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2話 レベルアップは突然に?!


 ある日突然、家の裏にダンジョンができた。

 専門家ではないので、断定はできないのだが――。

 電気が使えなくなったり、コンロも使えない――などなど、色々な情報から察するにダンジョンで間違いない。


 ダンジョンを覗き込むと、奥になにかいるように思える。

 俺は、ネットの情報から、下にいるなにかを倒したら、ダンジョンが消えるのではないか?

 ――という考えに至り、行動に移すことにした。


 武器に使えそうなものを買い込み、帰宅。

 愛車の軽トラに積んであるのは、工事現場の足場などに使う単管というパイプ。

 こいつを武器に転用するわけだ。


 車庫に単管を降ろした。

 全部で60本あるから、中々大変だ。


 さて、何本ぐらいで諦めることにするかなぁ……。

 毎日20本を撃ち込んで、10日――つまり200本やって効果がなかったら、諦めるか。

 あまり長いことやってると、ダンジョンのこともバレそうだしな。


 だいたい、ダンジョンができたらすぐに報告しろという法律ができているのだ。

 俺がやっていることは法律違反なのだが――ひっそりとダンジョンを隠しているやつがいる――みたいな噂がネット上では飛び交っている。

 ダンジョンを独り占めすれば、魔石やら素材も独り占めできるわけだし。

 それが上手くいけばの話だが。


 とりあえず、単管にパイルと蓋を取り付けてみた。

 見た目はマジでミサイルだが、少々軽い。


「中に砂を入れるか……」

 パイプの中に砂を半分ぐらい入れれば、無反動ハンマーのような効果がでないだろうか。

 それでも、少々重さが足りないか……。


 安くて重くて手に入りやすいもの――土嚢だな。

 家の裏の土地には、いくらでも土があるし。

 300坪全部俺の土地だから、なにをしても問題ない。

 都会ならすごい広さかもしれないが、僻地なら300坪あっても固定資産税は年間3万円だ。


 俺は土嚢の袋を購入するために、再び軽トラに飛び乗った。

 まったく段取りが悪い。

 仕事ってのは段取り8割っていうが、そのとおりだ。

 土嚢の袋を買うために、また海辺近くまで行かなくてはならない。

 ホムセンがそこにしかないからだ。


 店に到着すると土嚢の袋をあるだけ購入。

 在庫は60枚しかなかったので、それを全部手に入れた。

 残りは他で探そう。

 土嚢の袋なら、農協などでもあるだろう。


「あ! そうだ! あの2連ハシゴだけじゃちょっと危ないな」

 穴に落ちたら終了だ。

 家にあるハシゴと同じものをもう一つ購入。

 ついでに、コンパネを買う。

 ハシゴを2つ渡して、その上にコンパネを載せれば、落ちる心配はなくなるだろう。

 それと、穴の目隠し用にブルーシートも買った。


 帰りに農協やら個人商店を回って土嚢袋を200枚ゲット。

 家に帰ってきたので、軽トラからハシゴ、袋、コンパネを降ろす。


「さて、あとは砂か……」

 ホムセンでも砂や砂利は買えたのだが、川辺に行けばいくらでもある。

 本当は取っちゃだめなのかもしれないが、バレなきゃ問題ない。

 山奥の川砂なんて、取っても誰も見ちゃいないし。


 軽トラに土嚢の袋20枚と、シャベルを積み込んだ。

 山間にある川に向かう。


 森の中に入り林道を走っていると、道端に鮮やかな紫色がたくさん見える。

 袋状になった花が連なりたくさん咲いていた。


「トリカブトか」

 そういえば、ここらへんはトリカブトの群生地だった。


 そうだ――砂と一緒に葉っぱや根を入れたら、どうだろう?

