130話 使徒になった?
俺たちは、ダンジョン8層の攻略を進め、9層への突入準備も始めた。
その前に一旦7層に戻り、そこにあるダンジョン温泉で休息を入れるため、幽鬼たちのパーティーといっしょに、ダンジョン温泉を目指す。
皆がテツオのシャザームの上に乗り、ゆっくりと進む中、幽鬼と話す。
「ダンジョン温泉で、魔力を回復しつつ、魔石にもチャージするって寸法か」
数日滞在すれば、かなりの魔力を蓄積することができるだろう。
食料さえあればの話だが。
「そのとおりですよ」
俺の言葉を幽鬼が肯定した。
「あ、あの……」
魔導師の女性の1人が手を上げた。
「なんでしょう?」
「本当に、この先には温泉があるんですか?」
「あるある、おおあり名古屋は城でもつ」
「?」
彼女が首を傾げた。
どうやら滑ったようだ。
「あはは! 本当だって、本当! マジでデカい温泉が広がってるんだって!」
通路にイロハのデカい声が反響した。
「オガさん、そんなに大きな声を出さなくても聞こえますよ」
幽鬼も疲れているのか、彼女の声にしかめっ面をしている。
「わはは! 悪い!」
シャザームはゆっくりと進んでいるが、次第に暗く細い通路の様子が変わってきた。
ひんやりとしていた空気が徐々に温かみを帯び、前方から白い蒸気がゆらゆらと立ち上っているのが見え始める。
蒸気は通路いっぱいに広がり、視界をぼやかしながら、肌にまとわりつくように濃くなっていく。
「これって湯気ですか?!」「ふわ~本当に温泉っぽい」
女の子たちが、キャッキャウフフしている。
「温泉っぽいんじゃなくて、マジな温泉だから」
「まったく、このダンジョンは常識外れなことが多いですが、本当にデタラメですね」
幽鬼が呆れているのだが、気になることを聞いてみた。
「温泉は、その装備のままだと滞在できないぞ? 水着は持ってきたか?」
「はは、もちろんですよ。備えあれば憂いなしってことで」
まぁ、常識的に考えて温泉でキャンプを張るなら、考えつくか。
突然、視界が開けた――温泉だ。
「「「わぁ~!」」」
魔導師の女の子たちから、歓声が上がった。
皆でシャザームから降りると、パーティごとのキャンプ場所を確保。
魔法の明かりはもったいないので、テツオの魔法のランプを借りた。
これなら、魔石の魔力を充填すればいいから、俺でも使える。
明かりの場所も確保できたので、装備を脱ぎ水着に着替える。
今回から、皆が自前の水着を用意した。
幽鬼たちの所からちょっと離れた場所にキャンプを張るが、温泉の部屋は広いから、場所はたくさんある。
ここが冒険者でいっぱいになったら、狭く感じることになるのだろうか?
場所取りで揉めたりな。
まぁ、そのぐらい賑やかになれば、宿を経営する冒険者なども出そうだけどな。
「神さまのオッサン! 黒いやつでまた滑り台を作ってくれ」
マイクロビキニになったイロハがテツオの所にやってきた。
「おっしゃ! シャザーム!」
大きな黒い手が出てくると、イロハの身体を丸ごとムンズと掴まえた。
「ぎゃぁぁぁ!」
そのままイロハの身体を温泉の真ん中辺りまで放り投げる。
「ちょっと酷くないか?」
「あの女なら、あのぐらい平気だろ? レベルも高いしな、わはは!」
「なにすんだ! オッサン!」
ずぶ濡れのイロハが湯面に顔を出した。
「わぁぁ! それってなんですか?!」「魔法なんですか?!」
水着に着替えた女性魔導師たちが、俺たちの所にやって来た。
ほう、これは中々……素晴らしい。
ビキニの子は、腹にある黒いイザルの聖刻が見えるが、ワンピースを着ている子たちは、当然だが見えない。
皆がテツオのパートナー、シャザームに興味津々だ。
みんなカラフルな水着を着用しており、ここがダンジョンの中だとは思えない華やかさがある。
オッサンの俺には眩しすぎるってもんだ。
「あの黒いのは、彼のパートナーの生き物でいろいろなものに変化できるんだ」
「テイムってやつですか?」
「う~ん、ちょっと違うみたいだけどなぁ。友だちみたいな感じだよ」
「あはははは!」
テツオのいたずらに憤慨していたイロハだが、シャザーム滑り台で遊びまくり、上機嫌だ。
「元気だなぁ……」
さすがに、オッサンになるとあそこまでのエネルギーがない。
いや――冒険者になってレベルの補正があるので、体力はあるのだが、やっぱり気力がなぁ……。
「ギャ! ギャ!」「ダイスケ!」
ハーピーたちは、大きな翼を広げて、お湯浴びをしている。
