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20話 魔物カツで魔物に勝つ


 変な女冒険者につきまとわれている。

 俺が女の子をギルドメンバーにしているため、彼女たちを食い物にしているんじゃないかと疑っているようだ。

 女は役所の女性職員の知り合いらしく、頼まれたと言っていたな。


 まったくもって余計なお世話だと思うが、彼女たちなりにサナやレンのことを心配しての行動なので怒ることもできない。

 まぁ、無視するしかないのだが、近くに寄られるとアイテムBOXやら撮影ができないという弊害もある。

 邪魔なので、さっさといなくなってほしいところだ。


「はぁはぁ……やっと見つけたわよ!」

 女は、急いでやって来たのか息を切らしている。

 俺たちは自転車――女は歩きなので、こんな感じなのか。

 多分、俺たちが4層まで来るなんて思ってもみなかったのかもしれない。


「こんな所までつけてきたのか?」

「女の子たちをこんな階層まで連れてきて!」

「彼女たちも了承済みだし、問題ないだろう? ほぼ俺が倒して、レベルアップさせている最中だし」

「しつこいBBA!」「邪魔をしないでください! こっちは、生活がかかっているんですよ!」

「あ、あなたたちは騙されているんじゃないの?! そんな格好までさせて!」

 女がサナの胸出しローブにケチをつけた。


「これは、自分の動画サイトのために、自分で選んで着ているんです!」

「わ、若い子が、そういうことをするのは感心しないんだけど……」

「余計なお世話です」「そうだ! BBAうぜぇ!」

「うう……BBAじゃないし……」

 女の子2人に突っ込まれて、女がタジタジになっている。

 彼女たちは、マジで生活がかかっているからな。

 サナに至っては、爺さんと妹ちゃんの食い扶持まで稼がないと駄目だし。


「BBAはしつけー」

「BBAじゃねぇぇぇ!」


 レンの言葉に、オバサンがブチ切れた。

 核心をついちゃアカン。

 もっとオブラートに包むようにだなぁ……。

 まぁ、彼女たちから見たら十分にオバサンだから、紛れもない事実である。


「BBAはしつこい、BBAは用済み」

 気づいたら、某アニメのセリフが口から出ていた。


「うるせぇ! お前だってオッサンだろうが!」

「俺は自分でオッサンなのは知ってるし、否定もしないが」

「ううう……」

 こんなオバサンはどうでもいい。

 俺たちには俺たちのやることがあるし。


 今回は、ホブゴブリンばっかりだった。

 ホブゴブリンは、マジでハズレのハズレだな。

 危ないばかりで金にならない。


 結局は、全部で6体仕留めて、1人あたり10万円の稼ぎ。

 まぁ、1日10万円なら、30日で300万円――普通の仕事に比べたらいい稼ぎなのだが、命を張ってこの値段は妥当なのだろうか。

 油断すると怪我をするし、命だって落とす可能性だってある。


 回復ヒールの魔法や、回復薬も存在しているが、治療が間に合わなかったり即死だとそれも役に立たない。


 ホブゴブリンにうんざりした俺たちは、引き上げることにした。

 例の女は、まだ俺たちの周りをウロウロしている。


「ちょ、ちょっと待ってよぉ!」

 おじゃま虫から待ったがかかった。


「いや、なんで待たないといけないんだよ。俺たちは関係ないだろ?」

「助けてくれたっていいじゃない!」

「ええ? 勝手についてきて、助けてくれって――知らんがな」

「そんなこと言わないでよぉ! ダンジョンは助け合いでしょ?!」

 うぜぇ――俺の一番嫌いなタイプだ。

 おしとやかな~女性なら考えてもいいのだが、こいつの本性はさっき見たし。


「あそこに、エレベーターも列車もあるじゃないか。それに乗って帰ればいいだろ?」

 俺は明るく光る方向を指した。


「お金がかかるじゃない!」

「そんなの知らんがな。お前だってそれなりのレベルなんだろ? オークの1匹でも倒せば、交通費なんてすぐに出るだろ?」

「私1人でやるの?!」

「当然だろ? 俺は1人でやってたぞ?」

「前衛もいないのに、魔導師が戦えるはずないでしょ?」

「知らんがな……」

 埒が明かないので、無視して帰ることにした。

 女の子たちも同意見である。

 だって、関係ねぇし。


 相手が可哀想な女の子なら、俺も一考するんだが、女の子じゃないしな。


「ほんじゃな」

「人でなし!」

「なんでだよ、えらい言われようだな」

「なんなの? あいつ」

 女の態度に、レンも呆れている。


「まぁ、一応――君たちのことを心配してやって来てくれたようなんだけど……」

「ウゼェ!」

「俺が若い子をだまくらかしていると思っているんじゃないの?」

