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16話 収益化できたし順調だ


 ダンジョン内での撮影に成功した俺は、本格的に動画撮影をすることにした。

 動画サイトで収益化できれば、危ない戦闘などをしなくてもすむ。

 バズればあっという間に数千万円になることもある。


 そうすれば、憧れのFIRE(早期リタイア)が可能だ。

 こんなのいつまでもできる仕事じゃないしな。

 若いやつならいいが、俺はオッサンだし。


 ひょんなことから高レベル冒険者になってしまったが、深層部の魔物を倒さなければドンドンレベルがオチてきてしまう。

 その前に、金を稼ぎたいところだ。


 本格的に動画配信者となるには、スマホじゃ無理――というわけで、稼いだ金でノートPCを購入した。

 これでジャンジャンバリバリ動画編集をして、サイトにアップしてやる。

 最初は物珍しさからアクセスも稼げるようになるだろうが、こういうのは一過性のものだ。

 すぐに再生数が落ちてくる。

 ずっと続けられる商売じゃないってことだ。


 実際にそういう感じになった動画配信者をたくさん見てきたし。

 ずっと一線で続けられるのは、ほんの一握りの者だけ。

 サクッと稼いで、サクッと引退――田舎で平和に暮らす。

 こういきたいね。


 今日は、皆でホテルに泊まっている。

 ここは電源が使い放題なのだ。

 買ってきたノートPCを部屋でセットアップすると、アクションカメラで撮ったデータを取り込んだ。

 しっかりと映っている。

 やっぱり魔法の光で明るいのがいいな。


 それはいいのだが、サナがいなくなったら照明はどうしたもんか。


「う~ん、そうだ!」

 カメラってのは、ひとかたまりでアイテムBOXに認識されているじゃないか。

 アクションカメラに照明をガッチリと固定したら、1つの機械と認識されないか?

 カメラ上面のアクセサリーシューにストロボをセットしたら、それはもう1つの塊なはず。

 カメラを収納したら、ストロボだけ取り残される――なんてことにはならないはず――多分。


「いや、それはあとで確かめよう」

 まずは動画だ――目先のやることをやらないと。

 撮った動画を編集して、アップロードする準備をする。

 動画をカットしたり繋ぐだけなら、フリーのソフトで十分できる。

 文字を入れてサムネイル画像を作るために、こちらもフリーのソフトをダウンロードした。


 ホテルは光ケーブルなので高速だ。

 動画の長さが一定以上だと、広告もたくさん入れられるらしいが、無理やり引き延ばすわけにもいかんし。

 とりあえず、必要な部分だけアップしよう。


 サムネイル画像は、赤とか黄色とか派手で大きな文字を入れて目立つようにする。

『恐怖! 鋭い牙! 狼戦!』『巨大な豚頭族! 迫りくる巨体!』『小型ドラゴン! 全身鱗!』『新人冒険者注意! こいつらがPKだ!』

 などなど――。


 狼戦、オーク戦、リザードマン戦、それから対人戦闘のPK戦。

 一気に4本だ。

 当然、サナの姿などは、カットしてある。


 風呂場からお湯を入れる音がしてくる。

 サナたちが、お風呂の準備を始めた。


「よし、準備完了だな――アップロード!」

 すぐに公開した。

 ダンジョンのエントランスホールの動画はアップしたが、純粋な戦闘や魔物の動画は初めてだろう。

 どのぐらいの再生数になるか、今から楽しみだ。


 それと、収益化の条件ってのはどんなもんなのだろう。

 ちょっとググってみる――総再生時間ってのは、百万以上のアクセスがあるから、余裕でクリアできる。

 あとは――動画3本か。

 それじゃ、今4本上げたから、クリアしたことにならんだろうか。


 収益ってのはどのぐらい入ってくるものなのだろうか?

 動画に含まれる広告の数でも変わってくるらしいが。

 わかりやすく、1再生0.1円だとすると100万再生で10万円か。

 まぁ、取らぬ狸の皮算用になるからやめておくか。


「ダイスケさん……お風呂のお湯が……」

「2人で先に入ってもいいよ」

「え? で、でも……」

「オッサンのあとじゃ嫌でしょ?」

「そ、そんなことはありませんけど……」

「それじゃ、ミオちゃんと先に入ってよ」

「入る~!」

 ミオがその場で服を脱いで裸になりそうなので、お姉ちゃんが慌てて脱衣場に引っ張っていった。


「はは、随分と元気になったなぁ……」


 2人が風呂に入ったあとに、俺も風呂に入った。


「ふ~!」

 湯船に浸かる――東京に来てから初めての風呂だ。

 シャワーは高いし、魔物の血まみれになったら、洗浄の魔法は必須だし。

 自分で魔法が使えるようになればいいんだが……。


 魔導師適性があるやつは、一番最初に明かりの魔法を覚えるようだが、魔法を覚えてないやつがあとで魔法に目覚めたりすることはあるのかな?

