17話 メ◯ガキ?
ダンジョン内での動画の撮影に成功したのだが、編集はもうスマホじゃ無理だ。
俺たちが泊まっていた宿では、電源事情も厳しい。
それらを一気に解消するために、ノートPCを購入してホテルに泊まった。
ホテルは電気を使いたい放題なので、大型のバッテリーをアイテムBOXに入れて持ち込む。
それらにたっぷりと充電すれば、しばらくはノートPCやスマホの充電には困らないだろう。
まぁ、家電を使ったりするわけじゃないし、これで十分なはず。
アップロードした、ダンジョン内の動画は好評のようだ。
すでに収益化のお知らせもきた。
これで動画を載せるほど収入は増える――はず。
まぁ、すぐに飽きられるかもしれないから、さっさと稼いで足を洗いたいところだ。
「うわぁ! 最悪だな!」
俺たちはダンジョン内で、ショッキングな場面に遭遇してしまった。
以前に俺たちを襲った、PK野郎がゾンビというかグールになっていたのだ。
すでに人間ではなく、魔物と化している。
俺は投石器を使って、元人間だったやつの頭を吹き飛ばした。
「うう……」
ちょっと衝撃的な場面だったので、サナが口を押さえている。
「大丈夫か?」
「は、はい……冒険者なら、このぐらいは……うう」
彼女には学もないし、他の仕事を探すのも難しい。
田舎で農作業ならいくらでもあるが、それならダンジョンに潜るのも一興だ。
若い連中もそう考えているから、地方には向かわず、こうしてダンジョンの中にいるに違いない。
俺も若かったら、そう考える。
農作業で一攫千金はないが、ここなら夢っぽいのがある。
あくまで夢っぽいもの。
実際は、命がけのダンジョン巡回なのだが。
その結果が――俺たちの前に転がっている、魔物になって頭を吹き飛ばされてしまった男。
世の中は、そんな甘くはないってことだな。
「魔石はどうしよう? こんなのに触りたくねぇな」
「私も、ちょっと……」
やっぱり元人間だったわけだし。
それに、これに魔石ってあるのかね?
魔物になった時点で、身体の中に形成されるのだろうか?
ちょっと調べてみたい思いもあるが――なにしろくさい。
腐った肉の中に手を突っ込みたくない。
「そうだな、やっぱりやめようか」
「はい」
俺は自転車をアイテムBOXから出すと、サナを後ろに乗せたのだが――。
誰かが近づいてくる気配がする。
「誰だ!」
「て、敵じゃないし!」
女の子の声だ。
暗闇の中から現れたのは、ローブを被って自転車を押している小柄な――多分女の子なんだろう。
だって声が女の子だし。
押している自転車も、俺のようなマウンテンバイクではなくてママチャリっぽい。
他の魔導師のようにスカートではなく、ショートパンツを穿いているらしく、白い脚が見えている。
「なんの用だ?」
「あたしを仲間に加えてほしいんだけど……」
「はぁ? ギルドの募集はしてないぞ?」
「な、なんでもするからさぁ!」
突然の言葉に俺も困った。
「ええ? なんでもって言われてもなぁ」
「オッサンなら、女の子は好きだろ?」
彼女がサナをチラ見している。
援交相手とでも思っているのだろうか?
あいにく子どもには興味はない。
「私とダイスケさんは、違うんだけど」
「そうなんだ? あたしはてっきり……それじゃ、あたしのこと興味あるなら、好きにしてもいいよ?」
彼女が指で輪っかを作って、そこに指を出し入れしている。
オッサンか! ――いや、メ◯ガキか?
「そんなことより……君はレベルいくつなの?」
「2……だけど」
俺が乗ってこないので、彼女ががっかりしているみたいだな。
「え~? レベル2なのに、ここまで来たのかい?」
ちょっと無謀じゃないか?
――といいつつ、しょっぱなの俺も、他の冒険者からこう見られていたのか。
ちょっと反省しよう。
まぁ、防具は揃えたし。
「あたしぐらいの女の子を連れているオッサンがいたので、どこまで行くんだろうと……」
「あとをついて、ここまで来たのかい?」
「う、うん」
「暗い中、よく平気だったな」
「あの……あたし、暗い所でも見えるから」
「そうなんだ」
俺は高レベルになったから、目が強化されて夜目が利くようになったのかと思ったのだが、そういうスキルもあるっぽい。
「やっぱり……だめ?」
「あ~? サナ、どうする?」
「私はダイスケさんにおんぶにだっこなので……」
「う~ん、格好からすると魔導師タイプなのかな?」
「うん、一番最初に明かりの魔法を覚えたし」
「レベルを上げれば、他の魔法を覚えるかもしれないしなぁ」
それに明かりが2人になれば、撮影にも便利かと思うが――さすがに、女の子を2人を連れて下層に潜るのはどうなのよ?
