137話 未知の世界?
10層にいた巨大な山羊頭の魔物を倒した。
どうやら、これがラスボスらしい。
それはよかったのだが、ラスボスを倒したということはダンジョンが消えるということだ。
今まで、地上付近でラスボスを倒していたので、最下層でそれを行うとどうなるのか?
――ということを、失念していた。
もしかしたら、特区のダンジョンの消滅に大勢の冒険者たちを巻き込んでしまったかもしれない。
俺は、取り返しがつかないことをしてしまったのでは?
動揺していると、テツオがシャザームの中から、女を取り出した。
俺たちが倒した、迷宮教団のあの女だ。
女を寝かせると、彼がしゃがみ込む。
なにをするのだろうか?
「神さま神さま」
彼の問いかけに、寝ていた女の目が開き、こちらを向く。
鋭く、静かに彼の問いを刺すように。
まるで、言葉では応じずとも、すべてを見透かしているような、そんな目だった。
「なんだ我が子よ? 私は今いそがしい」
「ダイスケのやつが、ダンジョンの消失に冒険者が巻き込まれたんじゃないかと心配しているんですが……」
「大事ない――ダンジョンの崩壊は、私の力で押さえている」
「本当ですか?!」
俺は彼女の言葉に、胸をなでおろした。
「神が嘘をつくとでも?」
「い、いえ、申し訳ございません」
「そなたは、我の使徒となったのだ。多少のサービスはせんとな」
「ありがとうございます!」
俺は地面に頭を擦り付けた。
すぐに彼女の反応はなくなった。
おそらくは、ダンジョンの崩壊をゆっくりとすることで、冒険者たちを地上に追い立てているのだろう。
まったく、ありがたい。
「ふぅ……これで安心できる」
「わはは! まぁ、神さまに気に入られて、ご愁傷さま――という感じでもあるが」
「でも、使徒になったから、色々と面倒をみてもらえるんだろ?」
「それはそうだが」
今回のこともそうだ。
「……」
俺は少し考え込んだ。
「どうした? ダイスケ」
「今までラスボスは地上付近で倒していたんだが――最下層で倒したらダンジョンの崩落にまきこまれるということだよなぁ……それって意味があるのか?」
「ははぁ――そいつは、罠だろうな。最初から、レベルやらアイテムで人を釣って、ラスボスと一緒に始末させる仕様なんだろ」
「な、なんでそんなことを?」
「それが、やつらのエネルギー源になるから――だと思うが」
人間の欲望やら、負の感情を食い物にしているってことか?
「それって、まるで悪魔とかそういう……」
「まぁ、そんなもんだ」
俺は、彼の言い分にちょっと苛ついた。
そんな大事な情報を伏せていたことに対してだ。
「……」
俺の不機嫌さが彼に伝わったらしい。
「ダイスケがムカつくのも解るが――俺は神さまからの仕事を片付けて、家に帰りたいだけだからな」
「それはわかっているが……」
俺が彼を利用したように、彼も俺を利用したのだ。
お互い様というやつか。
それに、このあとも彼の協力がないと、ここから抜け出せないのも事実。
「ふぅ……とりあえず、地上に戻ろう……」
「戻れるか?」
テツオがすぐさま、反論した。
神さまの話にあったとおり、ダンジョンが絶賛崩壊中なのは間違いないらしい。
「……解らんが」
「まぁ、とりあえず行動してみようぜ」
テツオにシャザームを出してもらうと、黒い絨毯に乗り込んだ。
空へと飛び立った俺は、すぐに目を凝らし、上空に広がる天井の割れ目を探し始めたのだが――。
いくら見渡しても、それらしい裂け目も、隙間も見つからない。
裂け目はかなりデカかったから、見逃すとも思えん。
10層を覆っていた白いモヤも晴れて視界は良好だが、まるで空そのものが一枚の鈍い鉛板で覆われているかのように、上はどこまでも重苦しく閉ざされていた。
何度も旋回し、角度を変えて探ってみても、結果は同じ。
ただ黒ずんだ天井が広がるばかりで、どこにも出口らしきものは見えない。
