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17話 メ◯ガキ?


 ダンジョン内での動画の撮影に成功したのだが、編集はもうスマホじゃ無理だ。

 俺たちが泊まっていた宿では、電源事情も厳しい。

 それらを一気に解消するために、ノートPCを購入してホテルに泊まった。

 ホテルは電気を使いたい放題なので、大型のバッテリーをアイテムBOXに入れて持ち込む。


 それらにたっぷりと充電すれば、しばらくはノートPCやスマホの充電には困らないだろう。

 まぁ、家電を使ったりするわけじゃないし、これで十分なはず。


 アップロードした、ダンジョン内の動画は好評のようだ。

 すでに収益化のお知らせもきた。

 これで動画を載せるほど収入は増える――はず。


 まぁ、すぐに飽きられるかもしれないから、さっさと稼いで足を洗いたいところだ。


「うわぁ! 最悪だな!」

 俺たちはダンジョン内で、ショッキングな場面に遭遇してしまった。

 以前に俺たちを襲った、PK野郎がゾンビというかグールになっていたのだ。


 すでに人間ではなく、魔物と化している。

 俺は投石器を使って、元人間だったやつの頭を吹き飛ばした。


「うう……」

 ちょっと衝撃的な場面だったので、サナが口を押さえている。


「大丈夫か?」

「は、はい……冒険者なら、このぐらいは……うう」

 彼女には学もないし、他の仕事を探すのも難しい。

 田舎で農作業ならいくらでもあるが、それならダンジョンに潜るのも一興だ。


 若い連中もそう考えているから、地方には向かわず、こうしてダンジョンの中にいるに違いない。

 俺も若かったら、そう考える。

 農作業で一攫千金はないが、ここなら夢っぽいのがある。

 あくまで夢っぽいもの。


 実際は、命がけのダンジョン巡回なのだが。

 その結果が――俺たちの前に転がっている、魔物になって頭を吹き飛ばされてしまった男。

 世の中は、そんな甘くはないってことだな。


「魔石はどうしよう? こんなのに触りたくねぇな」

「私も、ちょっと……」

 やっぱり元人間だったわけだし。

 それに、これに魔石ってあるのかね?

 魔物になった時点で、身体の中に形成されるのだろうか?


 ちょっと調べてみたい思いもあるが――なにしろくさい。

 腐った肉の中に手を突っ込みたくない。


「そうだな、やっぱりやめようか」

「はい」

 俺は自転車をアイテムBOXから出すと、サナを後ろに乗せたのだが――。

 誰かが近づいてくる気配がする。


「誰だ!」

「て、敵じゃないし!」

 女の子の声だ。

 暗闇の中から現れたのは、ローブを被って自転車を押している小柄な――多分女の子なんだろう。

 だって声が女の子だし。

 押している自転車も、俺のようなマウンテンバイクではなくてママチャリっぽい。

 他の魔導師のようにスカートではなく、ショートパンツを穿いているらしく、白い脚が見えている。


「なんの用だ?」

「あたしを仲間に加えてほしいんだけど……」

「はぁ? ギルドの募集はしてないぞ?」

「な、なんでもするからさぁ!」

 突然の言葉に俺も困った。


「ええ? なんでもって言われてもなぁ」

「オッサンなら、女の子は好きだろ?」

 彼女がサナをチラ見している。

 援交相手とでも思っているのだろうか?

 あいにく子どもには興味はない。


「私とダイスケさんは、違うんだけど」

「そうなんだ? あたしはてっきり……それじゃ、あたしのこと興味あるなら、好きにしてもいいよ?」

 彼女が指で輪っかを作って、そこに指を出し入れしている。

 オッサンか! ――いや、メ◯ガキか?


「そんなことより……君はレベルいくつなの?」

「2……だけど」

 俺が乗ってこないので、彼女ががっかりしているみたいだな。


「え~? レベル2なのに、ここまで来たのかい?」

 ちょっと無謀じゃないか?