 得体のしれない敵に単管ミサイルが打ち込まれると、体内に砂とトリカブトが侵入する――。

 これは殺意が高そうな気がするぞ。


 軽トラには、厚手のゴム手も積んである。

 よし、トリカブトは帰りに採取しよう。


 俺は川にやって来た。

 山間の小さな川は、静かな流れが石や木々の間を巧みにくぐり抜けていく。

 その水は澄んでおり、日の光が川面にきらめいていた。

 岸辺には青々とした草や野生の花が生い茂り、鳥たちも見える。

 川のせせらぎが周囲の自然と調和し、心を穏やかに包み込むような静寂をもたらす。


「ふう……これでダンジョンがなかったらよかったんだけどな」

 軽トラをデフロックして、河原に進入すると、目的地には川砂が溜まっていた。

 単管に詰めるぐらいはあるだろう。


 穴に落とす土嚢にも砂を入れたいところだが、ここの砂だけだと少々足りない。

 それには当初の計画どおりに裏庭の土を詰めよう。


 俺は、軽トラから土嚢袋とシャベルを降ろすと、川砂を詰め込み始めた。

 1個できたので、持ってみる。


「お、重い……」

 砂が湿っているから25kg~30kgぐらいあるな。

 とりあえず、さっさと20個詰めて軽トラに積み込んだ。


「ふぅ……なんで俺がこんな目に……」

 解っている――俺の城を守るためだ。


 荷台に川砂を積んだので、帰り道でゴム手をつけてトリカブトを摘む。

 枯れていてもいい。

 全草が毒なので、効き目がある。


 家に帰ってきたので、早速車庫でミサイルを作る作業を開始。

 ――と、いっても単管パイプに、刻んだトリカブトと砂を詰めるだけだが。


 先端に尖ったパイルを取り付けたあと、最初にトリカブトを刻んで中に入れ、半分まで砂を入れて蓋をする。

 これで一発めが完成だ。

 材料さえあれば簡単。

 まぁ、その材料集めの要領が悪いので、行ったり来たりしているわけだが。


 ミサイルが20発完成したので、裏庭に運び込んだ。


「はぁはぁ……」

 軽トラが動けば、ここまで運んでこられるのに……。

 文句を言ってもしかたない。


 買ってきた2連ハシゴも穴に渡して、その上にコンパネを載せた。

 上に乗って、足でドンドンしてみる。


「これで土嚢を持って乗ったりしても大丈夫だろう」

 本当は、2連ハシゴを横にして使っちゃだめらしいのだが……。

 非常時だし、他に簡単な方法が思いつかない。


「う~ん……そうだ」

 一旦、コンパネと2連ハシゴを穴から取り除くと、単管を使って補強を入れることにした。

 鉄のパイプを、梱包などに使うPPバンドで縛りつける。

 電動の結束機を持っていたので使おうとしたのだが、ダンジョン近くでは動かないのを忘れていた。

 手動でやる。


「これで大丈夫だろう」

 補強を入れたため、重量は増してしまったが、びくともしない。

 ハシゴを穴に戻すと、開いている部分はブルーシートで覆って、端に石を置く。

 これで、ぱっと見では、ここにダンジョンがあるなんて解らないはず。

 聞かれたら、「ちょっと小屋を建てようとしているんで、整地してるんです」とか、言っておけばいい。


 持ってきた土嚢袋に裏庭の土を詰める。

 今日のノルマは20個だ。


「はぁはぁ――ふぅふぅ……」

 シャベルを土に突き立てて、掬って袋に――普段から畑仕事をしているとはいえ、やっぱり大変。


 家に戻って、冷蔵庫からアイスコーヒーを持ってきた。

 まだ冷たいが、電気が切れてしまっている。


 ウチでは、1週間の買いだめが普通だが、残ったものも数日で傷んでしまうだろう。

 まぁ、ゴミになってしまったら、目の前のダンジョンに放り込めばいい。


「そうだ!」

 この際だ、要らなくなった粗大ゴミやら、全部穴に捨ててしまおう。

 前の持ち主が朽ちさせてしまった、灯油タンクやドラム缶などもある。

 それから丸太――どこで拾ってきたのやら、石などもあるのだが、それらも全部いらん。


 なんだ、ダンジョンができたと頭を抱えていたが、多少いいことがあるじゃないか。

 穴にゴミを捨てることを考えていると、突然声をかけられた。


丹羽にわさんや! なに始めたんだべさ?!」

 ニコニコしながらやって来たのは、隣の爺さんだ。

 白髪頭は禿げて腰は曲がっているが、90歳近いのにまだまだ元気。

 歳を食っても元気ならいいんだがなぁ……。

 ここ10年でたくさんのお年寄りが亡くなってしまったし、俺の両親も亡くなった。


