131話 信徒がどんどん増える
ダンジョン8層の攻略をするために、ダンジョンを訪れている。
戦闘に疲れた俺たちは、7層の温泉にやってきた。
面倒なのは、8層と7層の間には中ボス戦があるのだが、それがあるのは各階層の中でも7層だけ。
そこから先は、本当に命知らずだけが訪れる死地ってやつだ。
温泉に浸かり英気を養っていると、テツオが魔導師の女の子たちに、イニシエーションとやらを施している。
イザルの信徒に刻まれている聖刻に魔力を流すことによって、能力を強化することができるらしい。
サナにねだられて、彼女の聖刻にテツオと同じようなことをしたのだが――。
なんと、できてしまった。
さらに、姫にも……。
ビキニの水着を着た姫の腹筋――その下腹部に黒い聖刻が浮かんでいる。
模様に触れると、俺の中から魔力を流す。
サナとカオルコにイニシエーションを施していると、ヤキモチを焼いた姫もイザルの信徒になったのだ。
「にゃぁぁぁぁ!」
身体に流れ込む魔力に反応すると、姫の身体が硬直してビクビクと痙攣をしている。
女性にこれをすると、大変気持ちがよろしいらしい。
逆に男にやると、激痛が襲う。
なぜ、こんなことができるようになったのか?
たしかに俺は、イザルの神さまと出会ってから、信徒になったわけでもないのに、テツオの黒い穴が見えるようになっていた。
テツオの話では、神さまは俺にこの世界の使徒をやらせたいのではないか?
――と、いうことだった。
どうしてそんなに気に入られてしまったのかは不明だが、俺の周りにいる女の子たちに加護がつくというのなら、悪い話ではないだろう。
まぁ、テツオを見ていると、神さまに無理難題を押しつけられているような気がするのだが……。
俺が苦労するより、若い子になにかあるほうがつらいしな。
「ダーリン! あたいだけ仲間外れかよ!」
白目になって失神している姫を抱きかかえていると、イロハが戻ってきた。
「これは、神さま絡みのやつなんだよ」
俺はテツオを指した。
「わはは、ダイスケのやつが、俺と同じようなことをできるようになったってわけだな」
「じ~っ」
イロハがひっくり返っている姫を覗き込んでいる。
「どうした?」
「つまり、神さまを信じれば、あたいも仲間になれるってことだよな?」
「ええ? そういうことになるが……」
「おし! あたいも、神さまを信じることにするぜ!」
「いいのか? イロハはそういうのをあまり信じるタイプではなかったような気がするが……」
「桜姫まで、こんな気持ちよさそうなことをやって、ズルいじゃん!」
「いや、ズルいとかそういうのではないと思うんだが……」
「イロハねぇさん」
そこにテツオが入ってきた。
「あん?」
「お姫様は、ダイスケと一緒にいられるようにと、神さまに願ったみたいだぞ?」
「なんだよ! そんなことでいいのかよ?!」
「まぁな。けど、よこしまな願いは駄目だぜ?」
「よこしま?」
「簡単に言えば、いけない悪い願いってやつだ。たとえば――ダーリンを独り占めしたいとかな」
前にも少し話が出たが、サナがちょっと気まずそうな顔をしている。
「ダーリンのことだけ願えばいいんだろ? 簡単じゃねぇか!」
「まてまて、イロハ。もっと願うことがあるだろ? ダンジョンを無事にクリアしたいとか、ギルドの皆の無事を願うとか」
「いや、こういうのはシンプルなほうがいい!」
「まぁ、そうだな。あれこれ、欲張るのはよろしくない」
腕を組んだテツオがウンウンと唸っている。
彼はイザルの使徒が増えればいいので、イロハの言うことを肯定しまくる。
彼女もすっかりとその気だ。
「あたいが願うのはダーリンだけだ!」
彼女らしいといえば、そうだが。
真っ直ぐすぎるな。
若い子にこんなに慕われるなんて、オッサン冥利に尽きる。
イロハの決意は固いようなので、彼女を祝福する。
俺の前にひざまずく戦士の頭に手をかざすと、また頭の中に言葉が流れ込んできた。
その言葉を紡ぐと、イロハの身体がうっすらと光り始める。
「これでいいはずだが……」
「本当かい!?」
彼女が勢いよく立ち上がると、ビキニの下腹部に黒い聖刻が浮き出ていた。
