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15話 ホテルへ


 ダンジョン内の撮影に成功した。

 先行投資としてノートPCを購入、本格的にダンジョンの映像を公開して収益化を目指す。

 動画で金を稼ぐことができれば、魔物と戦闘するという危険な行為をしなくても済む。

 鼻くそみたいな魔石をチマチマと集めて、いくら――みたいなことをいつまでもやってられん。


 俺は、FIRE(早期リタイア)のための金が欲しいだけだからな。

 別にレアな魔物を倒して有名になりたいとかヒーローになりたいとか、そんなことは考えてない。


 動画編集のために電気を自由に使えるホテルに泊まることにする。

 その前に時間が少々あるので、サナと一緒にダンジョンに潜り、獲物を仕留めることに成功した。


 その獲物の一体、リザードマンを背負ってキャンプ地を訪れた。

 なぜか、リザードマンの上にはハーピーが乗っている。

 このハーピーは、俺が以前捕まえた個体らしいが、おそらく逃げ出してここに舞い戻ってきたのだろう。


 キャンプには、煌々(こうこう)と光ファイバーの明かりが灯り、一大拠点となっている。

 どうやら、水道なども敷かれているようだ。

 もはやダンジョンは国家事業だからな。

 国家予算が注ぎ込まれて、巨大な物資の生産工場と化している。

 ダンジョンに潜る冒険者は、外注業者ってわけだ。


 わけわからん異空間から、効率よく物資を生産するためには、インフラの整備も必要。

 先進国以外では少々つらいだろうし、世界的な惨事から復興しているのは日本とアメリカぐらいだ。


「お~い、誰かリザードマンを買わないか~!」

「買う買う! ウチに買わせてくれ!」

 ゴム製らしい繋ぎを着てゴム長靴を履いた、髭面の業者が飛んできた。


「ちょっと魔法で肩口が吹っ飛んでいるけど……」

「大丈夫だ! まだ温かいな?」

「さっきやったばっかりだ。魔石も取り出してない」

「よっしゃ、魔石込みで70万でどうだ」

 え? そんなにするのか?