「閉じ込められた?」
「その可能性はあるが、他の出口も探してみようぜ」
「ああ、まかせた」
俺たちは捜索範囲を広げた。
空間をぐるぐると飛び回っていると、徐々に狭まってきているのが解る。
「おっと、これってヤベーんじゃねぇ?」
テツオの言葉に、俺は慌てて周囲を見渡して目を凝らす。
レベルの恩恵は失いつつあるようだが、夜目は利くようだ。
試しにアイテムBOXを開いてみたが――まだ使える。
これで、食料も問題ない。
「テツオ!」
俺は、壁の向こうに通路らしきものを見つけると、その方角を指した。
「おっ?! 俺にも見えるぜ! シャザーム!」
彼が、シャザームを通路の方角に向けた。
スピードを上げて通路になだれ込む。
幸い、通路は迫ってきていないようだ。
「ふう……ここは大丈夫みたいだな」
「やれやれ、まったくどうなっていやがるんだ」
テツオも状況を把握できていないようだ。
危険はないようなので、スピードを落とす。
通路は、これまでの整然とした石造りや人工的な造形とはまるで異なっていた。
天井や壁は滑らかな面ではなく、幾千年もかけて水滴が削り、溶かし、積み重ねてきたような無数の凸凹と曲線で覆われている。
頭上からは無数の鍾乳石が牙のように垂れ下がり、足元には水がしみ出した小さな水たまりが点在し、そこに天井の影がゆらゆらと揺れていた。
湿った空気には石灰の匂いと冷たい水気が混じり、壁面をつたう水滴が、上から降ってくる。
「魔物か?!」
下には、生き物がいる。
四脚の動物が歩いている――大型のトカゲか、レッサードラゴンのような生き物だ。
「ダンジョンはなくなったんじゃないのか?」
彼も不思議そうに首をかしげた。
「わからん」
どうなっているのか、マジで解らんが――幸い、空を飛ぶ魔物は今のところはいないようだが……。
などと考えていると、早速フラグを回収だ。
「ギョエー!!」
俺たちの空飛ぶ絨毯のすぐ脇を、風を切って並走する巨大な影が迫ってくる。
その姿は鳥とはまるで違い、羽毛など一枚もなく、革のように薄くしなやかな翼膜が、骨格に沿って大きく広がっている。
翼の先端は長く鋭く、風を受けるたびにしなるようにわずかにたわみ、空気を切り裂く音を立てた。
長い首の先にある頭部は、鋭いくちばしが前へ突き出し、側面には獲物を見逃さぬ猛禽のような目が光っている。
「なんだ?! テラノドン?!」
「こりゃ、ワイバーンだな」
テツオは、敵の正体を知っているらしい。
「ダンジョンで見たのは初めてだが……」
「そんなことより、向こうはこっちを餌として見ているみてぇだぞ? わはは!」
鋭い白い牙がたくさん並ぶ巨大な口を開けて、俺たちに噛みつこうとしてくる。
「武器を!」
俺はアイテムBOXから、剣を取り出した。
「まかせろ!」
テツオの黒い穴が、音もなく翼竜の翼膜を斬り裂いた。
分厚い皮膜が紙のように破れ、裂け目から冷たい風が一気に抜けていく。
翼竜は羽ばたこうと必死にもがくが、もう空気を掴むことはできない。
巨大な体はバランスを失い、くるくるときりもみ回転を始めた。
その回転はあまりにも速く、長い首と尾が鞭のようにしなり、断末魔の叫びが空へと引き裂かれるように響き渡る。
そのまま黒い影は小さくなり、地面に激突した。
「売ったら高そうな魔物だが……」
「ダイスケのアイテムBOXにゃ、ドラゴンの素材が山程詰まっているだろ?」
「そりゃそうか」
そんなことより、ここから脱出するのが先決か。
そのままシャザームは飛び続けて、巨大な通路を進んでいく。
どうやら階層には分かれていないようで、ずっと似たような景色が続いているようだ。
他の冒険者たちの姿も見えず、人工物らしきものもない。
「もしかして――またどこかに飛ばされてしまったのか?」
俺はダンジョンでくらった、トラップのことを思い出していた。