「私たちも、やってもいいですか?!」
女の子たちも目をキラキラさせている。
滑り台をやってみたいのだろう。
「ああ、いいぜ」
テツオからOKが出た。
「やったぁ!」「いけいけぇ!」
女の子たちが、シャザーム滑り台に次々と上り始めた。
ダンジョンの中とは思えない。
かつてあった遊園地のような華やかさだ。
今はエネルギー不足で、アトラクションなどはほぼない。
ちょっと前までは、生きるだけで精一杯で、遊んでいる暇などなかったしな。
「きゃぁぁ!」「いえぇ~!」
ダンジョンの中に黄色い声がこだまする。
女の子たちを見て目の保養をしていると、サナがやってきた。
「む~! 私の水着はどうですか?」
前の水着は俺がテキトーに用意した、味気ないものだったが、今日のは彼女が自前で用意したものだ。
カラフルなワンピースで、フリルのようなスカートがついているのだが、胸の部分が窮屈そうだ。
「可愛いじゃないか」
「ダーリン! 私のはどうだ?!」
サナの水着を見ていると、姫も俺の所にやってきた。
彼女の水着は、赤いシンプルなビキニ。
正直、いつものビキニ鎧と変わらん気がする。
彼女は赤が好きなのだろうか。
「姫が赤いものをまとうと、なにか特別なものに感じるな」
「ふふ――そうだろう。さすが、ダーリン。私のことをよく解っている」
「む~!」
姫の水着を褒めたので、サナの機嫌が悪い。
褒めないことには、始まらないだろう。
「私のはどうですか?」
そう言ってやってきたのは、黒い水着のカオルコだ。
金糸の刺繍が施してあり、胸の部分が大胆に開いている。
胸の露出した部分には、彼女の白い肌に刻まれた黒い聖刻があり、対比が美しい。
「映画のときの、悪魔大将軍のような……素晴らしく似合っているけど」
「ありがとうございます」
「それで防具をつけたらダンジョンの装備と変わらんだろ!」
姫の言うとおりかもしれない。
「いやいや、マジで似合ってるよ」
「うふふ……」
「む~! それじゃ! 私も胸を出せばいいんですか?!」
サナが水着から胸を出そうとしている。
「こらこら、そういうことは止めなさい」
「む~!」
「ダーリンさん! その明かりはなんですか?!」
水着の美女たちに囲まれていると、幽鬼がやって来た。
黒いパンツに、パーカーのようなものを羽織っているのだが、首の下――向かって右側に黒い模様が見て取れる。
「コレは魔石を利用するランプだよ。テツオの持ち物だ」
「え?! 魔石の魔力を利用できるんですか?!」
「ああ、これと同じものを八重樫グループに売ったから、上手く解析できれば市販化されるかもしれない」
「そうなれば、ダンジョン攻略がはかどりますよ!」
「ダンジョンだけじゃなくて、一般家庭まで普及して魔石の需要が爆発的に増える」
今は利用価値がないクズ魔石までが、電池として利用できる。
「もう、日本総人口みな冒険者になる可能性が……」
「いやいや、それじゃ国が回らなくなるぞ」
以前のような使い捨て社会じゃなくなったとはいえ、普通に生活していれば、必要な日用雑貨も多い。
インフラの維持も必要だ。
「う~む」
魔法のランプを食い入るように見ている幽鬼の下に女の子たちが戻ってきた。
「リーダーも、滑りませんか?」
「いや、私は遠慮するよ」
「え~? もったいないですよ!」「そうですよ! ダンジョンの深層でこんなことできませんよ」
そこに、カオルコがやってきた。
「遊びもいいですが――深層のダンジョンには危険がいっぱいです。テツオさんから祝福してもらったほうがいいかもしれませんよ」
「いや……私は……」
カオルコの提案に、幽鬼がちょっと戸惑っていると、テツオが笑っている。
「わはは、無理にとは言わんよ。初めて会った変なオッサンが神さまの使徒だとか言われても、信じられないだろうし」
「それって――なにかいいことがあったりします?」
一応、女の子たちはちょっと興味があるようだ。
「まぁ、確約はできない――というか、普段の祈りのほうが大事なんだよなぁ」
「う~ん、それでも、お願いします!」
女性魔導師の1人が、テツオの祝福を受けるらしい。
彼の前に水着の女性がひざまずいた。
「黒き闇を巡る星々すら、その歩みを止め、ただ沈黙をもってイザルの御名を讃う。その名は万象を鎮め、沈黙のうちにして宇宙の理を語る。今ここに、イザルの御名のもとに立つ者に、永遠の加護と導きあらんことを」
