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13話 2人のパーティ


 ダンジョンに潜って冒険者をやって金でも稼ごうかと思っていたら、女の子姉妹の面倒をみることになってしまった。


 どうしてこうなった感じがするが、彼女たちの爺さんからも頼まれてしまったしな。

 この社会保障もイマイチになってしまった社会にゃ、老人と子どもだけじゃツライだろう。


 多分、俺がダンジョンでみた子どもたちも、そういった境遇の果てなのではなかろうか。

 宿屋のオバちゃん曰く、「世も末」ってやつだ。


 女の子たちのことはさておき、俺は大発見をした。

 それは――俺が持っているアイテムBOXのバグだ。


 ダンジョンの中では電子機器は使用できないのだが、このバグを利用すれば動かせるかもしれない。

 異空間で電子機器を動かしていったいなにをするのかといえば――カメラを持ち込んでの動画の撮影だ。

 そいつを動画サイトに上げて視聴者がたくさんゲットできれば、収益化することができる。


 今まで試行錯誤されていた、アナログ機材を使った映像よりクリアなものを撮ることができるだろうが、問題はある。

 暗い場所でカメラを使うとなると、照明の問題がある。

 俺の目は暗い所でもよく見えるが、カメラはそうもいかない。

 綺麗な映像を撮るためには、明るい照明が必要だ。


 アイテムBOXのバグを使って、カメラと照明を一緒に使うことはできないだろうか?