「ああ、それもありえるな」
「ちょっと勘弁してくれ」
幸い、飛ばされたといっても、狭い場所に閉じ込められた――とか、そういう感じではない。
シャザームで飛んでも飛んでも出口が見えてないのだが、徐々に魔物が小物になっているのが解る。
大型の魔物は消え、下にはゴブリンなどの小さな魔物が群れているのが見える。
どうやら集落を作っているようで、住居や焚き火らしきものもある。
これは、いままではないパターンだ。
ダンジョンの魔物は、ポップした直後と思われる個体ばかりだったし、ハーピーたちの寝床があったぐらい。
こんな大規模な集落はなかった。
これじゃ、繁殖もしているのではなかろうか。
「なんか、魔物が普通に暮らしているぞ?」
俺が不思議に思っていると、先に明かりが見えてきた。
「ダイスケ、出口みたいだぞ」
「出口があるのか。いったい、どこに出るのやら……」
少なくとも、東京にあったダンジョンじゃないことは確かだ。
こんな場所はなかったし。
俺たちは、前方に輝く明かりを目指し、徐々にスピードを落とす。
外がどうなっているのか、まったく解らないからだ。
ゆっくりとシャザームが外に出ると、全身を包み込むような強烈な光が襲いかかる。
思わずまぶたを固く閉じ、腕で目を覆う。
しばらくのあいだ、白い膜が視界を支配し、世界の輪郭は溶けてしまったかのようだ。
瞳が徐々に光を受け入れはじめる。
最初はぼんやりとした輪郭が現れ、色彩が少しずつ形を取り戻していく。
目が完全に慣れたとき、そこに広がっていたのは、常識では到底受け止めきれない光景だった。
「「なんだこりゃ?!」」
シャザームの上でオッサン2人が同時に叫んだ。
眼の前には、鬱蒼とした樹海。
「シャザーム、鳥になってくれ」
ダンジョンの中では小回りが利いたほうがいいが、ここは外らしい。
そういえば、初めてシャザームを見たときにも大きな鳥の姿だったな。
森に遮られて視界が利かないので、テツオはシャザームの高度を上げた。
後ろには、崖に口を開けた、俺たちが出てきた穴。
高度を上げると見えてきた、視界の限り波のようにうねる濃緑の海――果てしなく続く巨大な樹海が、地平線まで覆い尽くしている。
空は、息を呑むほど広く、どこまでも青く澄み渡っており、緑のにおいが押し寄せてくる。
俺が暮らしていた田舎の山を思い出す。
上空には悠々と旋回している鋭い翼を広げた、異形の影――鋭い嘴や牙を備えた魔物たちが、獲物を探すように空域を支配していた。
時折、彼らの影が樹海の上を横切り、濃い緑の海に一瞬だけ黒い波紋を走らせるが、人の営みを示す建物や煙の一筋すら見えない。
「え?! いったい、どこに出たんだ?」
「わからん……」
俺の問にテツオが呟いた。
まぁ、彼にも解らんだろうが、どうみても日本ではない。
「ここが、ダンジョンの中とか? フィクションだとそういうネタがあったりするが……」
「あの空がニセモノとは思えんがなぁ……」
俺も口に出してから、彼の言うとおりだと思ってしまった。
「魔物が空を飛んでいるってことは――もしかして、異世界に飛ばされた?」
「あ~、あるかもなぁ……」
「待て待て、まだ慌てる時間じゃない、落ち着け」
「「ひっひっふー」」
アイテムBOXから缶コーヒーを出して、一休みする。
こういうときには、やはり缶コーヒーだ。
「「ふう……」」
俺は一息つくと、立ち上がって思いをぶちまけた。
「確かに、ダンジョンが異世界に通じているんじゃないか? って噂があったりしたが、マジでそうなるか?!」
「落ち着けダイスケ」
「これが、落ち着いていられるか!」
「気持ちは解るが、取り乱しても状況は変わらんぞ?」
「はぁ! わかっている」
俺は乱暴に腰をシャザームの上に落とした。
「さて、どうしたもんか……」
さすがのテツオも悩んでいるようだ。
「そうだ! またあの女を出して神さまに聞いてみたらどうだ?」