「ダイスケさんは、そんな人じゃないのに」

 サナもオッサンのことを信用し過ぎである。

 さっきの女も、歳はともかくスタイルはまぁまぁよかったが、ああいうのは大抵核地雷だからな。


「あはは、ありがとうな」

 暗闇に紛れると、アイテムBOXから自転車を出した。

 行きはよいよい帰りは怖いで、面倒なのが帰りの階層間坂道だ。

 俺は高レベルパワーでモリモリ上ってしまうが……。


「レンもレベルアップしたから、坂道でも上れるかな?」

「ちょっとやってみる!」

「頼む」

 彼女が白いふとももを上げて、マウンテンバイクにまたがった。


「あ! すげー! 簡単に上れるぜ!」

 レベルが上がっているから、脚力やスタミナも上昇しているのだろう。

 まったく便利だよな。


「やったな。それじゃ自転車で帰ろう」

「うん!」

 俺も自転車にまたがると、後ろにサナを乗せた。

 俺は2人乗りをしても、ぐんぐん坂を上れる。

 電動パワーアシスト要らずだ。

 体力的には問題ないが、あまり自転車に負荷をかけると壊れるからな。

 そこは注意しないと。


 順調にダンジョン内を進み、俺たちはエントランスホールに帰ってきた。

 いつものように、ちょっと手前で自転車を降りて、アイテムBOXに収納している。

 女の子たちは、ローブを深く被って姿を隠した。


「……?」

 いつものエントランスホールだと思ったのだが……なにかざわついている。


「なんでしょう? なんかざわついているような」「なんだ? 変な感じ」

「解らん――が、あとでネットでググってみよう」

「はい」

 俺たちは、ダンジョンの外に出た。

 時間を確認――昼過ぎだ。


「とりあえず、役所に寄っていいかい? あの職員にクレームを入れないと」

「そうですよねぇ」

 あの女も善意からなのかもしれないが、女の子たちも賛成してくれたので、役所に向かった。


 役所に入ると、女性職員のいる窓口へとまっしぐら。


「ちょっと、クレーム入れたいんだけど」

「あ……」

 彼女も俺のことを覚えていたようだ。


 そりゃそうだ。

 あんな女を差し向けてきたんだからな。


「職員の知り合いを使って監視させるなんて、公私混同じゃないのか?」

「し、しかし……」

 言葉を濁す職員にサナが食ってかかる。


「冒険者登録を認められているってことは、もう大人として認められているってことですよね?」

「え、ええ」

「それなら、私たちがどういう行動をしても、アレコレ言われることはないんじゃないですか?」

 女性職員が、サナの言葉に頭を下げた。


「ごめんなさい――あなたたちのことを思って」

「余計なお世話です!」

 はっきりと言われて、女もしょんぼりしてしまった。

 役所に来ている、冒険者たちもジロジロ見ている。

 俺からも一言。


「あの女に、もうつきまとわないようにと、連絡入れてくださいよ」

「は、はい、かしこまりました」

 まぁ、別に騒ぎにしたいわけでもない。


「責任者出てこ~い!」――と、言いたいところだが、あの女がいなくなれば、それでいいのだ。


「2人とも、宿に帰ろう」

「はい」「オッケー!」

「さて、帰って、カレーでも作るか」

「やったぁ!」

 レンが飛び上がる。


「ミオちゃんが喜ぶのは解るが……」

「だって、ダイスケカレー、美味いし! えへへ」

「そうだ――露店でカツを売ってないかな……」

「わかった! カツカレー!」

「私も食べたい……」

 サナも、カツカレーに賛成のようだ。

 多分、ミオも好きだろう。


 特区で売っているということは、魔物のカツかもしれないが、味は問題ない。

 癖はないし、普通の肉より美味い気がするし。


 そう言えば、前にトルティーヤを買った店に揚げ物が売っていたな。

 あそこで買おう。

 3人で露店の肉屋に向かう。


「わぁ、たくさんありますね~」「美味そう!」

「金もあるし、買いだめしておこうか」

「はい」「やったぁ!」

「お?! 前に来てくれたお客さんだな」

 店主が俺に気がついたようだ。


「え? 覚えてくれたんですか?」

「ああ、肉のことをアレコレ聞いていた、珍しい人だったからな。よく覚えているよ」

「はは、すみません」

「いいってことよ! 自分の食っているものが、どんなものなのか? 気になるのは当然だ」

「そうなんですよ」

「むしろ、気にならないほうがおかしいと思うがな」

 ここで、肉やら揚げ物を大量に買う。

 沢山買い込んでも、アイテムBOXの中に入れておけばいいからな。

 しかも、いつ取り出してもアツアツだし。


 収納の中は完全に時間が止まっているのか、それともゆっくりと時間が流れているのか……?

