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【コミカライズ連載中】アラフォー男の令和ダンジョン生活  作者: 朝倉一二三


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135話 激突!


 俺たちは10層で超強力な敵にやられて全滅した。

 マジで死んだと思っていたのだが、テツオの能力で復活した。

 彼が神さまからもらったという奇跡――死に戻りだ。


 漫画やアニメなどでは出てくる設定だが、自分がその能力に助けられるとは思ってもみなかった。

 女の子たちに危ないことをさせたくないという、オッサンたちのわがままで、2人での深層攻略を行う。


 テツオから提示された作戦は、敵の聖女をおびき寄せて仕留めるというもの。

 聖女がいなくなれば、敵の戦闘力も落ちるらしい。

 嘘か本当か解らないのだが、彼は異世界でもこういうことをしていたようだ。


 テツオを信じるしかあるまい。

 普通なら、こんなことを信じるほうが無理というものだが、実際に神さまにも会ってしまったしなぁ。


 9層でドラゴンを仕留めまくり、地面の割れ目から10層に降りて、黄金三頭竜も仕留める。

 俺のレベルが80を超えるころ、9層に怪しい気配が近づいてきた。


「ギャースケ!」「ダイスケ!」

 ハーピーたちも近づいてくるものに反応している。


 ひたひたと、闇の中を滑るように近づいてくる2つのローブ。

 暗闇の中からその輪郭だけがぼんやりと浮かび上がる。

 地面を踏んでいるはずなのに、まるで影が這うように静かに迫ってくる。


 やがてローブが裂けるように開いた。中から現れたのは、2つの白い裸体。

 光も届かぬはずの暗闇の中で、その肌は自らわずかに光を放っているかのように、仄白く、冷たい輝きを湛えていた。


「来たな!」

 あの女と、レンも一緒だ。

 以前10層で出会ったが、俺が死に戻りしてしまったので、あれはなかったことになっている。


「ついにこの聖なる地まで汚すつもりか。この不届き者め」

 女が口を開いた。

 前に出会ったときと一緒のセリフの気がする。


「……」

 相変わらず、レンの目には生気が見えず、俺の姿を見てもなんの反応もない。


「レン! 俺が解らないか?!」

 俺の言葉にも、彼女の反応はない。

 これは完全に洗脳されているのか、以前俺に襲いかかってきた連中のように、作り変えられてしまったのか?


「ダイスケ! やるぞ!」

 もうここまで来たんだ、覚悟を決めるしかない。


「くそぉぉぉ!」

 テツオの言うとおり、やるしかねぇ。


「シャザーム!」

 地面に、まるで生き物のようにうねる黒い影が走った。

 ぬらりとした闇の波が女の足元に迫ったかと思うと、不意に影の中心が裂け、中から異形の巨大な手が突き出た。


「――っ!?」

聖なる盾(プロテクション)!」

 レンが唱えた防御魔法が透明な壁を生み、シャザームの攻撃を防ぐ。


「これは?! 魔法?!」

「バット召喚! うぉぉ!」

 アイテムBOXから砂鉄入りのバットを取り出すと、レンの所に飛ぶ。

 素早く間合いを詰めて、彼女を無力化する――。


 最初から殺すつもりじゃないと、甘いと言われるかもしれんが――俺にはそんなことはできん。

 迷宮教団のあの女ならともかく、レンは一緒に飯を食い冒険までした仲間だったし。


「光弾よ! 我が敵を撃て!(マジックミサイル)

 複数の光の矢が、音もなく虚空を裂き、俺をめがけて飛んできた。


 俺が身を翻した瞬間、真横を鋭く光る一筋の矢が掠める。

 遅れて空気が裂けるような音が耳を打ち、直後、石畳の床に突き刺さった矢がまばゆい閃光とともに爆ぜた。

 女とレンは、互いの死角を補い、こちらの動きを常に狭めてくる。

 まるで訓練された狩人のような連携だ。


「クソ! 随分と連携がいいじゃないか!」

 おそらく、俺たちにやられてから、向こうも戦力不足を痛感したのだろう。

 元々能力があったレンを攻撃に使うことを思いついたのかもしれない。


「わはは! だがなぁ! こっちだって負けちゃいられねぇ」

「そうだ! タンク召喚!」

 俺はアイテムBOXから出した、お湯の入ったタンクを、女の頭上に見舞った。

 こいつは前に食らったので、やつも覚えているだろう。


聖なる盾(プロテクション)!」

 この攻撃に対する対策を練っていたようだ。

 レンが唱えた防御魔法でタンクの落下を阻止される。


 ここから光弾などを撃っても、女の防御魔法で止められるだろう。

 逆に向こうからの攻撃も可能だが――。


 そんなのは、こっちも想定済み。


「シャザーム!」

 テツオの命令で、シャザームの拳が鋭い円錐状になり、タンクをそのまま貫いた。

 温泉のお湯がたっぷりと入っていたタンクは裂けて、滝のような水が下に流れ落ちる。


「あああ!」

 大量に水が突然押し寄せたら、どうなるか?