 あとで調べてみよう。


 風呂から出ると、皆で飯にする。

 ホテルなのでルームサービスだ。

 備え付けのタブレットにメニューがある。


 電話をしなくても、こいつで連絡を入れれば持ってきてくれる。

 当然プラス料金を取られるが。


「全部、俺のおごりだから、遠慮する必要はないぞ? ――と、言ってもフルコース料理を頼まれると困るが」

「そ、そんなことはしませんよ」

「はは――俺はラーメンにするかな」

 ホテルでラーメン。

 だって、メニューにあるんだから仕方ない。

 気取った料理を頼んだって、楽しめないし。


「ミオもラーメン食べたい!」

「それじゃ、私も」

 サナが小さく手を上げた。


「俺は餃子とライスも頼むが?」

「私とミオとで、餃子を1つお願いします」

「よっしゃOK! 送信!」

『ご注文は以上でよろしいですか? 他に御用はございますか?』

 タブレットで返信が来た。


「それじゃ、『子どもがいるので、小鉢を1つお願いします』」

『かしこまりました』


 30分ほど待つと、ドアがノックされて、料理がワゴンで運び込まれた。


「わ~い!」

「おまたせいたしました」

 やってきたのは、黒のパンツとベスト、白いシャツを着た女性。


「ありがとう」

「追加がありましたら、なんなりと」

 ミオ用の小鉢もちゃんと用意してもらえた。


「わかりました。これって、食べ終わったらどうすれば――」

「ワゴンごと、外に出していただければ」

「わかりました」


 丸いテーブルについて、3人でラーメンを啜る。

 ちょっと高い食事だが、部屋でゆっくり食えるのはいい。


「はぐはぐ……」

 ミオが美味しそうに餃子を頬張っている。

 俺も麺を啜る。

 中々美味い――というか、高い料金取ってまずかったら、誰も注文しなくなるからな。


「美味しい……」

 サナも美味いようだ。

 よかった。


「さすがに、ここの料理は俺のカレーより美味いだろ」

「ダイスケのカレーも美味しいよ!」

 ミオの言葉に、思わず目頭が熱くなってしまった。

 やめてくれ――その攻撃はオッサンの俺に効く。


 3人で楽しく食事をしたあとは、自由時間だ。

 ミオはベッドの上で飛び跳ねている。

 ここならどんなに暴れても平気だろう。

 まぁ、ものには限度があるが。


「そうだ――さっき、アップロードした動画を観てみるか……」

 アクセス数はどんなもんだろう。


 マイページを開くとアクセス数が出ている。


「え? 10万――もうか? 公開してから、2時間ぐらいしかたってないぞ?」

 4つ公開したから、これだけで40万アクセスだ。

 当然、コメントが多くつけられている。


 相変わらず、フェイクとかCGとかいう書き込みも多い。

 なんでそんな手間をかけるんだよ。

 まぁ、これだけアクセス数があるなら、CGでフェイクを作ろうとするやつもいるだろうな。

 実際に、そういう配信者も多かったに違いない。


 俺もダンジョン内の動画は、みんなフェイクだという認識があったからな。

 そこに本物がやってきたら、そりゃパニックにもなる。


『これって、エントランスホールから察するに東京湾の特区だろ? 内部の構造的にも間違いないぞ』

 どうやら同業者も観ているらしい。


『PKってマジでいるのか?』

『いるいる。殺しはしないが、カツアゲとか』

『こいつはガチで殺しにきているな』