それでも、レベルを上げればどうにかなるのだろうか?
「なんでまた俺に声をかけたんだ? 外に仲間を募集をしているパーティはたくさんいたろ?」
「あたしみたいな低レベルは相手にされないし、それに女の子を連れている人なら――」
「あ、もしかして、ちょろそうなオッサンに見えた?」
「えへへ……」
女の子が苦笑いしている。
まぁ、悪い子ではないようだ。
よく言えば、裏表がないタイプだろうか。
「う~ん、困ったな……それじゃ、こうしよう」
「なに?!」
「ちょっとレベル上げしてみて、覚える魔法によって決めようか」
「ど、どうやって?」
「俺が魔物を倒すから、止めを君が刺せばいい。そうすれば簡単にレベルを上げられる」
「そんなのでいいのかい?」
彼女はちょっと疑っているようだ。
ちょろそうなオッサンとか言っておいて、そこは警戒するのか。
「レベルが上がっても、使えそうな魔法を覚えない魔導師じゃ、雇ってもメリットないし」
「わかった」
「パーティに入らなくても、レベルを上げれば低層なら安全に戦えるようになると思うよ」
「ありがと……」
彼女が、照れくさそうにペコリとお辞儀をした。
礼儀は心得ている――やっぱり悪い子ではなさそうだ。
サナに再度確認するが、問題ないという。
自分も似たような立場なので、否定する気にならないのかもしれないな。
急遽、ここで再度戦闘することになった。
新しい女の子が仲間になるかどうかもわからないので、カメラ撮影はしない。
アイテムBOXも見せられないのだが、武器を出さないわけにもいかず。
俺とサナのメイスを出した。
「サナ、君は防御に徹してな」
「はい」
彼女にメイスを手渡す。
まぁ、狼ぐらいなら、俺1人でも余裕だ。
そう思ったのだが――暗闇でも見えるという女の子は、俺たちが戦闘をしていたのを見ていたはず。
仕留めた狼がいないことに気がついているんじゃないのか。
女の子のことを考えていると、上から鳴き声が聞こえてきた。
「キィィ!」
狼なら楽勝かと思ったら、オオコウモリだ。
こいつは金になるのだろうか?
食える所も少なそうだしなぁ。
「うぜぇ!」
飛び回る敵に、あまり有効な攻撃がない。
弓やボウガンを用意したほうがいいだろうか?
アーチャーというと、ゲームだと外れっぽいのだが――。
「そうか」
ヒモの両側に錘を結んで投げるやつはどうだろうか?
あれって名前ってなんて言ったっけ?
ポーラ? ボーラ?
いや、今はそんなことはどうでもいい。
オオコウモリに構っていたら、下からも敵だ。
狼が5匹――しかも、1匹が白くてデカい。
強化種? ユニーク個体?