「い、いやぁ、ちょっと小屋を建てようかと……」

「ははは、まったくもの好きだべな――ほい! 回覧板!」

「ああ、ありがとうございます~」

 用件は、回覧板だけだったようだ。

 いきなり来たんで驚いたぜ。


 先に、ブルーシートで隠しておいて正解だった。

 色々と買い込んだのに、バレて終了するところだ。


 土嚢が20個できあがったので、攻撃を開始することに。

 完成した土嚢に単管ミサイルを突き刺す。

 そいつを持ち上げるとハシゴの橋を渡って、穴の中心まで行く。


「おりゃ!」

 穴に投げ入れた。

 こうすれば下が重いので、ミサイルがまっすぐに落下するはず。


「お~」

 落下していく白い袋と単管を見送ると、垂直に落ちているように見える。

 そのまま落ちてなにかにヒットすると――。

 当然、土嚢はそこで止まるが、ミサイルは慣性の法則で動き続け、目標に突き刺さるわけだ。


 それが、得体のしれないなにかにダメージになるのか、ダンジョンの奥にいるものが倒せるのかは解らん。

 とりあえず毎日20発、10日で200発落とすと決めたので、やってみるしかない。


 落下するのを見ていると、上手くいっているようなので、残りの19発も穴に放り込んだ。


「ふう……」

 本日の仕事は、これで終了だ。

 ダンジョンが消えるまで家では暮らせないので、車庫で宿泊する準備をする。

 車庫の上に物置に使っているロフトがあるので、そこにコンパネを敷いて家から持ってきた布団を敷いた。

 電気は、発電機から引っ張っている。


 以前なら、LEDランプという便利なものがあったのだが、ダンジョンが出現してから使えなくなってしまった。

 また、蛍光灯や白熱電球の時代に逆戻りだ。

 液晶などに使われていた有機ELというものもあるが、コストが高い。

 それなら枯れた技術である蛍光灯のほうがいいという判断だろう。


 蛍光灯には水銀が含まれているということで、環境問題なんちゃらで廃止される運びになってしまったが、今はそんなことをいっていられない。

 まず、飯が食えるかどうかも解らないのに、環境問題なんて二の次だ。

 蛍光灯や白熱電球の生産ラインを閉めてしまった会社も多かったのだが、また生産し始めている。


 夜は冷えるので、石油ストーブも持ってきた。

 寝心地を確かめるために布団に寝転がると、車庫の屋根裏が直に見える。

 キャンプみたいな感じで、たまにこういうのもいい。

 ダンジョンがなければの話だが。


 LEDの光はなくなったが、代りの光がこの世界に生まれた。

 それは――魔法の光である。


 ダンジョン内に出現した魔物を倒すと、特殊能力を授かることがあるという。

 また、自分しか確認できないが、レベル――のような数値もあるらしい。

 なにせ本人しか確認できないから、それが本当にあるのかどうか、誰も解らない。

 あくまで自己申告で「レベルってあるんですよ」みたいな感じだ。


 そのレベルと同様に、突然授かるものに、「魔法」がある。

 本当に魔法かは解らず、もしかして超能力なのかもしれないが、誰が言い出したかは解らないが皆は魔法と呼ぶ。

 漫画やアニメで見たような力だし、そう言ったほうが解りやすいのだろう。


 ちょっと信じられない話だが、ある日を境に、そう世界が変わってしまったのだ。


 ――レベルや魔法のことはさておき、家の裏にできたあの穴の奥にいるものを仕留めれば、それが本当かどうか確かめることができるかもしれない。


 身体を起こすと、石油ストーブでお湯を沸かして、非常用食料を温める。

 マジで非常用なのだが、今がまさに非常時だ。


「ンマーイ!」

 炊き込みご飯と、カップ麺を食べた。

 普段はウチの芋ばっかりだしな。


 慣れない作業で疲れた――今日は早めに寝ることにしよう。


 ――家の裏にダンジョンらしき穴が開いた次の日。

 朝飯を食ったら、作業再開。

 単管ミサイルと土嚢を作って、穴に投下。

 ついでに、家にあるゴミなども持ってきて全部放り込んだ。

 前の住民が置いていった鉄ゴミやら、ガラクタも全部捨てる。


 こりゃいい。

 裏庭の草刈りをして、草を集めるとそれも穴に捨てた。


 ――それから毎日、単管ミサイルと土嚢を穴に放り込む日々が続く。

 単管とパイルがなくなると、また中古重機屋へ行って購入。


 そして10日め。

 ここにダンジョンがあるとバレずに、なんとかここまでやってこれたが、効果は出ているのだろうか?