 スイッチを入れたままカメラなどを投入しているのだが、時間に変化はない――というか、数秒や数十秒たってても解らないし、誤差みたいなものだが……。


 昼飯がまだなので、ここのトルティーヤをまた買う。

 前に食って美味かったからな。

 一気に10人前ぐらい注文――こいつもアイテムBOXにいれておけばいい。


 街中でアイテムBOXは使えないので、皆で荷物を抱えて帰った。

 一旦荷物を全部収納に突っ込むと、屋上に向かおうとしたのだが、呼び止められた。

 レンだ。


「どうした? レン」

「ダイスケ――今ステータスを確認したら、温め(ウォーム)の魔法を覚えてた」

「本当に? やったじゃん」

「えへへ」

「あ、もしかして、その魔法でカレーを作れたりしないか?」

「マジで?」

「火を使わないから、ここでも料理できるんじゃ……?」

「それじゃ、やってみる」


 一応、カセットコンロを出して、その上で煮炊きすることにした。

 モルタルの上に直置きでも、魔法なら行けそうな気がするんだが……。

 床が熱くなるのはマズい気がするし。


「そうだ、安全のためにカセットボンベも抜いておくか」

 魔法で加熱されて爆発したら困るからな。


 アイテムBOXからデカい鍋を出す。

 少しカレーが残っているので、皿に移した。

 これはこれで保存しておけばいい――アイテムBOXに戻す。


「この鍋って魔法で綺麗になる?」

「私がやります」

 洗浄クリーンは、サナも持っている。

 床に新聞紙を敷いて、鍋に魔法をかけてもらう。


洗浄クリーン!」

 青い光が鍋に染み込むと、カレーが固まって鍋からパラパラと剥がれていく。

 こびりつくとか、そういうことが一切ない。

 これが魔法の力か。


「こうやって見ると、すげーな――魔法って」

「そうですねぇ。ピカピカになってますよ」

「鍋の底の黒くなった所まで、ピカピカになるのか」

 下に落ちたカレーだったものは、新聞紙で包んでアイテムBOXに戻した。

 ダンジョンに入ったときに捨てればいいだろう。


 鍋が綺麗になったので肉を入れるが、腹が減ったので、トルティーヤを食いながら進める。

 これが昼飯だ。


「加熱してくれ」

「うん――温め(ウォーム)!」

 すぐに肉が白くなってチリチリ言い出す。


「おお、スゲー! 魔力の消費はどうなの?」

「このぐらいならヨユーヨユー。たくさん温めると、駄目っぽいけど」

「へ~、俺は魔法が使えないからなぁ」

 肉に火が通ったので丼に移して、今度は玉ねぎだ。

 まるごと4つほど刻んで鍋に投入。

 再び魔法で温めてもらうと、すぐにきつね色になった。

 なんという時短料理。


「これ、美味しいですね!」「うめー!」

 俺が渡したトルティーヤに、女の子2人がかぶりついている。


「前に買ったときに美味かったんだよ。肉もいいものを仕入れていると言ってたし」

「そうなんですねぇ」


 飯を食いながら、鍋に水を張って芋を入れる。

 芋はこの前に皆で剥いてもらったものだ。

 この鍋を魔法で温めてもらうわけだが、今度は大量の水が入っている――はたして、どうだろうか。


「むー! 温め(ウォーム)!」

 数十秒たつと、お湯がぐらぐらと沸いてきた。

 すごい、このデカい鍋でも、数十秒でお湯が湧くとか。

 瞬間湯沸かし器も真っ青だが、レンはちょっと大変そうだ。

 やっぱり数十秒も温めていると、疲れるのだろう。


「やっぱり魔力を消費する感じ?」

