万再生されてます!」
レンの回復魔法の動画だが、こっちのコメ欄も――。
『むっ!』
『むっ』
『むっ』
『この太ももは10代……』
『回復を使えるってことは……当然、処……ゲフンゲフン』
『むっ!』
こちらも、レンの太ももに注目しているから、目論見は成功していると言える。
「しかしなぁ……男ってのは本当にアホだよなぁ」
だが、それがいい。
アホじゃない男なんて価値がないのだ。
アホなロマンが世界、いや宇宙を回している――俺はそう考えている。
「お姉ちゃん! 格好いい!」
「えへへ」
妹ちゃんに褒められて、お姉ちゃんも嬉しそうである。
まぁ、こんな稼ぎかたができるのも、若いうちだけだし……。
「このまま動画を上げていけば、シルバーメダルなんてすぐだぞ?」
条件をある程度満たすと、動画サイトを経営している会社からシルバーのメダルが送られてくる。
その上は、ゴールドのメダルだ。
もちろん、本物の銀とか金ではないのだが。
本社はアメリカなのだが、メダルは日本で作られているものが送られてくるようだ。
皆でワイワイしていると、ドアをノックされた。
「は~い」
出ると、目の前には髪の毛ボサボサの女。
眉毛もなく、黒い寝間着のようなものを着ている。
「ハラヘッタ」
「はぁ?」
女が俺を押しのけて、部屋に上がり込み、座り込んだ。
「ハラヘッタ!」
女が床をバシバシ叩いている。
「おまえなぁ……」
入ってきたのは、魔導師のあの女だ。
眉毛がないのはすっぴんのせいだろう。
これが地顔か。
「はい、美味しいよ!」
ミオが、女にパンとカフェオレを渡した。
「ありがとう~」
「子どもの食い物取るなよ」
「取ってないし!」
彼女がスマホを取り出して、俺に見せてきた。
「あ? なんだ?」
「これって、あなたたちでしょ?!」
彼女が見せたのは、俺たちの動画チャンネルだ。
「それがなにか?」
「どうやって動画撮ってるの?」
「それは秘密です」
「教えてくれたっていいじゃない!」
「なんで部外者に教えないと駄目なんだよ」
「ケチ! それじゃ、私もギルドに入れてよ」
「はぁ? なんで?」
「モグモグ――こんなに美人で実力者よ?」
「俺の目の前には、眉毛のない女しかおらんが……」
「!」
彼女が額をパッと隠した。
「オバちゃん、なんで眉毛ないの?」
ミオの素朴な疑問だ。
「オバちゃんじゃねぇ!」
「わ!」
びっくりしたミオが、お姉ちゃんの後ろに隠れた。
「子どもをいじめる人は、俺のギルドに入れたくねぇなぁ」
「うう……」
女が、ちょっとしょんぼりしている。
「魔導師だろうけど、レベルはどこぐらい? アバウトでいいよ」
「20以上」
「へぇ」
「魔法は、マジック・ミサイル、ファイヤーボール、ライトニング、プロテクション」
プロテクションってのは、防御魔法だ。
「攻撃特化って感じか」
そういう偏りもあるんだな。
個人的には、温めと、洗浄のほうがありがたいんだが。
回復やら、浄化みたいな、ゲームでいう僧侶系――。
バフ、デバフを与える、補助系魔法みたいなのもあるらしい。
「そうね」
「そんだけレベルがあって、魔法も使えるなら、どこのギルドでも雇ってくれるだろ?」
「……」
彼女が苦虫を噛み潰したような顔をしている。
「そうでもないのか?」
「あいつらは、若い子ばっかりチヤホヤするから!」
あいつらはってのは、今までのギルドやパーティのことだろう。
「まぁ――マスコットとして入れるなら若い子がいいだろうし、ガチ攻略ギルドなら、いざとなったら頼れる男が欲しいだろうなぁ」
つまりは――ギルドやパーティで若い子がチヤホヤされるのが気に入らなくて、ソロになってるわけだ。
自分だって若いうちは、そうだったんじゃねぇの?
