19話 金にならない魔物もいる
ウチのギルドメンバーである、サナがやる気だ。
自分の武器を使って、動画配信者としてデビューするらしい。
まぁ、確かに彼女には立派な武器があるから、それを利用しようというのも当然だが――。
オッサンの俺からすると、若い子にそういうことをさせるのはいかがかと思ったりもする。
今の時代は16歳過ぎたら大人扱いなので、彼女が決めたことには反対はできない。
彼女は祖父や自分の妹の食い扶持まで稼がないと駄目だしな。
危険なことになれば、当然ギルドリーダーの俺の出番ってことになる。
注意が必要だな。
――先日アップロードした動画がバズっていた。
もう、これだけで飯が食えるんじゃないかってぐらいの再生数だ。
朝飯を食いながら、動画のチェック。
屋上で料理をしてもいいとのお墨付きを、ここのオーナーからもらったので、ベーコンエッグとインスタントスープを作った。
「はぐはぐ……」
ミオがベーコンエッグを、もくもくと食べている。
美味しいらしい。
皆で同じものを食う。
「ダイスケさん、お料理もできるんですね……」
サナがベーコンエッグをじっとみている。
「簡単な男料理だぞ? 焼いただけだし――料理を覚えたいのなら教えてあげるから一緒に作ろうか?」
「お願いします!」
親がいなかったから、料理を教わることもなかったらしい。
あの爺さんも料理ができそうには見えなかったしなぁ。
やろうと思えば、ネットでググればなんとかなるんだが。
動画サイトに料理動画も上がっているから、それを観たほうが早いし。
ただ、百聞は一見にしかずって言うしな。
「わたしもいい?!」
レンも料理を覚えたいようだ。
「わかったわかった」
料理のことはさておき、動画のチェックだ。
こいつに俺たちの未来がかかっているかもしれないからな。
まずは――俺をPKしようとして、グールになってしまった男の動画。
『ざまぁw!』
『PKなんてしようとするから、因果応報だよな』
『やってもいいのは、やられる覚悟がある人間だけだ』
『ダンジョン内で魔物にやられると、こんなことになるのか……こえーよ!』
『グロ注意!』
『人間やめますか? 冒険者やめますか?』
『私はコレで、人間やめました』
ネタが古いな。
たくさんのコメントがついているが、概ね好評。
なかには、『元は人間、なんとかならないのか?』『倫理的におかしい』
みたいな書き込みもあるんだが、PKしてくるやつは倫理的にOKなのか?
まぁ案の定、ツッコミのコメントで溢れていた。
『グールにやられると、グールになるから注意』
『え?! 助からんの?』
『すぐに魔法や回復薬で治療すればおk』
そうなのか。
あとは、噛まれたりしたところをすぐに削ぎ落としたりすることで、グール化を防げるらしい。
それは根性いるよな……魔法や薬で治るとしても。
やっぱり回復薬は大事だな。
切らさないようにしないと。
次に――俺たちが仕留めた、白い狼の動画。
『え?! こんな狼がいるのか?!』
『ボス個体? ユニーク?』
『デカい!』
『フェイクだろ?』
『まだフェイクとか言ってるやつがいるのか? ショート動画で業者に売ってるのも上がってたろ?』
『俺も売買の現場にいたけど、本物の狼だったよ』
『うp主どんな人? 見た?』
『普通のオッサンだったよ』
顔出しはしてないから、特定まではちょっと時間がかかるだろう。
『女の子を2人連れてた』
『なにそれ? ギルドメンバー?』
『そんな感じだったな』
『ここの推奨チャンネルにあった子だろ?』
『マジで? 観てくる!』