「魔力は使わねぇけど、ちょっと集中力がいるかも」

「そうなのか」

 とりあえず、芋に箸を刺してみると、すでに中まで火が通っている。

 火で加熱すると、外側から徐々に熱さが伝わっていくが、魔法だと全部が均一に熱が入るようだ。

 ここらへんの違いか。


「もう、いいにおいがする~」

 具も煮えたので、さっき焼いた肉を戻し、アイテムBOXから取り出したカレールゥを刻んで投入。

 そのままドボンと入れると、溶け切らないで固まっていることがある。


「カレーってこうやって作るんですね……」

 サナがカレー鍋を見つめている。

 カレーの作り方も見たことがないというのは、ちょっと可哀想でもある。

 母親が台所に立つ姿も見たことがないってことだからな。


「ははは――まぁ、人によって色々と作り方があるから、ネットで検索するのもいいぞ。俺はずっとこのやり方だが……」

「へ~、もう完全にカレーだ」

 レンが、鍋の近くでクンカクンカしている。


「このまましばらく放置だな。さすがに、魔法じゃ味が染み込まないし」

「はぁ~、もう食べたい……」

「今、トルティーヤ食ったばかりじゃん」

「このにおいでお腹が空いたかも」

「さすがに食い過ぎだと思うぞ。魔導師はカロリー使うって話だったけどさ」

「腹が減るんで、お金がないのにご飯代がかかるし……」

 そういえば、俺もレベルが上がったが、スタミナが増えた分、食べる量が増えた。

 あまり動かないとそんなでもないんだが、過度な戦闘をしたりすると、その分カロリーが必要なようだ。

 そりゃ、なにもない所から、エネルギーが湧いてくるわけじゃないからなぁ。


 できあがったカレーを部屋の隅に置いて、蓋を閉めておく。

 そうそう、カレーだけじゃない。

 ご飯も炊かないと。

 もう一つ鍋を出して米を入れた。


 洗面台のある所に持っていって、米を洗う。

 ちょっと衛生的に気になるが、火を通すから無問題だろ。


 部屋に戻ってくると、米を30分ほど水に浸す。


「さて――さっきのエントランスホールで、なにかあったのかな? ちょっとググってみるか……」

 ついでにスマホの充電をする。

 アイテムBOXの中から、モバイルバッテリーを取り出した。


「あの、ダイスケさん――充電をお願いしてもいいですか?」

 サナがスマホを差し出してきた。


「おお、いいぞ」

「え?! あたしもいい??」

「いいぞ~」

「やったぜ!」

 レンが喜んで俺に抱きついてくると、充電ケーブルを繋げている。


「むー!」

 それを見たサナは、ちょっと不機嫌そうだが。


「まぁ、ギルドメンバーなんだから遠慮なく言ってくれ」

「うん」

 俺は、ネットをググってみるが、それらしい記事はなかった。


「このバッテリーはどこで充電してるの? ここ?」

「いや――皆でホテルに泊まってな。電気が使い放題だから、そのときに充電したんだよ」

「じゃあ……」

 レンがもじもじしている。

 彼女もホテルに泊まりたいけど、はっきりと言い出せないのだろう。


「もちろん、次に泊まるときにはレンも一緒だよ――ああ、でもそのときには3人部屋か4人部屋か……結構高くなるな」

「そ、それじゃ、あたしは止めたほうが……」

「いや、大丈夫だろ? 十分稼げているしな」

 今日だって、ハズレのホブゴブリンで1人頭10万円だからな。


「やったぁ! ダイスケありがと~!」

 レンがまた俺に抱きついてきた。

 それよりもだ――。