 当然、身体のバランスは崩れて、足をすくわれる。


 お湯を被った敵の2人は、ずぶ濡れになってその場でひっくり返った。


「剣、召喚!」

 俺はアイテムBOXから剣を取り出すと、頭上に構えた。

 魔力を溜めた剣が、暗闇を切り裂く。


「喰らえ! ナムサンダー!」

 剣先から迸った蒼白い輝きをまとったプラズマが、轟音とともに空間を裂いて走る。

 その尾を引く閃光は折り重なるようにうねり、闇の中に網のような軌跡を描きながら、地面へと落ちた。


 濡れた地面に触れた瞬間、プラズマは一気に拡散する。

 水たまりに沿って、ジリジリと這うように青白い電流が走り、細かく跳ねる火花が水面を照らす。

 わずかな水の筋さえも導線となり、敵の足元まで電撃は瞬時に到達した。


「ギャッ――!」

 その叫びと同時に、敵の2人の身体が痙攣する。

 電撃の痛みに全身をのけぞらせ、身体を硬直させると、その場に倒れ込んだ。

 闇の中、敵の周囲にだけ閃光が残り、微かに燻る焦げた匂いが漂う。


「やったぜ!」

 テツオが手を叩いた。

 これが彼と練った作戦ってやつだ。

 まさか俺が魔法を使えると思ってなかっただろう。


 いや、ダンジョンの中を把握していたのなら、戦闘シーンを見ていたのかもしれないが、テツオとの共闘の作戦は読めなかったのかもしれない。


「ふぅ……」

 一息つきながら、倒れている敵を見る。

 白い煙を上げて動かないので、完全に動きが止まったが、死んではいないようだ。

 おそらく、それなりのレベルだろうが――いや、待てよ?


 迷宮教団の連中は、魔物を殺すことを怒っていたはず。

 魔物を殺さないで、どうやってレベルを上げたんだろう?

 もしかして、ダンジョンを管理しているやつから、ちょっと力をもらってそのままだった?