やっぱりほとんどの人が見たことがなかった個体のようだ。
他の業者が言っていたように、外国で確認されている例があるらしい。
両方の動画はすでに100万再生を超えている。
最初に上げた動画は1000万再生に届きそうだ。
こりゃ、すごい。
すぐに小金持ちだ。
相変わらず、タイアップやらのメッセージがたくさん来てるが無視。
こちらにメリットがまったくない。
これで有名になるつもりはないからな。
「お? サナの動画も結構アクセスされているぞ」
「今、観てます」
再生数は1万ぐらい。
俺の動画のコメ欄でも話題が出ていたし、ここからリンクを貼ったりして誘導しているとはいえ、しょっぱなで1万は結構すごい。
『デッ!』
『でっ!』
『むっ!』
『むっ!』
『むっ!』
『むっ!』
みたいなわけが解らんコメがたくさんついている。
『顔を隠しているけど、解る! この子は可愛い!』
『応援するぞ』
概ね好評である。
「これで実際の戦闘やら、魔法を使っている動画を撮ったら、あっという間に10万とか100万とかいきそうだな」
「本当ですか?!」
「まぁ、実際にやってみないと解らんけどな」
「やったぁ!」
「いやいや、ぬか喜びになるかもしれないからな」
「ぬか喜びってなんですか?」
「え? え~と」
顔は隠しているけど、こんな巨乳で可愛い子が魔法を使ったりしたら、絵になりまくりだろう。
バズるに違いない。
「それから――悪口やら、嫌がらせみたいなコメもつくと思うけど、マジに受けないように」
「わかってます」
まぁ、面倒だったらコメ欄閉じればいいしな。
「いいなぁ……」
動画を観てレンが呟いた。
「レンの回復魔法などを使うシーンを撮ればバズると思うぞ」
「私の動画も撮ってくれるの?!」
「そりゃ、ギルドメンバーだし」
「やったぁ!」
「俺の動画に写っちゃうかもしれないから、レンもマスクをしたほうがいいかもな」
「う~ん――あたしも顔バレしたくないし」
「……」
3人でアレコレ打ち合わせしていると、ミオがつまらなそうな顔をしている。
「ミオちゃん、どうした?」
「お姉ちゃんたちばっかりでツマンナイ……」
「はは、お姉ちゃんは危ない仕事をして、ミオちゃんのご飯代や、学校に行くためのお金を稼ごうとしているんだよ」
「……」
「だから、応援してあげないと」
「ぶー!」
まぁ、子どもだからなぁ。
「でも、お姉ちゃんがいたから、ミオちゃんの病気も治ったんだし」
「……うん」
解ってくれたようだ。
彼女も冒険者になりたいとか言いだすかもしれないが、その歳までかなり時間がある。
それにお姉ちゃんが十分に稼げて貯金ができれば、危ないことをしなくても済むようになるしな。
元手を使って、なにか別の商売にしてもいいんだし。
ここのオバちゃんのように宿屋をやるとか、買い取りをする業者になるとか。
いつも言ってるが、こんな仕事はいつまでもできるものじゃない。
実際に、俺をPKしようとしたやつが、あんな有様になったんだ。
あれが明日の俺の姿かもしれないし。
朝飯を食い終わったので、皆で宿屋を出て、俺たちはダンジョン、ミオは学校へ。
「行ってきます~」
「「いってらっしゃーい」」
歩いているのにカツアゲされたりする街ではあるが、子どもが安全なのはいい。
普通は治安が悪くなれば、子どもたちの安全も脅かされるものだが。
そこらへんが日本らしい。
子どもになにかあったりすると、各ギルドが垣根を越えて一致団結するらしいからな。
冒険者の矜持ってやつだろうか。
あ、もしかして――俺もそういう類だと思われてるのか?