通常の倍以上の体躯がある。
アイテムBOXから石を取り出すと、オオコウモリに向かって投げた。
ヒットはしなかったが、至近弾によって追い払うことには成功したようだ。
女の子に俺の秘密を隠しておきたかったが、白いユニーク個体は惜しい。
映像に捉えることができれば、アクセスが稼げるだろう。
「オラァ!」
石を投げつけて、相手を牽制している間に、カメラを用意する。
「グルル!」
俺は準備を整えると、武器を構えて敵の中に突っ込んだ。
「どけぇ!」
「ギャン!」
狼の1匹を下から蹴り上げる。
レベル49の蹴りだ――ダメージ大だろう。
俺の敵は、目の前にいる白くてデカい敵。
「サナ! 転がっている敵に、その女の子と一緒に止めを」
「はい!」
あれだけダメージが入っていれば、彼女たちでも大丈夫だろう。
「グォォ!」
白いやつが、光るデカい牙をむき出しにしている。
俺に向かって噛み付いてきた敵の攻撃をさらりと躱し、上段からメイスの一撃をデカい頭蓋に加えた。
「ギャオン!」
「オラァ!」
怯む敵に向かって、今度は下側からゴルフスイングをお見舞い。
加速を増した鉄筋が、狼の顎を捉える。
「ギャイン!」
白い巨体が、勢い余って宙返りしたあと、地面に叩きつけられた。
「サナ! 女の子に止めを刺させてやってくれ!」
俺は狼の頭を踏んづけて、押さえ込む。
ボスがやられたのを察したのか、他の狼はすぐに姿を消した。
好都合だ――今しかない。
「はい!」
「ううう……マジかよ……」
「早く!」
「ああ――おらぁぁ!」
急かされて覚悟を決めたのか、サナから短剣をもらった女の子が、狼の胴体にそれを突き刺した。
「ギャインギャイン!」
「まだ、生きてるぞ!」
「うわぁぁぁぁ!」
完全に涙目になっている女の子が、短剣を白い毛皮になん度も突き立てる。
血を噴き出して白い絨毯が赤く染まっていく。
ビクビクと反応していた魔物の身体が、最後には動かなくなった。
「ふ~……こいつは、中々タフだったなぁ」
「うわぁん!」
大物に止めを刺した女の子は、よほど怖かったのか、その場で尻もちをついて泣いている。
ローブの頭部分が脱げて、ボーイッシュな茶髪なショートヘアが見えていた。
ちょっと生意気そうだったのだが、女の子らしいところもあるのか。
「よしよし、怖かったな」
泣いている女の子を抱いてやった。
「うう~」
「2層でも、こんな強敵が出るのか。これは普通のレベルだとちょっと危ないかもな」
「そ、そうですね」
サナも、ちょっと震えている。
まぁ、普通はパーティやら、ギルドを組んで戦っているので、なんとかなるのか。
ソロだとちょっとヤバいかもしれないな。
逃げるとしても、相手が狼だと追っかけられてちょっとツライし。
そのとき、泣いていた女の子の身体が光りだした。
結構長く光っていたあと――消えた。
「レベルアップしたろ? いくつになった?」
「……れ、レベル8」
「お、やったな。なにか魔法を覚えてないか?」
「……やった! 回復だ!」
「え? 回復か……?」
俺は彼女の言葉に、ちょっと意外だと思ってしまった。
どういうわけか知らないが、回復を覚える女の子ってのは、男性経験がない子なのだ。
もちろん、ゴニョゴニョすると、覚えた魔法も消えてしまう。
「え? な、なんだよ」
「いや、ちょっと意外だったな――と、思った」
茶髪だし、言動からメ◯ガキっぽいかと思ったら、全然そうじゃなかったわけだ。
ちょっとツッパリたい(死語)お年頃ってやつか。
「あの……ゴニョゴニョ」
サナが彼女に耳打ちしているってことは、回復を覚える条件を知っていたのだろう。
「……スケベ! ヘンタイ!」
俺の言いたいことを理解した女の子の顔が真っ赤になった。
なんだ、全然見た目と違うじゃないか。
「なんだよ、好きにしてもいいとか言ってたのに」
「~~~!」
顔を赤くしたまま、彼女が下を向いた。
「それはさておき――回復があれば、どこのパーティでも雇ってもらえるぞ?」
「……あ、あの! やっぱり、ここにあたしも入れてほしいんだけど!」
「そりゃ、回復役が入れば、すごく便利だと思うけどなぁ……」
俺はサナをチラ見した。
「私もいいと思います」
彼女もニコニコしているので、悪い子じゃないと直感したようだ。
「そうか――それじゃ、いいよ。決まりだ。一旦ここから引き返して、ギルドに登録するか」
「え?! ギルドにも入れてくれんの?!」
「ギルドっていっても、俺と彼女の2人だけのギルドなんだけど、いいのか?」
「もちろん!」
「それと――仲間になるってことで、俺の戦闘を見てて、気がついたことがあっただろ?」
彼女が座ったまま考え込んでいる。
「……それって、もしかして……アイテムBOXってやつ?」
「やっぱり、解ってしまったか」
