18話 飯を食うのは大変だ
ギルドメンバーが増えたのだが、また女の子だ。
ボーイッシュで小柄の子。
中学生ぐらいに見えるのだが、国民カードを使って冒険者登録をしているはずなので、年齢の詐称ということはないだろう。
バッテリーを充電するために、特区のホテルに泊まったのだが、またいつもの宿屋に戻ってきた。
買ってきた大型のエアマットを敷き詰めて、空気を入れる。
こんなデカいマットに人力などで空気入れは無理。
アイテムBOXから、バッテリー式の空気ポンプを取り出した。
こいつは普段、車のタイヤの空気入れなどに使っているので、パワーは十分。
大きな音とともに、ドンドンエアマットが膨らんでいく。
さすがパワーがある。
電気を気兼ねなく使えるのは、やっぱりいい。
ここのオバちゃんには悪いけどな。
バッテリーを充電するだけで、数千円なんて払っていられない。
せっかくアイテムBOXがあるんだから、ドンドン利用する。
「アイテムBOX、すげーな~」
「ダンジョンでも言ったけど、人に言わないでくれよ」
「OKOK!」
レンが両手でVサインをして、ニコニコしている。
「来るときがきたら、バラしてもいいと思ってるんだけど」
俺の作ったギルドがデカくなって有名になった――なんてことになれば、言ってもいいような気がする。
影響力が大きくなれば、俺やメンバーに手を出す奴らもいないだろうし。
エアマットに空気を入れ終わったので、寝転がる。
「こいつはいいぞ、はは」
今まで使っていたマットも置けば、4畳半が隙間なく埋められた。
もう身体が痛い思いをしなくてもいい。
「すげー!」
レンも気に入ったようで、一緒に寝転がっている。
「特区は宿屋が高いからなぁ」
「そうなんだよ!」
彼女と話していると、サナが帰ってきた。
「おかえり~」
「おかえりなさい」
「ただいま」
彼女の手には大きな紙袋が下げられていた。
なにか服でも買ってきたのだろうか?
それとも、金が入ったので、ダンジョン用の装備か?
「お? ダンジョン用の装備を買ってきたのか?」
「……」
どうやら、俺の考えが当たったらしい。
早速装備してみたいのだろうか?
「もしかして着替えたい? ちょっと外に出てるぞ」
「コク……」
彼女が黙ってうなずいた。
なんか、随分思い詰めているような感じだが……いったい、どうしたんだろう?
清水の舞台から飛び降りたつもりで、とんでもない高価な装備をゲットしたとか?
まぁ、考えても仕方ないので、俺は一旦部屋の外に出た。
部屋の外で、スマホを眺める。
ちょっと迷宮教団のこともググってみるか……。
「今のところ、トラブルはないようだがなぁ……」
戦闘もしないでダンジョンの中に入って、平気なものなのだろうか。
多分、襲われたり食われたりすると思うのだがなぁ……。
噂では、そういうのが教義らしいというのだが――まったく度し難いな。
スマホを見ていると、ドアが開いた。
「あの……」
サナが顔を出したので、中に入る。
「え!?」
俺は彼女の格好を見て驚く。
いつもの丈の長いジャージではなくなっていた。
魔導師らしい、黒いワンピースを着ていたのだが、大きく胸の部分が開いていたのだ。
でっか……。
いや、デカいのは解っていたのだが――それが強調される服を着ると、破壊力がすごいな。
スカートのスリットから、健康そうな太ももも覗いている。
若さがパツンパツンで、はち切れそう。
たいしたもんだ――思わず、うなずいてしまう。
「だ、駄目でしょうか?」
「いや、駄目ってことはないのだけど、なんで突然?」
彼女がちょっと悩んでいるような気がしたのだが、この格好をするかしないかで思案していたのだろうか?