 ――そう思いながら、199発めの単管ミサイルを投下した。

 その直後――地底の黒い穴からは、深遠なる唸り声が響き渡る。

 その音はまるで地球の鼓動のように、不気味な存在感を放ちながら、闇の深淵から漏れ出てきた。

 耳に触れるその唸りは、未知の力が眠る地下の別世界の息吹を感じさせ、俺の心を恐怖に震えさせる。


「なんだなんだ?」

 腰を抜かしそうになって、穴の上に渡した橋から飛び降ると、様子をうかがう。

 ――突然静かになった。

 再び橋の上に行くと、ブルーシートをめくってみる。


「え?!」

 いままであった大きな穴が突然消えてしまった。

 まさに超常現象――こんなの物理では言い表すことができない。


「これって、上手くいったってことなんだろうか?」

 そのとき、俺の身体に異変が襲った。

 まるで宙に浮かぶような感覚が、連続で襲う。

 知られざる世界の扉が開かれ、未知の可能性が拡がっていくような感覚が次々とやってくる。


「な、なんじゃこりゃ!?」

 いつまでたっても止まらない。

 もしかして、ダンジョンの異変に巻き込まれてしまったのだろうか?

 抜け出そうとしても、動けない。


 俺は、最初に見た外国のネット記事を思い出した。

 ウチと同じように浅いダンジョンができて、湧いたゴブリンを倒した――という話だ。

 あれには続きがあった。


 魔物を倒したあと身体に異変が起こり、ステータス画面が出現したというのだ。

 これと同じようなことが、日本のダンジョンでも起こっている。

 ダンジョンに入った者が最初に魔物を倒すと、同様のことが起きるという。


 ただ、誰でもレベルが出現するのかといえば、そうでもない。

 これは人によって違うらしいし、なん匹魔物を倒しても出現しない人もいる。


 ステータス画面が出た、選ばれた人たちのことを、ゲームやらアニメにちなんで、「冒険者」と呼ぶ。


 俺にも、そのダンジョンの洗礼がやってきたのか。

 どこか痛いわけでもないし、呼吸もできる。

 それどころか、身体が軽いような気がする。


 とりあえず、これが終わるまでどうしようもないか……。

 諦めて、ずっとそのままでいたのだが――。


「いい加減終わってくれないかな?」

 ちょっとうんざりしていると、突然解放された。


「ふう……」

 少々のめまいで目を瞑ったのだが、目を開くと眼の前になにか現れていた。


「は?!」

 白く光る板だ――それは透明なようでありながらも、光を反射し、輝きを放っていた。

 静かに揺らめきながら、未知の世界への扉を開くかのような存在感を持っている。

 そこには、「丹羽 ダイスケ レベル 49」の文字。


 これが、ステータスってやつか?

 本当に表示された。

 なにせ、これは自分には見えるが、外からは見えないらしいからな。

 記載されているのはレベルだけど、その他の数値などはなし。

 えらい簡素だな。


 それにしても、レベルって――本当にあったんだ。

 しかも、レベル49って……。


 しばし考える。

 ――ということは……やはり、下にいたなにかの魔物を倒して、その恩恵を受けたってことか?

 偶然倒してしまった敵だが、意外と大物だったのか?


 普通は、ダンジョンの表層でチマチマ魔物を倒して、レベル1から出発――みたいなことらしいが、俺は学校の飛び級のように、初心者を飛び越してしまったのだろうか?


 それもおおごとだが、ダンジョンが消えたとすれば――家の電気も戻っているはず。

 家に戻って照明のスイッチを入れてみると、問題なく点灯した。

 やっぱり、ダンジョンは消えたということか。


 俺は、玄関にあった薪割り用の斧を手に取った。


「軽い……」

 片手でヒョイと持ち上がる。

 そして振ってみる――まるでプラの玩具バットを振っているような感覚。

 まじで?


 これがレベル49?


「他になにかないか? そうだ、魔法だ! 魔法があればすごいぞ!」

 俺はステータス画面を出して見ると、再度確認してみた。


「え?! アイテムBOX?」


 これって、もしかして――謎の空間になんでも入るってやつか?

 それがマジなら、こいつはとんでもないことになるな。


 俺の人生も一発逆転満塁ホームランってことになる。



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