「よく知らないんだけど、そんなに高いものなのか?」

「ああ、肉は鶏肉みたいで美味いぞ。それにこいつは革が高級品だ」

 彼の話を聞く――以前に聞いたとおり富裕層の間で魔物の革製品やら毛皮が流行っているらしい。

 昔は金持ちというと毛皮みたいなイメージだったが、動物愛護やらなんやらでリアルファーなんてものは下火になってしまった。

 そこで魔物の革や毛皮だ。

 相手が魔物なら動物愛護云々なんて言いだすやつらはいない―― 一応な。

 まぁ、「魔物と共存共栄を!」なんて言っている宗教団体があったりするのだが、世間からの評価は異端だ。


「ワニ革みたいなもんか? リザードマンのレザーアーマーもあるって聞くけど」

「おお、軽くて丈夫だぞ。値は張るけどな」

「そいつは欲しいかも……」

 彼がリザードマンのかばねを確認している。


「腹とか背中の革が高いからな。肩口はさほど、問題にならん」

「それじゃ、狼の毛皮も売れるか?」

「おお、買うぞ! 1匹5万円ぐらいだな……」

 それなら、狼を1日に1匹でも仕留めれば、冒険者としての生活はなんとかなるのか。

 魔石だけで商売になるのかと思っていたら、意外と副収入がデカいんだな。


「それじゃ、その金額でいいよ――そっちの子と金額半々で」

「承知した」

 俺の冒険者カードを渡すと、男がなにか機械を用意し始めた。


「ここじゃカードが使えないはずだが、どうやって支払いするんだ?」

「待ってろ、今作るから」

「作る?」

 男がダイヤルとスイッチをいくつか押して――ガッチャン。


「ほい、これを地上の換金所に持っていけば換金してくれる」

 彼が手渡してきたのは、紙に穴が開いた2次元バーコードが並ぶカード。

 ガッチャンしてたのは機械式のアナログコンピュータと、パンチカードシステムらしい。

 電気が使えないから、そりゃ機械式しかないわけだが……。


 それはさておき、サナに金額を提示した。

 2人で35万円ずつ、山分けだ。


「えええっ?! そ、そんなにもらいすぎですよ!」

「これは、君が仕留めたみたいなものだし」

「ギャ!」

 リザードマンの上にいた、ハーピーが叫び声を上げた。


「おいおい、生きたハーピーもいるのか?」

 業者の目が輝いた。

 まぁ、こいつを買ってもらって、また逃げて戻ってくれば永久機関が可能だが。

 逃走が成功したのも、たまたまだろうし。


「いや、こいつは違うんだ。おい! そんな所にいると、食われちまうぞ!」

「ギャー!」

 彼女が暗闇の中に飛び立った。


「こいつはたまげたな……懐いているのか?」

「どうやらそうらしい」

「いったいどうやって……」

「よく解らん」

 生け捕りしたせいか。

 それとも飯を食わせたせいか。


「ハーピーも高く売れるから、捕まえたら卸してくれよな、ガハハ!」

「オークはどのぐらいになるんだ?」

「一体80万円ぐらいだな。オークは肉が高級品だからな。デカいのなら、100万円ぐらいになるときもある」

「へぇ~」

「オークの革も高いぞ」

 話には聞いていたが、普通の豚よりしなやかで丈夫らしい。

 高級品だから、地元のホムセンなどには売ってなかったが。

 特区内で売ってないだろうか。


 海峡のトンネルがダンジョン化しているから、地元にもそういうのが出回ってもおかしくないんだがなぁ。

 まぁ、あそこは地方だから整備が進んでないって話もあったし。

 普段の生活で、オークの革手袋――なんて必要ないし。

 普通の豚牛の革で十分だ。


 魔物製の防具にも憧れるが、俺が使っている特殊繊維とカーボンの防具も十分に軽くて丈夫だ。

 ただ、魔法の防御は魔物の革のほうが有利らしい。

 俺たちが使っている普通の材料に魔法の耐性なんてあるはずがないし。


「そういえば――」

 サナの魔法で、リザードマンがあんなことになったが、魔法の耐性があったゆえ、あのぐらいで済んだ――とも考えられるな。

 他の魔物なら、もっと盛大に吹き飛んでいたのかもしれん。

 そうなると、売り物にならなくなってしまうなぁ。


 駆除じゃなくて、狩らないと駄目だし。

 そこらへんが難しいな。

 まぁ、ピンチになったら、そんなことも言ってられないのだが。


「……」

 大金の分前をもらった彼女は、まだ後ろめたい気持ちがあるようだ。

 前にも言ったが、これには口止め料も含まれているんだがな。


「サナ、洗浄の魔法はいけそうか?」

「は、はい、大丈夫だと思います――洗浄クリーン!」

 魔法の青い光が舞って俺の身体に染み込むと、血糊がカピカピになって服や肌から剥がれて下に落ちていく。


「やっぱり、こいつは便利だなぁ」

「お風呂とかシャワーがいらないですよね」

「でも、風呂には入りたいだろ?」

「そうですね~うふふ」

 俺の言葉に彼女が笑っている。

 ちょっと余裕ができてきたようだ。


「ギッ! ギッ!」

 暗闇から、ハーピーらしき鳴き声が聞こえる。

 その声に反応しているのか、冒険者が警戒しているらしい。

 俺たちはキャンプ地から離れると暗闇に飛び込み、アイテムBOXから自転車を出した。


「お~い! ハーピー! 他の冒険者に捕まるなよ!」

 俺は後ろにサナを乗せると、ダンジョンの暗闇を走り始めた。


「真っ暗で全然見えません~!」

「俺は見えているから心配いらないよ」

「ギ~ッ!」

 なんかハーピーの声が聞こえる。

 彼女だろうか、それとも別のハーピーだろうか?