 試してみないことには解らないが、もっと確実なものがある。

 魔法だ。


 俺が知り合った女の子――サナは、明かりの魔法が使える。

 彼女に協力してもらえばいいだろう。

 その代りに、俺は彼女のレベルアップを手伝ってやる。

 レベルを上げてから魔物と対峙すれば、より楽に倒せるはず。

 WIN-WINってやつだ。


 サナは妹を小学校に通わせるために、役所と学校に向かった。

 妹が学校に通えば、彼女も安心してダンジョンに潜ることができるだろう。


 ダンジョン内で電子機器を使える可能性を見つけた俺は、喜び勇んでダンジョンから飛び出した。

 動画撮影に使うカメラを買って、本当にダンジョンで撮影できるのか、確かめてみなけりゃならない。

 カメラが使えるなら、大儲けできるからな。


 そのまま、また羽田まで買い出しに行こうかと思ったのだが――。


「いや、待てよ……」

 とりあえずのカメラ撮影ならスマホがあるじゃないか。

 スマホで撮影ができるのを確かめてから、もっと高性能なカメラを買うべきだろう。


 俺は途中で引き返すと、ダンジョンに戻ることした。

 自動改札の所までやってくるとスマホを取り出して準備をする。

 ここのラインが電気を使えるかの境目になっているからな。

 スマホの電源を入れると、動画の録画開始ボタンを押した。

 バックパックを背中から下ろすと、スマホをしまうフリをして、アイテムBOXに収納。


「よし」

 俺は準備を整えると、再びダンジョンに入った。


 ――さて、動画撮影をするとなると、照明の問題があるのだが――。

 ダンジョンの入り口のエントランスホールは光ファイバーの照明で明るい。

 ここからスマホでも撮影ができるだろう。


 俺は、ホールの一番端に向かって、そこに腰を下ろした。

 幸い、周りには誰もいない。

 そこで、スマホをアイテムBOXから入れたり出したりしてみる。


 こつを掴むと、成功することが多くなったのだが、問題はスマホの向きだ。

 ちょうどいい感じに出てくれない。

 横を向いたりしてても撮影ができているのが確認できればいいのだが、地面やら天井を写しても仕方ない。

 なん回か試して、やっとスマホを正面に向けて出すことができた。


「やった!」

 手では触れないのだが、スマホに動画の撮影画面が表示されている。

 エントランスホール内でも、綺麗なデジタル映像で写したものは存在していない。

 この動画だけでもアクセス数を稼げるだろう。


 身体を動かすと、スマホも動く。

 そうやって3分ほどの動画を撮ると、俺はスマホをアイテムBOXに収納した。


「さて、これで本当に動画が撮れているかが問題だが……」

 俺はダンジョンを出て改札をくぐると、すぐにスマホを取り出して動画の撮影を終了した。

 撮れていなければ、動画の撮影時間は増えていないはず……。


 動画のデータを確認――3分ほどの時間表示が見える。


「よし!」

 いやいや待て待て、まだ慌てる時間じゃない。

 実際に撮れていないと、ただのぬか喜びだ。

 砂の嵐かもしれないし。

 俺は深呼吸をした。


 再生ボタンを押すと――ダンジョン内のエントランスホールの映像が流れた。


「よっしゃ!」

 これで稼げるぞ!