「魔導師は、魔力が上がるのは解るが、戦士や騎士でも強化されたりするのか?」
「ああ、俺の仲間に脳筋の女がいるんだが、戦闘力は上昇するぞ」
「ええ?! 本当かい! ダンジョンでのレベルだけじゃないんだ! やったぜ!」
イロハが喜んでいるから、これでいいのか。
「こんなにホイホイやっちゃっていいのかねぇ……」
「信徒が増えるんだから、いいに決まっている」
「この聖刻はずっと消えないのか?」
「そんなことはない。信仰がなくなれば消えるぞ」
彼の話では、敵の信徒が使徒の力で強制的に転向させられると、自分の意思では抜けられなくなってしまうようだ。
「そんなことがあるのか?」
「ああ、敵の聖女とか天使とかいう連中を強制的に転向させれば、相手の力をかなり削ぐことができるし」
「マジで、戦争だな……」
「向こうもその気でくるから、こっちとしても、殺られる前に殺るしかねぇ」
このダンジョンにも、話し合いが通じない迷宮教団っていう連中がいるからな。
覚悟を決めないと、女の子たちが犠牲になる。
「ダーリン!」
俺とテツオの会話に、イロハが割り込んできた。
「なんだ?」
「桜姫たちにやったのを、あたいにもやってくれよぉ!」
彼女が俺の手を掴んだ。
「いいのか?」
「いいに決まっている!」
イロハは、それが当然という顔をしている。
まぁ確かに、ここでやらないのも、彼女を仲間外れにしているようなもんだ。
俺は、頑強そうな腹筋の上に浮き出ている黒い聖刻に指を置いた。
「むん!」
俺の身体の中に渦巻く力を、指先からイロハの身体の中に注ぎ込む。
「ん~? そんなには――きゃあぁぁぁん! な、なんだこれぇ?!」
最初は平気そうだったイロハだが、すぐに身体を震わせ始めた。
その場にしゃがみ込む。
「お~、イロハ姉さん、普段は豪快なのに、かわいい声だな」
テツオも、彼女の可愛さに驚いたようだ。
「死ねぇ、オッサン!」
「なんだよ、それじゃ俺もやってやろうか? 俺も同じことができるぞ?」
動けないイロハに、両手を構えたテツオがジリジリと迫っていく。
「や、やめろ~!」
「あまりいじめないでやってくれ」
「わはは! 可愛いよな」
「ううう……」
オッサンたちにからかわれて、イロハが顔を真っ赤にしている。
そんなことをしているうちに、他の女の子たちも復活し始めた。
テツオが信徒たちに、色々とレクチャーをしている。
きちんと使徒の仕事をこなしているわけだ。
俺も、ああいうことをしないと駄目なのか。
まぁ、この世界なら、様々なメディアもあるしな。
俺の動画サイトには、大量の視聴者がいるから、そいつを利用する手もある。
宗教なんてやり始めたら、離れる視聴者もいるかもしれないが、すでに十分な稼ぎはあるし。
そのあとは皆で食事をして、休むことにしたのだが……。
テツオの様子がおかしい。
「テツオ、どうした?」
「俺はダンジョンの方へ行く。ちょっと野暮用があるからな、フヒヒ」
彼がいやらしい笑いを浮かべているのだが、いったいなんだろう。
まぁ、プライベートなことには踏み込まないようにしようか。
彼は、ダンジョンの中に消えていった。
「ダーリン、あの神さまのオッサンは、なにをするつもりなんだい?」
「解らん」
「あの顔を見れば解る。どうせ、ろくでもないことだろう」
姫がつぶやく。
彼女の言うとおり、よろしくないことのように思えるが、彼には彼の都合があるのだろう。
それに、ダンジョンの攻略では世話になりまくっているしな。
今日はテツオがいないということなので、女の子たちと一緒に寝ることになった。
いつもは、テツオと同じテントで寝ているからな。
まさか、彼がいるのに、女の子たちと合体するわけにはいかない。
テントを設置して、俺が横になると真っ先にハーピーたちがやってきた。
「ギャースケ!」「ダイスケ!」
いつものように、彼女たちが俺の上に乗る。
「この畜生どもめ! なぜ、当然のようにダーリンの上に乗るんだ!」
「ギャースケ!」「ダイスケ! ダイスケ!」
また、姫とハーピーたちの争いが始まってしまう。