 別個体だとすると、敵なんだが……。


 耳の性能もアップしているので、聞き分けができているはずだが……。

 いや、他の個体とエンカウントしてないから、絶対に彼女とは言い切れないのだが。


 一旦、自転車を停止させてみると、近くにバサバサと降りた音がする。


「ギッ!」

 やっぱり、彼女のようだ。


「おいおい、ついてくる気かよ」

「あのハーピーですか?」

「そうみたいだな」

「随分、モテモテですね」

「ははは、魔物にモテてもなぁ……モテるなら、ボン・キュッ・ボンのお姉様にお願いしたいところだよ」

「わ、私だって、ちょっと自信はあるんですけどっ!」

 そう言うと、サナが俺に抱きついてきた。


「君だと、少々マズイことになるんだけど……」

 一応、成人しているってことになっているのだが、世間の目があるからなぁ。


「私がよければいいと思いますけど……」

「いやぁ……そういうのは世間がゆるしてくれないのよ、ははは」

 まぁ、手を出すつもりはまったくないけどな。


 ハーピーの正体が解ったので、俺たちは安心して自転車で疾走を始めた。

 途中で、魔物にエンカウントしたりしたのだが、戦うつもりもないので全速で逃げる。


「ガゥゥ!」

 途中で、しつこい狼に絡まれる。

 こいつらは、スピードもスタミナもあるから振り切れん。

 下がアスファルト舗装なら、フルスピードも可能かもしれんが、ダンジョンの中じゃ魔物に分がある。


 俺はアイテムBOXから鉄筋メイスを取り出すと、走りながら横の狼を一閃した。


「ギャイン!」

 相手が怯んだので、自転車を止める。

 サナが飛び降りたので、俺も自転車をその場に放り投げた。


「オラァ! しつけぇんだよ!」

「ギャン!」「ギャイン!」

 3匹ほど倒すと、他は逃げていった。


「ほい、止めを刺して」

「は、はい!」

 サナが狼に止めを刺すと、またレベルアップしたようだ。

 これでレベル9だな。

 このぐらいあれば、1~2階層なら、やっていけるだろう。

 魔法も覚えたみたいだしな。


 3匹をアイテムBOXに入れた。

 いい加減、まとめて換金したいなぁ。

 金を稼いだあと、引退するときにアイテムBOXを公表して、全部一気に換金すればいいか。

 それなら後腐れないぞ。


「よし、モタモタしていると、また敵に遭うから」

「はい!」

 彼女もダンジョンの中に慣れてきたようだ。

 レベルが上がったのもあるだろう。

 やっぱり、ある種の無敵感みたいなものがあるし。


 そういうのがあるから、勘違いする連中も出るんだよな。

 まるで超人やら、神から選ばれし者――みたいなことを言いだす。


 1層に戻ると、適当な所で自転車を降りてアイテムBOXに収納した。

 確認したが、ハーピーはついてきてないようだ。

 さすがに理解したか。

 自転車の代りに狼を3匹収納から出した。


 毛布で簀巻きにすると担ぐ。


 そのままダンジョンの外に出ると、狼を換金。

 1匹5万5000円で、3匹で16万5000円。

 サナと山分けにした。


 次に、ダンジョンの中でもらった紙のバーコードカードを換金してもらうために換金場所にむかう。

 スマホでググって場所を探すと、建物の1階フロアにあるらしい。

 周りのバラックとは違い、役所の管轄らしき建物だ。

 広いフロアに自動払い戻し機らしきものがズラリと並んでいる。


 その1台に張り付くと、紙のカードを入れた。


『代金が振り込まれました』

 ――というアナウンスが流れると、俺のスマホに入金されていた。


「なるほど、こういうシステムかぁ」

 ちょっと面倒だが、ダンジョンじゃ電気が使えないから仕方ないな。

 でも、金額を間違ったりしても、クレームが入れられない。