「う~ん、なにか騒ぎになるようなネタは出てないなぁ。まだ、ネットで広まってないのかもしれない」

「そうですねぇ」

 サナもネットをチェックしている。

 米を水に浸すのが終わったので、炊き始めた。

 俺の故郷では、米を浸すことを、「うるかす」と言うのだが、これは通じる地方と通じない所があるようだ。


温め(ウォーム)!」

 ご飯も魔法で炊いてみると――なんと数分で炊きあがる。

 これはすごい。

 水はもっと少なくてもいいだろう。


 炊きたてのご飯の香りが部屋に充満した。


 それじゃご飯の用意もできたし、夕飯の時間まで動画の編集をするか。

 今回の目玉は、女の子たちの魔法だな。


 それらは、彼女たちの動画サイトに上げることになるが。

 ダンジョン内の魔法戦闘を撮影した貴重な動画だから、バズるんじゃないかなぁ。


 アクションカメラで撮影した動画を切り出す。

 上手く写っているな。

 結構な迫力だ。


「ほらサナ、よく写っているぞ」

「すごい!」

「魔法で魔物を攻撃する動画なんて初めてだろうし、こいつはバズるんじゃね?」

「やったぁ!」

「いいなぁ……」

 飛び跳ねるサナに、羨ましがるレン。

 どうしても攻撃魔法のほうが派手だし、見栄えもするだろう。


「魔法でお湯を沸かす場面とか、動画に撮ってみる?」

「そういうのって、たくさんあるんだけど……」

 そうなのだ。

 ダンジョンの外で使える魔法の動画はたくさん上がっている。

 冒険者になって、魔法が使えるようになったら、まずその動画を撮る――みたいなやつが多いってことだ。


「それじゃ、回復の魔法とかはどうだ?」

 動画サイトをググってみると、その動画も結構多い。

 自分の手とか腕を傷つけたり、ダンジョン内で負った傷を、回復ヒールの魔法で治すのもよくある動画だ。

 やっぱり、ダンジョンの外で使う魔法については、動画がたくさんあるな。


 今まで、ダンジョン内でカメラが使えないので、視聴者はダンジョン内の動画に飢えているのだ。

 バズるためには、相手の観たいものを供給しないと始まらない。


「はぁ……」

 レンがため息をつく。


「まぁまぁ、そのうち攻撃の魔法を覚えるかもしれないし――ファイヤーボールとかさ」

「ええ? ファイヤーボール? 他のがいいなぁ……」

 ファイヤーボールは、現場ではあまり人気がないらしい。

 魔法がヒットしても即死ではなく、燃えながら魔物が暴れまわるからだ。

 最終的には窒息するか、肺や気管が焼かれて重症になるのだが、敵の動きを止められないことから、評価が低い。


 それに獲物が焼けてしまうと素材としても価値がなくなる。

 相手がハズレの、ゴブリンやホブゴブリンにしか使えない魔法ってことに……。

 ハズレ魔法扱いされるのも仕方ない。


「レベルが高いと、普通の温め(ウォーム)の魔法でも、攻撃に使えるらしいな」

「そんなのかなりの高レベルじゃないと無理じゃん」

 レンの言うとおり、カレーを作った大鍋が一瞬で沸騰するぐらいの魔力じゃないと攻撃には使えない。

 それができるなら、瞬時に敵の命を奪うことができるだろう。


 同じギルドメンバーなのに、レンのチャンネルだけ動画がないのは寂しい。

 俺からの提案で、回復魔法の動画を録ることにした――被験者は俺だ。


 俺の手を傷つけて、それを魔法で治す。

 それだけだと、なんの変哲もない動画になってしまうので、それをレンの太ももの上で録る。

 これで、差別化ができる――はず。