「ダイスケさんのカメラで、私を撮ってほしいんです」
「あ~、もしかして――それで、動画配信者になろうとしているとか?」
「はい――嫌ですけど……武器になるものを持っているなら、利用しようかと」
「まぁ、男が見ているといえば、女の胸か尻しかないからなぁ」
「スケベ! ヘンタイ!」
俺の後ろで声がする。
レンの声だが、だって事実だし。
「妹もいるし、自分も生活しなくちゃならないから――アホな男どもから、金を巻き上げてやろうと、自分の武器を使おうというわけね」
「はい、そうです」
「ははは、まぁ、いいんじゃない? 以前、女性配信者が居たんだけど、全然再生が伸びなくて、胸の谷間を出すようにしたら、再生数が10倍になったからな」
「うわぁ!」
俺の話を聞いたレンがドン引きしている。
「男ってのはそういうアホで悲しい生き物なのだ」
「やっぱり、駄目でしょうか?」
「駄目ってことはないよ。決めるのは君だし――と、言っても大人の立場からすると、あまりオススメできないのは確かだが……金を稼ぎたいという君の気持ちも解るしねぇ」
「……やっぱり、やります!」
彼女が拳に力を入れた。
このままじゃやっていけないという限界が見えていたのだろう。
「まぁ、その服を買っちゃったしね」
「は、はい」
横からレンが入ってきた。
「でもでもよぉ! 顔出しってのはあぶなくね?!」
「そうだなぁ……こういうので隠してみるとか」
俺はネット検索して、口元が隠れるマスクや仮面を見せた。
「戦闘用のゴーグルでも顔は隠れますよね」
「そうだなぁ、そっちのほうが冒険者っぽいかもしれないな」
「わかりました! 買ってきます!」
外に出ようとした彼女を止める。
「外に出るときには、ローブで隠したほうがいいと思うよ。変な奴らに絡まれるかもしれないし」
「わかりました」
彼女はローブを羽織ると、外に出ていった。
「……」
レンが自分の身体を見て、ペタペタ触っている。
「どうした?」
「あたしも、ああいう格好をしたほうがいい……?」
「彼女は、爺さんや妹さんも養わないと駄目なんで、覚悟が違うからなぁ。無理をする必要はないんじゃない?」
「あたしもヤバいんだけど……冒険者だけの稼ぎで生活できると思う?」
俺も冒険者初心者なんだがなぁ……。
「ちょっとソロでやってみてどうだった?」
「かなり難しいかなぁ……って」
「でも、今日レベルアップしたじゃない? それで1層での戦いは、かなり楽になると思うよ」
「サンキュー! ダイスケ、マジでいい人だな!」
彼女が俺に抱きついてきた。
本当にヤバい――と、実感しているからこそ、彼女たちは真剣なのだろう。
俺なんて、偶然レベルアップしちゃったから、小銭を稼ごう――ぐらいにしか思ってないからなぁ。
他の冒険者たちにも軽く見られるのも、そういう軽さを感じているのかもしれない。
まぁ、みんな真剣命がけでピリピリしている所に、素人丸出しのオッサンが入ってきたら、そうなるか。
レベルのことは、外からは見えないしな。
レンも、へそまで出すべきなのか――などと、悩んでいる。
彼女には、なんでもできる証拠である2つの膨らみがないからなぁ。
ボーイッシュで可愛いけど、顔出しできないのがツライ。
なんてアホなことを考えているのだが、若い女の子がこんなことをしなくちゃならない世の中なのは、なんとかならないのかなぁ。
あと10年~20年たって、世界が安定すれば昔のように戻るのだろうか。
レンと話しているところに、サナが帰ってきた。
「な、なにをしてるんですか……?」
ちょうどレンが俺に抱きついている所にサナが帰ってきたから、ちょっとバツが悪い。
バインバインでパツンパツンなサナには敵わないが、こっちはこっちでマニアックな方面に受けるのではなかろうか。
いやいや、そうではない。
「サナが胸で勝負するなら、彼女は太ももとヘソで勝負するとか言い出してな」
「……」
俺の言葉にサナが訝しがっている。
「子どもに手を出したりしませんよ」
「冒険者になったんだから、子どもじゃねぇけど!」
レンが必死に否定しているのだが、俺から見たらみんな子どもだ。
「はいはい――それに、俺が手を出しちゃったら、レンの回復がなくなっちゃう」
「……」
レンの顔が赤くなる。
最初のイメージと違いすぎるだろ。
今の時代は、16歳になったら大人扱いだ。
それゆえ、自己責任で冒険者にもなれる。
批判する声もあるのだが、こんな時代なら若い力が求められている。
とにかく資源も足りないし、人的資源も足りない。
綺麗ごとを言うのは易しだが、机上の空論で世界は回らない。