 そこら辺は大丈夫なんだろうか。

 ちょいと心配しつつ、換金場所から出た。


 さて、これからどうしたもんか。

 彼女は、1~2層で無難に稼げるようになるだろう。

 俺はもっと下層の動画を撮りたいのだが、彼女をそこまで同行させるわけにはいかない。

 危険が増すと、彼女を守れなくなるからな。


 汚れた毛布に洗浄クリーンの魔法をかけてもらう。

 やっぱり便利だ。


 昼飯を食ってないので、途中の店でケバブを買った。

 多分魔物の肉なんだろうけど、それにもすっかりと慣れてしまったな。

 まぁ、思ったより普通の肉の味だし、クセもなく美味い。


「さて稼いだし、帰るか。ミオちゃんが帰ってくるぞ」

「はい!」

 外はすでに昼を回っていた。

 今日は、ホテルに泊まるつもりだからな。

 宿のオバちゃんは嫌な顔をするかもしれないが、仕方ない。

 あそこじゃ、動画の編集ができないからな。


 宿に到着した。


「申し訳ない、今日は違う所に泊まることになった」

「おや、そうかい」

「明日には戻ってくるから、金は払うよ。他のやつには貸さないでくれよな」

「解ったよ。あんたにも色々と事情があるんだろうからさ」

 察してくれたようだ。

 まぁ、駄目だと言われたら仕方ない――他の宿を探すだけだし。


「……」

 オバちゃんが、俺を見ている。


「どうしたい? 商売敵に客を取られるのは嫌かもしれないが」

「違うよ」

「それじゃ――」

「いやなに――泊まりにきた若いやつがパタリといなくなることが多々あるからさ」

「金を儲けたのか、それともダンジョンで仏様になったのか」

「あんたは、しょぼいオッサンかと思ったら、意外とやるんだねぇ」

「ダイスケさんはすごく強いんですよ! 4層のオークも一撃でした!」

「え?! そんな所まで、この子を連れていったのかい?!」

「まぁ、レベル上げのためだからな。ちゃんと注意はしたぞ」

「それにしたって……」

「一度レベルを上げておけば、低階層でも簡単に稼げるし」

「……」

 なにやら、オバちゃんは不満があるようだが、彼女は俺のレベルのことを知らないからな。


「まぁ、大丈夫さ」

 カウンターをあとにした。


 部屋に戻ると、遅い昼食にする。

 買ってきたケバブを食べてみたが、スパイシーで中々美味い。

 最初は魔物の肉なんておっかなびっくりだが、普通に食えるよな。


「美味いな」

「はい」

 一応、ミオの分も買ってきてあるから、そのうち食べさせてあげよう。

 今日はホテルに泊まるから、ルームサービスを取るつもり。

 多分、めちゃ高いだろうけどな。

 仕方ない。


 飯を食いながら、アップした動画をチェックする。

 アクセス数は順調に増えているようだ。

 もっと、ダンジョンの中の動画を希望する声が多い。

 やっぱり、中がどうなっているのか興味があるのだろう。


 期待の声が多い反面――「作りもの」「インチキ」「CG」など、否定的なコメントも多い。

 文句があるなら、観なけりゃ良いのに――と、思うのだが、とりあえず称賛よりネガティブなコメを書き込むのが普通だし。

 まぁ、気にすることはない。

 マイナスにバズっても、俺に金が入ってくるわけだし。


 動画を観ていると、ミオが帰ってきた。


「ミオちゃん、おかえり~」

「ただいま~」

「学校はどうだった?」

「……楽しかった」

「お友だちできた?」

「……うん」

 大人しそうだが、意外と社交性がありそうだ。

 まぁ、お姉ちゃんも内向的な感じでもないし。

 そりゃ内向的な子が、冒険者やったりしないか。

 一見静かでも、内なる炎が燃えているのかもしれん。


「給食は食べた?」

「ダイスケのカレーのほうが美味しかった」

「ははは、ありがとう」

 妹ちゃんが帰ってきたので、出かける準備をする。