 ただ、俺の動画はモロ顔出ししてしまっているので、それに対する批判の声も多い。

 動画サイト的にもプライバシーポリシーに引っかかるとして、公開停止になるかもしれない。

 そうなったら、モザイクをかけてから上げ直せばいいし。


『PKなんて晒されて当然やろ?』

 ――みたいな声も多い。


 特区はたしかに治外法権の租界なのだが、国家を支える工場であり冒険者が集う運命共同体でもある。

 完全に無法地帯になってしまうと、結局は冒険者全体のマイナス。

 そんなことになれば、こいつを国家事業として推進している、国も介入してくるだろう。


 稼げるなら、好きにさせてやるけど――という感じだ。

 現在は、ギルド間の抑止力が働いているが、それでもルール違反は多い。

 俺の映像が、ダンジョン内の治安を改善する楔になるかもしれない。


 ミオがベッドでのトランポリンジャンプに飽きたら、今度はネットを観ている。

 ここなら観たい放題だしな。

 彼女のネット鑑賞は、寝る直前まで続いた。

 ミオは夜更かししたいようだが、明日も学校があるしな。


 ――ホテルに泊まった次の日。

 起きて早々、動画をチェックする。

 一晩で4つとも、100万以上アクセスされていた。

 幸い、PKの動画も今のところは公開停止にはなっていないようだ。


「やった! 確実にバズっているぞ」

「本物のダンジョン内の動画なんて初めてですからね」

 サナもノートPCの画面を覗き込むが、アクセスの多さに驚いているようだ。


「これで稼げるだけ稼いで、目指せ早期引退! ははは」

「……」

 彼女がなにか考えごとをしている。

 俺がいなくなったあとのことが心配なのかもしれない。

 それも理解できるが、俺もいつまでもつき合うわけにもいかない。

 オッサンの俺が、こんな商売をいつまでもできるわけじゃないからな。

 俺には試される大地の故郷や実家もあるし。


 コメント欄は、どうやって動画を撮影したか? という話題でもちきりのようだ。

 フェイクやらCGって多いコメも、ダンジョン内では動画撮影が困難――というところからきているし。


 これを成功させるためには、まずはアイテムBOXというレアな能力をゲットしないと始まらない。

 そして、バグを見つけて使いこなすことができるか? という、複数要因が絡み合っているからな。

 俺の場合も、バグを見つけたのは偶然だったし。


「お?」

 管理ページにアクセスすると、収益化のお知らせが来ていた――早いな。

 一応、昨日の時点で要件は満たしていたと思っていたけど……。


 まぁ、かなり一気にアクセスと登録者数が激増したからな。

 動画サイトの会社の目に止まったんだろう。


 追加で、このサイトでの独自配信だと、収益にちょっと色をつけてくれるらしい。

 なん箇所もアップロードするのは面倒だし、ここ以外に載せるつもりがないからいいけど。

 独自配信を選択した。


「うわ」

 なんかお問い合わせメッセージがたくさん来ている。

 ほとんどが配信者だ。


「ウチとコラボしませんか?」「ウチは登録者数◯◯万ですよ~」

 みたいなメッセージがたくさん。

 そんな面倒なのはどうでもいいよ。

 小銭稼ぐぐらいにバズってもらえれば、トップ取ろうなんて思ってもないし。

 これで食っていくつもりはないんで。


 それに、どうやって撮影しているのか、知られたくないしな。

 必然的にアイテムBOXのこともバレるし。

 こいつらも、それが目当てなんだろ?


