128話 呉越同舟
再び、テツオと一緒にダンジョンへのアタックしている。
今回の目標は8層だ。
テツオの相棒のシャザームに乗せてもらい、一気にダンジョンを下る。
さながら、各停から特別快速に乗り換えた気分だ。
その調子で7層も突っ切ってしまおうと話になったのだが、途中で先行していた冒険者たちと遭遇する。
グレーターデーモンに襲われて全滅寸前だったので、救助に入った。
俺たちは、以前にキャンプに使った部屋を目指すことに。
「あそこのミミックが湧いてなければいいがな」
「はは、面倒なら俺がまた仕留めてやるよ」
テツオが俺たちのところにやってきて、なにか放ってよこした。
受けると、紫色の液体が入った瓶。
以前にもドロップしたものだが、ネットの情報から上級回復薬だと判明している。
「いいのか? テツオが倒したものだけど」
「2本あったから、1本はもらったぜ」
「それじゃ、こいつらに渡していいか?」
「ああ」
そんなわけで――重傷者もいることだし、紫の回復薬も渡した。
「ありがとうございます……」
このあとどうするかということも含めても、ここじゃ話し合いもできない。
以前キャンプした部屋を目指すことにした。
テツオにシャザームを出してもらう。
「ひっ?! こ、これは?!」
「便利な乗り物だよ。空飛ぶ絨毯みたいなもんだ」
イロハがシャザームを指して笑っている。
「ど、ドロップアイテムですか?」
「違うが……まぁ、未知の動物を使役していると思ってくれ――わはは!」
「……」
テツオの言葉に、助けた冒険者たちが信じられない――みたいな顔をしている。
まぁ、確かにそうだろう。
「助けてやったんだ――悪いが、彼とこの黒いのに関しては他言無用でな」
「わ、解りました……」
皆でシャザームに乗り込んでいると、暗闇から鳴き声が聞こえてきた。
「ギャースケ!」「ダイスケ!」
戦闘になったんで、どこかに避難していたハーピーたちが戻ってきたようだ。
「ひっ!? ハーピー!?」
突然現れた魔物に冒険者たちが驚いている。
まぁ、俺たちはなんの問題もなく接しているが、これが普通の反応なんだよなぁ。
「ああ、大丈夫大丈夫! こいつらは、俺に懐いているから」
「ダイスケ!」
「人間の言葉を?!」
「はは、こいつは少々知能が高くてな」
チチの頭をなでてやる。
「ギュ~」
「し、信じられない……」
「役に立つ連中だから、攻撃とかしないでくれよ」
「わ、解りました……」
呉越同舟――それは、ありえぬ者たちが共に移動する奇妙な光景だろう。
宙を舞うのは、得体のしれない生物の変化した漆黒の絨毯。
闇を吸い込むような深い黒が、迷宮の空間を滑るように進んでゆく。
その上には、到底相容れぬはずの存在たちが肩を並べて座っていた。
片や、血と汗にまみれた冒険者――装備に残る傷跡が、彼らの数多の戦いを物語る。
片や、ふさふさな羽毛をまとった翼を持つ魔物――俺にくっついて、スリスリしている。
もう一人のオッサン――金や白の聖衣はまとってはいないが、神の代行をするという異世界からやってきた使徒。
「……」
この状況に緊張しているのか、冒険者たちは口を開かない。
沈黙のときがしばし流れると、俺たちが以前キャンプした部屋が見えてきた。
中を覗くと――中にまた宝箱が湧いている。
こいつはミミックだと解っているのだが、もしかして普通の宝箱と入れ替わることもあるのか?