 ――といいつつ、しょっぱなの俺も、他の冒険者からこう見られていたのか。

 ちょっと反省しよう。

 まぁ、防具は揃えたし。


「あたしぐらいの女の子を連れているオッサンがいたので、どこまで行くんだろうと……」

「あとをついて、ここまで来たのかい?」

「う、うん」

「暗い中、よく平気だったな」

「あの……あたし、暗い所でも見えるから」

「そうなんだ」

 俺は高レベルになったから、目が強化されて夜目が利くようになったのかと思ったのだが、そういうスキルもあるっぽい。


「やっぱり……だめ?」

「あ~? サナ、どうする?」

「私はダイスケさんにおんぶにだっこなので……」

「う~ん、格好からすると魔導師タイプなのかな?」

「うん、一番最初に明かりの魔法を覚えたし」

「レベルを上げれば、他の魔法を覚えるかもしれないしなぁ」

 それに明かりが2人になれば、撮影にも便利かと思うが――さすがに、女の子を2人を連れて下層に潜るのはどうなのよ?

 それでも、レベルを上げればどうにかなるのだろうか?


「なんでまた俺に声をかけたんだ? 外に仲間を募集をしているパーティはたくさんいたろ?」

「あたしみたいな低レベルは相手にされないし、それに女の子を連れている人なら――」

「あ、もしかして、ちょろそうなオッサンに見えた?」

「えへへ……」

 女の子が苦笑いしている。

 まぁ、悪い子ではないようだ。

 よく言えば、裏表がないタイプだろうか。


「う~ん、困ったな……それじゃ、こうしよう」

「なに?!」

「ちょっとレベル上げしてみて、覚える魔法によって決めようか」

「ど、どうやって?」

「俺が魔物を倒すから、止めを君が刺せばいい。そうすれば簡単にレベルを上げられる」

「そんなのでいいのかい?」

 彼女はちょっと疑っているようだ。

 ちょろそうなオッサンとか言っておいて、そこは警戒するのか。


「レベルが上がっても、使えそうな魔法を覚えない魔導師じゃ、雇ってもメリットないし」

「わかった」

「パーティに入らなくても、レベルを上げれば低層なら安全に戦えるようになると思うよ」

「ありがと……」

 彼女が、照れくさそうにペコリとお辞儀をした。

 礼儀は心得ている――やっぱり悪い子ではなさそうだ。


 サナに再度確認するが、問題ないという。

 自分も似たような立場なので、否定する気にならないのかもしれないな。


 急遽、ここで再度戦闘することになった。

 新しい女の子が仲間になるかどうかもわからないので、カメラ撮影はしない。

 アイテムBOXも見せられないのだが、武器を出さないわけにもいかず。

 俺とサナのメイスを出した。


「サナ、君は防御に徹してな」

「はい」

 彼女にメイスを手渡す。

 まぁ、狼ぐらいなら、俺1人でも余裕だ。


 そう思ったのだが――暗闇でも見えるという女の子は、俺たちが戦闘をしていたのを見ていたはず。

 仕留めた狼がいないことに気がついているんじゃないのか。


 女の子のことを考えていると、上から鳴き声が聞こえてきた。


「キィィ!」

 狼なら楽勝かと思ったら、オオコウモリだ。

 こいつは金になるのだろうか?

 食える所も少なそうだしなぁ。


「うぜぇ!」

 飛び回る敵に、あまり有効な攻撃がない。

 弓やボウガンを用意したほうがいいだろうか?

 アーチャーというと、ゲームだと外れっぽいのだが――。


「そうか」

 ヒモの両側に錘を結んで投げるやつはどうだろうか?

 あれって名前ってなんて言ったっけ?

 ポーラ? ボーラ?


