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14話 リザードマンとオーク


 特区で知り合った女の子と一緒にレベル上げだ。

 もちろんタダではない。

 彼女は魔法の明かりを出せるので、そいつを使ってダンジョン内の撮影をするわけだ。


 上手く動画が撮れれば収益化できるし、危ないことをしなくても金が稼げる。

 動画が撮れているのか、外に出ないと解らないのがちょっともどかしいが、サナのレベル上げは上手くいっている。


 魔法も追加で2つも覚えたし。

 もしかして、魔法の才能があるのかもしれない。

 2人で喜んでいると、怪しい人影が近づいてきた。


 魔法の明かりに炙り出されたのは、黒っぽい近代的な防具一式に短い髪型――俺からポーションをカツアゲをしようとした男だった。


 明らかに敵意むき出しなので、逆恨みかなにかだろうか?

 まったくしつこいやつだ――というか、自分が悪いとは微塵も思ってないのだろう。


「なんだ、またお前か、なんの用だ? ちゃんと防具は買ったぞ? ほれ?」

「うるせぇ! てめぇのせいで、俺はギルドを追い出されたんだ!」

「おおっ! 追放ものかぁ、昔流行ったなぁ」

「うるせぇ! 舐めやがって!」

 男が剣を抜いたので、俺も砂鉄バットを構えた。


「おいおい勘弁してくれよ。サナ、ちょっと離れててくれ」

「は、はい……」

「魔物に気をつけてな」

「死ねぇ!」

 男は、本気で俺にめがけて剣を振り下ろしてきた。

 暗闇に、殺気を含んだ切っ先の白い線が見える。

 こいつを避ければいいわけだから、解りやすい。


「そっちがやる気なら、正当防衛ってことで堂々と返り討ちにできるんだけど?」

「できるものならやってみろぉ! そっちの女も、俺が可愛がってやるぜぇ、へへへ」

「本当に絵に描いたような雑魚ムーブだな。そこで剣は舐めないのか?」

「うるせぇ!」

 今度は、水平に払ってきたのだが、その軌跡も綺麗に見える。

 俺は、軽やかなステップで躱すと、男の頭を横から殴打した。

 もんどり打って敵がすっ転ぶ。

 即死はしない程度に手加減したつもりだ。


「そこらへんで止めとけ」

「て、てめぇ」

 男が立とうとするのだが、足がもつれてその場に転がった。

 なん度もすってんころりと転がる。

 明らかに脳震盪を起こしているようだ。

 やっぱり人型の生物なら、この砂鉄バットは有効な兵器といえる。

 相手を無効化するのに使えるだろうが、油断は禁物。


「ち、畜生!」

 男が剣を杖代わりにして、やっと立ち上がった。

 これでは、どうみても戦えないだろう。


「あまり動かないほうがいいぞ?」

「お、覚えてやがれぇ!」