「シャザームパンチ!」
テツオに頼んで、軽く攻撃してもらう。
黒い拳に変化したシャザームが、宝箱を軽くパンチした。
そのまま潰してもいいのだが、普通の宝箱で中のアイテムが壊れたりしたらもったいないし……。
なんてことを考えていると、箱の蓋が開いて中から多数の触手が出てきた。
「あ、やっぱりミミックなのか……」
「うわぁぁぁぁ!」「ヒィィ!」
一緒に連れてきた冒険者たちは、見たこともないミミックに驚いている。
ここのタイプは上層にいるミミックとは種類が違う。
より強力なタイプで、攻撃力もありそうだ。
「ダイスケ、このまま俺が倒してもいいか?」
「ああ」
テツオの言葉に反応して、シャザームが黒い槍になると、ミミックの触手を潜り抜ける。
そのまま魔物の中心部分に突き刺さった。
うねうねしていた触手が突然電池が切れたように、一斉に床に打ちつけられる。
動きを止めた無数の触手だが、先っぽだけがピクピクと動いていた。
「収納!」
このままだと邪魔なので、ミミックの亡骸をアイテムBOXに収納する。
「アイテムBOX!」
冒険者たちが、俺の能力に驚く。
色々とアイテムを渡したのに、俺がアイテムBOX持ちのオッサンだと解っていなかったようだ。
「桜姫やエンプレスと一緒にアイテムBOX持ちのオッサンがいるって、有名になっていたと思ったが……」
「いえ、話は聞いていたのですが、イメージと違ってたので……」
俺がごく普通のオッサンなので、面を食らったのかもしれない。
それを言えば、神さまの使徒なんてのをやっているテツオも、見るからに普通のオッサンだ。
「ほら、オッサン!」
イロハがミミックの所に行って、なにかを拾ったようだ。
テツオに向かってそれを投げた。
彼は直接受け取らず、シャザームが途中で掴んだ。
それを見ると――どうやら短剣っぽい。
「イラネ! ダイスケ!」
それをそのまま、俺に投げ返してきた。
「こんな深層でドロップしたんだ。多分、エンチャントがついている短剣だと思うぞ?」
「俺の武器なら、これがあるからな」
彼がどこからか、真っ黒でデカいメイスを取り出した。
形状は、上に突起物がついた普通のメイスだと思うのだが、なにか異様な感じがする。
「なんか異様なんだが……なにか魔法のメイスとかそういうのか?」
「いや、普通の鋼鉄製のメイスだが、魔物や人間の頭を数千単位でスイカ割りしているからな、わはは!」
彼は当たり前のように笑っているのだが――黒いのは、人間や魔物の生き血を吸っているから、そうなってしまったのか?
ものを大事に使うと、付喪神が宿ったりするが、その逆状態になっているとか……?
彼が暮らしていたという異世界は、どれだけの修羅場なのだろうか――恐ろしい。
「うう……」
意識不明だった男が、回復で目を覚ましたようだ。
女性が紫色の回復薬を飲ませている。
「安全地帯だし、飯にするか?」
「いいねぇ!」
イロハが真っ先に賛成した。
「姫、どうする?」
「承知した」
一応、冒険者たちも確認する。
「飯は食えるか?」
「うう……助けていただき、ありがとうございます……」
病み上がりの男は、まだ無理っぽいな。
かなりつらそうだし、動けるようになるには、一晩ぐらいかかるかもしれない。
とりあえず、カロリーバーと、腐らないパンなどを渡しておく。
「ありがとうございます」
女性に礼をされた。
アイテムBOXから食事を出すと、真っ先にハーピーたちがやってきた。
「ギャースケ!」「ダイスケ!」
「わかったわかった」
冒険者たちも、お裾わけしたものを食べているようだ。
まぁ、ボコボコに敗戦して食欲はないだろうが、食べないと保たないだろう。
見れば、あまり荷物がない。
どうやら、戦闘中に落としてしまったようだ。
グレーターデーモンに追われたら、拾っている時間もなかったに違いない。
「あのひとたちどうするんでしょうか?」
「助けたほうがいいのか?」
俺の言葉をイロハは否定した。
「ダーリン、こんな深層までやってきているんだ。やつらも覚悟は決まっているだろ?」
「まぁ、そうだろうが」
「……」
姫もなにも言わない。
個人的には助けてやりたいところだが、シャザームもテツオも相棒だしな。
俺1人ではどうしようもないし、仲間に迷惑をかけることになってしまう。
部屋の片隅で打ちひしがれた冒険者たちを見ていると、唐揚げを咥えたテツオが彼らの所に向かってなにか話している。
「お前ら、これからどうする?」
「「「……」」」
彼らは顔を見合わせている。
「条件次第では、さっきの黒いのに乗せて、7層の入口まで運んでやるぞ?」
「ほ、本当ですか?!」「うう……」
彼らの中でも、意見が分かれているように思えてる。
「じょ、条件とは?」
「そりゃなぁ……」
テツオの目が、女性魔導師の身体を下から上まで舐めるように、視線が這っている。
神さま的に、それは駄目なんじゃないのか?