「う~ん? さっきも、反応がよくなかったから、どうかねぇ」
彼は気が乗らない様子だったが、シャザームの中からあの女を出してくれた。
黒い膜が解かれて、裸の女が現れる。
「神さま神さま、ここはどこなんですか?」
テツオが枕元で話しかけても、無反応。
「神さま、お聞きしたいことがあるんですけど!」
俺も話しかけてみたが――無反応。
「こりゃあれだ――ダイスケの願いを聞いてしまっただろ?」
「願いって……ダンジョンの崩壊のことか?」
「女の子のこともあったろ? しばらくは駄目じゃないかなぁ」
「しかし――」
「神さまがなにも言わないってことは、非常事態じゃないんだよ――おそらくは」
「これが?」
「わはは、まぁな……」
使徒になるって言ってしまったが、これは早まったかもしれない。
――とはいえ、レンのことやダンジョンの崩落については、俺ではどうしようもできなかった。
「まぁ、もうちょっと進んで、人里を探してみようぜ」
「異世界でのファーストコンタクトか……」
「それについては大丈夫だ。俺には言語の加護があるからな」
そういえば、そうだ。
彼は、どんな言語でも話せて理解できるという、神さまからもらった加護があると言っていた。
実際に、外国語もペラペラなのだ。
「わかった……」
俺たちを乗せて、シャザームは樹海の上を飛び始めた。
上を飛んでいる化け物たちが襲ってこないか、不安である。
まぁ、俺のレベルはなくなってしまったが、テツオとシャザームがいれば大丈夫だろ。
飛び続けても、眼下に広がる光景は一向に変わらない。
濃緑の大海原――果てしない樹海が、視界の端から端まで、どこまでも、どこまでも続いている。
時折、樹冠の間から別種の木々が突き出し、深い緑に赤や黄の斑点のような花が混ざるが、それすらもこの巨大な森の一部に過ぎない。
枝葉の切れ間から、ちらりと動く影が見える。
獣の群れが木々の間を駆け抜け、鳥よりも大きな羽虫が低空を飛び交っている。
時には、樹上から長い尾を垂らした生物がこちらを見上げ、まるで外敵を値踏みするかのような視線を送ってきた。
遠くの枝で何かが羽ばたき、甲高い鳴き声が響くと、それに応じるように別の方向から重低音の咆哮が返ってきた。
「もう、見ただけで地球じゃないな……」
「わはは! 俺には見慣れた光景だけどな」
「テツオが住んでいた異世界もこんな感じだったのか?」
「まぁな」
そのうち、岩肌が盛り上がり、垂直な崖が視界に入ってきた。
果てしない樹海の波間、その一点から、細く白い筋が空へと立ち昇っている。
まるで深い緑の海に差し込んだ、一本の糸のような煙だ。
それは風にたなびきながらも、確かに絶えず立ち上っていた。
自然が作り出す煙ではない――あれは火を使う者の仕業だ。
つまり、そこに人の営みがある。
長く続く孤独な飛行の中で、その煙は、絶望の闇に差し込んだ灯火のように輝いて見える。
たとえその先に待つものが未知であっても、あの煙は俺に進む理由を与えてくれた。
「煙だぞ!」
「おう! これでこの世界の住民とファーストコンタクトができるな」
「オークやゴブリンの可能性は?」
「わはは、それはあるな」
「オークやゴブリンの言葉は解るのか?」
俺は気になることを聞いてみた。
「いや、解らん。コボルドなんかも駄目だったな」
「コボルドって犬みたいな……」
「それそれ」
魔物の言葉が解ればハーピーたちとも、もっとコミュニケーションができたかも。
まぁ、ハーピーたちは人語を理解していたようだから、あれでも十分か。
そういえば、ハーピーたちはどうしたかな?
冒険者たちはダンジョンから吐き出されたとして、魔物はどうなるのだろう。
一緒に吐き出されたのか?
それじゃ、スタンピードと変わらんじゃないか。
それでも、ダンジョンに押しつぶされて死ぬよりはマシなのか?