 いや、今はそんなことはどうでもいい。

 オオコウモリに構っていたら、下からも敵だ。

 狼が5匹――しかも、1匹が白くてデカい。

 強化種? ユニーク個体?

 通常の倍以上の体躯がある。


 アイテムBOXから石を取り出すと、オオコウモリに向かって投げた。

 ヒットはしなかったが、至近弾によって追い払うことには成功したようだ。

 女の子に俺の秘密を隠しておきたかったが、白いユニーク個体は惜しい。

 映像に捉えることができれば、アクセスが稼げるだろう。


「オラァ!」

 石を投げつけて、相手を牽制している間に、カメラを用意する。


「グルル!」

 俺は準備を整えると、武器を構えて敵の中に突っ込んだ。


「どけぇ!」

「ギャン!」

 狼の1匹を下から蹴り上げる。

 レベル49の蹴りだ――ダメージ大だろう。

 俺の敵は、目の前にいる白くてデカい敵。


「サナ! 転がっている敵に、その女の子と一緒に止めを」

「はい!」

 あれだけダメージが入っていれば、彼女たちでも大丈夫だろう。


「グォォ!」

 白いやつが、光るデカい牙をむき出しにしている。

 俺に向かって噛み付いてきた敵の攻撃をさらりと躱し、上段からメイスの一撃をデカい頭蓋に加えた。


「ギャオン!」

「オラァ!」

 怯む敵に向かって、今度は下側からゴルフスイングをお見舞い。

 加速を増した鉄筋が、狼の顎を捉える。


「ギャイン!」

 白い巨体が、勢い余って宙返りしたあと、地面に叩きつけられた。


「サナ! 女の子に止めを刺させてやってくれ!」

 俺は狼の頭を踏んづけて、押さえ込む。

 ボスがやられたのを察したのか、他の狼はすぐに姿を消した。

 好都合だ――今しかない。


「はい!」

「ううう……マジかよ……」

「早く!」

「ああ――おらぁぁ!」

 急かされて覚悟を決めたのか、サナから短剣をもらった女の子が、狼の胴体にそれを突き刺した。


「ギャインギャイン!」

「まだ、生きてるぞ!」

「うわぁぁぁぁ!」

 完全に涙目になっている女の子が、短剣を白い毛皮になん度も突き立てる。

 血を噴き出して白い絨毯が赤く染まっていく。

 ビクビクと反応していた魔物の身体が、最後には動かなくなった。


「ふ~……こいつは、中々タフだったなぁ」

「うわぁん!」

 大物に止めを刺した女の子は、よほど怖かったのか、その場で尻もちをついて泣いている。

 ローブの頭部分が脱げて、ボーイッシュな茶髪なショートヘアが見えていた。

 ちょっと生意気そうだったのだが、女の子らしいところもあるのか。


「よしよし、怖かったな」

 泣いている女の子を抱いてやった。


「うう~」

「2層でも、こんな強敵が出るのか。これは普通のレベルだとちょっと危ないかもな」

「そ、そうですね」

 サナも、ちょっと震えている。

 まぁ、普通はパーティやら、ギルドを組んで戦っているので、なんとかなるのか。

 ソロだとちょっとヤバいかもしれないな。

 逃げるとしても、相手が狼だと追っかけられてちょっとツライし。


 そのとき、泣いていた女の子の身体が光りだした。

 結構長く光っていたあと――消えた。


「レベルアップしたろ? いくつになった?」

「……れ、レベル8」

「お、やったな。なにか魔法を覚えてないか?」

「……やった! 回復ヒールだ!」

「え? 回復ヒールか……?」

 俺は彼女の言葉に、ちょっと意外だと思ってしまった。

 どういうわけか知らないが、回復ヒールを覚える女の子ってのは、男性経験がない子なのだ。

 もちろん、ゴニョゴニョすると、覚えた魔法も消えてしまう。


「え? な、なんだよ」

「いや、ちょっと意外だったな――と、思った」

 茶髪だし、言動からメ◯ガキっぽいかと思ったら、全然そうじゃなかったわけだ。

 ちょっとツッパリたい(死語)お年頃ってやつか。