「ひ、人の弱みにつけ込みやがって!」
「ひでぇ~」「さいてーです」
イロハとサナからも侮蔑の言葉が漏れた。
「おっと、勘違いするなよ」
テツオの視線を見ていたら、勘違いすると思う。
「くっ!」
女性が露出していた太ももを隠した。
「お前ら、イザルって神さまの話を聞いたことがないか?」
「……イザル?」
「ああ、聞いたことがあるぞ。信徒になると、ダンジョンの外でも魔法が使えたりする……とか」
「そうそう、それだ。特に魔導師――今ならなんと! 信徒になれば、魔石の中の魔力を取り出せる術を教えてもらえる」
テツオが少し、仰々しく身振り手振りで話す。
「その話も聞きましたが、本当なのですか?」
女性魔導師が食いついた――興味が、ありそうである。
「あそこにいるエンプレスさんも、信徒になって魔石の魔力を使えるようになった。それができれば、魔力切れの心配も少なくなるし、大魔法だって連発できる」
「「「……」」」
「ううう……」
魔導師たちが悩んでいる。
魔石に魔力を溜めておけば、ダンジョン攻略の幅が広がる。
「――というわけで、イザルの信徒にならないか? そうなれば、俺は信徒を助けないといけないから、7層の入口まで運んでやれる」
「……」
しばらく考えていたのだが、女性が口を開いた。
「なります」
「決まりだな! マジで真剣に祈らないと駄目だぜ?」
「はい」
「イザルは目に見えぬ道を示し、耳に聞こえぬ声で語られる。あなたがその御心に触れたこと、これは運命ではなく選ばれし証。深遠なる真理を探求する女に祝福を」
女性が、祝詞らしきものを唱えるテツオの前で手を合わせた。
「……声が! 声が聞こえる!」
「よっしゃ!」
テツオが俺たちの所へやってきた。
「神さま的に、さっきのはいいのか?」
「ん~? なんのことかなぁ? 信徒になったのは、女の意思だからな」
「オッサン、絶対にそれだけじゃないだろ?」
イロハがテツオに疑いの眼差しを向けている。
「いやいや――だがな、信徒がイニシエーションを求めているなら、これは使徒としては断るわけにはいかないからな、わはは!」
「「……」」
女性陣から白い目を向けられても、オッサンにはまったく堪えない。
「それって、神さまからなにか言われないのか?」
「なにかって――信徒の面倒をみているだけだしな」
「確かにそうとも言えるが……」
「たとえばだな――ダイスケがいなくなれば、ここにいる女の子4人を好きにできるのに――とかは、もちろんアウトだぞ?」
テツオが、サナをチラリと見ると、彼女が下を向いてしまった。
おそらくは、サナはそういうことを神さまに願おうとしてしまったのかもしれない。
「エンプレスや、サナには手を出さないでくれよ」
「サナちゃんは聖女だし、ダイスケの仲間には手を出さんよ――というわけで、ちょっと野暮用ができたんで、ここで待っててくれるか?」
テツオが姫と交渉している。
「承知した。彼らをここに放置しても、無事に戻れるとは限らんからな」
「まぁ、そういうことだ。人道的配慮ってやつでさ、わはは!」
「うそくせぇ!」
イロハは、あくまでテツオを信用してない。
「オガ! 強い男がいいのだろ? その男に乗り換えたほうがいいんじゃないのか?」
「はは、冗談! 好みじゃねぇし」
「わはは! そりゃそうだ」
テツオはまったく気にしていない様子。
「それを言ったら、桜姫だって自分より強い男がいいと言っていたじゃねぇか!」
「冗談はよせ。私にはダーリンがいるし」
「まぁまぁ、前途ある若者は、俺みたいなロクデナシは止めておきな――わはは!」
彼が笑いながら、シャザームを出して広げた。
「それじゃ、戻ってくるまで、ここで待ってるよ」
「すぐに戻るぜ――ハイ・ヨー! シルバー!」