「これを買ってきました」
サナが見せてくれたのは、顔を覆うドクロっぽいお面。
一応、補強が入っているので、防御にも使えるようだ。
顔につけると、おでこぐらいしか出ないので、どこの誰かは解らないだろう。
「おお、中々格好いいんじゃない? ミステリアスな感じで人気が出ると思う」
「本当ですか?」
「さっきも言ったけど、男って胸しか見てないから、ははは」
「「……」」
女の子たちの冷たい視線が突き刺さるが、事実だからしゃーない。
一段落ついたので、俺は動画の編集をすることにしよう。
アイテムBOXから、ノートPCとカメラを取り出す。
カメラから記録媒体を取り出すと、外付けHDDと一緒に母艦に接続した。
写した映像を確かめる。
「お、ちゃんと写ってるな」
しっかりと白い牙をむき出しにして、こちらに迫ってくる白い魔物が映っている。
「え?! それって、魔物の動画?!」
レンが、動画が再生されている液晶を覗き込んだ。
「そうだよ。俺はこいつで稼ぐつもりなんだ」
「えええ~っ?! ダンジョンの中って、カメラとか使えないんじゃ……」
「まぁ、普通はそうなんだけど、俺には裏技があるんだよ」
「……マジで?」
「人には言わないようにな」
「う、うん……」
それはさておき、動画の編集をしよう。
白い狼の動画も珍しいが、今回の目玉は元冒険者のグールだ。
俺を襲ってきたPKの動画も上げてあるので、同じ人物だと解るように比較の画像もつけて動画編集してみよう。
【閲覧注意!】【元冒険者の成れの果て?!】【初心者注意!】
かなりグロいが、平気だろうか。
まぁ、魔物の動画も今のところ平気だし、大丈夫だろう。
それに外国ってゾンビやグールに甘くないか?
人間じゃなければ、スプラッタもOKに思える。
「それってグール?」
「そうだね。元冒険者みたいだよ」
「え~?!」
レンはグロが苦手っぽいが、冒険者なら慣れなきゃならない。
「ダンジョン内で魔物に襲われると、こうなっちゃうから気をつけてな。魔物になっちゃったら魔物として処理されちゃうし」
「う、うん」
「俺としても、元可愛い子のゾンビとかグールとかはやりたくねぇなぁ……」
「それでも――え~と……」
サナだが、言葉が出てこないらしい。
「え? なんだい?」
「死んじゃった人を、天国とか神さまの所に行けるようにって」
「ああ、供養ね」
「あ、はい、それです」
「そうかぁ――供養と考えると、誰かがやらないと駄目かぁ。どんなやつでも死んじゃったら、神さま仏さまだしねぇ」
「「……」」
女の子たちが神妙な顔をしている。
「ふたりとも、こうはならないでくれよ」
「がんばります」「がんばる……」
2人の言葉だが、頑張ってなんとかなるなら、世の中簡単なんだがなぁ……。
グールとデカい白狼の動画の編集が完成したので、早速アップロードした。
狼の方は、外で写したものもショート動画で上げている。
あれは1分ぐらいしかないからな。
不要な部分をカットして繋げただけで、ナレーションやら文字入れもしてない。
ドキュメンタリーだし、今のところライバルもいない。
こんなもんでいいだろう。
ライバルが出てくる頃には、俺はたんまり稼いで引退している頃だ。
サナのリクエストで、彼女の動画も撮る。
胸元を強調したポーズで、メイスを構えたりしている。
これから冒険に行きますアピールだ。
これだけでアクセスが増えるとも思えないが、実際に戦っているシーンや、魔法の攻撃などを上げれば受けるはず。
早速、彼女のアカウントも作って、動画もアップした。
俺の所からもリンクを貼って、推奨チャンネルにも入れておこう。
同じギルドのメンバーってことも、書いておかないとな。
部屋の中で、ちょっとエロい格好をしている女の子は少々コスプレ感が漂う。
これが命がけのガチなんだよなぁ。
「攻撃魔法は大変だと思うけど、あれを動画にしたら受けるかもしれないなぁ」
一発撃っただけで、すごく消耗していたからなぁ。
レベルが上がれば威力が上がったり、連発も可能になるのかもしれないが。
「すごく疲れますけど、格好いいですし!」
彼女がフンスを気合と入れた。
「サナ――は、攻撃魔法を使えるの?」
レンは彼女の魔法が気になるようだ。
「俺と一緒にレベル上げをしたときに、覚えたんだよ」
「いいなぁ」
「君の回復魔法だって十分にすごいんだが」
「そうだけど、ちょっと地味じゃない?」
「切り傷などを負ったときに、実際に動画にしてみれば、凄さが目に見えると思うよ」
まだ回復魔法を間近で見たことがないけど、みるみる傷口が塞がったりするんだろ?