だから監視がどうのと言われてるのかもしれない。
その証拠に、昨日の女が俺たちのあとをついてきた。
「ダイスケさん……」
サナが後ろの女をチラ見している。
「ほうっておけ。どうせダンジョンの中で自転車に乗ったら、追いつけないし」
「あ、そうですね」
あいつは、俺がアイテムBOXを持っていると知らないからな。
3人で自転車に乗れば、あっという間に振り切ることができるだろう。
途中で、レンがマスクなどを買っていた。
「どう? ダイスケ、格好いい?」
彼女がドクロのマスクをつけて、キャッキャしている。
そんな彼女だが、ダンジョンの改札付近にくると、表情がこわばった。
「どうした?」
「……」
青い顔をした彼女の視線の先には、黒装束の集団――迷宮教団だ。
やっぱり、母親のこともあるし、平然と無視ってわけにはいかないだろう。
難しい話だが、商売としてダンジョンに潜っていれば、やつらと接触する機会もあるかもしれない。
まぁ、向こうがちょっかいを出してこなければ、こっちも無視だが。
いつものようにダンジョンに入る。
レンも教団の連中を見て、ちょっと動揺していたように見えたのだが、もう大丈夫そうだ。
「あの女は――?」
俺のことを宿からつけてきてる女だ。
「ちょっと離れた場所にいるよ。しつこいBBAだよな」
レンの口が悪い。
「はは、君たちからすると、あの人もオバサンか」
「そうですよ」
「本当についてくるつもりなのか?」
「暇なんだね、あはは」
レンは結構毒舌だな。
ダンジョンの中でレンとサナがローブを脱いだ。
特にサナは――脱いだ途端に暴力的な胸の谷間が顕になる。
「レンは? いいかい?」
「オッケー!」
サナが胸なら、こっちは生脚とヘソだ。
まったく若さに溢れていて、羨ましい。
アイテムBOXから自転車を出すと、3人で乗り込んだ。
サナは俺の後ろだ。
「よっしゃ行くぞ!」
「はい!」
「こっちは明かりもなしに、暗闇の中を走れるから、追ってこれないだろう」
「まさか、自転車を持ってるとは思わないでしょうし」
後ろに乗っているサナの言うとおりだ。
多分、面食らっている最中だと思う。
このまま振り切ってしまえ。
こんな所で雑魚に構っている暇はない。
スピードを上げて、2層への下り道を進む。
「スピード出るから、気をつけろよ」
「へへ! 大丈夫、大丈夫!」
「こ、怖いんですけど!」
真っ暗でなにも見えないサナはそうかも知れないが、俺とレンは白黒だがはっきりと行き先が見えている。
下にあるキャンプにも寄らずに、そのまま突っ走る。
そのままうぜぇ狼どもも蹴散らして、3層に降りた。
3層のキャンプもすっ飛ばし、ここらへんで狩りをすることにした。
女の子たちのレベルも、もう少し上げたい。
個人的には4層に行ってみたいのだが、ちょっと我慢だ。
それに3層が、商売的に一番コスパがいいような気がする。
デカいキャンプも構えてるしな。
3層の手頃な位置に到着すると、自転車を降りて戦闘準備に入った。
アイテムBOXから武器を出して、女の子たちにも渡す。
「さて、オークかリザードマンが出てくれると嬉しいんだが」
リザードマンの革が金になるとは思わないからな。
そりゃワニ皮みたいなものだが。
しばらく進むと、敵とエンカウントした。
「光よ!」
サナの魔法で辺りが明るくなる。
アイテムBOXを使って、カメラをセットした。
「ゴルゴル……」
デカい人型だが、オークでもリザードマンでもない。
耳が尖っていて薄緑色の肌と筋肉質のデカい身体。
「ありゃなんだ?」
「あれは、多分ホブゴブリンです!」
「ああ、ゴブリンの親玉みたいなやつか」
なるほど、子鬼をそのままデカくしたような感じだ。
「ゴルァァ!」
デカい木の棍棒を持っていてブンブンと振り回してくる。
こりゃ、接近戦は無理だ。
少し距離を取ってから、アイテムBOXから取り出した新兵器を試す。
「おりゃぁぁ!」