 まずはホテルを予約しなければ。


 値段はやっぱり羽田のほうが安いようだが、3人分の船代がかかるしなぁ。

 それに、特区のホテルは冒険者割引があるようだ。

 それなら特区のホテルのほうがいいかな。


「ミオちゃん、今日はちょっといいホテルに泊まるぞ」

「ホテル? ここと違うの?」

「ふかふかのベッドとお風呂がある」

「やった!」

「お姉ちゃんが、洗浄クリーンの魔法を覚えたから、シャワーを浴びなくても済むようになりそうだけどな」

「う~ん?」

 彼女はよく解っていないようだ。

 とりあえず予約は入れたから、エアマットや漫画などを片付けて出かける。


 荷物をアイテムBOXに詰め込むと、部屋を出た。


「ほんじゃ、明日また」

 オバちゃんに挨拶をする。


「楽しんでおいで」

「バイバイ~」

 ミオが嬉しそうに手を振っている。

 オバちゃんにしてみれば、ちょっと複雑な心情かもしれない。

 子どもが喜んでいるのに、嫌な顔をするわけにもいかないだろうし。


 3人で外に出た。


「ダイスケ、どこに行くの?」

 ミオは行き先を知らないからな。


「このマップによれば、向こうの通りまで行けば大きなビルが見えるはずだが……」

 皆で歩いていくと、30階建てぐらいの建物が見えてきた。

 周りのバラック九龍城砦とは、えらい違いだ。


 こんな埋め立て地に、あんなデカいの建てて平気なんだろうか。

 ネットによると、ダンジョンのトップランカーの1人、ビキニ鎧の姫様の実家が営んでいるらしい。

 お嬢様だとは書いてあったが、本当なんだろうなぁ。


 こんな太い実家を持っているのに、冒険者をやっているなんて、金目的じゃないに違いない。

 未知の空間にスピリチュアルを感じているとか、自分の限界を見てみたいとか、セカイの真実を求めるとか、意識高い系の予感がする。


 ビルに到着した。

 数段の階段の上に、デカい全面ガラスと鉄枠で囲われた回転ドアの玄関がある。


「ミオちゃんはお姉ちゃんと一緒にな」

「うん」

 センサーがあって、自動で回転するタイプだが、子ども1人だと危ないかもしれん。

 実際に事故って怪我をしたみたいなニュースの記憶がある。


 床が大理石のエントランスホールを進んでフロントにやって来た。

 全部がキラキラで、雑多な特区とは大違いだ。


「わぁ~」

 ミオが天井のシャンデリアを見上げて目をキラキラさせている。


「あ、あの! ダイスケさん! すごく高そうなんですけど!」

「まぁ、実際に特区じゃ一番高いらしいけど」

「……」

「心配するなって。料金は俺持ちだし」

 一泊の料金は3人で10万円ほど。

 1人のシングルなら5万円だが、予約したのはツインルーム。

 こんな所に毎日泊まるのは無理だが、今日は電気の確保のためもあるからな。


「予約を入れた、丹羽だけど……」

 背広を着たホテルマンに、予約をしたスマホを見せる。

 バーコードを読んでもらうと、手続き完了だ。


「ツインルームですね」

「はい」

 鍵をもらうと、エレベーターに乗って部屋に向かった。

 鍵は非接触型なので、持っているだけで開くタイプだ。


 エレベーターから下りると、赤い絨毯の通路を歩く――目当ての部屋までやってきた。


「ここだ」

 ドアの前に立つと鍵が開いた音がした。

 ノブを回して部屋の中に入る。

 ツインルームなので、中には大きなベッドが2つ。

 丸いテーブルもある。

 白い壁紙と明るい照明、清潔感溢れる部屋は、あの4面モルタル壁の部屋とは大違い。

 机と椅子もあるし、編集作業もできるな。


「わ~!」

「綺麗ですね~」

 姉妹が部屋を見回している。

 まぁ、あの部屋に比べたらな。


「ミオちゃん、どっちのベッドにする?」