 男がなん回も転びながら、暗闇に消えていった。

 追撃する気にもならんし、サナを1人にはできん。

 ここはダンジョンだし、どこから魔物が出てくるのか解らん。


 それに人間を切る気にはならない。

 ゴブリンやらオークは人型といっても、相手は魔物だしな。


「あんな千鳥足で魔物とエンカウントしたら、どうするんだろ……まぁ、いいか」

「だ、大丈夫ですか?!」

 俺の近くにサナがやってきた。

 心配そうな顔をしているが、女の子に心配されるとか、オッサン冥利に尽きるな。


「大丈夫、大丈夫。あんなやつには負けないよ」

「ダイスケさん、すごく強いんですね……」

「試される北の大地で、ヒグマと対決したオッサンだからな」

「ほ、本当ですか?」

「マジマジ、ははは」

 これは、本当だからな。

 まだ、アイテムBOXの中に入ったままだし。


 いい加減、アイテムBOXの中身を出したいよなぁ。

 出したらバレるしなぁ……。


 ちょいと邪魔は入ったが、サナのレベルアップもできた。

 あとは動画が上手く撮れているかどうかだな。

 これが上手くいくかいかないかで、収入が全然違う。


 やることはやったので、帰ることにした。

 自転車をアイテムBOXから出して、再び後ろにサナを乗せると、ダンジョン内を帰路についた。

 高レベルのパワーがあるので、階層間の坂道も楽勝だ。

 2人乗りもなんのその。


 自転車を漕いで、1層に戻ってきた。

 出口の近く、人のいない場所で一旦停止する。


 アイテムBOXから、狼を3匹出して毛布でぐるぐる巻きに。

 前にハーピーを巻いた布だが、すっかりその用途になってしまった。

 担いでみる――大丈夫だ。

 とりあえず、3匹ほど換金できれば稼ぎにはなるだろう。


「ここからは歩いていこう」

「はい――あの、重たくないですか?」

「大丈夫だよ」

「す、すごいですね……」

「ははは」

 エントランスホールに戻ってきた。

 ここは相変わらず人が多いが、スルーして自動改札を出ると、業者の所に向かう。


「誰か、狼を買ってくれないか~!」

 たくさんいる業者に声をかけた。


「見せてくれ」

「はいよ、倒したばかりだよ。魔石もそのままだ」

 毛布を開く。

 アイテムBOXに入ってたから、まだまだ温かい。


「1匹3万円でどうだ?」

「それでいいよ――半分は彼女のスマホに振り込んでくれ」

 3匹で9万円で、20%引かれるから7万2000円だ。


「まいど~」

「え?! 私、なにもしてないですけど……」

「そんなことないぞ。明かりの魔法も使ってくれたし。お金は必要だろ?」

「は、はい……」

 こういうのは口止め料も含まれているのだが、若い彼女は察してないのだろうか?

 直に言ったほうがいいか?