 珍しい魔物やら、戦闘シーンやら、ダンジョン内の様子やら――ダンジョンに潜ったことがない人々には、知りたい情報が沢山あるだろう。


 早速、動画サイトに上げよう。

 今はハーピーの動画でバズって人が集まっているから、この動画もついでに見てくれるに違いない。

 動画を撮れることが判明したが、そうなると、もうすこしいいカメラが欲しくなる。


 かつての半導体が魔石半導体に換わって、半導体不足が続いている。

 世界が静止する前は、たくさんのカメラが市場にあふれていたが、今は選択肢があまりない。

 ほとんどがスマホで済んでしまうし、経済と行政の電子化に伴い、スマホが必須の世の中になってしまった。

 それに合わせて情報端末の生産が最優先に進められているため、カメラなどの機種があまり発売されていない。


 まぁ、普通の撮影ならスマホで済んでしまうし、こんな世の中じゃカメラを趣味にするのも少々難しい。


「そうだな……」

 動きながらの撮影が増えると思うので、アクションカメラ辺りがいいだろうと思う。

 手ぶれ補正なども強力だろうし。


 俺はダンジョンを出ると、桟橋に向かい船に飛び乗った。

 カメラもそうだが、追加のエアマットも買わないとダメだしな。

 それに、食い扶持が増えたから、食糧も追加で購入しないと。


 俺は羽田に到着すると、真っ直ぐに家電量販店に向かった。


「さて、どうするか……」

 カメラの棚を眺める。

 やはり選択肢が限られている上、かなり高い。

 いや、ここは先行投資だろう。

 収益化できてバズれば、すぐに回収できるわけだし。


 360度写せるものもあるが、まぁ普通の広角レンズのものでいいだろう。

 上手く儲けられたら、追加で購入してもいい。

 結果、売っている中で一番よいアクションカメラを購入した。

 魔石半導体で作られた映像素子は性能がいいみたいで、暗所にも強いらしい。

 ダンジョンの撮影には、お誂え向きだろう。


 よしよし、あとは追加の食糧だな。

 購入すると、外に出てバックパックに入れるフリをしてアイテムBOXに放り込む。

 これが面倒だが、仕方ない。


「あとは――なにかあったかな……」

 そうそう、最低限の防具も買ったほうがいいか。

 低階層でも万が一ってこともある。

 最初のトラブルは、それで絡まれたことが最初だしな。


 ホムセンに向かうと、ガントレット、レッグガード、ボディアーマー、ショルダーアーマー――を購入した。

 こんなもんか――色は全部黒っぽい色に統一。

 あとは、ヘッドギアか――これはシールドがついているタイプにしてみた。

 戦闘中に、なにか飛んでくるかもしれないからな。

 真剣で打ち合うと、金属の破片が顔に突き刺さるとか聞いたこともあるし。


 買ってその場で着込む――。


「おお、冒険者っぽいぞ」

 そのうち魔物からのドロップ品で装備を更新するのもいいだろう。

 どういう理屈か知らないが、信じられない性能のドロップアイテムもあるようだし。

 ――とはいえ某トップランカーのように、半裸で戦うのはちょっとなぁ……。

 身体に自信があるならともかく、ただのオッサンだし。


 一応、畑仕事で鍛えた身体があるんだがなぁ。

 俺はたっぷりと買い物をすると、再び特区に戻った。


「サナたちは、戻ってないだろうか?」

 とりあえず、撮影をするにしても彼女の魔法の照明がないと撮影できないし。

 彼女の協力が必要だ。

 そのついでに、サナのレベル上げもできるしな。


 俺は、宿屋に戻った。


「おかえり」

 オバちゃんが挨拶をしてくれた。


「ただいま」

 挨拶をしてくれるとなると、こちらも返さないとイカンだろう。

 大人だしな、ははは。


「それっぽい格好になったじゃない」

「はは、女の子たちは帰ってきてるみたい?」

「ああ、さっきね」

「妹ちゃんを特区の小学校に通わせたいんだが、住民票を移さないとだめなのか、色々と聞きにいったんだよ」

「女の冒険者などは出稼ぎ扱いで、住民票を移さないでも大丈夫みたいだよ」

「やっぱりそうなのか」

「こういう仕事をいつまでも続けられるとも思えないしねぇ」

「基本的に、危ない仕事だしなぁ。俺も潜ってみたけど、命を落とす危険だって十分にあると感じた」

「実際に、そういう話も聞くよ」

 オバちゃんと世間話をしてから部屋に戻ると、彼女が言ったとおり姉妹が部屋にいた。