女性が光に包まれる。
「あ! なにか聞こえる!」
「神さまも祝福してくれてるってことで」
「オッサン! インチキくせ~のに、それっぽいじゃん!」
温泉から戻ってきたイロハがツッコミを入れている。
「わはは――一応、本物の聖職者なんだぞ」
彼女の言葉にも、テツオが笑って答えている。
「すご~い!」「私もいいですか!」
祝福の光を見て、他の子も考えを改めたようだ。
テツオが同様に、他の子たちにも祝福を与えている。
「う~ん……」「……」
女の子たちのキャッキャウフフを見ながら、男たちが唸っている。
テツオが美人の女性とかだったら、喜んで祝福を受けるんだろうな。
「あの~、神さまってどんな姿なんですか?」
女の子からテツオに神をも恐れぬ質問だ。
「神さまの本当の姿ってのは解らないが、地上に降臨するときには黒くて長い髪を持つ女性の姿をしてるぞ。しかも、胸がデカい!」
某宗教だと、神さまが自分の姿に似せて人間を作った――みたいなことになってるが。
「そ、そうなんですね」
「多分だが、男より女のほうが好き」
そういえば、そんな話を以前にしていたな。
「そうなんですか?!」
「しかも、胸が大きい女が好き」
「ええ~?! 女性の方なんですよね」
「まぁ、姿はそうだな。神さまに本当に性別があるかどうかは解らんが……」
「そういえば――男性信徒がテツオに触れられると、激痛に見舞われると言っていたな」
俺は彼が言っていた言葉を思い出した。
「それはマジよ、わはは」
テツオが幽鬼に近づくと、首の黒い模様に触れた。
「ギャァァァ!」
突然、幽鬼が叫び声を上げて、その場に倒れ込んだ。
「ほらな」
「うわ、痛そう」
「な、なにをするんですか?!」
へたり込んだ彼が、首を押さえている。
「痛かったけど、身体に変化が出てねぇか?」
「なんですって?! ……そういえば……」
幽鬼が自分の手を見つめて、グーパーグーパーしている。
なにか違和感を感じているようだ。
「どうだ?」
「そういえば……魔力の高まりを感じるような……」
「俺の魔力を、聖刻を通じて流し込んだんだ。神さまの力をそのまま注ぎ込むようなものだから、かなりの影響がある」
「興味深い……」
「これからも、神さまが女のほうが好きなのが解るな、わはは!」
「あ、あの! 女の人がやったらどうなるんですか?」
女性の1人がテツオに質問をしてきた。
どうやら興味があるらしい。
魔導師ゆえ、魔力を高めることなどに、興味があるのかもしれない。
「同じように魔力が高まるけど、男と違うのは――かなり気持ちいい」
「……え?! 本当ですか?」
「マジマジ――俺の故郷で、これを使って信徒を強化しまくっているから」
彼は元日本人らしいのだが、すでに故郷は異世界ってことになっているのか。
そういえば、神さまからの仕事を終えて家に帰りたいと言っていたな。
「う~ん……」
興味はあるのだが、踏ん切りがつかないのだろう。
まぁ、無理にやる必要もないのだが。
「俺の力を流し込めば、身体に刻まれた聖刻が成長してデカい魔法が使えるようになる」
「ダンジョンのレベルに関係ないんですか?!」
「ウチの神さまの力は、このダンジョンとは関係ないからな」
「イザルの信徒になってから、ダンジョンの外でも魔法が使えるようになっただろ?」
サナがそうだが、一応彼女たちにも確認をしてみた。
「は、はい、そうです」
「今、お前らは系列が違う2つの力を操っているわけだ」
「う~ん――私、やってみます!」
ビキニ水着を着た女性が前に出てきた。
「チャレンジャー!」「大丈夫?!」
「だって、女の人は痛くないんですよね?」
「ああ、それは間違いねぇな」
「やります!」
女性が覚悟を決めたようなので、テツオがゆっくりと彼女のお腹に手を伸ばした。
柔らかそうな下腹部に刻まれた聖刻に指を触れた瞬間――。
「んあぁぁぁぁぁぁ!」
突然、痙攣した女性がぶっ倒れた。
「だ、大丈夫!?」「ちょっと!」
彼女たちに抱きかかえられて、ひくひくと身体を震わせている。
「大丈夫だ。いつもそうなるからな」
「だ、だめぇ! さ、触らないでぇ……」
「「……」」
2人が、抱きかかえた女性をそっと置いた。
「こうすると、身体の聖刻が成長するわけだ」
「男と女性の差がすごいな……」
俺のつぶやきに、テツオが反応した。
「それは、神さまに言ってくれよ、わはは」
「テツオの所に来る信徒って、こういうことをしているわけか?」