 可能性はある。


 迷宮教団の連中のことを考えていると、テツオがシャザームを伸ばして女を捕まえた。


「うぇ~い!」

 なにをするのかと思いきや、シャザームを使い、女を大股広げた状態で固定をすると――なんか観察している。


「まぁな、思ったとおりだ」

「ぎゃあああ!」

 叫び声を上げた女の身体から光が溢れて、消えていく。

 テツオが女の腰を掴み、俺の前で無制限1本勝負をし始めた。


「おいおい!」

「わはは、聖女を無力化するには、こいつが一番――俺は聖女には詳しいんだ」

「ま、まぁ確かに、そりゃそうだが……」

 聖女ってからには、あの経験がないんだろう。

 つまり、経験してしまえば、聖女の資格がなくなる。

 ダンジョンからもらう、回復系の魔法もそうだ。

 聖女はその最上位の存在とするなら――まぁ、そういうことなのだろう。


「こ、殺してやるぅ!」

 女がテツオを睨みつけている。


「わはは! 聖女じゃなくなったら、なにもできねぇだろ」

「ぎゃぁぁ!」

「わはは!」

 あっちは、テツオに任せていいか。


 俺は、倒れたままのレンに近づいた。

 そっと裸の身体に触れてみる。


「生きてるか……ダメージはそんなにないみたいだな」

 俺は彼女をお姫様抱っこした。


「お?! ダイスケやるか?! そっちは任せた! わはは」

 テツオとシャザームに嬲られている、あの女を見ると、少々可哀想に思えてくる。

 いやいや――たくさんの冒険者たちが犠牲になって、俺たちもあんな目に遭わせた女に同情とか――俺も甘いな。


 そんなことよりもだ――。

 眼の前の裸の少女。


 一切の傷も汚れもなく、無垢そのもの。

 魔法があれば、傷なども治ってしまうしな。


 いやいや、違う――そうじゃない。

 彼女を無力化しなくては。

 ――ということは、ゴニョゴニョ。


 無理だ。

 可哀想なのは、無理なんだよなぁ……。


「お~い、ダイスケ! どうした? 俺がやったほうがいいか?!」

 さっきまで暴れていた女だが、白目を剥いてぐったりしている。

 容赦ねぇなぁ……。


「いや、ちょっとそれも勘弁してくれ」

「どの道、無力化せんと」

「それは解っている。解っているが……」

 う~む、どうしたもんか……。

 俺が悩んでいると、叫び声が聞こえてきた。


「ぐわぁぁぁぁ!」

 これは女の声ではない。

 なにごとかと、声のほうを見る。


 テツオが女に乗られていたのだが、様子がおかしい。

 女の髪が伸びて、手足が黒く染まっている。

 それだけではない。

 胸が――胸がデカくなっている。


「な、なんだ?!」

「死ぬぅぅぅ!」

 テツオが情けない声を上げると、女が立ち上がった。


 こちらを向いて、微笑んだ――気がする。

 そこに立っているのは、俺が知っていた「あの女」なのか――それすらも確信が持てなかった。

 手足は艶やかな漆黒に染まり、ほかは光そのものをまとったかのような裸身。


 目を見ても、人間の目とは思えない。

 確かなのは――そこに立つのは、もはや人の域を越えたなにかだということだった。


 俺の背筋を、冷たいものが這い上がる。

 いや、この感覚は――前に出会ったことがあったような。

 ハーピーのチチの翼が黒く染まったときだ。


 俺は恐る恐る話しかけた。


「あ、あの~、もしかして神さまですか?」

「とんでもねぇ、わたしゃ神さまだよ」

 やっぱりだ。


「神さま~、降臨するたびに、絞り取るのは止めてくれませんかね?」

 転がったままのテツオが情けない声を出した。

 股間もモロ出しのままだ。

 どうやら最後の一滴まで絞り取られたらしく、彼の言葉からすると恒例行事のようだ。


「なにを言う我が子よ。せっかく受肉した主を楽しませようという気概がないのか?」

「マジで腎虚で死んじまいますからぁ」

「ふ……情けない」

 テツオに冷たい笑みを浮かべると、神さまが俺の首に手を回して抱きついてきた。


「そなたはどうだ?」

 最初の人智を越えた視線ではない、まるで人間のような眼差しだが……。

 普通は裸の女に抱きつかれたら、心躍るものだが――俺の眼の前にいるのは、迷宮教団のあの女だ。


「あの――申し訳ございませんが、神さまが依り代に使っている女は、私の宿敵みたいなものでして……」

「なるほど――そのような女に迫られても興ざめ――といったところか……随分とせんしちぶだの」

 意味解って使っているんだろうなぁ。


「もちろんだ」

「うぇ、心を読まないでください――それよりも!」

 俺は彼女を振りほどき、その場に土下座をした。


「なんだ」

「そこの女の子を助けてやってください!」

「助ける? 我にどうにかしろと言うのか?」

「あの~、洗脳を解くとか、そういう感じのはできないですかね……」

「それなら、あの者がやってみせたであろうが」

 神さまがテツオを指した。

 なぜか、彼がVサインを出している。


「そういうのは、なしでいきたいのですが……なにか手はないですか?」

「我が直接手を下すというのは、ちょっと難しいのう。そなたたちの言葉で言えば、ルール違反というやつだ」

 神さま同士のぶつかり合いは避けるというのが、ルールなのか?

 あくまで、使徒やら聖女を使うのが決まりとか。


 う~ん、なにか……。


「それでは、その子を地上に送ってくれませんか?」

「地上に? 送るだけでいいのか?」

「はい! 最後の敵を倒せば、洗脳も解けると思いますし……」

「まぁ、能力を与えた神がいなくなれば、加護や祝福もなくなるが」

「テツオが異世界に帰ったあとは、私はこの世界の使徒になりますから! よろしくお願いいたします!」

「う~む、それならば――人を移動させるぐらいなら、問題ないであろ」

 彼女がパンと手を叩くと、レンの身体が消えた。


「もう、送られたのですか?」

「そなたたちが言う、エンナントカホールに送ったぞ? 早く片付けないと、ここに戻ってきてしまうぞ?」

「承知しております!」

「そうか……もう一度聞くが、この身体で楽しまぬか?」

 神さまが大きくなった胸を持ち上げた。


「申し訳ございません」

「そうか……」

 彼女がしょんぼりした顔をしている。

 そんなにやりたいのか?