「俺が使徒になったってことは、俺の家族は神さまの加護とかで守られているのか?」
「まぁ、俺と一緒だとするとそうだな」
「無事でいてくれよ」
ハーピーたちも他の魔物と一緒に仕留められてしまっていたら可哀想だが、魔物だしなぁ……。
そうなってしまったら、致し方ない。
世話になったのに……。
まぁ、すぐに帰れない日本のことでくよくよしても仕方ない。
今は眼の前のことをなんとかしなくては。
煙の元に到着すると、上空を旋回する。
下には、木造でできた集落らしきものが見え、二足歩行の人間らしき生物が、こちらを見上げて指している。
「人間っぽいぞ!」
「みたいだな――ちょっと、降りてみるか」
「任せるよ」
「はいよ~」
シャザームが旋回しながら、高度を落とし、村の中心にある広場らしき所に着陸した。
「女?!」
浅黒い肌、黒曜石を削り出したかのような艶やかな黒い装備に身を包み、鍛え上げられた身体の線が甲冑越しにもはっきりとわかる。
装備は戦いでの機能美を漂わせながらも、女性的な曲線を惜しげもなく強調している。
こちらを警戒しているのか、皆剣を抜いていた。
日本刀のように、湾曲している剣だ。
銀髪がなびく顔立ちは一様に整っており、その瞳は獲物を射抜く鷹のような鋭さを宿す。
唇は血の匂いを知っているかのように引き締まり、微動だにしない姿勢は、全員が戦場で生き残ってきた者の揺るぎなさを示していた。
列をなす姿は壮観で、ただそこに立つだけで周囲の空気が緊張に満ちる。
男の影はひとつも見えず――もしかして、アマゾネスってやつか?
もう一つ、彼女たちには大きな特徴があった――耳が尖っている……。
「ダークエルフだ――初めて見たぜ。エルフたちから、いるとは聞いていたが……」
「これが、ダークエルフか?!」
胸の奥から、好奇心が湧き水のように溢れ出してくるのを感じた。
見たこともない種族――その姿かたちは、幼い頃に絵本で見た幻獣や異国の民話の登場人物を思い起こさせ、心は少年時代に戻ったかのように騒ぎ立つ。
肌の色、耳の形、瞳の光、その一つひとつが未知の宝石のように新鮮。
視線が自然と吸い寄せられてしまうが、ここは旅先の市場でも見世物小屋でもない。
これは正真正銘、異種族との初めての接触――ファーストコンタクトだ。
一挙手一投足が、この後の関係を左右するかもしれない場面で、はしゃぐのはアホのやることだ。
昂ぶる感情を必死に押さえ込み、表情はあくまで落ち着いた旅人を装う。
テツオががあらゆる言語を話せる加護を持っているので、彼に任せよう。
興奮しているのは俺だけで、彼女たちはかなり緊張しているように見える。
「敵じゃない! 旅人だが、場所がわからなくなってしまってな」
テツオの言葉を聞いたダークエルフたちが、明らかに動揺している。
なにかまずいことを言ったのだろうか?
そんな風には聞こえなかったが……。
「なぜ、我々の言葉が話せる?! 只人だろう?!」
銀髪をなびかせ、ひとりの女性が話しかけてきた。
警戒より、驚きのほうが大きいようだ。
「ああ、神さまの加護ってやつだ」
「神? お前の神は?」
「イザルって言うんだが――知ってるか?」
「ああ、只人の神だろう。知ってる」
「知っているのか」
「テツオ、只人ってなんだ?」
ちょっと解らない単語が出てきたんで聞いてみた。
「普通の人間のことだ」
「へ~」
「え? ダイスケ、話の内容が解るのか?」
「ああ……」
「それなら、お前も言語の加護をもらったんじゃないのか?」
「え?! そうなのか?」
そりゃ、知らない世界で、言葉が解るのは助かるが……。
海外旅行に行っても、言葉がわからないのが一番の難点だからな。
言葉が解れば、誤解などもなくなるし――そう考えると、ファーストコンタクトにこの加護は必要不可欠だな。
「それで――只人が私たちの村になんの用だ?!」
「さっきも言ったが、迷ってしまったんだよ。ここがどこだか、教えてくれないか?」
「「「ざわざわ……」」」
ダークエルフたちが、集まってなにやら話し込んでいる。
まぁ突然別の種族がやって来たら、警戒はするだろうし。
「テツオ、なんか贈り物をしたほうがよくないか?」
「そうだな……ダイスケ、塩はあるか?」
「アイテムBOXに入っているが……」
「こんな森の中なら、塩を取るのが大変だろう。まぁ、岩塩があるかもしれないが……」
なるほど、ファンタジーでも、塩や香辛料は貴重品だ。
「とりあえず、やってみよう」
俺はアイテムBOXから透明なビニルの塩の袋を取り出した。
まさか、異世界に来てしまうとは。
これじゃ、本当に冒険者じゃないか。