「だって、なにもない所から武器が出てたし……」
まぁ、非常事態だったから、仕方ないなぁ。
「悪いんだが、アイテムBOXのことは秘密にしたい」
「わかったよ――あたしは口が固いから!」
「大丈夫かな?」
「人の秘密や、悪口をペラペラってやつは信用されないし!」
「そうか――よろしく頼むよ。俺はダイスケ、こっちの彼女はサナだ」
「あたしはレン」
「レンか――よろしくな」
「うん!」
仲間が増えたとなれば、やっぱり正式にギルドメンバーにしたほうがいいだろう。
俺達は、一旦外に出ることにした。
別に、金に余裕はできたから、カツカツな冒険者家業ではなくなった。
慌てる必要はない。
仕留めた狼などをアイテムBOXに収納した。
「す、すげー! 便利だな~!」
「まぁな」
暗くて解らんが、レンの目がキラキラしてそうではある。
「サナは学校に行かないで冒険者になったんだけど、君もそうなのか?」
「う、うん――他に知り合いがいなくて、自分で金を稼ぐしかなくなったんだよ」
「おお、ブルータスお前もか。彼女――サナと妹もそうなんだよ」
「そう――そうなんだ……」
「ずっとソロでやってたのか?」
「いや、パーティに入れてもらったりしたんだけど、男に襲われそうになったりしたんで……」
「さっきみたいなことを言ってたんじゃないのか?」
「き、気に入らないやつには、そういうことは言わないよ」
「ははは、やっぱり俺は、チョロそうに見えたのか」
「そ、そうじゃないけど……」
サナも絡まれてたしなぁ。
それで、若い子を連れているオッサンなら大丈夫そう――と思ったのかも知れないな。
別にオッサンだから安全なわけじゃないんだけどな。
ただ、冒険者やっているオッサンは少ないからな。
やっぱり、体力的なものもありそうだし。
スポーツ選手だって、オッサンになったら引退だろうし。
一旦戻ることになったので、自転車に乗った。
「レン、自転車に乗ってるけど、もうちょっと荒れ地を走れるタイプに変えたほうがいいかもな」
「あたしもそう思ってるけど……お金が……」
「それなら心配いらないよ。ギルドメンバーになれば、お金が分配されるし」
「で、でも、なにもできないのに……」
「回復の魔法が使えるようになったじゃないか。きっと貢献できると思うよ」
「そ、そうかなぁ……」
1層に戻ってきたので、自転車を収納して、俺が白い狼を担いだ。
早速、こいつを外で売ろう。
ユニーク個体なら高く売れるんじゃないのか?
白い毛皮だって珍しいはずだぞ?
身体がデカいから、たくさん毛皮が取れるだろうし。
エントランスホールに戻ると、もう注目の的だ。
「おおっ!」「あれってなんだ?!」「白い狼?!」
あちこちから、ざわざわが聞こえる。
それらを無視してダンジョンの外に出た。
外を出ると、レンがローブを脱いだ――ちょっとツリ目の大きな目がくりくりしている。
一見、男の子っぽいが、十分に女の子だ。
改めてみると、中学生ぐらいに見えてしまうが、冒険者登録には国民カードが必要になるので、年齢を誤魔化しているってことはないだろう。
改札をくぐると、業者の所に向かう。
「お~い! 珍しい狼を仕留めたぞ! 誰か買ってくれないか?!」
「なんだなんだ!?」「白い狼?!」「デカいぞ!」
地面に白い屍を置くと、業者がワラワラと集まってきた。
その周りを暇な冒険者たちが囲む。
隠すようにしてアイテムBOXからスマホを出すと、その様子を撮影した。
これはあまり長い動画じゃなくてもいいだろう。
「おお、本当に狼だな……」「白い毛皮は上等そうだな」「う~ん、こんなのは初めて見たぜ?」
業者たちもあまり見ない獲物のようだ。
他のダンジョンで出現したことがあると、業者の1人が教えてくれた。
へ~。
確かに、ダンジョンは世界中にあるからなぁ。
それはさておき、こいつは買付が難しいだろう。
珍しいからといって高値で購入しても、買う客がいなかったら損をしてしまう。
躊躇して、他の業者が買って儲けられるのも悔しい。
「に、20!」「それじゃ、ウチは25出す!」
「おいおい、狼にそんなに出して大丈夫か?」
「いや、これだけの大きさだ。それだけでも価値がある」
「うちは27.5!」「28!」
結局30万円出す業者が落とした。
「ふ~!」
ガッチリした体格で背の低い業者が深呼吸している。
顔が真っ赤だ。
「そんな値段で大丈夫かい?」
「いや、これでデカいコートでも作ったらかなりの値段がつくはず……」
「真っ白な毛皮のコートか――それは格好いいかもしれん」
「そうだろ! 好事家が間違いなく買う! 下手をしたら海外からも注文が入るかもしれん」
親父の目はすでに世界を見ている。
取らぬ狸の皮算用の最中だろう。