「う~ん……こっち!」

 彼女は窓側のベッドを指した。


「それじゃ、ミオちゃんはお姉ちゃんと一緒にそのベッドね」

「うん!」

 窓から外を見る――ダンジョンの小山と、黒く口を開けたダンジョンの入り口。

 その前に集まる、冒険者と業者の人集り。

 こうしてみると、ダンジョンの前がどうなっているのかが、よく解る。


「おお~っ! ダンジョンの前が丸見えだ」

「本当ですね~。こんな感じになってたんですね」

「ドローンが買えれば、空撮もできるな」

「あ! ドローンは多分、飛行禁止区域になってますよ」

「え?! 本当」

 ググるとマジらしい。


「そうかぁ。OKならとっくにやっているやつがいそうだしなぁ」

 まぁ、半導体不足のおり、ドローンなんて今はめちゃ高いから、簡単には手に入らないだろうけどな。


「ミオも見る!」

 椅子を持ってきて、靴を脱いだ彼女を乗せた。


「ほら」

「すごい~! 人がたくさんいる」

「あそこの黒い穴の中に、お姉ちゃんと俺が入っているんだよ」

「怖いモンスターも、たくさんいる?」

「いるねぇ、はは」

「向こうに、ミオの学校が見える!」

 彼女が右手を指した。

 かなり横を見ないとだめだが、学校の校舎らしきものが見える。


「学校には、なん人ぐらい通ってるの?」

「う~ん、わかんない……」

「まぁ、そうだよなぁ」

 普通は解らんか。

 ちょっとググってみると250人ぐらいらしい。

 40人×6クラスって感じか。

 今は小分けにしているから、20×12クラスかもしれんな。


「ミオちゃん、クラスになん人ぐらいいるの?」

「う~ん? 20人ぐらい?」

 やっぱりそうか。

 子ども連れでダンジョンに潜っている人ばかりかと思っていたが、ここで商売している人もいるからな。

 検索すると、2校あるらしい。

 中学はないので、羽田に通いになるみたいだな。


 まぁ、中学ぐらいになれば、通学に危険などはないだろうし。

 租界のような特区だが、子どもに危害を加えるようなやつは盛大なリンチを食らうらしい。

 ダンジョンの中に子どもがいるが、そういうのも関係しているのだろう。


「さて、色々とセットアップしないとな」

「ダイスケはなにをするの?」

「お仕事で~す! お姉ちゃんと一緒にお風呂にでも入ったら?」

「お風呂?!」

 女の子の目が輝く。

 開けていなかった部屋に飛び込んで風呂を確認している。


 風呂はサナに任せればいいだろう。

 俺にはやることがあるし。


 アイテムBOXから、バッテリーと充電器を取り出すと、コンセントに繋ぐ――3台同時だ。

 朝までやってれば満タンになるだろう。

 邪魔になるので、机の下に入れた。


 ついでにノートPCも取り出して、セッティングを行う。

 バッテリー残量を確認――こちらは満タンだが、コンセントがあるのでAC電源を使う。

 壁にLAN端子もあるので、ノートPCを繋ぐ。

 これで光ケーブルが使えるようになったはず。

 一応、ネットの速度測定をしてみるが、十分なスピードが出ている。


「よし! 使えるようだな」

 外付けのHDDも繋いで準備万端だ。

 俺はアイテムBOXから、アクションカメラを取り出す。

 そこからHDDユニットを取り外してPCに繋いだ。

 すぐに認識したので、中身をPCにコピー。


「中身を確認っと――お! しっかりと映ってる!」

 俺がリザードマンと戦っている映像だ。


 魔物の映像も重要だが、今回は実在のPKの襲撃も映っているからな。

 こういう奴らがいるよと――新人冒険者への警告にもなるだろう。

 まぁ、ベテランは知っていると思うのだが。



 

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