ブンブンと振り回してから、ボーラを敵に向かって投げつけた。
「ゴァ!」
敵の身体にぐるぐると巻きついたのだが、ナイロン紐を千切ることはできない模様。
武器としては成功だ。
俺は、次々とボーラを投げつけた。
そのうちの1つが、ホブゴブリンの脚に絡みつき、そのまま巨体が倒れ込んだ。
「おっしゃ! タコ殴りじゃ~!」
「えい! えい!」「おりゃりゃ!」
皆で囲んで頭を殴る。
レンも慣れたのか、魔物をボコボコにしている。
「止めは、サナがやってくれ!」
「はい! やっ!」
彼女が思い切り振り下ろしたメイスが、地に這った敵の頭を砕いた。
地面に赤い滲みが広がると、同時にサナの身体が光る。
「おっと、レベルが上がったな」
「はい!」
ボーラが使えるのは解った。
3層の敵では、ナイロン紐を千切れないことも解ったし。
これだけでも戦力アップを望める。
「ゴァァァ!」「ゴルァァ!」
今度は、ホブゴブリンが2匹。
「レベルの確認は後! 次の敵だ」
「はい!」
「またホブゴブリンかよ!」
1匹は俺が引き受ける。
今度は投石器だ。
石をセットして、ぐるぐると回してから相手に投げつけると、発射された石の塊が相手の右肩を吹き飛ばした。
「ガァァッ!」
肩がなくなったので、もう武器を振ることもできない。
俺はアイテムBOXから鉄筋メイスを召喚すると、敵に接近して脚を払った。
「オラァ!」
「グァ!」
倒れ込んだ敵の脚を潰す。
動きを止めるためだ。
「レン! 俺がもう1匹を引きつけるから、こいつに止めを刺せ!」
「うん! どりゃ!!」
レンが駆け寄ってきて、ジタバタしている敵に短剣を突き立てた。
メイスを振り回して、もう1匹のホブゴブリンを牽制する。
「おっしゃぁ! サナ! 動画用に魔法を使って攻撃してみるか?」
「はい! やってみます」
「それじゃ、こっちに引きつけないとな」
武器を投石器に切り替えて、嫌がらせ程度の石をぶつける。
「ゴルァァ!」
当然、ヘイトがこちらに向かうわけだ。
「ヘイヘイ! こっち、こっちだ!」
「光弾よ!」
サナの周りに青い光が集まっていく。
「よっしゃ!」
俺は後ろに下がった。
これで、魔法を発射する瞬間を動画に写すことができるだろう。
「我が敵を撃て!」
輝く光の束が一段と明るさを増すと、敵に向かって発射された。
以前、リザードマンのときには肩口に命中したが、今日は見事に正中線に着弾。
その威力で首から上が吹き飛び、辺りに肉塊をぶちまける。
「ぎゃああ!」
甲高い悲鳴が聞こえるが、これはレンの声だ。
ちょっとショッキングなシーンだったので、驚いたのかもしれない。
さすがに頭がなくなれば魔物といえども即死だ。
すぐにサナの身体が光って、レベルアップしたようだ。
ここで一旦、撮影を中止した。
「おっ?」
また瓶がドロップ――こいつは回復薬かな。
「はぁはぁ……ダイスケさん!」
「なんだ? サナ、大丈夫か? 怪我でもしたか?」
「いいえ! 今の魔法がもう一発撃てそうです!」
「――ああ多分、さっきのでレベルアップしたのかもしれないぞ」
「やったぁ!」
彼女が早速自分のステータスを確認している。
俺は仕留めた獲物をアイテムBOXに収納すると、辺りを警戒した。
「どうだ?」
「やりました! レベル12です!」
「あたしはレベル10だ! あ! 洗浄の魔法を覚えてる!」
「洗浄に回復なら、役に立つ魔法ばっかりじゃん」
「うん!」
「これで、お風呂代やシャワー代も節約できるし、洗濯もできるんじゃないか?」
「いぇーい!」
レンが拳を突き上げた。
洗浄持ちが2人に増えたのはありがたい。
とりあえず、ダンジョンの中で戦闘すると汚れるからな。
動き回ると汗もかくし。
「いいなぁ、俺も魔法が使えればなぁ……」
「ええ? ダイスケさん、ものすごく強いじゃありませんか?」
サナの言うとおりだが、洗浄の魔法はすごく欲しいぞ?