「ほらほら、喧嘩しないで。幽鬼たちにも迷惑だから」
「ぶ~!」
「8層も9層も、ハーピーたちの助けが必要だし、べん――じゃなかった、機嫌をとっておかないと」
ウチの田舎だと、方言で「べんこふる」と言う。
「そうですよ、サクラコさま」
そう言うカオルコはすでに俺の隣を占領していた。
「それじゃ、今日は私がこっちですね~」
反対側はサナが取ってしまった。
「ず、ズルいぞ!」
「ずるくありません~」
今度は姫とサナの争いだ。
「おっしゃ~! それじゃダーリンの手はあたいのものと!」
いつの間にかやって来ていたイロハが俺の手を取った。
「オガぁ! お前は関係ないだろう!」
「ダーリンのことでお祈りして、ダーリンの家族として神さまに守ってもらうことになったんだから、もう家族みたいなもんだろ?」
「ぐぬぬ……」
「姫、ネガティブな祈りは駄目だって、テツオが言ってたぞ?」
「……」
俺の言葉にサナがちょっと気まずそうな顔をしている。
「ダーリン!」
姫は不満があるようだが、ハーピーたちも動きそうにない。
「ほらほら、寝た寝た」
「ううう……」
姫がウロウロしている。
ちょっと可哀想だが、空いている場所がない。
彼女を促して、寝ることにした。
――ダンジョン温泉で寝た、次の日。
多分、朝だ。
真っ暗な中で目を覚ます。
女の子の身体、ハーピーたちの柔らかい羽毛。
なんだかごちゃごちゃだ。
ムチムチの太ももやら、おっぱいをどけて、テントの外に出る。
「ふぃ~、朝飯の準備をしないとな」
飯の用意をしていると、ダンジョンのほうから人の気配がする。
一応、武器を出して警戒したのだが――。
「おっす! 俺だ!」
暗闇から出てきたのは、テツオだったのだが、その隣に誰かいる。
白い肌にデカい胸――裸の女だ。
明かりがないので、髪の色は正確には解らんが、金髪だと思われる。
どう見ても、白人だが……。
「なんだ、その女は? どこから連れてきたんだ?」
「わはは、ダンジョンに入る前に、俺を襲ってきた女がいただろ?」
そういえば、いたな。
シャザームの中に入れたとか、なんとか。
「ウウウ……」
近づくと、女の下腹部に黒い模様が見える――聖刻だ。
――ということは、イザルの信徒になったのだろうか?
「その女はイザルの信徒ではなかっただろ?」
「昨日話しただろ? 強制的に転向させることができるって」
「ああ、なるほど」
まぁ、どうやって転向させたのかは、聞かないことにした。
「オラ! 彼にも、自分の罪を謝罪しろ」
テツオの言葉に、女がプルプル震えながら正座して土下座をした。
裸土下座ってやつだ。
「このたびは、モウシワケございませんデシタ」
ちょっとたどたどしい日本語だが、このセリフだけ教えたのだろうか?
「ウチの女の子もいるし、あまりひどいことは止めてくれよ」
「わはは! 俺は殺しにくるやつは絶対殺すマンなんだぜ? このぐらいで済んでいるのは、かなりの温情だし、感謝してもらわなくっちゃな」
テツオが、土下座している女の尻を叩いている。
俺の助言は聞いてくれそうにない。
「そろそろ、他の子たちも起きてくるから」
「おっとそうだな。また白い目で見られちまう、わはは!」
いくら若い子から白い視線を浴びても、いまさら自分を変えるつもりもないのだろうが。
「ギャースケ!」「ダイスケ!」
最初に起きてきたのは、ハーピーたちだ。
「ギャアァ!」
魔物を見た、白人の女がパニックになっている。
彼の黒い穴からシャザームが出てきて、裸の女を包みこんだ。
「OMG! help!」
「お前らの神さまは、こういうときに助けてくれないよな」
「help! help!」
そのまま黒い膜に包まれた女は、穴の中に引き込まれた。
「その中って平気なのか?」
「シャザームに包まれていれば平気だ」
「テツオが隠れていたりしてたから、大丈夫なんだろ?」
「完全に中に入ると、五感がなくなるからな。慣れてないとかなりの恐怖だと思う」
息をしているのかすら解らなくなるらしい。
それは確かに怖い。
「その女はどうするんだ?」
「まぁ雑魚だし、楽しんでから放逐だな。胸がデカいから結構いいぞ! わはは」