そりゃすごいだろう。
「あたしの動画も撮ってくれるの?!」
「まぁほら、ギルドメンバーだし」
「やったぁ! ダイスケサンキュー!」
レンが俺に抱きついてきた。
「あー! そういうことはいけないと思う!」
「え~? なんで~?」
「……ど、どうしても……」
「はいはい、サナの言う通りだよ」
「え~?」
「サークル内で、そういうことをしていると、サークルがすぐに崩壊するんだよ」
「マジで?」
サークルがクラッシュする原因で一番多いだろうというのが、色恋沙汰だ。
サークルを渡り歩き、そういうことを連続でやるサークルクラッシャーと呼ばれるやつもいる。
レンとサナがにらみ合っていると、ドアがノックされた。
「ただいま~」
外から女の子の声がする。
「ミオちゃんだな」
「はい」
サナが鍵を開けると、ミオが元気よく入ってきた。
「ただいま~!」
「はい、おかえり」
元気よく挨拶をしたはいいが、俺の後ろに隠れていたレンに気がついて、ミオもお姉ちゃんの陰に隠れた。
「……」
人見知りをしているようだ。
「彼女はレンだよ、一緒にダンジョンに行くことになって、仲間になったんだ」
「……」
「レン、彼女はミオちゃん、サナの妹だよ」
「よ、よろしくな」
「……」
やっぱり、知らない人にビビっている。
まぁ、そのうち慣れるだろう。
「ミオちゃん、下に大きなフカフカ敷いたんだよ」
「本当だ~! ふわふわ!」
彼女がデカいエアマットに倒れ込んだ。
気に入ったようだ。
「ミオちゃん、今日の晩ごはんはなににする?」
「カレー!」
「あ~、確かにカレーはまだあると思うけど、カレーでいいのかい?」
「カレー!」
「サナと、レンもカレーでいい?」
「もしかして、アイテムBOXの中に入ってるの?!」
「そうそう。でも、さすがにみんなで食べているから、そろそろなくなりそうだよ」
外に出て料理するって手もあるな。
ここじゃ火は禁止! って言われているし。
一応、オバちゃんに聞いてみるか。
俺は部屋の外に出て、フロントに向かった。
珍しく客がいる――女だ。
緑色のローブを被った女性。
顔はチラリとしか見えなかったが、アラサーっぽい――ベテラン魔導師かな。
こんな所に1人で泊まるのか。
普通ならギルドに入っていると思うが、ソロなのか。
まぁ、ダンジョンからちょっと離れているが、ここでも魔法は一応使えるし。
女性1人でも大丈夫なのだろう。
「オバちゃん、外に出たら料理をしてもいいんだろ?」
「はぁ……どうしてもやりたいって言うんなら、屋上を使ってもいいよ」
「え? いいの?」
「宿の前でやられたら邪魔だろ?!」
「ははは、まぁそりゃそうだ。今日、するわけじゃないけど、そのときは使わせてもらうよ」
「はいよ」
その場にいたままの客の女性にペコリと挨拶をした。
向こうも会釈をしてくれたので、まぁ大人の対応だな。
階段を上って自分の部屋に戻る。
フロントにいた女性は、上の階の部屋を取ったのだろうか?