 タッパに入ったポテトサラダを食べている。


「そのサラダはどうした?」

「おばさんにもらいました」

「そうか~」

 追加で、オバちゃんに芋をやったほうがいいだろうか。


「格好いい!」

 ミオが俺の格好を見て、叫んだ。


「ありがとう――サナ、役所とか学校はどうだった?」

「住民票は移さなくても、大丈夫みたいです。ダンジョンに潜りながら、子どもは学校に――という女性が多いみたいで」

「やっぱりそうだろうなぁ……」

「ミオは、明日から学校に通うことになりました」

「学校に行くとなると、揃えるものがいるんじゃないのか? ノートとかシャーペンとか」

「今の学校は、全部が支給のタブレットですよ」

「ええ、そうなのか? マジか」

 学校の黒板もなく、皆でタブレットを見ながら勉強をするのだ。

 時代の流れってやつだねぇ。


 俺も昼飯にするか。

 午後からダンジョンに行くつもりなので、そのまま食う。


「サラダだけだろ? パンも食うか? 挟んで食うと美味いぞ」

「うん!」

 ミオが俺の差し出したパンに手を伸ばす。

 今まで食えなかったせいか、食欲旺盛だ。

 まぁ、ガキならいくら食っても太らないだろうし。


 2人にパンと牛乳を渡して、俺も食う。


「ん~」

 さっき撮った、エントランスホールの動画を編集して上げてしまおう。

 編集といっても、前後の余計なシーンをカットして、サムネイルをつけるだけだが。


 アップはすぐに完了した。

 PCがあれば、派手なフォントやら煽り文句などをサムネイルに入れられるんだが。


「サナ、ちょっとコレを見てくれ」

「なんですか?」

「みりゃ解る」

 彼女に動画サイトの映像を見せてやる。


「……これって、ダンジョンの入り口ですか?!」

「そうそう、上手く撮れてるだろ?」

「どうやって撮ったんですか?! ダンジョンの中ってスマホとか使えないはずですけど」

 見たこともない映像で、彼女も興奮しているようだ。

 驚いているのは彼女だけではない。

 すでにかなり再生されて、動画のカウンターが回り続けている。

 ダンジョンに潜ったやつらには、この映像が本物だって解るだろう。


 まぁ、相変わらずコメ欄で、造りものとかCGとか言っているやつらもいるが。

 それはいつものこと。

 勝手に言わせておけばいい。

 他にリンクを貼りまくってくれて、それが炎上すれば、それだけアクセスが増えるし。


「ちょいと裏技を使ってな」

「いったいどんな……」

 彼女がちょっと訝しげな顔をしている。

 コメ欄のやつらと一緒で、作り物とでも思っているのだろうか。

 彼女には撮影に協力してもらうので、すぐに本物だと解るはずだが。


「君には撮影を手伝ってほしいんだよ」

「私にできることなんてなにもありませんけど……」

 俺の話を聞いて、彼女は不安げだ。

 そりゃ、俺がなにをやるか想像もつかないのかもしれない。


「魔法の光があるだろ?」

「それは使えますけど」

「暗いダンジョン内で動画を撮るとなると照明が必要なんだよ。ケミカルライトは暗いし、電気の照明は使えないだろ?」

「で、でも……他のことは、なにもできませんよ?」

「もちろん照明だけでいいよ。ちゃんと分前も払うし、君のレベルアップも手伝ってやる」

「なんか私にメリットしかないような……」

「そんなことないぞ。俺には魔法の照明が必要だからな。それに――」

「それに?」

「君たちに、俺の秘密を教えただろ? なるべく魔法を頼むのは君に頼みたい。秘密を知っている人間は少ないほうがいいからな」

「……」

「もちろん、断ってもいいが」

「いいえ――私の能力じゃ、どこも雇ってくれませんので、私でよろしければお手伝いします」

 彼女も覚悟を決めたようだ。

 妹さんの食い扶持も稼がないと駄目だし、選択の余地はあまりないはず。


「よかった。それじゃ、明日からミオちゃんも学校に行くだろうから、明日から頼むよ」

「わかりました」

 俺とサナの話の間、ミオはアナログ玩具で遊んでいる。

 俺が貸してあげたやつだ。


「ミオちゃんも――変なオッサンが、なにもない所からものを出しているとか、学校で言わないでね?」

「わかった!」

 大丈夫かな?

 もし人に聞かれても、「子どもの言うことだから」「知らないなぁ」で、逃げるしかないな。


「ミオちゃん、ランドセルとかは?」

 タブレットの授業だからいらないのか?