 彼女にひそひそ話をする。


「俺の秘密の口止め料も入っているんだよ」

「人には言いませんよ」

「ははは、頼むよ」

 空を見上げると日が傾き始めている。

 2人で宿に帰った。


「おかえり~」

「「ただいま~」」

「俺たち以外の客って見ないんだが、ここは流行ってないのか?」

「そんなことないよ」

 サナは他のお客に会ったことがあるらしい。


「そうか~」

 部屋に戻ると、ミオが俺の貸したゲームで遊んでいた。

 ここで、1人でいるのは退屈だろうな。

 スマホがあればいいのだが、本体が高いし、回線料も高い。

 ここじゃ電気も高いな。


「さて、腹が減ったな――俺はカレーを食うけど、君たちはどうする?」

「ミオもカレー!」

 妹ちゃんが、勢いよく手を上げた。


「私もカレーでいいです」

 サナがそっと手を上げた。


「いいけど、俺につき合ってると、芋とカレーばっかりになるぞ。ビタミンは松の葉とか」

「マツ? マツってなんですか?」

「松を見たことがないか? 木だよ、細い葉っぱがたくさん生えているだろ?」

「あ! あれですか? あの葉っぱって食べられるんですか?」

「不味いけど栄養がある。食い物がないときは、よくかじったよ」

「……」

 まぁ、あまり食いたくはないようだが、栄養失調になるよりはいい。

 どこにでも生えてるしな。


 とりあえず、カレーでいいようなので、カレーにする。


「まぁ、カレーに飽きたら、自分たちで食事を用意してくれ」

「カレーでもいいですけど……」

「はぐはぐ……」

 ミオは、黙ってカレーを食べている。

 カレーでいいなら、俺も楽なんだが。

 周りに人がいると、気を使わないと駄目なのがなぁ……。

 やっぱり独り暮らしってのは楽だよなぁ。


 飯を食い終わったので、早速アクションカメラのデータを確認する。

 中からナノHDDユニットを取り出した。

 世界が静止する前には、大容量のメモリーカードが普及していたが、半導体が貴重な今となっては少々厳しい。

 半導体を使わないHDDがまた復権している。


 アクションカメラなどは動画の容量が嵩むので、大容量のHDDが標準装備だ。

 HDDというと衝撃に弱い印象があるのだが、そこら辺は進歩している。


 カメラ付属のケーブルを使って、スマホと接続した。

 ここらへんはちょっと面倒だ。

 機器の接続は全部無線になるんじゃないかと思ったが、世界がてんてこ舞いになってしまったからなぁ。


「お?! ちゃんと映ってるぞ」

「本当ですか?!」「見せて見せて!」

 姉妹が、俺の持っているスマホを覗き込む。


「魔法の明かりだけだと暗いかなぁ――と、思ったが、意外と高感度性能がいいな」

 ちょっと画面がザラザラしている印象はあるが、許容範囲だ。

 本来なら、映らない場所が映っているのだから、画質が悪いぐらいはマイナスにはならない。

 この映像があるってだけで貴重なのだから。


「犬!」

「これは狼だよ――まぁ、犬も狼も同じだけど」

 映っているのはいいけど、カメラが外にある間は、ずっと回りっぱなしだからな。

 制御できないのが、ちょっともどかしい。


 獲物に止めを刺したりするシーンは、ミオには見せられない。


 動画を早送りしてみる。

 俺たちを襲った男のこともしっかりと映っていた。

 まさか、動画を撮られているとは思っていないだろう。

 こいつは、PKの証拠となるはず。

 まぁ、ダンジョンの中は、無法地帯なんだが……。


 それに、あいつはギルドをクビになったと言ってたからな。

 件のギルドは、知らん存ぜぬ無関係を貫くだろう。

 トカゲの尻尾切りだ。


「は~、動画がしっかりと撮れているとなると、PCがいるなぁ」

 さすがに、スマホでの編集はもう無理だ。

 持ち運びなどが可能で、しかもちょっと性能がいいノートPCがいいだろう。

 値は張るが、これは先行投資だ。


 せっかくバズって知名度が上がっているのだから、ここで金を使っても動画をアップするべきだ。

 そうそう――上げた動画はどうなっているかな?