「あの……ゴニョゴニョ」

 サナが彼女に耳打ちしているってことは、回復ヒールを覚える条件を知っていたのだろう。


「……スケベ! ヘンタイ!」

 俺の言いたいことを理解した女の子の顔が真っ赤になった。

 なんだ、全然見た目と違うじゃないか。


「なんだよ、好きにしてもいいとか言ってたのに」

「~~~!」

 顔を赤くしたまま、彼女が下を向いた。


「それはさておき――回復があれば、どこのパーティでも雇ってもらえるぞ?」

「……あ、あの! やっぱり、ここにあたしも入れてほしいんだけど!」

「そりゃ、回復ヒール役が入れば、すごく便利だと思うけどなぁ……」

 俺はサナをチラ見した。


「私もいいと思います」

 彼女もニコニコしているので、悪い子じゃないと直感したようだ。


「そうか――それじゃ、いいよ。決まりだ。一旦ここから引き返して、ギルドに登録するか」

「え?! ギルドにも入れてくれんの?!」

「ギルドっていっても、俺と彼女の2人だけのギルドなんだけど、いいのか?」

「もちろん!」

「それと――仲間になるってことで、俺の戦闘を見てて、気がついたことがあっただろ?」

 彼女が座ったまま考え込んでいる。


「……それって、もしかして……アイテムBOXってやつ?」

「やっぱり、解ってしまったか」

「だって、なにもない所から武器が出てたし……」

 まぁ、非常事態だったから、仕方ないなぁ。


「悪いんだが、アイテムBOXのことは秘密にしたい」

「わかったよ――あたしは口が固いから!」

「大丈夫かな?」

「人の秘密や、悪口をペラペラってやつは信用されないし!」

「そうか――よろしく頼むよ。俺はダイスケ、こっちの彼女はサナだ」

「あたしはレン」

「レンか――よろしくな」

「うん!」

 仲間が増えたとなれば、やっぱり正式にギルドメンバーにしたほうがいいだろう。

 俺達は、一旦外に出ることにした。

 別に、金に余裕はできたから、カツカツな冒険者家業ではなくなった。

 慌てる必要はない。


 仕留めた狼などをアイテムBOXに収納した。


「す、すげー! 便利だな~!」

「まぁな」

 暗くて解らんが、レンの目がキラキラしてそうではある。


「サナは学校に行かないで冒険者になったんだけど、君もそうなのか?」

「う、うん――他に知り合いがいなくて、自分で金を稼ぐしかなくなったんだよ」

「おお、ブルータスお前もか。彼女――サナと妹もそうなんだよ」

「そう――そうなんだ……」

「ずっとソロでやってたのか?」

「いや、パーティに入れてもらったりしたんだけど、男に襲われそうになったりしたんで……」

「さっきみたいなことを言ってたんじゃないのか?」

「き、気に入らないやつには、そういうことは言わないよ」

「ははは、やっぱり俺は、チョロそうに見えたのか」

「そ、そうじゃないけど……」

 サナも絡まれてたしなぁ。

 それで、若い子を連れているオッサンなら大丈夫そう――と思ったのかも知れないな。

 別にオッサンだから安全なわけじゃないんだけどな。

 ただ、冒険者やっているオッサンは少ないからな。


 やっぱり、体力的なものもありそうだし。

 スポーツ選手だって、オッサンになったら引退だろうし。


 一旦戻ることになったので、自転車に乗った。


「レン、自転車に乗ってるけど、もうちょっと荒れ地を走れるタイプに変えたほうがいいかもな」

「あたしもそう思ってるけど……お金が……」

「それなら心配いらないよ。ギルドメンバーになれば、お金が分配されるし」

「で、でも、なにもできないのに……」

回復ヒールの魔法が使えるようになったじゃないか。きっと貢献できると思うよ」

「そ、そうかなぁ……」

 1層に戻ってきたので、自転車を収納して、俺が白い狼を担いだ。

 早速、こいつを外で売ろう。

 ユニーク個体なら高く売れるんじゃないのか?