 俺はちょっと勘弁してほしい。

 違う身体ならいいけどな。


 パッと光ると、女の身体がその場に崩れ落ちた。

 多分、神さまが抜けたのだろう。


「テツオ、大丈夫か?」

「まぁ、なんとか、はは」

 珍しく彼の言葉に力がない。


「この女はどうする?」

「神さまの依り代に使える女ってのは、なかなかいないからな。しまっておこう」

 彼の下からシャザームが伸びてくると、女の身体を包みこんだ。

 そのまま黒い穴の中に消える。


「さて、テツオが復活したら、始めようか」

「よっしゃ!」

「時間をかけていると、姫やレンがここに来てしまう」

「敵の天使を片付けてしまえば、簡単なんだがなぁ……」

「スマンな、俺はそこまで割り切れなくてな」

「まぁ、それでも最後の敵を倒せば、ジ・エンドだから?」

「聖女を1人仕留めたから、若干戦力は落ちているだろ?」

「おそらく」

 それにかけるしかないな。

 前は不意打ちを食らってしまったが、今回は俺とテツオしかいない。

 とりあえず、ヒット・アンド・アウェイを繰り返せばいい。


「オッサン2人で、ゾンビアタックかぁ、わはは!」

「一発で決めたいところだが……死に戻りのセーブポイントってどこになるんだ?」

「多分、神さまと会ったここだと思うが……」

「なるほど」

 テツオに回復薬ポーションを飲ませる。

 腎虚に効くのか、不明だが。


 彼の回復を待っていると、上空から鳴き声が聞こえてくる。


「ギャースケ!」「ダイスケ!」

 バサバサとハーピーたちが降りてきた。

 戦闘が始まったので、避難していたのだろう。


「よしよし、俺たちはこれから怖い場所に行くからな。お前たちは、帰ってもいいぞ」

「ギャ」

 最後になるかもしれない、飯を食わせてやる。

 まぁ、死んでも死に戻るだけだが……。


「しかし、自分の死に目に遭うってのは、中々堪えるな」

「すぐに慣れる」

「いや――そんなの慣れたくないんだが……」

「わはは! まぁ、そのとおりだな。大丈夫、ダイスケが使徒をやっても、俺みたいな死地に送り込まれることは、あまりないと思うぞ?」

「ゼロじゃないんだ?」

「俺と違い、死んだら終了だからな。神さまも無茶はしないと思うが……」

「そういうときには、テツオと似たような力を持たされて突っ込まれるんだろ?」

「多分、そのとおりだ。だってよ~、ダイスケが使徒をやるって言ったんだぞ?」

「ま、まぁな」

 テツオのツッコミに、俺はなにも言えなくなってしまったが、レンと引き換えだ。

 仕方ない。

 コレは、オッサンの矜持の問題だからな。


 テツオが復活したので、10層に降りることにした。

 シャザームに乗り込むと、ハーピーたちに別れを告げる。


 裂け目の場所は解っているので、もう迷うことはない。

 真っ直ぐに地面が口を開けている場所に行くと、その中に降りていく。


 暗闇の中に白い線が現れ、すぐにうっすらと光るモヤに包まれる。

 すぐに10層に到着した。

 今度は待ちの姿勢ではない。

 積極的にこちらから攻めていく。


 白いモヤの中をシャザームに乗ったまま進むと――すぐにゾワゾワと背中が反応し始める。

 いやな感覚だ。

 俺の中に全滅したときの記憶がフラッシュバックする。

 いや、気圧されては駄目だ。

 オッサンには、やらねば駄目なときがあるのだ。


「シャザーム!」

 テツオの黒い穴から、巨大な腕が伸びて地面を掴んだ。

 地上を確かめるように縁を掴み、ずるりと滑るように胴体が姿を見せ、山のような黒い巨体が、穴からゆっくりと這い出してくる。


 闇を凝縮したかのような漆黒の表皮は、月明かりすら吸い込んでしまいそうな艶を持ち、不気味な光沢を放つ。

 以前にも見た、シャザームのフルパワーの本体だ。

 テツオはシャザームの肩部分に掴まっている。


 敵の接近を察知したのか、白いモヤの向こうが緊張したようにピリついた。

 刹那――閃光が走る。

 音よりも速く、鋭い光の奔流が白いモヤを真っ二つに切り裂いた。

 霧の壁が裂け目からまるで蒸発するように散り、光の通った軌道には瞬時に灼熱が走る。


「おっと!」

 敵の攻撃に俺はその場から飛んだ。