「ダイスケさん! 動画の再生数がすごいことになってますよ!」

 サナが自分のスマホで、俺のアカウントの動画を観ているらしい。

 俺も確認してみた。


「え? 300万再生か?」

 エントランスホールの動画も、すでに300万近くいっている。

 収益化の条件は不明だが、短い動画とはいえ、これなら余裕なのではあるまいか。


「バズってますよ! すごいですね!」

「多分、ダンジョン内の動画を上げれば、もっと再生数が伸びると思う」

「すごい!」

「よっしゃ! 明日は、羽田にノートPCを買いに行くか」

「わ、私も行ってもいいですか?」

「もちろん、いいよ」

「ミオも行く!」

 妹が手を挙げた。


「ミオちゃんは、学校に行かないと」

「ぶー!」

「ミオ、駄目だよ」

 お姉ちゃんに説得されて、ミオは諦めたようだ。


「学校が休みのときには、一緒に行ってあげるから」

「ホント?!」

「ああ」

「やった!」

 最初に会ったときの、病弱な彼女からは想像できないぐらいに元気だな。

 元々、こういう感じの女の子だったんだろうな。


 ダンジョンが出現して色々と困ったことが起きたが、難病に関しては僥倖になった。


 サナがいると、魔法の光があるから、ちょっと夜更かしできるのもいいな。

 アイテムBOXに入れてきた、紙の漫画などを姉妹に貸してあげる。

 俺が持っているのは古い漫画ばかりだが、デジタルデータのように消えることもないし、ダンジョンの理不尽な影響を受けることもない。

 電気を使わないから、好きなだけ読めるしな。


 ――サナと一緒にダンジョンに潜った次の日。

 ミオを学校に送り出すと、俺とサナは羽田に向かった。

 また、ポンポン船で海の上だ。


 もう、橋を架けてくれればいいのに。

 いざというときに、海で隔てられている必要があるんだろうけどさ。


 2人で真っ直ぐに家電量販店に向かう。

 動画編集をするとなると、そこそこの性能のものが必要になるだろう。

 それから、外付けのHDDだな。


 持ち運びするので、ノートPCにする。

 まぁ、アイテムBOXがあるから、デスクトップパソコンでもいいんだけどさ。

 結構な出費になるが、ここは思い切り購入。

 動画サイトが収益化できれば、すぐに購入代金なんて回収できるし。


 その場で箱から出して、箱は処分してもらう。

 すぐに使うから必要ないし。

 いつものようにバックパックに入れるフリをしてアイテムBOXに入れた。

 これでいつでも手ぶらだ。


 特区に戻ると、そのままダンジョンに潜った。

 動画の編集には電気を使うから、そのうちホテルに泊まるつもりだ。

 ついでに、この前買ったバッテリーに充電もすれば一石二鳥。

 スマホの電池を節約する必要もしばらくなくなるだろうし。


 サナのレベルも上がったので、今日は一気に4層まで降りてみた。

 装備も揃えているので、絡まれることもない。

 ダンジョンの中を、サナの魔法の明かりが照らす。


 アイテムBOXに入っているアクションカメラを準備する。

 コツを掴むと、思うようなアングルで固定できるようになった。


「あの、ダイスケさん――いきなり4層なんて平気でしょうか?」

 まぁ、彼女の不安も解る。

 ここはレベル24前後が推奨だからな。


「ああ、俺がいれば大丈夫だよ」

 キョロキョロして獲物を探していると、なにかが近づいてきた。


「シャアアア!」

「鳴き声か? なんだ?」

 アイテムBOXから、鉄筋メイスを取り出して構えた。

 俺たちの前に現れたのは、全身を鱗で覆われた人型の魔物。


「多分、リザードマンだと思います!」

「なるほど、こいつがリザードマンか」

 二足歩行をするトカゲ――といった感じで、大きな金属製の盾と、剣を持っている。

 ゲットできれば、値段がつきそう。


「サナ、攻撃魔法を覚えたろ? 使ってみたらどうだ?」

「は、はい! やります」

「それじゃ俺は、敵の注意を引き付けるからな」

「お願いします。光弾よ!」

 彼女の魔法の詠唱が始まった。

 彼女の話によると、こういうのも勝手に頭の中にインストールされるらしい。

 おっと、俺は時間稼ぎをしないとな。


「オラオラ!」

 鉄筋メイスで敵の盾を吹き飛ばし、振られたデカい剣の切っ先を躱す。

 敵の鱗は硬そうなので、斬撃はあまり効かないかもしれない。


我が敵を撃て!(マジックミサイル)