俺の後ろをついて階段を上ってきた。
自分の部屋の戸をノック。
「お~い、ダイスケだ」
ガチャと、ロックが解除された。
「どうでした?」
「屋上でなら、料理をしてもいいってさ」
「やったぁ、カレーが増える!」
ミオが喜んでいる。
カレーはなくなったが、俺の畑で採れた芋は、山のようにアイテムBOXに入っているからな。
「ちょっと! 待って!」
ドアを閉じようとすると、さっきの女が突っ込んできた。
「なんだなんだ?! 強盗か?!」
「違います!」
「それじゃなんだ?!」
突然の闖入者に女の子たちが、俺の後ろに隠れている。
「あなた、もしかしてニワって人?」
「そうだけど……それがなにか?」
「女の子を2人たらしこんで、仲間にしているって聞いたんだけど?」
「はぁ?! なんだそれ?」
「違いますよ! 誰がそんなこと言ったんですか?!」
即座にサナが否定してくれた。
失礼なことを言った女がローブを脱ぐ。
黒いロングヘアも美しい中々の美人だが――と思ったら、化粧が濃いだけか。
ついでに胸もデカいが、美人だからといって失礼なことを言ってもいいとはならない。
「私の知り合いに特区の役所に勤めている子がいるんですが、その子から――」
オッサンが女の子を集めて誑かしているから、調べてみてくれ――ってことらしい。
「特区の役所って――ああ、もしかして窓口のあの女か?」
「ダイスケさんは、そんなことしてません!」
「ミオのこと、助けてくれたんだから!」
ミオも、女の言うことを否定してくれた。
女の子たちに全否定されて、女がちょっとタジタジになっている。
「だいたい、特区内のできごとは役所の管轄じゃないだろ? 口出しするようなことじゃないと思うが?」
「こ、個人的に気になるからって……」
「余計な世話だな」
「……わかりました」
捨て台詞のような言葉を吐くと、女がいなくなった。
「わかったとか言ってたけど、ありゃまだ疑っているな」
「うるせぇババア!」
レンの口が悪い。
「ははは、まぁ君たちから見れば、オバサンだよなぁ……」
いきなり変な言いがかりをつけられてムカつくが――あの役所の女に抗議しても仕方ないしなぁ。
あの女も、サナたちが心配だからと、監視を頼んだと思うし。
本当に余計なお世話だな。
晩飯はカレーに決まったが、次のカレーのために下ごしらえをする。
アイテムBOXに大量にある、芋の皮むきだ。
芋を食うとなるとどうしても皮むきをしなければならない。
いくら剥いても、アイテムBOXに入れておけば腐らないからな。
女の子たちも、暇をしているようなら、どんどん剥いてもらう。
――のはずだったのだが、サナもレンも芋の皮を剥いたことがないらしい。
包丁が使えなくても、ピーラーがあれば簡単に剥ける。
親がいなかったので、家事の手伝いなどもしたことがなく、教えてくれる人もいなかったと言う。
ミオもやりたそうにしているので、ピーラーを追加したほうがいいな。
「お姉ちゃんも、お母さんがいないの?」
さすが子どもだ。
聞きにくいことを、平気で聞く。
「そうなんだ」
「ミオとお姉ちゃんも、お母さんがいないの」
ついでだから聞いてしまう。
「世界が静止したときにか?」
「いや、最近なんだけど――オカンが迷宮教団に入っちゃって……」
オーマイガー!
やっぱり聞かなきゃよかったぜ。
「すまん、ツライことを聞いてしまったな」
そのまま行方不明らしい。
「いいよ」
教団による被害はないっていうけど、こういうところで被害が出ているじゃないか。
女の子たちが芋の皮を剥いている間、俺はレンが買ったマウンテンバイクを出した。
乗り出し前の整備だ。
「やった、サンキューダイスケ!」
「一応、店でも整備してあると思うけど、実際にダンジョンで使えないと困るからな」
ブレーキの遊びをチェックして、空気圧なども測定。
家から空気入れなども持ってきているからな。
あとは、チェーンに油を注せばいいだろう。
「へ~、色々とやることあるんだね~」
「多少なりと覚えておいたほうがいいぞ。ダンジョン内で故障したり壊れたりすることがあるからな」
「うん!」
「サドルの調整もするから、ちょっと跨いでみて」
「わかったよ」
小さくて丸いお尻が、サドルに跨る。
俺のアイテムBOXの中には、修理に使える工具も一式入っている。
チェーンカッターなどもあるから、チェーンが切れても平気だ。
そのまま、夕方になったので、皆でカレーを食う。
「やっぱり、ダイスケのカレーは美味しい!」
「はは、そうか~」
「ウマ! ウマッ!」
レンも口にカレーを頬張っている。
小さいわりに意外と大食いらしい。
「芋ならいくらでもあるから食ってもいいぞ、はは」
「このお芋は、ダイスケさんの所で作ったものなんですか?」
サナは芋の産地が気になるようだ。
「そうそう、芋だけはたくさんあるからな」
まぁ、芋ばっかり作ってても連作障害を起こすから、畑を4分割して――。
芋→豆→トウモロコシ→小麦のローテーションだったんだが。
作物の決め手は保存が利くこと。
トウモロコシなども、乾燥させてから粉にすれば、パンも作れる。
野菜は、最悪タンポポでもいいし。
あれならいくらでも生えているし、意外と美味い。
イタドリなんかも、食えるしな。
――新しいギルドメンバーが増えた次の日。
前日に俺がアップロードしていた動画がバズっていた。
もう、こっちのほうが稼げるんじゃね?