 まず、座ったレンの太ももを十分に撮ってから切れた俺の手を差し入れて、そこで魔法を使う。


回復ヒール!」

 彼女が魔法を使うと、俺の傷から流れ出る血があっという間に止まり、みるみる傷が塞がる。


「へ~、初めて間近で見たけど、すごいなぁ」

「まだレベルが低いから、大怪我とかは無理だと思うけど」

 ポーションも、安いのは簡単な傷しか治らんし、そういうものなのだろう。

 そうじゃないと、レベルの意味がないしな。


 そもそも、レベルってなんなの? ってのはさておきだ。

 神様か悪魔がダンジョンを作って、そういう物理の法則をひん曲げる場所を顕現させた。

 科学でも証明できないことを俺たちが考えても仕方ない。


 いずれはなくなるかもしれないが、今はこいつを利用して生きていくことを考えないと。

 レンの動画もでき上がったので、早速サイトにアップロードした。


「2人の動画もバズればいいなぁ」

「そうですね~」「うん」

「私たちがなんとかなっているのも、ダイスケさんのお陰です」

 サナがペコリと頭を下げた。


「まぁまぁ、オッサンとしてはだな――若い女の子たちが四苦八苦している姿を見てられないのよ」

 こちらも余裕がなければ、俺も考えてしまうのだが、高レベルという余裕はあるし。

 それに俺の歳なら、彼女ぐらいの子どもがいてもおかしくないんだよなぁ……。


「でも、ダイスケさんにあまりいいことがないような……」「それな!」

「オッサンが1人寂しくダンジョンに潜って殺伐とした戦闘を繰り広げるより、潤いがあるだろう――ははは」


 話していると、ミオが学校から帰ってきた。


「あ! カレーのにおいがする!」

「そこにできているから、夕方に食べような」

「うん!」

「よい返事やなぁ」

「えへへ」

 ミオがニコニコ顔だ。


 ミオの学校での話を聞いたり、一緒に遊んだりする。


「ダイスケ! 見て見て!」

 レンが俺にスマホの画面を見せて、抱きついてくる。

 どうも、この子は人との距離が近いようだ。


「あ~! ミオも!」

 レンが抱きついてきたのを見て、ミオも俺の所に飛び込んでくると、膝の上を占領している。


「むー」

 2人の様子を見て、サナがちょっと不機嫌だ。


「へへへ、サナもダイスケに抱きつけばいいじゃん」

「お姉ちゃんも抱っこしてもらう?」

「そういうことはしないけど……」


 平和なことをしている間に、日が傾いてきた――夕飯時だ。

 アイテムBOXから、食器などを出して、食事の用意をする。

 買ってきたカツを出して切り分けると、サクサクという衣が切れる音が、モルタルの壁に反射した。


 そいつをご飯を盛った皿に載せて、上からカレーをかける。

 魔物カツカレーの完成だ。


「うわ~美味しそう!」

 ミオの目が輝く。


「さて、皆で食おうぜ」

「「「いただきま~す!!」」」

「美味しい!」

 やっぱり、真っ先に声を上げたのは妹ちゃん。


「美味いよな、ははは」


 皆でカレーに舌鼓を打っていると、ドアがノックされた。


「だれだ? 宿のオバサンかな?」

 ドアを開けると、目の前にいたのは、ダンジョンに置いてきたあの女。

 かなり疲れてぐったりとした顔をしている。


「カレー!」

 女が俺を押しのけると、部屋にちん入して鍋の前に座った。


「おいおいおい!」


 なんなんだ、この女は。


 

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