冒険者という職業が始まった黎明期は、女性が少なかったからな。
さぞかしモテモテだったろうが、今は子どものなりたい人気職業上位にくるぐらいに若者が多い。
「いつまでもこんな仕事はできないだろうし、引退することも考えたほうがよくないか?」
「ウチのお母さんみたいなことを言うのは止めてよ!」
「それなら、もうソロでやったら?」
「1人だと、浅い層にしか潜れないし……」
「そのぐらいのレベルがあれば、飯代を稼ぐぐらいはできるだろう?」
「……」
女が下を向いてなにかモゴモゴ言っている。
「なんか、わけがあるのか?」
「……借金があるんだけど……」
「はぁ? それじゃ働け! 以上!」
「なんでよ! もう!」
「いい歳した女が、ダンジョンに地道に潜って稼ぐしかねぇだろ」
ただし、安全な階層に限る。
こういうときに一発逆転を狙って、博打にでると100%失敗する。
有り金勝負して一発逆転できるのは、物語の中だけ。
「ううう……」
「だいたい、そのレベルならそれなりの稼ぎがあるはずだろ? なんに無駄遣いしてるんだ」
「女を磨くためには、お金がかかるのよ! 男とは違うんだから」
「知らんがな――大方、エステやら、美容院やら、ブランド品やら、そういうものに散財してるんだろ?」
そんな金の使い方をしていたら、いくら金があっても足りるはずがない。
「そうよ! 冒険者として成功したって見せつけないといけないし!」
要は、同業の女どもに、「ドヤァ!」したいだけだろう。
「他人は関係ないと思うがなぁ」
「ピチピチの冒険者女子! ――って、ネットで特集を組まれたこともあったのよ!」
どうでもいいが、20歳過ぎて「女子」というのは止めていただきたい。
「ピチピチってな――過去の栄光にいつまでも、すがるのはどうなのよ?」
「うるさい! みんな、あんなにチヤホヤしていたのに、誰も声をかけてくれなくなったし! なんでよぉ!」
なんでって、歳のせいだろ――と、思っているが、口には出さない。
「女の子たち――これが眉毛がない、悪い大人の見本です」
「はい」「うん」
「はい、じゃねぇよ!」
「こらこら、八つ当たりするなよ」
「あんたらだって、歳を食うんだから! 今にこうなるのよ!」
「おいおい、一緒にするな。散財しないで貯金して、地道に稼げばそうはならんだろ」
「そんなの女としてのプライドが……」
女が、なにかブツブツ言っている。
知らんがな。
「そういうわけで、当ギルドへの入会は全会一致で否決されましたので、あしからずご了承ください」
「なにが、そういうわけ――なのよ!」
「ええ? まだ食い下がるの? 俺にメリットがまったくねぇだろ」
「ほら! 私の身体は?! 好きにしてもいいわよ」
「子どもの前で、そういうことは止めなさいよ」
「ほらほら!」
女が胸を寄せて見せている。
「眉毛のないオバちゃんに迫られてもなぁ……」
「オバちゃんじゃねぇ!」
「そんな、垂れた胸より、こっちのポインポインの胸のほうがいいし」
俺はサナの胸を指した。
「それじゃ脚は?! ちょっと自信があるのよ」
「真っ白で滲み一つない太ももが、そこにあるし……」
俺はレンの脚を指した。
「なんだよ、このロリコン!」
「ははは、えらい言われようだな。あくまで第三者の正直な感想なんだが」
「うわぁぁん!」
女が塞ぎ込んで泣き始めた。
「うぜぇぇぇぇ」
「ダイスケさん、可哀想ですよ」「あたしもどうかと思う」
「ええ? マジで? 2人とも、人生経験ないからそう言うけど、こういうのは関わっちゃ駄目な類の人間よ」
「そんなことはないと思いますけど……」
サナが苦笑いしている。
「う~ん、それじゃここは――無垢な少女の直感に賭けるか。ミオちゃん、この眉毛がないオバちゃんが、お友だちになりたいんだって。お友だちにしてもいいと思う?」
「うん!」
「本当に?」
「うん! 大丈夫!」
「そうかぁ――レンはどうだ?」
「あたしも大丈夫だと思うけどなぁ」
「それじゃ、ギルドフォーティナイナー、陰の総帥のお言葉により、女をギルドメンバーに加えることにする」
「ありがとうございます~」
彼女がミオに土下座をした――ノリがいいな。
「そういえば、名前も知らないぞ?」
「山田キララよ」
「それって、本名?」
「そうよ」
「キララか~、キララときたかぁ」
「なによ! 私の名前に文句があるなら、ちょっと外に出ましょうか?」
「いや、ないけどな」
「ふん!」