テツオと話していると、女の子たちが起きてきた。
「ダーリン、なんか女の声がしたぜ?」
一番最初にやってきたのは、イロハだ。
「はは、ハーピーたちの声だろ」
「そうかぁ?」
とてもじゃないが、本当のことは言えん。
「おはようございます」
カオルコやサナも起きてきた。
姫はまだ寝ているようだ。
まぁ、彼女はホテルでも起きてくるのは一番最後だしな。
食事のにおいがしたら、起きてくるだろう。
カオルコたちに手伝ってもらい、配膳をする。
幽鬼たちは、自前の食料を食べるようだ。
こちらにも多少の余裕はあるが、毎回は奢っていられない。
合同アタックなら、彼らの食料も一緒だから、問題ないがな。
「俺は食うぜ!?」
「ギャースケ!」「ダイスケ!」
ハーピーたちは、真っ先に食べ物にかぶりつく。
続いてイロハが食べ始めると、姫も起きてきた。
「……」
髪の毛がボサボサで、無口なまま。
まだ半分寝ているようだ。
そんな彼女といっしょに食事をして、食べ終わる頃には姫の目も覚めたようだ。
温泉でキャンプをしながら、3日ほど休息した。
その間にも、幽鬼たちはここを本拠地として、アタックを繰り返していた。
ここの温泉のお湯があれば、魔力を回復することができる。
魔導師がメインのパーティーには、鬼に金棒――と、いったところだろう。
幽鬼たちと情報の交換をしつつ、温泉で3日めの朝――十分に休息をした。
食事の片付けをすると、出発の準備を始める。
水着などを脱いで、冒険者用の装備に切り替えると、近くで一緒に準備をしている幽鬼たちにも声をかけた。
「幽鬼たちは、7層をこのまま巡回するのか」
「はい、7層の階層主と対峙するためには、まだレベル不足でしょうし」
「今まででた中ボスは、リッチと強いリッチと、レッサードラゴンだったぞ」
「え?! ドラゴンも出るんですか?」
「ああ、出てきた」
「ううむ……」
彼が腕を組んで考え込んでいる。
幽鬼のところは、魔導師しかいない。
戦いかたを工夫しないと一発で全滅するかもしれない。
いまさらだが、冒険者ってのはかなりリスキーな職業だな。
いや、ここまで来るから危険なだけで、浅層ならそこそこ安全だし。
それでも、危険はゼロではないが。
「それじゃ、俺たちは出発するからな。気をつけてくれ」
「ありがとうございます」
「「ありがとうございました~」」
幽鬼のところの女の子たちも、揃って礼をしてくれた。
怪我とかしなければいいがなぁ。
――というわけで、8層に抜けるためには、また中ボス戦をしないといけない。
これは少々面倒だが、こういう仕様なのだろう。
1回クリアしたら、スキップさせてほしいのだが、パーティーによってメンバーも違うだろうし、そうもいかんのだろう。
「ギャォォォン!」
エンカウントした魔物は、今回もレッサードラゴン。
多分、リッチだとサナのターンアンデッド一発で片がついてしまうので、こいつが選択されているのではなかろうか。
まぁ、相手がレッサードラゴンでも、このメンバーなら一発なんだが。
「ギャースケ!」「ダイスケ!」
ハーピーたちは、部屋の上のほうをぐるぐると回っている。
まぁ、そこが一番安全かもしれん。
「アンデッド系の魔物がいなくて、サナの出番が少ないから、サナに打たせるか」
「いいえ、私は別に……」
「いやいや、レベルアップするなら、なるべくみんなが均等に上がったほうが戦力としていいだろ? なぁ、姫」
「うぐぐ……」
姫はなにか言いたそうだが、そのまま戦闘を開始してしまう。
「それで、ダイスケどうする?」
「悪いが、シャザームでドラゴンをひっくり返してくれ」
「おっしゃ! ほんで、ケツ穴にサナちゃんの魔法だな!」
「そ、そんなことしなくても!」
なんだかサナは乗り気じゃないみたいだが、そんなことはお構いなしに、テツオから夜の闇そのもののような黒い影が静かに伸びていった。
うねりながら床を這い、巨大なドラゴンの足元に忍び寄る。
魔物が気づいたときにはもう遅い。
影は瞬時に分裂し、無数の帯のようになってドラゴンの四肢と尾、翼の付け根までもを絡めとる。
「ギャァンッ!」