 手ぶらってわけにはいかないだろう。


「……」

 どうやって学校に通ってたんだろう。

 そういえば、ほとんど休んでいたみたいだし。

 俺はアイテムBOXから、古いバックパックを出した。

 予備に持ってきたものだ。


「ミオちゃん、これでよければあげるよ」

「ホント?!」

「ああ」

 ちょっとボロいバックパックをもらって、女の子が喜んでいる。

 オッサンには、ちょっと突き刺さるシーンだ。

 涙が出ちゃう――だってオッサンなんだもん。


 飯を食い終わったので、ダンジョンに出かけることにした。


「私も行きます」

「ええ? ミオちゃんはどうする?」

「ミオは、お留守番してる!」

 ミオがそう言うのだが……。


「大丈夫か?」

「大丈夫!」

 すごい自信だ。


「まぁ、ここはオバちゃんもいるし、大丈夫か……でも、知ってる人以外は、鍵を開けちゃ駄目だよ」

「うん! わかった」

「大丈夫かなぁ……」

「大丈夫ですよ」

 心配する俺より、姉妹のほうが平気そうな顔をしている。

 爺さんとお姉ちゃんがバイトに行って、妹がお留守番。

 これが、この姉妹の日常だったのかもしれないが……。


 サナと一緒に部屋を出た。


「あら、お出かけ?」

「ちょっとダンジョンに。妹ちゃんを置いていくけど、大丈夫だろうか?」

「大丈夫でしょ?」「大丈夫ですよ」

 オバちゃんも平気だと言う。

 俺はバックパックを下ろすと、中から取り出すフリをして芋を取り出した。


「子どもたちにポテトサラダを作ってくれてありがとう。追加の芋はいる?」

「1人暮らしだから、芋ばっかりもらっても仕方ないのよ」

「そうか~」

 まぁ、たしかにそうだ。

 俺も近所から大量にものをもらってしまって困ることがある。

 そういうことがあっても、このアイテムBOXがあれば、困ることもなくなるってわけだ。


 それは理解できるが、とりあえず芋は押し付けた。

 急に腐るものでもないし。

 まぁ、暗所に置かないと芽が出てくるけど。


 宿を出ると、2人でダンジョンに向かう。

 自転車を出せればいいのだが、人の多い所では無理。

 まぁ、そんなに遠くはない。


「ん~そうだなぁ……」

 サナのレベルアップのために、彼女に止めを刺させるつもりだが、ゴブリンがドロップした短剣を使いたい。

 彼女の装備にちょうどいい感じなのだ。

 俺のナイフは、戦闘には向かない小型のものだし。


 ダンジョン前に集まっている人集ひとだかりの中から、魔法を使える人を探す。

 そういう人は、売り込みをしているのですぐに解る。


「魔法で洗浄するよ~洗浄するものないかい~」

 近代的な防具をつけた若い男だが、魔法を売っているらしい。

 格好だけ見ると魔導師には見えない。


「洗浄を頼むよ。1回いくら?」

「2000円だよ」

「頼む」

 バックパックから出すフリをして、アイテムBOXからゴブリンの短剣を出した。


「くっさ! ゴブリンの短剣か」

「これでも綺麗になるもんか?」

「大丈夫だよ、やったことがあるし」

 なんでも綺麗になるなら商売になるよな。

 洗濯物たくさんもってきて、一気に綺麗にしてもらうとか。


「それじゃ頼むよ」

 前払いらしいので、スマホで料金を払った。


洗浄クリーン!」

 青い光が、汚れた短剣に染み込むと、黒いものが浮いてきてボロボロと崩れ、下に落ちた。

 ピカピカってわけにはいかないが、普通に使える状態になったように見える。


「おお、すごいな。初めて見たよ」

「はい、終わり~。またのご利用お願いします~」

 ちょっと、クンカクンカしてみる――くさくない。


「これはすごい」

 魔法ってすごいな。

 短剣は使えるようになったが、鞘がないので、露店で漁る。

 既製品や、ダンジョンでのドロップ品、両方売っている。

 使えそうなものを選んで短剣を入れた。


「ほい、こいつを使え」

「いいんですか?」

「ああ、重くて大変なら、戦闘の直前まで俺が運んでやるが」

「大丈夫です」

 彼女はジャージの上から、鞘に付属していたベルトを巻いた。

 重さは1kgぐらいだから、大丈夫そうではある。

 準備が終わったので、ダンジョンに向かう。


 入り口の自動改札を抜ける前に、アクションカメラのスイッチを入れてアイテムBOXに収納した。


「それで、ダンジョンの中を撮るんですか?」

「そうそう――上手くいけばいいんだけどな~」

「動画が撮れたら、全世界でバズると思いますよ」

「それで稼げれば、危ないことをせずに済むんだけどなぁ」

「でも、動画を撮るためには、ダンジョンで魔物を倒さないと」

「そうなんだよね~」

 2人でダンジョンの中に入ると、暗闇に紛れて自転車を出した。


「自転車ですか?」

「移動に便利だからな――わざわざ買ったんだよ。故郷にも自転車があるのに」