「あの~、ダイスケって、レベルいくつなの?」
レンは俺のレベルが気になるようだ。
「それは秘密。でも、結構高いのは確か」
「え~?」
まぁ、どうせ正直に言っても信じてもらえんだろうし。
「ギャッ! ギャッ!」
天井から、なにかの鳴き声が聞こえる。
「なに?!」
彼女はこいつを初めて聞いたのだろう。
低いレベルでは、通常はここまでやってこれないからな。
俺は、アイテムBOXからボーラを取り出した。
「これは、ハーピーの鳴き声だよ」
「だ、大丈夫なの?」
「わからん……」
敵意は感じないから、もしかしてまたあいつかもしれん。
俺がボーラを回して警戒をしていると、近くに羽ばたく音が降りてきた。
「ギャッ」
暗闇の中から出てきたのは、やっぱり前のハーピー。
「またおまえか――やられてなかったのか?」
「ギャッ」
ハーピーがバサバサと俺の所に飛んできた。
「ええ?! マジで大丈夫なの?!」
「大丈夫だよ。なぜか懐いているんだ」
アイテムBOXから、パンを取り出すと、千切ってやる。
「はぐはぐ……」
手が使えないのだが、器用に脚で掴んでかぶりついている。
「ギャ」
なんだか喜んでいるようだ。
こうやって見ると――顔は人間の女の子っぽいけど、歯はギザギザだな。
肉を食いちぎったりする必要があるからだろうか。
「ハーピーって冒険者とかも食うのかなぁ?」
「うえ~、キモいんだけど」
レンが気味悪そうな顔をしている。
まぁ、本当に食っているのかは解らん。
冒険者の食事を襲って漁ることもあるみたいだし。
どちらかと言えば、スカベンジャータイプだろうな。
「そうか? 結構可愛いだろ? ほら、オッパイもあるぞ、ははは」
魔物の形のいい胸を女の子たちに見せた。
「ダイスケのスケベ! ヘンタイ!」
レンは、最初に会ったときは、メ◯ガキだと思ったのにな~。
タダの普通の女の子だったか。
「ははは、なんだお前、随分とまた汚れたな~」
ハーピーの顔をちょっと拭ってやる。
「ギャッ」
俺に顔を拭われて、彼女が目を瞑っている。
ここじゃ、水浴びとかできないんだろうか。
いや――羽根は綺麗なので、汚れているのは顔だけか。
そういえば、キャンプ地には水はあるし、ダンジョンの中にも泉があるという話を聞いたことがある。
それが本当だとしても、手がないから顔は洗えないしなぁ。
「そうだレン、ちょっと洗浄の魔法を――」
「使ってみる?」
「ん~、いや、獲物を運んでからにしよう」
キャンプの所に担いでいくとなると、また汚れるからな。
そのときに一挙に魔法で綺麗にすれば、一回で済む。
魔法は貴重なので、効率よく使わねば。
「よっしゃ、ちょっとあとでまた来てくれ」
「ギッ!」
ハーピーを一旦放す。
「その紐の武器って役にたつな~!」
「レンもオリジナルの武器を作ったりとか、試したりとか、色々とやってみてな」
「うん!」
「役に立ちそうなことは調べてドンドン試して、自分の必勝パターンを作ったほうがいい」
「やってみる」
アイテムBOXを使った土嚢攻撃も有効だと思うんだが、動画を撮っているところであれを使うと俺の能力がバレてしまうからな。
それでも緊急事態なら、動画を諦めて使うことも考える。
土嚢が駄目なら、軽トラを落とせばいい。
あれでも1tぐらいはあるからな。
まぁ、愛車を壊したくないから、やらないけど。
貴重な車を武器として使わなくても、ダンジョンの中でデカい岩などを探して、アイテムBOXに入れておけばいい。
デカい岩なら、隠れる場所としても使える。
複数の岩を使えば、ビバークにも使えるぞ――天然のトーチカだ。
「さて、とりあえずホブゴブリンを持っていってみるか」