まぁ、世界が壊滅的になったが、それなりに復興し始めてるから、すでに金持ちもいる。
それはさておき、金を払ってもらう。
ギルドを作ったので、金はギルドの口座にはいる。
個人間で売買したり金を渡すと税金がかかるが、ギルドのメンバー間なら、税金がかからない。
「30万円だから、10万ずつだな。レンはまだギルドメンバーじゃないからな、ちょっと引かれるぞ」
「え!? マジで?! あたし、なにもやってないけど」
「はは、サナと同じ反応だな。いいんだよ。レベルアップのために必要なことだし」
俺の横で、サナがウンウンと唸っている。
「で、でも……」
「いやいや、君たちが2人でダンジョンに潜ったとする」
「うん」
「そのときに仕留めた獲物の代金もギルドの口座にプールされて俺に入ってくるから、お互い様なんだよ」
「……わかったよ」
「それに――装備を整えるためにも、金は必要だろ? ダンジョンの中を走るのにそのママチャリはマズいし」
「うん」
「解ってくれたか」
「おう!」
彼女がガッツポーズをする――元気だな。
金を分配すると、そのまま役所に行く。
いつものお姉さんの窓口に向かった。
「すみません~ギルドメンバーを増やしたいんですけど」
「はい、それじゃこちらに……」
窓口のお姉さんが俺に気がついたようだ。
新しいメンバーが女の子なのも。
「じ~っ」
「なにか? 女の子でも、ちゃんと冒険者登録してる子ですよ」
「そ、そうですけど……女の子ばかりメンバーに加えて、危険な場所に連れていくつもりですか?」
「そんなの、私たちの自由じゃありませんか!」
サナがいきなり、女性職員に食ってかかった。
「私は、あなたたちのことを考えて」
「そんなの余計なお世話です! それに、他のギルドに入ったほうが、はるかに危ないんですよ!」
「そうです! あたしなんて、男に襲われそうになったし!」
サナに、レンが加勢し始めた。
さすがに女の子2人に突っ込まれて、職員もタジタジになってしまった。
「わかりました……でも、気をつけてくださいね」
「ふん!」
まぁ、このお姉さんも、親切で言っているようなのだ。
「じ~っ!」
彼女から無言の圧力が来る。
そんな目をしなくても、子どもに手を出したりはせんよ。
レンの書類を提出して、彼女も無事にギルドメンバーになった。
「よし、今日は買い物をして、レンの装備を揃えることにしよう」
「はい」「うん」
「レンの自転車も換えたほうがいいから、羽田まで買い物に行くか」
「わかりました」「わかった」
女の子を引き連れて、またポンポン船に乗る。
マジで、橋を架けてくれよってなるな。
いつものホムセンなどを回って、レンのマウンテンバイクなどをゲット。
こういうのは必要経費だからな。
ママチャリなんかじゃすぐに限界がやってくる。
――つ~か、よくママチャリで2層まで降りてきたよ。
行きはよいよい帰りは怖いで、帰りの坂道が超大変だと思うが。
俺は、高レベルパワーだから、坂なんて苦にならないけどな。
「今まで乗ってたママチャリはどうする? 売るのかい?」
「それなりに思い出があるんだ……残しておきたいんだけど……」
「それなら――」
人気のない所で、一旦俺のアイテムBOXの中に。
彼女が買ったマウンテンバイクも収納した。
俺もホムセンで材料を購入して、道端のベンチに腰掛けると新しい武器を作る。
ナイロン紐も買って、アイテムBOXに入れていた石ころを結んでボーラを作った。
こいつをクルクルと回して、飛んでくる魔物に投げて絡みつかせて落とすわけだ。
普通の魔物の足止めにも使えるかもしれないな。
ただ、相手が強力になると、こんなものはぶっ千切ってしまうだろうから、あくまで下層用だな。
「それ、面白いね! あたしも作ろうかな……」
レンがボーラに興味を示している。
「いいんじゃないかな? レベルが上がっているなら、ちょっと重いものでも投げられるようになってるし」
「そうか! やってみる!」
彼女がフンス! と気合を入れている。
レンも材料を買い込んで、ボーラを作ってみるようだ。
ただ、俺のようにアイテムBOXがあるわけじゃないから、全部持ち運ばなければならないのが欠点だな。
全部俺のアイテムBOXに入れてもいいのだが、最低限の装備は持っててくれないと、なにかトラブルの際に困る。
たとえば――ダンジョン内ではぐれてしまうとか。
アイテムBOXの中に全部預けてしまったら、丸腰になってしまうだろ。
さすがにそういう状況は避けなければならない。
買い物をしていたら昼になったので、3人で飯を食う。
羽田にあった店の醤油ラーメンにした。
魔物の肉とダシを使っているらしいのだが、中々美味かった。
ダンジョンの生き物を骨の髄まで煮込んだ、豚骨もあるらしいのだが――。
いや豚じゃないから、魔骨か?