 重低音とともに、地面が光の直撃を受けて爆ぜる。

 岩が砕け、土が宙に舞い、焦げた臭いが辺りに広がった。

 焼けた地表は真っ黒に変色し、なおも焦げ付く音を立てている。


 その攻撃は一度見たからな。

 同じ手は食わないぜ。

 それに今回はテツオの他には誰もいない。

 俺も自由に飛び回れるわけだ。


 再び閃光が走ったが、空間の裂け目――あの黒い穴に差しかかった途端、光の軌跡が乱れ、吸い寄せられるように進路を変える。

 ひときわ鋭く身をよじると、光はねじれながら細く引き伸ばされ、最後には糸のように細くなって、闇の中に溶けて消えた。

 残されたのは、わずかに空気を震わせる余熱と、光が穿った余韻だけ。


「あの攻撃も吸い込むのか?」

 ブラックホールか?

 なんでもありだな。


 敵の攻撃を躱しつつ、さらに接近すると、巨大ななにかがぼんやりと姿を見せてくる。


「人型?!」

 白いモヤの中から、ゆっくりと姿を現したのは――人の形をした、しかし明らかに人ではない“何か”だった。


 それは10メートルをゆうに超える巨体で、両の肩は岩のように広く、全身は雪のように純白の毛に覆われているように見える。

 白いモヤの中で、その体の輪郭はあいまいににじんでおり、現実感を拒むかのよう。


 頭部は、山羊のようであり――歪んだ角が頭頂から斜めに突き出している。

 黒曜石のように光を吸うその角は、ねじれながら空をえぐるように伸び、見る者に不吉な予感を植えつけた。


 顔には横に長い瞳孔の目が左右に開き、ぎらりと光るたび、理性の通じない本能的な悪意がにじむ。

 口元には黒く裂けた裂け目があり、まばらな牙が生え、かすかに吐き出される息は白く、硫黄のような臭気を含んでいる。


 背中は丸く、両腕はだらりと地面近くまで垂れ下がっていた。

 指は異様に細く節だらけ。

 まさしく異形――と、呼べる魔物だ。


「これが最後の敵か?!」

「ま~た、お前か!!」

 上からテツオの声が聞こえた。

 どうやら、テツオはこういう魔物に出会ったことがあるらしい。


 地を割るような重々しい地響きとともに、シャザームが突進を開始した。

 大地が悲鳴を上げ、巨体が走るたびに岩が跳ね、空気そのものが震える。

 敵も応じるように咆哮を上げ、両者の巨体が一直線に交差の運命を迎えた。


 激突の瞬間、轟音と共に巨大な衝撃波が周囲へと爆ぜ、地面が波打ち、近くの岩が吹き飛ぶ。

 まるで雷鳴が地上で炸裂したかのような圧力が全方位に拡散し、飛ばされないように俺も地面に伏せて、岩を掴む。


 両者の腕が伸び、互いの肩と腕をガッチリと掴むと、戦場の空気が一気に濃くなる。

 筋肉と筋肉がぶつかり合い――いや、シャザームの身体は筋肉なのか?

 シャザームは静かに、敵は咆哮を上げながら、動かぬ地盤の上で押し合う二体の巨神。

 その巨体のぶつかり合いは、まるで特撮怪獣映画だ。


「うひょ~!」

 いや、喜んでいる場合ではないが、こんな怪獣大戦争を目の当たりにして俺になにができる?

 必殺のナムサンダーも、あんな化け物に効き目があるとは思えん。


 力比べの膠着状態だが、シャザームの黒い身体が変化していく。

 背中からせり上がるように新たな突起が生え、それがみるみるうちに屈強な腕へと変化していく。

 優位に立つべく、新しい腕を作ったのだ。

 元々不定形な彼女だし、どんな形にも変化できる強みがある。


 その変貌に呼応するように、敵も不気味な呻き声をあげながら身体を震わせる。

 皮膚の下で何かが蠢き、裂け目から飛び出すようにして新たな腕が左右に生えてきた。

 本能と憎悪に突き動かされて自己進化する異形の存在。


 ――ふたたび両者が距離を詰める。

 シャザームの4本の逞しい腕と、敵の異形の4本の腕が、再びぶつかり合う。


「オオオオオッ!!」

 神話の時代に遡ったかのような、巨神たちの死闘――その中心には、変形し進化した二体の怪物が、互いを喰らい尽くす勢いで絡み合っていた。


「敵も変形自由自在かよ!」


 このままじゃ、決着つかないぞ。

 ――どうする?



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