 サイトをチェックしたあとは、アクションカメラの録画スイッチを入れて、アイテムBOXに収納した。

 これでまたダンジョン内で取り出せば撮影ができる。

 事前のこの儀式を忘れると、一旦外に出ないと駄目になるからな。


 動画のあとは、ホテルのコンセントから充電していたバッテリーをチェック。

 全部満タンになっていた。

 これで、しばらくは電気に困らない。

 バッテリーが空になったら、またここに来ればいい。

 俺は満タンになったバッテリーをアイテムBOXに収納した。


 朝食は、ホテルのバイキングを食べて満腹。

 姉妹も、「美味しい!」と言って、色々と食べていた。

 ミオは授業中にお腹が痛くなったりしないだろうな。


 俺は小学生時代を思い出していた。

 なぜか、授業の途中で腹が痛くなるんだよなぁ。

 便所に行けば――と思うのだが、学校でクソなんかしたら、ウンコマンとかいうあだ名になってしまうこと請け合い。

 なんとか耐えた。


 俺のガキのころはともかく、贅沢をしたホテルをチェックアウトした。


「行ってきます~!」

 ミオが俺がくれてやったバックパックを背負って小学校に向かう。


「「行ってらっしゃい~」」

「帰りは、あのオバちゃんがいる宿屋だぞ?」

「うん!」

 彼女が手を振った。


 こうしてみると、学校に向かう小学生が多いのに気がつく。

 人口が減ったし、半導体が使えなくなった今は、とりあえずのマンパワーが必要になり、出生率も上がっているらしい。


「さて、サナはどうする? 俺はもうちょっと深い所まで潜りたいんだが……」

「……一緒に行っちゃだめですか?」

「そりゃ、いいけど――深い所は、さらに魔物も強力になるし、危険が危なくなっても(誤用)君を守れないかもしれないんだが……」

「構いません」

「大人としては、若い子がこういうことをするのを止めないと駄目なんだろうけどなぁ」

「自分で選んだことですから」

「まぁ確かに、レベルは一気に上げることができるとは思うが……」

 彼女がホテルでなにか考えごとをしていたが、こういうことを考えていたのだろうか。

 駄目なら引き返して、ソロでまた潜ればいい。


 サナもやる気なので、仕方ない。

 それでも、超怖い思いなどしたら、「やっぱり辞めます……」と、なるかもしれないし。

 理想と現実は違うってのは、世の中じゃよくあること。

 蹉跌も人生の一部ってやつよ。


 2人でダンジョンにやって来た。

 いつものように、入り口付近にはたくさんの人々がいる。


「おっ? メイスが売っているぞ」

 並んでいる露店に、武器が並んでいる。


「全部、ダンジョンから出た武器だよ」

 つなぎを着て、頭にはちまきをしているオッサンが教えてくれたので、俺はその中から1振りを手に取った。

 金属の棒の先に、突起のついた塊がついている。


「サナ、ちょっと振ってみろ」

「はい――えい!」

「大丈夫そうだな。こいつをくれ」

「毎度~!」

 1振り5万円だった。

 高いのか安いのか解らんが、特注でこんな武器を作ったらこのぐらいするんじゃなかろうか。

 大量生産すれば安くなるだろうが、今はそんなものを作るなら食糧やら電子機器を作るし。

 そんなわけで、武器はダンジョンから出てくるので、現地調達している連中が多い。


 見てくれは普通のメイスっぽいが、なんらかの特殊効果がついているかもしれない。

 現時点で鑑定できる人間がいないので、実際に使ってみないことには解らんが。

 使ってみて、「こういう特殊効果があるよ」と、解れば、売却するときにかなり高くなる可能性がある。


「それは、君が使ってくれ」

「え? だって、こんな高いもの……いただいた短剣もありますし」

「短剣は止め用だし。リーチがある武器を持っていたほうがいい。大物を倒せばすぐにペイできるし」

「はい、ありがとうございます」

 無理をして怪我でもしたら、余計な金がかかるからな。

 装備は揃えるに越したことはない――と、いいつつ、俺はほぼ丸腰でダンジョンに入ってしまったし。


 武器を揃えた俺たちは、ダンジョンの中に入った。

 相変わらず、エントランスホールにはたくさんの冒険者。

 自転車を押している人もたくさんいるな。

 やっぱり、移動で時間を取られるのが嫌なんだろうなぁ。

 鉄道は金がかかるし。


 ゲームみたいな帰還の魔法があればいいのだが、現時点そのような魔法は確認されていないっぽい。


 暗闇の中で自転車を出すと、サナのメイスはアイテムBOXに収納――2人乗りで深部を目指す。

 2層に下りると早速、狼に絡まれた。

 こういうのがあるから最初から大物狙いの冒険者は、列車に乗るんだろうな。

 あれに乗れば、ザコ敵とエンカウントしないで済む。


 線路上に魔物が出てきても、跳ね飛ばせばいいし。

 質量こそ正義。

 ならば、ずっと下層にも鉄道を敷けばいいのにと思うのだが、そうもいかない。

 深淵になると魔物もデカく強力になる――そうなると、列車もタダでは済まない。

 敷設にも危険が伴うしな。

 ――というわけで、鉄道もエレベーターも、4層で止まっているわけだ。

 やっぱりあそこらへんが、コスパがいいんだろうなぁ。


 使わないゴミを放置するとダンジョンに吸収されるのだが、人が使っているものは大丈夫らしい。

 鉄道やエレベーターなども、それで吸収されずに済んでいるようだ。

 もちろん、キャンプの設備などや、天井を這っている光ファイバーなどもそうだな。

 よくわからんダンジョンのシステムだが、そういう仕様なので仕方ない。


 俺たちを追い回す赤い目が増えてくる。


「こりゃイカン」

 魔物を引き連れて走り回ると、他の冒険者を巻き込む可能性が出てくる。

 トレインやら、なすりつけという、嫌われている行為だ。


 2人で自転車を下りると、近くにいる狼を蹴り飛ばした。


「ギャイン!」

「サナ、明かりを」

「はい――光よ!(ライト)