 白い毛皮だって珍しいはずだぞ?

 身体がデカいから、たくさん毛皮が取れるだろうし。


 エントランスホールに戻ると、もう注目の的だ。


「おおっ!」「あれってなんだ?!」「白い狼?!」

 あちこちから、ざわざわが聞こえる。

 それらを無視してダンジョンの外に出た。


 外を出ると、レンがローブを脱いだ――ちょっとツリ目の大きな目がくりくりしている。

 一見、男の子っぽいが、十分に女の子だ。

 改めてみると、中学生ぐらいに見えてしまうが、冒険者登録には国民カードが必要になるので、年齢を誤魔化しているってことはないだろう。


 改札をくぐると、業者の所に向かう。


「お~い! 珍しい狼を仕留めたぞ! 誰か買ってくれないか?!」

「なんだなんだ!?」「白い狼?!」「デカいぞ!」

 地面に白いかばねを置くと、業者がワラワラと集まってきた。

 その周りを暇な冒険者たちが囲む。

 隠すようにしてアイテムBOXからスマホを出すと、その様子を撮影した。

 これはあまり長い動画じゃなくてもいいだろう。


「おお、本当に狼だな……」「白い毛皮は上等そうだな」「う~ん、こんなのは初めて見たぜ?」

 業者たちもあまり見ない獲物のようだ。

 他のダンジョンで出現したことがあると、業者の1人が教えてくれた。


 へ~。

 確かに、ダンジョンは世界中にあるからなぁ。


 それはさておき、こいつは買付が難しいだろう。

 珍しいからといって高値で購入しても、買う客がいなかったら損をしてしまう。

 躊躇して、他の業者が買って儲けられるのも悔しい。


「に、20!」「それじゃ、ウチは25出す!」

「おいおい、狼にそんなに出して大丈夫か?」

「いや、これだけの大きさだ。それだけでも価値がある」

「うちは27.5!」「28!」

 結局30万円出す業者が落とした。


「ふ~!」

 ガッチリした体格で背の低い業者が深呼吸している。

 顔が真っ赤だ。


「そんな値段で大丈夫かい?」

「いや、これでデカいコートでも作ったらかなりの値段がつくはず……」

「真っ白な毛皮のコートか――それは格好いいかもしれん」

「そうだろ! 好事家が間違いなく買う! 下手をしたら海外からも注文が入るかもしれん」

 親父の目はすでに世界を見ている。

 取らぬ狸の皮算用の最中だろう。


 まぁ、世界が壊滅的になったが、それなりに復興し始めてるから、すでに金持ちもいる。

 それはさておき、金を払ってもらう。

 ギルドを作ったので、金はギルドの口座にはいる。


 個人間で売買したり金を渡すと税金がかかるが、ギルドのメンバー間なら、税金がかからない。


「30万円だから、10万ずつだな。レンはまだギルドメンバーじゃないからな、ちょっと引かれるぞ」

「え!? マジで?! あたし、なにもやってないけど」

「はは、サナと同じ反応だな。いいんだよ。レベルアップのために必要なことだし」

 俺の横で、サナがウンウンと唸っている。


「で、でも……」

「いやいや、君たちが2人でダンジョンに潜ったとする」

「うん」

「そのときに仕留めた獲物の代金もギルドの口座にプールされて俺に入ってくるから、お互い様なんだよ」

「……わかったよ」

「それに――装備を整えるためにも、金は必要だろ? ダンジョンの中を走るのにそのママチャリはマズいし」

「うん」

「解ってくれたか」

「おう!」

 彼女がガッツポーズをする――元気だな。


 金を分配すると、そのまま役所に行く。

 いつものお姉さんの窓口に向かった。


「すみません~ギルドメンバーを増やしたいんですけど」

「はい、それじゃこちらに……」