「ミオちゃん、このオバちゃんのことは、キララちゃんと呼んであげてね」
「うん、わかった」
さて、ギルドメンバーになったということは……彼女に教えなくてはならないことがある。
「それじゃ――キララが、ギルドメンバーになったからには、ウチの秘密を教えないとな」
「なによ、秘密って――」
「それより、小さな女の子を裏切るようなことはするなよ?」
「大丈夫よ? それよりなに? もったいぶってないで、早く教えてよ」
「これだ」
俺はアイテムBOXから、短剣を出して見せた。
「……! それって、もしかして――アイテムBOX?!」
「そう」
「道理で――ここがギルドの本拠地にしては、荷物がなにもないと思った」
「他のギルドって見たことがないんだけど、もっとゴミゴミしているのか?」
「ええ、どこも荷物でいっぱいよ。こんな一間で収まるはずがないもの」
「そういうものか」
それじゃ、ダミーとして荷物とか置いたほうがいいのかもしれないなぁ。
まぁ、ここに人が訪れることはもうないと思うけど。
「それじゃ、あなたたちの移動がやたらと早いのも――」
「それは、ほら」
俺は自転車を出してみせた。
「もう! インチキは止めてよ!」
「これは、俺のスキルだし。インチキでも、なんでもない」
「ぶ~」
女がむくれている。
「ああでも、キララがメンバーになったってことは、自転車がいるなぁ。持ってる?」
「もってないわよ」
金を稼いだときには、列車を使って、歩いている冒険者を見下していたに違いない。
そういうことをしていると、収入が下がっても生活レベルを落とすことができない。
結局金がなくなるわけだ。
「それじゃ、自転車は俺が買って貸すか……」
「……私、スカートなんだけど……」
「それじゃ、デニムとか、パンツスタイルにするとか」
「魔導師がその格好じゃ、様にならないでしょ?!」
「そんなことを言っている場合か?」
「当たり前でしょ!」
「それじゃ、超ミニにしてみるとか?」
「スケベ! ヘンタイ!」
「なんだよ、脚に自信があり――みたいなこと言ってたじゃん」
「……」
――とは言うのものの、その歳で超ミニは、ちょっと無理か?
「ダイスケ」
俺たちのしょうもない話を聞いていたレンが、そっと手を挙げた。
「どうした?」
「あたしの自転車の後ろに乗せてやるよ……」
「それでいいのか?」
「うん。レベルアップしたし、大丈夫かも」
「それじゃ、介護よろしくな」
「なによ! 介護って」
キララが憤慨しているのだが、うるさいやつだ。
「そんなことより――ギルドに借金取りなどがやってきたら、その時点で追い出すからな」
前途ある若者に、大人の汚い所を、あまり見せたくないからな。
「わ、わかったわよ」
「いい歳なんだから、もう後がないことを理解してくれよな」
「歳は関係ないでしょ?!」
「あるある。おおあり名古屋は城でもつ」
最近、ソロで稼げてないってことは、あまり深層まで行ってないだろう。
そうすると、レベル20ってのも少々怪しい。
全盛期より落ちてきているのでは、ないだろうか。
あまり、この女の言ってることを鵜呑みにはできないな。
飯も食い終わったので出かけようとすると、キララの化粧に時間がかかるという。
まぁ、俺は男だからそこら辺は解らんのだが、女の子たちは理解を示しているようだ。
それなら、やむを得ん。
――結局30分以上待った。
「ダンジョン潜るのに、化粧とかいるのか?」
「いるに決まってるでしょ! いつ死ぬか、怪我をするか解らないのよ?」
「それと化粧がどう関係するんだ?」
「みっともない格好で死ねないでしょ?!」
「そういうもの……なのか? 女の子たちも解るのか?」
俺が尋ねると、どうやら理解を示しているらしい。
歳は違うのだが、そこら辺はシンパシーがあるみたいだな。
「怪我をして、病院やら、回復の治療やら受けているときに、クソダサい下着とか見えたら、女の恥よ!」
「それじゃ、今も下着までビシッと戦闘モードになっていると?」
「当然よ」
女がフンスと胸を張った。
そういうものなのか。
キララの話を、女の子たちも真剣に聞いている。
変なところで感化されないといいのだが。
まぁ、女には女にしか解らんところがあるので、そこら辺は口を出さないことにしておく。
「いってきます~!」
学校に行くミオを見送りすると、俺たちは役所に向かうことにした。
ギルドのメンバーが増えたので、登録しないとな。