 俺はアイテムBOXを使ったカメラの準備をした。

 同時にメイスを出して、彼女に渡す。

 ザコ敵の動画じゃ面白くないかもしれないが、こういうのは毎日上げるから、暇つぶしに観てくれる固定客も増える。


「サナは、魔法を節約してくれよ」

「はい! えい!」

「ギャン!」

 彼女が狼の頭を叩いた。

 彼女もレベルが上がっているから、結構戦えている。


「オラァ!」

 狼戦なんて、すでにツマラン。

 すぐにぶっ飛ばして、止めはサナに刺させる。

 戦闘は終了してしまったので、誰かに横取りされる前に辺りを確認してからアイテムBOXに収納した。


「あ、またレベルが上がりました!」

 コレでレベル10か。

 2層はレベル12ぐらいあれば戦えるみたいだから、それに見合うレベルになっているってわけだな。

 まぁ、俺たちは、さらに下層を目指そうとしているわけだが。


「ふう……さて、さっさと離れないと、また湧いちゃうぞ」

「はい!」

 カメラを収納しようとしたら、妙な音が聞こえてきた。

 唸り声と、なにかを引きずるような音だ。


「グゥぅぅ……」

 俺たちの眼の前に現れたのは、冒険者の格好をしている奇妙な人型だった。

 黒っぽい防具を着ており、目は白目を剥いていて、口は開けっ放し。

 ズルズルと引きずるような歩調。


 昔の映画で観たゾンビみたいな――。


「あ! ダイスケさん! グールです!」

「グール? これがか?」

 思わず鼻をつまみたくなるような腐臭が漂ってくる。


「はい」

「ゾンビじゃないのか?」

「ゾンビって言う人もいますね。グールに襲われると、グールになっちゃうみたいですよ」

 サナもくさいのか、口元を覆っている。


「ええ?! それじゃこいつも……」

 冒険者の格好をしているんじゃなくて、元冒険者ってことか?

 それは解ったが――こいつの格好は見覚えがあるような……。


「ダイスケさん! この人は昨日、私たちを襲った人のような」

「ああ! あいつか?!」

 サナの言葉に、俺も目の前にいるグールの正体が解った。

 どこぞのギルドをクビになったとか逆恨みをして、俺たちをPKしようとしていた冒険者だ。


「多分、そうですよ!」

「それは解ったが――こいつは元冒険者だし、やってもいいのか?」

「でも、もうグールなので、魔物ですけど……」

「そうなんだよなぁ……」

 元人間なんだが、これは問題じゃないのか?

 ――そう思うのだが、彼女の言ったとおり、すでに相手は魔物と化している。

 一旦、外に出てから、ググって前例を調べたいところだが……。


 そんなことをしている場合ではない。

 もとより、このダンジョンの中は無法地帯。

 グールになるやつのほうが悪いのだ。


 グールに襲われると、グールになるってことは――あいつは俺の攻撃を受けてフラフラになった所をグールに襲われでもしたのか。

 それにしても――昨日襲われたとして、今日にはこんなになるのか?

 それがダンジョンだと言われれば、そのとおりなんだが……。


 いや――モタモタしていたら、俺たちもミイラ取りがミイラになってしまう。

 幸い相手の動きは遅い。

 こんなのをサナにやらせるわけにはイカンし、俺がやるしかない。

 一旦距離を取ると、アイテムBOXから投石器を取り出した。


「オラァァァ!」

 ぐるぐると振り回した投石器から放たれた大きめの石が、グールの頭を吹き飛ばした。

 飛び散る腐った脳みそ。

 明かりがないと、俺の目には白黒にしか見えないのだが、今は魔法で照らされている。

 ドロドロな赤いものが飛び散った。


 うわぁ! スプラッタ。

 動画的には、グロはどうだろう?


 こんなのアップロードしたら、公開停止になりそうな……。

 相手はすでに魔物だから、いいのか?



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