「ゴブリンがお金になりませんから、無理なのでは?」
サナの意見ももっともだ。
「まぁ、ゴブリンも玉々が役に立つみたいだから、そこは使えるかもしれん、あはは」
「うう……」「うえ~」
ふたりとも、すごく嫌そうだ。
嫌と言ってもな、そこしか使えないとなると、現場でちょん切って、買い取りに持ち込む必要がある。
俺がいれば俺がやってもいいが、彼女たちしかいないときもいるだろう。
俺が休むときもあるし。
いずれは、彼女たちも独立したり、他のギルドのリーダーになるのかもしれないし。
とりあえず、全部の獲物を一旦アイテムBOXに収納すると、自転車を取り出してキャンプの近くまで向かう。
目的地に到着すると自転車から降りて、暗闇の中でホブゴブリンを取り出し、背負った。
「くせぇな!」
やっぱりこいつらはくさい。
なんのにおいかといえば、便所とドブのにおい。
なんでゴブリンはくさいのだろうか。
オークはそんなでもないし、リザードマンはくさくはない。
「ギャ、ギャッ!」
俺が背負っているホブゴブリンの上に、ハーピーが飛んできて留まった。
「くさいですね……」「超くせー!」
「俺がいなかったら、君らでこういうのを担ぐんだぞ」
「どうしてもですか?」「え~? マジで?」
「まぁ、ゴブリン系はくさいだけで金にならないとなると、担がなくても済むかな?」
くさい獲物を担いで、明かりを目指す。
「うわっ! くせぇ!」「ホブゴブリンかよ!」「そんなものを持ってくるなよ!」
キャンプに近づいただけで、他の冒険者から非難轟々である。
近くにいる冒険者に話を聞いた。
「ホブゴブリンは金にならないのか?」
「あ~ダメダメ。使えるのは魔石とキ◯タマだけだよ」
「ああ、やっぱり……」
それじゃ仕方ない。
また暗闇の中に戻って、魔物のデカい身体を裂く。
全部で3体もいるからな。
今度、こいつらにあったら、どうしようか。
いきなりぶっ飛ばして放置かな?
「うわぁ、キッショ!」
「さっきも言ったけど、レンもできるようにならないと稼げないぞ?」
「う~」
胸の所から魔石を取り出して、股間のものを切り取ると、アイテムBOXから出したビニル袋に入れた。
口の部分を結ぶ――これでくさくない。
「お~い、ハーピー」
「ギャ、ギャッ」
彼女が俺の所に飛んできたので、抱き上げた。
「レン、一緒に洗浄の魔法を頼む」
「やってみる!」
「サナも一緒に入ったら?」
「わかりました」
「む~! 洗浄!」
レンが魔法を唱えると、青い光が舞って、俺たちの身体に染み込んでいく。
魔物の返り血や汚れが剥がれて、バラバラと地面に落ちた。
「お! 綺麗になったぞ。ありがとな」
「やったぜ!」
レンが白い歯を見せて、Vサインを出している。
そのあと、ゴブリンの魔石とキ◯タマを売った。
5万円が3つで15万円。
一日の稼ぎとしては、なかなかいいんじゃない?
4層辺りが一番コスパよさそう――と、みんな感じてるから、ここに大規模キャンプを作って、泊まり込みで狩りをしているんだと思う。
「やっぱり、肉や革が取れるオークや、リザードマンのほうが高くていいなぁ。ホブゴブリンはハズレのハズレだ」
「そうですね~」「くせーだけだし、マジで最悪!」
ハーピーも金になるのがわかっているのだが、あのハーピーを見ていると、やる気にならない。
明らかに敵対してくる別個体なら、やむを得ないが。
それから、3人で狩りをしていたのだが、ホブゴブリンばかり。
合計で6体仕留めたところで、もう諦めることにした。
「はぁはぁ――やっと見つけたわよ!」
「ん?」
誰かと思ったら、俺たちをつけてきた、あの女だった。
しつこいな。