豚骨はちょっと苦手なんだよなぁ。
故郷は味噌とか塩だし……。
2人にもリクエストを聞いたが、醤油でいいということだったので、テカリが浮かぶ濃い色のスープにした。
「あ、あの……ごちそうさまでした」「ごちそうさま!」
食事代は俺のおごりだ。
年長者はやっぱり若いヤツには奢らないとな。
若い子が美味しそうに飯を食っている姿を見ると、オッサンはなぜか嬉しくなるのだ。
「魔物ラーメン、結構美味かったな」
「はい」「うん!」
買い物も終わったので、また船に乗って特区に戻った。
「今日は買い物もしたし、白い狼で稼いだから、終わりにしていいかい?」
「はい」「あたしもいい」
「それはそうと――レン、宿はあるのか?」
「……金がないんだけど……」
「金なら、さっきできたじゃないか」
「そうだけど」
彼女がなんだか言いにくそうだ。
可能ならばなんとかして節約したいのだろう。
この先どうなるのか、まったく解らんからな。
「それじゃ、俺たちと一緒の所に泊まるか? 狭い部屋だが、寝るぐらいはできるぞ」
「頼むよ!」
彼女が頭を下げた。
「サナもそれでいいか?」
「はい、私たちと同じ感じみたいですし」
「本当になぁ――女の子1人で寝泊まりじゃ、色々と危ないしなぁ」
「うん」
レンがうなずいている。
そういう経験があったのかもしれない。
「本当は、オッサンの俺も危ないんだぞ?」
「ダイスケさんは、そういうことはしないと思います」
「そうか? ははは」
信用してくれるのはありがたいが。
まぁ、もとより女の子に手を出すつもりは毛頭ない。
どうせやるなら、ムチプリンの妙齢のほうがいいし。
「女性専用の宿もあるんですが、ちょっと割高ですし――色々と面倒なことが」
「そうなんだ」
女同士で助け合ってみたいな感じかと思いきや、低レベル冒険者に対するいじめみたいなことがあるらしい。
「困ったもんだなぁ……」
「サナはそういう所に行ったことがあるのか?」
「……1日で出ました。もう2度と行きません」
「そうなんだ、やれやれ……」
3人で宿に戻ろうとしたが、サナは買い物があるらしい。
なにか欲しいものがあるようで、別行動だ。
まぁ、金が入ったら、そういうものも出てくるだろう。
「それじゃ、先に戻ってるよ」
「はい」
俺とレンで、宿に戻ったのだが、ミオはまだ学校から帰ってきていなかった。
「オバちゃん、1人増えちゃったんだが、いいよな?」
「……あんたいい加減にしなよ? ちゃんと面倒みれるんだろうね?」
「ギルドメンバーにもなったし、大丈夫だよ」
「よろしく~!」
レンが、Vサインでにっこりした。
「ふん、本当かね」
「レン、大丈夫だよ。ちょっといじわるばあさんみたいに見えるけど、いい人だから」
「だれが、ばあさんだい!」
「ははは、姉妹のお姉さんは買い物してから来るから」
「はいよ」
部屋に戻った俺は、モルタルの床に大きなエアマットを出した。
大きさは280cm×200cmと書いてあったが、4畳半がちょうどいい具合に埋った。
この部屋の1辺が280cmぐらいの正方形らしい。
ここにみんなで座ればいい。
羽田のホムセンで買ってきたものだ。
色々と使い道があるし、ダンジョン内でも使えそうなので、予備もまとめ買いをしてきた。
その前に、空気を入れないと。
今日は珍しい魔物の映像も撮れただろうし、チェックしてみないとなぁ。
上手く撮れているだろうか、楽しみだ。