 彼女の前に光の矢が顕現して、敵に向かって発射された。

 白い軌跡がリザードマンの肩口にヒットすると、肉片が四散した。


「ギョエエエ!」

 苦しむ敵をメイスで殴打して、地面に倒す。


「サナ、止めだ――こいつを貸す」

 彼女にメイスを手渡した。

 普通の女の子なら、鉄の塊を振り回すのは難しいかもしれないが、レベルが上がった彼女には問題ない。


「……え~い!」

 武器を振り上げると、鱗で覆われた頭に振り下ろした。

 やっぱり、まだ躊躇が少しあるようだが、これも食っていくためだ。

 彼女がこういう道を選択してしまったのだから、覚悟を決めるしかない。


 敵の頭が潰れて息の根が止まると――サナの身体が光った。

 またレベルアップだ。

 まぁ、本当は1層や2層で仕事をするレベルなのに、4層の敵を倒しているからな。

 そりゃ上がるだろう。


「ハァハァ……」

 サナが苦しそうだ。


「大丈夫か?」

 こういうとき、なぜか相手の背中をさすっちゃうよね――ナデナデ。


「……今の攻撃魔法は1発が限界みたいです」

「でも、4層の魔物も一発だぞ」

 かなり強力な魔法だ。


「は、はい……」

 多分、レベルが上がれば、撃てる回数も増えるはず。

 ゲームでは、レベルが上がると全回復したりするのがあるが、ここではそうではないらしい。


「レベルは上がった?」

 彼女がステータス画面を見ている。


「レベル8になりました」

 苦しそうだが、嬉しそう。

 ここで、はぐれナントカみたいな魔物がいれば、一気にレベルを上げたりできるんだがなぁ。

 逃げるのがめちゃ早いけど、裏技を使って倒すと経験値がたっぷり――みたいな。

 そういうのがいねぇかなぁ……。


 気分的には、まだ戦いたい気分なんだが、サナがつらそうだ。

 彼女のレベルがもっと上がるまでは、攻撃ではなくて、サポートに回ってもらったほうがいいかもしれない。


 魔物が持っていたシールドと武器を回収してアイテムBOXに入れた。

 他にドロップ品は見当たらない。


「さて……この1匹でも換金しないとな。サナの分前分もあるし」

「い、いいえ。無理をしなくても」

「いやいや、イカンよ。サナの魔法がヒットして、致命傷になった獲物だし」

 俺はリザードマンを背中に乗せた。

 死体からは色々なものが流れているから汚れてしまうが、今はその心配もいらない。

 サナの魔法があるからな。


「す、すみません! 汚れちゃいますよね!」

「はは、こういうのは男の仕事なんだよ――おっと、こういうのはハラスメントになるのかな?」

 なんて笑っていたら、ズシズシと足音が聞こえてきた。


「ブモォォ!」

 鳴き声のほうを見ると、豚頭がこちらに迫ってくる。


「あ! なんだよ、今度はオークかよ」

「あ、あの! ど、どうすれば?!」

「周りを確認して」

「は、はい」

「よっこいしょっと!」

 俺は、背中に背負っていたトカゲ頭を放り投げた。


「ブモォォ!」

 敵は巨大な剣を振り上げたのだが、個体によって持っている武器も違うらしい。


「よっしゃ! 来い!」

 アイテムBOXから改造マサカリを取り出した。

 こっちも使ってみないとな。


「ダイスケさん! 周りに他の敵はいません」

「了解!」

「ブモーッ!」

 まさに敵が剣を振り下ろそうとしたときに、甲高い声が聞こえてきた。


「ギィィィ!」

 空中から白い影が現れて、豚頭をかすめる。

 それが通りすぎると、敵の頭から血が噴き出す。


「ンボォォ!」

 突然の攻撃にオークが頭を押さえてもがき苦しんでいる。


「なんだかよく解らんが、チャーンス! 土嚢召喚!」

 複数の土嚢が空中から出現して、オークの頭上を襲った。


「フゴッ!?」

「オラァ!」

 俺はマサカリを振り上げてジャンプ――オークの頭上を見舞った。


「ゴァァァ!」

「あら!?」

 格好よくマサカリを振り下ろしたまではよかったのだが、刃が斜めになっていたらしい。

 オークの硬い頭蓋に弾かれてしまった。


「……」

 頭を割ることはできなかったが、それなりのダメージになったのだろう。

 敵の動きが止まった。


「おっしゃおりゃぁぁ!」

 今度はマサカリを逆さまにして、刃と反対の部分で豚頭を打撃した。


「プギ!」

 オークの頭が潰れて目が飛び出すと、妙な声を出して敵が沈黙。

 そのままゆっくりと巨体が倒れ込んだ。

 倒れた振動が、足に伝わってくる。


 刃物は刃を垂直に入れるのが難しいんだよなぁ。

 薪割りと一緒の感覚でやらないと駄目だったんだが、咄嗟でそれができなかった。

 これなら、鉄筋メイスのほうがいいんじゃね?