「まぁな――どう? サナちゃんも」
テツオの言葉に、サナが俺の後ろに隠れた。
「俺の仲間に手を出すのは止めてくれよ」
「はは、冗談だ。聖女に手を出したりしたら、神さまになにされるかわかんねぇし」
「あ、あの!」
残っていた女性魔導師たちが、テツオの前にやってきた。
「無理強いするつもりはねぇよ。でも、魔力の通りがよくなったり、出力が上がったりするから、色々な効果があるぞ?」
「わ、私もやってみます」
「好奇心旺盛だな、わはは」
とはいえ――ワンピースの女性は腹に聖刻があるらしい。
水着の背中が開いているので、テツオはそこから手を入れた。
「ひぃぃぃぃ!」
女性がその場に倒れ込むのを、テツオが支える。
やっぱり似たような感じになるんだな。
残った女性も、結局は同じように地面に倒れた。
女性が3人倒れて、地面でうめいているのだが、硬い地面の上じゃ可哀想だ。
アイテムBOXから、エアマットを出して、寝かせてやった。
このダンジョンでは、こいつは必需品なのが解ったので、もう大量にストックしてある。
「副作用があったりは?」
「ないな。精神的な依存はあったりするが……」
副作用のない、危ない薬みたいなものだが――神さまが絡んでいるなら、無問題なのだろう。
「ダイスケさん!」
考えごとをしていると、サナが俺の手を掴んだ。
「おわ?! なんだ?!」
「私の背中に触ってください!」
彼女が俺に背を向けた。
ワンピースの開いた背中から、翼を広げたような黒い聖刻が見える。
「え? な、なんで?」
「いいから!」
サナの強引さに押されて、彼女の聖刻の中心に指を置く。
「ん!」
「なにもならんと思うが?」
「ダイスケ、魔力を流すんだよ」
テツオがニヤニヤしながら俺たちを見ている。
俺とサナを見ていた彼からのアドバイスだが、それをしたからといってなにか起こるのか?
テツオのアレは、神さまからもらった奇跡ってやつだろ?
ちょっと半信半疑だが、やってみることにした。
黒い聖刻は、彼女の肌にまるで焼き付いたかのようにくっきりと浮かんでいて、そこからは不思議な気配が滲み出ていた。
身体の奥に渦巻く魔力を慎重に導き、ゆっくりとその紋様へと流し込む。
まるで扉の鍵穴にぴたりと鍵がはまるように、俺の魔力は聖刻に吸い込まれていった。
その途端、彼女の身体に変化が現れた。
「ひゃぁぁぁ!」
彼女が身体を硬直して、後ろに倒れてきたので、慌てて支える。
「だ、大丈夫か?!」
「だ、だいじょ……んぁっ!」
サナが顔を赤くして、身体を震わせている。
「ダーリン!」
姫が真っ赤な顔をして飛んできたので、とりあえず止める。
「待った!」
再びエアマットを出して、サナを寝かせた。
「ダーリン! おわぁ!」
姫が俺に掴みかかろうとしたのだが、カオルコの体当たりでふっとばされた。
「なんだ?!」
「ダイスケさん! 私にもやってください!」
彼女が真剣な眼差しで、俺の手を握る。
「え?!」
「ほら!」
彼女が掴んだ俺の手を、黒い水着と白い肌の間に滑り込ませた。
「し、しかし……」
「いいから!」
いつものおしとやかさはどこにいったのか、カオルコの迫力に負けて、指先から彼女の身体に魔力送る。
「んほぉぉぉぉ?!」
俺の指先が少々ピリついた瞬間――カオルコが白目を剥いてのけぞった。
「おわ! 大丈夫か?!」
サナのときと、それほど変わらん魔力だと思ったのだが……。
彼女の反応に、慌てて柔らかい身体を受け止める。
「はわわわ……ぁ」
カオルコが身体を起こすと、俺に抱きついてきた。
「カオルコ! なにをする!」
ふっとばされた姫が、戻ってきたのだが、カオルコがスルリと俺の後ろに回った。
そのまま俺の身体を撫で回している。
「テツオ――黒い聖刻に触れるって、誰でもこうなるのか?」
「いや、そんなことはない。聖刻から魔力を注入できるのは、使徒だけだ」
「そうなのか?」
「ダイスケ、神さまに随分と好かれていたみたいだったから、そういう加護をもらったのかもしれんぞ」
「そういうこともあるのか?」
「まぁ、俺も初めてだが……」
「そ、そういえば――ハーピーに化けた神さまに会ったときから、テツオの黒い穴が見えるようになっているんだが……」
「マジか? 身体に聖刻は?」
「多分、ないと思う……」
「それじゃ、俺パターンだな、わはは!」
テツオパターンということは、俺も使徒になったってことか?