 窓口のお姉さんが俺に気がついたようだ。

 新しいメンバーが女の子なのも。


「じ~っ」

「なにか? 女の子でも、ちゃんと冒険者登録してる子ですよ」

「そ、そうですけど……女の子ばかりメンバーに加えて、危険な場所に連れていくつもりですか?」

「そんなの、私たちの自由じゃありませんか!」

 サナがいきなり、女性職員に食ってかかった。


「私は、あなたたちのことを考えて」

「そんなの余計なお世話です! それに、他のギルドに入ったほうが、はるかに危ないんですよ!」

「そうです! あたしなんて、男に襲われそうになったし!」

 サナに、レンが加勢し始めた。

 さすがに女の子2人に突っ込まれて、職員もタジタジになってしまった。


「わかりました……でも、気をつけてくださいね」

「ふん!」

 まぁ、このお姉さんも、親切で言っているようなのだ。


「じ~っ!」

 彼女から無言の圧力が来る。

 そんな目をしなくても、子どもに手を出したりはせんよ。


 レンの書類を提出して、彼女も無事にギルドメンバーになった。


「よし、今日は買い物をして、レンの装備を揃えることにしよう」

「はい」「うん」

「レンの自転車も換えたほうがいいから、羽田まで買い物に行くか」

「わかりました」「わかった」

 女の子を引き連れて、またポンポン船に乗る。

 マジで、橋を架けてくれよってなるな。


 いつものホムセンなどを回って、レンのマウンテンバイクなどをゲット。

 こういうのは必要経費だからな。

 ママチャリなんかじゃすぐに限界がやってくる。

 ――つ~か、よくママチャリで2層まで降りてきたよ。

 行きはよいよい帰りは怖いで、帰りの坂道が超大変だと思うが。


 俺は、高レベルパワーだから、坂なんて苦にならないけどな。


「今まで乗ってたママチャリはどうする? 売るのかい?」

「それなりに思い出があるんだ……残しておきたいんだけど……」

「それなら――」

 人気のない所で、一旦俺のアイテムBOXの中に。

 彼女が買ったマウンテンバイクも収納した。


 俺もホムセンで材料を購入して、道端のベンチに腰掛けると新しい武器を作る。

 ナイロン紐も買って、アイテムBOXに入れていた石ころを結んでボーラを作った。

 こいつをクルクルと回して、飛んでくる魔物に投げて絡みつかせて落とすわけだ。

 普通の魔物の足止めにも使えるかもしれないな。


 ただ、相手が強力になると、こんなものはぶっ千切ってしまうだろうから、あくまで下層用だな。


「それ、面白いね! あたしも作ろうかな……」

 レンがボーラに興味を示している。


「いいんじゃないかな? レベルが上がっているなら、ちょっと重いものでも投げられるようになってるし」

「そうか! やってみる!」

 彼女がフンス! と気合を入れている。


 レンも材料を買い込んで、ボーラを作ってみるようだ。

 ただ、俺のようにアイテムBOXがあるわけじゃないから、全部持ち運ばなければならないのが欠点だな。

 全部俺のアイテムBOXに入れてもいいのだが、最低限の装備は持っててくれないと、なにかトラブルの際に困る。

 たとえば――ダンジョン内ではぐれてしまうとか。

 アイテムBOXの中に全部預けてしまったら、丸腰になってしまうだろ。

 さすがにそういう状況は避けなければならない。


 買い物をしていたら昼になったので、3人で飯を食う。

 羽田にあった店の醤油ラーメンにした。

 魔物の肉とダシを使っているらしいのだが、中々美味かった。


 ダンジョンの生き物を骨の髄まで煮込んだ、豚骨もあるらしいのだが――。

 いや豚じゃないから、魔骨か?