 中世の合戦では、メイスやらフレイルが活躍したみたいだし、やっぱり汎用性が高かったんだろうなぁ。


「あ! しまった――サナに止めを刺させるつもりだったのに……」

「ダイスケさん!」

 サナが俺のところにやってきた。


「大丈夫だよ」

「び、びっくりしました。わ、私に、こんなのぜったいに無理ですぅ!」

「いやいや、レベルがもっと上がれば、余裕で倒せるようになるから」

「あの、前から聞こうと思っていたんですが――ダイスケさんって、レベルいくつなんですか?」

「はは、それは内緒――でも、それなりに高いよ」

「レベルが高いと自慢する人が多いんですけど、ダイスケさんは違うんですね」

「俺は、小金を稼いだら、冒険者辞めて田舎に帰るつもりだし」

「そ、そうなんですね……」

 彼女がちょっと残念そうだ。


「別に、この仕事に憧れてやっているわけじゃないしね~」

「なにか他の冒険者と違いますね」

「まぁ、若い人は超大物仕留めて有名になりたいとか、一攫千金を狙っているのかもしれないけどなぁ……」

 オッサンは違うのだ。

 一攫千金はほしいが。


 カメラをアイテムBOXに収納した。

 動かしたままだと、電池を消耗してしまう。


 サナと話していると、なにかがトテトテと地面を歩いて近づいてきたのが解る。

 俺は武器を構えた。


「ダイスケさん!」

「ギッ!」

 俺たちの前に現れたのは、ハーピー。


「ハーピー?!」

 相手は魔物だが、敵意を感じない。

 こちらを見て、首を傾げたりしているのだが、髪は綺麗に整えられているし、身体も綺麗だ。

 その姿を見て、俺は眼の前にいるハーピーの正体に気がついた。


「あれ?! お前、前に俺が捕まえたハーピーか?!」

「ギーッ!」

 彼女が大きな翼を広げると、俺のところにやって来た。

 俺の手に止まったので、抱っこしてやる。

 まったく敵意を感じない。


「だ、大丈夫なんですか?!」

「ああ――お前、買われていったのに、なんでここにいるんだ?」

「ギッ!」

 話が通じているのか、いないのか。

 おおかた、買われた先から逃げ出して、このダンジョンに舞い戻ってきたのだろう。


「それよりも、なんで懐いているんだ」

「ギ?」

 とりあえず、オークとドロップ品をアイテムBOXに入れた。

 召喚した土嚢も収納する。

 アイテムBOXに入ったってことは息の根が止まっているんだろう。


「な、なんかそれと仲良くありません?」

「ははは、なんだか懐かれているなぁ」

 彼女が訝しげな顔をして、地面を確認している。


「……ダイスケさん、小瓶も落ちてます!」

「また、ポーションかな?」

「ど、どうでしょう?」

 イマイチ、判別がつかないようだ。

 ちょっと暗いせいもあるだろう。


「ほら、俺はリザードマンを担いでいかないと駄目なんだ――降りてくれ」

 ハーピーを地面に下ろした。


「ギ」

「よいしょっと」

 再び、リザードマンを背中に乗せて歩き始めた。

 なんキログラムあるか解らんが、普通ならこんな真似は絶対に無理だろう。

 高レベルでパワーアップした結果だ。


 今日はキャンプ地で換金しよう。

 冒険者カードが使えないのに、どうやって換金するのか興味あるしな。

 まさか現金じゃあるまい。

 ――そう、思ったのだが、重要なことを思い出した。


「あ! そうだよ――こんな馬鹿正直に運んでいくことないじゃん」

 キャンプ地の近くまで行ってから、リザードマンをアイテムBOXから出して担げばいいんだ。

 そっちのほうが速い。


 俺は、アイテムBOXにリザードマンを収納して、代りに自転車を出した。


「サナ、後ろに乗ってくれ」

「はい」

 彼女を乗せて、ダンジョンの中を走ると、階層を繋ぐ坂を上る。

 キャンプ地の近くまで行くと、暗闇に紛れてアイテムBOXから獲物を出した。


「よっと! これでいいんだよ」

 俺は、トカゲ頭を背に、キャンプ地に向かって歩きはじめた。


「ギィ~!」

 ハーピーの声がする。

 近くを飛んでいるようだ。


 なんで懐かれてしまったんだろうな。

 まぁ、敵意がないならいいけど。


 顔は結構かわいいしな。


 

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