ドラゴンが咆哮をあげ、暴れようとするが、影は鉄鎖のように強靭で、びくともしない。
全身を持ち上げられると、その巨体がよろめき、やがて天地をひっくり返すようにして倒された。
地面に轟音が響き、竜の腹部があらわになる。
「ほら! サナ! 今だ!」
「えっと、ううう……」
「早く!」
「圧縮光弾! 我が敵を撃て!」
細い針のような光がドラゴンの剥き出しの粘膜に向かう。
魔物の柔らかい部分を貫通すると、内部の体液が蒸発したのだろう。
内側から爆発が起きる。
「ギャォォォン!」
ドラゴンの叫びが閉ざされた中ボス部屋の中に反響した。
まさか、いきなり召喚されたと思ったら束縛されたあげく、尻穴から爆破に遭うとは、ドラゴンも思ってもみなかったに違いない。
さすがのドラゴンでも、内臓を内側から爆破された衝撃には耐えられなかったらしい。
その巨体がびくんと跳ねると、目を見開いたまま喉の奥から凄絶な断末魔がほとばしる。
鼓膜を破りそうな金切り声とともに、喉からどす黒い血反吐が勢いよく噴き出した。
腐臭を帯びた熱い液体が地面に叩きつけられ、土を焼くような音とともに蒸気が立ちのぼる。
その叫びがしだいにかすれ、やがて喉が泡立つように震えながら、ドラゴンの長大な首がぐらりと垂れた。
瞳の光はすでに失われ、最後は巨躯が崩れ落ちた。
「おっしゃ! 思ったとおり、一発で決まったな」
「こんなのありかよ!」
デタラメな魔物攻略に、イロハが不満をもらす。
まぁ、これじゃ冒険者の活躍もクソもあったもんじゃない。
それもこれも、テツオのシャザームのお陰だから、他の冒険者が真似をしようとしてもできない。
「あ!」
ドラゴンが倒れると同時に、サナの身体が光り始めた。
レベルアップだ。
ちょっと時間がかかるな。
「次にドラゴンが出たら、カオルコかな?」
「そんな簡単でいいのかよ!」
イロハが不満を漏らす。
「まぁ、テツオがいるからできる芸当だからな。彼がいる間にレベル上げしとけばいいだろ?」
「そうだけどさぁ……なんというか、ヒリついた命のやり取りみたいなものが冒険者だろ?」
「俺は、安全なほうがいいと思うんだがなぁ……」
オッサンだから、そう考えてしまうのだろうか。
――いや、若い頃から考えかたは変わってないから、やっぱり性格かな?
「別に無理にシャザーム使わんでも、ガチでやりたいやつには、やらせりゃいいじゃん」
「まぁ、テツオの言うとおりだな」
話している間に、サナのレベルアップが終わった。
「なにか魔法とか覚えたかい?」
「いいえ」
「そうか~」
そうそう、面白そうな魔法を覚えることはないか。
「ぐぬぬ……」
サナがレベルアップして面白くないのか、姫が渋い顔をしている。
8層巡りで姫もレベルアップして、サナを追い越したらしいのだが、もしかして並ばれてしまったのかもしれない。
それでも、サナだけレベルアップさせないわけにもいかないしな。
8層でアンデッド系の魔物は出てきてないが、これからエンカウントする可能性もある。
中ボスを撃破した俺たちは、再び8層に足を踏み入れた。
広大な階層をさまよいながら、魔物と戦闘を繰り返す。
皆のレベルは50を超えた。
「ダーリン! このレベルなら9層に行ってもいいんじゃねぇか?!」
「多分、大丈夫だと思うが……姫どうする?」
「以前に、ドラゴンとエンカウントしたときには、微塵も勝てる要素を見い出せなかったが――今は違う」
「私もそう思います」
カオルコも9層に足を踏み入れるは賛成らしい。
「ほかは?」
「俺はどっちでも」
「私も、皆さんに従います」
テツオとサナも問題ないらしい。
「よっしゃ!」
威風堂々と、9層に凱旋したぜ!
――と、思ったのだが……。
俺たちの周りに異臭が漂い始めた。
「おぇぇぇぇ!」
我慢できずに、イロハが盛大にケロケロしている。
「くせぇぇぇぇ!」
テツオがシャザームの中に隠れた。
「マジかよ!」
9階層で俺たちの前に現れたのは、巨大なアンデッド。
ドロドロに腐ってはいるが――おそらく、ドラゴンではないかと思われる。
ドラゴンもアンデッドになるのかよ。