 まぁ、俺が持っていたのはママチャリだったから、ゴツゴツとしたダンジョンではちょっと乗れなかったかもな。


「アイテムBOXって便利ですね……」

「はっきりいって、これだけあれば、他は要らないぐらいだよ」

「私もそう思います」

 これで2層まで2人乗りで向かう。

 俺が自転車にまたがると、彼女が後ろの荷台に座ろうとした。


「それだとお尻が痛いと思うぞ。後輪のステップに足をかけて、立ったほうがいい。両手は俺の肩に」

「こうですか?」

 彼女が俺の肩を掴んでくる。


「そうそう――それじゃいくぞ」

 高レベルで脚力も上がっているので、2人乗りでも楽勝。

 こりゃいい――自転車は正解だ。


「あ、あの、ダイスケさん!」

「ダイスケで、いいぞ」

「魔法の明かりは?」

 暗闇の中を自転車で疾走しているので、後ろにいる彼女は怖いらしい。


「俺は暗い所でも目が見えるから大丈夫だよ」

「そ、そうなんですか?!」

 話しているうちに、2層への降り口にやってきた。

 ここからは下りなので、ブレーキをかけつつ、ゆっくりと下る。


 キャンプ地があるが、当然素通り。

 俺が目指しているのは、2層――つまりここだ。

 俺ならもっと下層でも大丈夫だと思うが、一緒のサナはレベルが低い。

 2層は、レベル10前後の人がメインらしいし。


 2層に入ってしばらく進んだ所で停止した。

 周りに敵の姿は見えない。


「さて、覚悟はいいか?」

「は、はい! 頑張ります!」

「おっしゃ!」

 戦闘に備えて、自転車を収納するとカメラの準備をした。

 またアイテムBOXのバグを使う。

 これが簡単にできるようになればなぁ。

 突発的な戦闘だと、間に合わない可能性があるな。


 まぁ、獲物を倒したあとの映像でも、インパクトはあるか。


「サナ、魔法の明かりを頼む」

「はい、光よ!(ライト)

 足元に影が現れた。

 このぐらい明るければ、カメラにはなんとか映るんじゃないだろうか。


 そのまま歩いて進むと、どこからともなく黒い狼がやって来た。

 5匹見えるが、だいたい5匹ずつのパターンが多いのか。


「サナ、狼だ! 俺がやるから離れるなよ」

 俺はアイテムBOXから、砂鉄バットを取り出した。

 上手く仕留め、彼女に止めを刺させてレベルアップを狙う。


「はい!」

「一応、周りの警戒も頼む」

「わかりました」

「おらぁ!」

「ギャイン!」

 獣だと脳震盪を起こさない感じなので、かなり強めに殴った。

 その場でひっくり返って、足をバタバタさせている。

 こんなもんか。


「ひぃ!」

 俺の後ろで、サナがビビっている。

 こんな感じで冒険者なんて大丈夫なんだろうか。

 まぁ、ここでレベルアップすれば、1層のスライムやうさぎは楽勝で倒せるようになるだろう。

 それで、チマチマと食い扶持を稼げばいい。


 戦闘経験や自信がついたなら、2層に降りてきてもいいしな。


 とりあえず、狼を5匹戦闘不能にした。

 まだ生きているはずだが、動かないものもいるので、それは失敗してしまったか。


「サナ、剣で止めを刺せ」

「は、はい……うう」

 やっぱり怖いんだろうか、踏ん切りがつかないでいる。


「妹さんのためにも頑張らないと駄目だぞ」

「はい! ううう……え~い!」

 彼女が痙攣して転がっている狼の前に立つと、目を瞑って短剣を突き立てた。

 その瞬間、光が彼女の身体を包む。

 光っている間はしばらく動けないので、俺が周りを警戒した。


「やった! レベルアップしたと思います」

「変わったか?」

「え? は、はい! 短剣が軽く感じます!」

「それじゃ、残りもやっちまおうぜ」

「え、えい!」

 彼女が頑張っている間に、俺は狼をアイテムBOXに収納した。

 とりあえず、魔石を取るのはあとだ。

 彼女のレベルアップが先だしな。


 そのあと、10頭ほどの狼を倒して、彼女はレベル7になったらしい。


「これで、1階は余裕だぞ」

「魔法も覚えました!」

「なにを覚えた?」

「洗浄と、光弾の魔法です」

「お~! すごいじゃないか。もしかして魔法の才能があるのかもよ」

「ありがとうございます!」

 彼女がペコリとお辞儀をした。

 光弾の魔法ってのは、攻撃魔法だ。

 これで遠距離攻撃もできるし、ダンジョンには魔法しか効かない魔物もいるらしい。


 彼女と魔法の話をしていると、誰かが暗闇に紛れて近づいてくる。

 どう見ても怪しい動きだ。

 知らんぷりをしていたら、奇襲をかけるつもりなのだろう。


「おい! 見えているぞ! なんの用だ?!」

「ち! クソ!」

 近づいてきた男が、サナの魔法の明かりに照らされた。

 浮かび上がった顔には見覚えがある。


 俺からポーションをカツアゲをしようとした男だ。



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