 豚骨はちょっと苦手なんだよなぁ。

 故郷は味噌とか塩だし……。


 2人にもリクエストを聞いたが、醤油でいいということだったので、テカリが浮かぶ濃い色のスープにした。


「あ、あの……ごちそうさまでした」「ごちそうさま!」

 食事代は俺のおごりだ。

 年長者はやっぱり若いヤツには奢らないとな。

 若い子が美味しそうに飯を食っている姿を見ると、オッサンはなぜか嬉しくなるのだ。


「魔物ラーメン、結構美味かったな」

「はい」「うん!」


 買い物も終わったので、また船に乗って特区に戻った。


「今日は買い物もしたし、白い狼で稼いだから、終わりにしていいかい?」

「はい」「あたしもいい」

「それはそうと――レン、宿はあるのか?」

「……金がないんだけど……」

「金なら、さっきできたじゃないか」

「そうだけど」

 彼女がなんだか言いにくそうだ。

 可能ならばなんとかして節約したいのだろう。

 この先どうなるのか、まったく解らんからな。


「それじゃ、俺たちと一緒の所に泊まるか? 狭い部屋だが、寝るぐらいはできるぞ」

「頼むよ!」

 彼女が頭を下げた。


「サナもそれでいいか?」

「はい、私たちと同じ感じみたいですし」

「本当になぁ――女の子1人で寝泊まりじゃ、色々と危ないしなぁ」

「うん」

 レンがうなずいている。

 そういう経験があったのかもしれない。


「本当は、オッサンの俺も危ないんだぞ?」

「ダイスケさんは、そういうことはしないと思います」

「そうか? ははは」

 信用してくれるのはありがたいが。

 まぁ、もとより女の子に手を出すつもりは毛頭ない。

 どうせやるなら、ムチプリンの妙齢のほうがいいし。


「女性専用の宿もあるんですが、ちょっと割高ですし――色々と面倒なことが」

「そうなんだ」

 女同士で助け合ってみたいな感じかと思いきや、低レベル冒険者に対するいじめみたいなことがあるらしい。


「困ったもんだなぁ……」

「サナはそういう所に行ったことがあるのか?」

「……1日で出ました。もう2度と行きません」

「そうなんだ、やれやれ……」


 3人で宿に戻ろうとしたが、サナは買い物があるらしい。

 なにか欲しいものがあるようで、別行動だ。

 まぁ、金が入ったら、そういうものも出てくるだろう。


「それじゃ、先に戻ってるよ」

「はい」

 俺とレンで、宿に戻ったのだが、ミオはまだ学校から帰ってきていなかった。


「オバちゃん、1人増えちゃったんだが、いいよな?」

「……あんたいい加減にしなよ? ちゃんと面倒みれるんだろうね?」

「ギルドメンバーにもなったし、大丈夫だよ」

「よろしく~!」

 レンが、Vサインでにっこりした。


「ふん、本当かね」

「レン、大丈夫だよ。ちょっといじわるばあさんみたいに見えるけど、いい人だから」

「だれが、ばあさんだい!」

「ははは、姉妹のお姉さんは買い物してから来るから」

「はいよ」

 部屋に戻った俺は、モルタルの床に大きなエアマットを出した。

 大きさは280cm×200cmと書いてあったが、4畳半がちょうどいい具合に埋った。

 この部屋の1辺が280cmぐらいの正方形らしい。

 ここにみんなで座ればいい。


 羽田のホムセンで買ってきたものだ。

 色々と使い道があるし、ダンジョン内でも使えそうなので、予備もまとめ買いをしてきた。

 その前に、空気を入れないと。


 今日は珍しい魔物の映像も撮れただろうし、チェックしてみないとなぁ。

 上手く撮れているだろうか、楽しみだ。

 

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