「ぐぬぬ……」
仲間外れにされたと思ったのか、姫がぐぬぬっている。
「姫、落ち着いて」
「それならば! 私も、その信徒になればいいのだろう?!」
「え?! 本気なの?」
「ようは――本気で祈ればいいのだろう?」
「多分、そうだと思うが……」
テツオのほうを見ると、うんうんとうなずいている。
「それならば、簡単! ダーリンと、ずっと一緒にいられるようにと、神に祈ればいいわけだ」
「まぁ、姫も魔法が使えるから、魔石から魔力を引き出せるようになれば、色々とはかどるとは思うが……」
「決まりだな!」
「本気か……それじゃ、テツオに祝福を受けるかい?」
「そんなのダーリンがやればいい!」
「えええ?!」
「ダーリンもあの男のような力を使えるようになったのだろ? 祝福とやらだってできるんじゃないのか」
「そういうものなのか?」
確かに、神さまのお気に入りになったんじゃないのか――って、テツオも言っていたが……。
彼のほうを見ても、ニヤニヤしているばかり。
なんだか、この状況を楽しんでいるようだが……。
姫が俺の前にひざまついたので、彼女の頭に右手をかざした。
なにか言葉を発しようとすると、頭の中に言葉が流れ込んでくる。
「星々よ沈黙せよ。闇の深淵にて名を讃えよ。我、影に伏し、イザルの御前にて魂を洗う。我が血潮をもって、汝の影と一つとならん。我が神、イザルよ――星なき夜の王、静寂の主。我が名を知りて、我が魂を包みたまえ」
思ってもみない言葉がスラスラと出てきた。
すると、眼の前の姫の身体が青白く光り、光の粒子に髪がふわふわしている。
「おお、やったじゃん」
俺の力にテツオも驚いているのだが……。
「こんな力が……」
自分の手を見つめていると、彼が笑っている。
「ああ、やっぱりな! わかったぜ」
「え? なにがだ?」
「俺はこの仕事を終えると、故郷に帰るじゃん? そうすると、この世界に使徒がいなくなるから、それをダイスケにやらせようとしているんだよ」
「マジで?!」
「わはは、多分な。ダイスケが使徒、サナちゃんが聖女のツープラトンだ」
テツオが意地悪そうな顔をしている。
自分が負担している面倒ごとを、押し付けられてラッキー ――みたいな顔だが、俺のどこが超常ともいえる存在の琴線に触れたのだろう。
そんなに気に入られる要素があったのだろうか。
なぞだ。
「でも、テツオの話では、使徒をやれば家族の安全は保証されると……」
「まぁな。神さまの加護は最大限に発揮されるだろうな」
「う~ん、ものは考えようか……」
今の俺は、金を稼ぐことに成功したが、金じゃどうにもならないこともある。
たとえば、健康や不運の事故などだ。
神さまパワーで、それを回避できることになれば……。
「ダーリン」
立ち上がった姫の下腹部に黒い模様がある。
「冒険者のトップランカーたちが、イザルの信徒になったとなれば――ますます、その数は増えるだろうな」
「まさか、それを見込んで?」
「わはは、それは解らんが、可能性はあるな」
テツオと話していると、姫が俺の手を握ると、自分の腹に当てた。
「私にも、さっきの!」
彼女の嬉しそうな表情から、自分だけ仲間外れにされたとでも思ったのかもしれない。
「わかった」
俺の身体の中で渦巻くものを、指先を通じて姫の中に流し込む。
「んにゃぁぁぁぁ!」
突然、彼女が身体を仰け反らせて変な声を上げたのだが、初めて聞く声だ。
正直、可愛いと思ってしまった。
猫耳をつけてあげたい。