黒いのにシルバーとは、これいかに。
だいたい、若い人はそのネタは解らんと思う。
そもそも、俺の親父の世代のネタだし。
「あの……」
サナが俺の服を引っ張ってくる。
「なんだ?」
「ハイ・ヨーシルバーってなんですか? 呪文ですか?」
「ははは、違うよ。大昔のドラマでシルバーって馬が出てきたんだ。その馬に乗っていた主人公の掛け声みたいなもんだね」
まぁ、俺も親父から聞いて動画サイトで観ただけで、リアルタイムで観ていたわけじゃないが。
「へ~」
「サナのお爺さんなら、知ってるかもしれん」
どうでもいい話をしながら、飲み物を飲みつつテツオを待つ。
たまには休みも必要だが、1時間もしないうちにテツオが戻ってきた。
「へい! お待た!」
「早かったな」
「超特急だったからな、わはは! 連中、目を白黒させてたぞ」
多分、ぶっ飛ばしたんだろうな。
そのぐらいのスピードなら、魔物がポップしても、千切れるのだろう。
「シャザームは黒いのに、ハイ・ヨーシルバーはないんじゃないと話していたんだ」
「はは、俺の家に白い馬がいるからな。そのときのクセなんだが」
「馬もいるのか」
厩舎もあるし、結構デカい家らしい。
「ああ、街の中や近隣は馬で出かけたりするし」
彼は早く異世界の我が家に帰りたいようだ。
家族もいるようだし。
住めば都なんだなぁ……。
とりあえず、眼の前の心配ごとはなくなった。
これで先に進める。
再び、皆でシャザームに乗り込むと、7層の出口を目指した。
今回は途中の温泉には寄らず、先を急ぐ。
敵とのエンカウントもなしに、あっという間に出口にある中ボス部屋に到着した。
眼の前にはいつもの巨大な扉がある。
「いちいち、ここで戦闘をしなけりゃ駄目なのが、うぜぇな」
イロハの気持ちも解らんでもない。
「温泉のある場所から、出口に向かって細いトンネルがあるから、そこを使えば中ボス戦はないぞ?」
「そこは虫だらけって聞いたんだけど」
「そのとおり。それに出口はまた床から100mの高さだし」
「ダンジョンをクリアさせるつもりがないんじゃねぇのか?」
「そうかもしれないなぁ……」
「まぁ――ここのボスは、サナがいれば一発だけどな、あはは」
彼女の言うとおりだ。
「オガ! おしゃべりはそのぐらいにして行くぞ!」
「そうは言っても、やるのはサナだろ?」
「そのとおりだが、イレギュラーがあるかもしれないだろ。油断をするな!」
「おいおい、今フラグ立ったんじゃね?」
「それって……」
「あ……」
イロハとサナの言葉に、カオルコがマズい――みたいな顔をした。
皆の視線が一斉に姫に向かう。
「なんだ、その目は! 私が悪いとでも言うのか!?」
「「「……」」」
黙っている皆に、姫は憤慨してドアを押し開いた。
レベルが低い連中が間違ってここにたどり着いても、この扉を開けることができないかもしれない。
部屋に入った瞬間、空気が一瞬にして張りつめる。
壁を震わせるほどの巨大な咆哮が、まるで怒りと威圧を詰め込んだように空間を引き裂いた。
耳をつんざく音に、誰もが思わず身体を硬直させる。
予感は、最悪の形で現実となった。
そこにいたのは、いつものリッチではなく、圧倒的な存在感を放つ怪物——巨大なドラゴンだった。
全身を覆う鱗は黒曜石のように暗く鈍く光り、わずかに動くだけで硬質な音を立てる。
赤く燃える瞳がこちらを見下ろし、侵入者を威圧していた。
その姿は「レッサードラゴン」と呼ばれる下位種のドラゴンであることを示していたが、それでも人間にとっては十分すぎるほどの脅威だ。
体高はゆうに馬の倍はあり、歯の隙間から覗く熱を帯びた吐息に、空気がゆがむ。
「おおい! 桜姫!!」
真っ先にイロハが叫ぶ。
「私のせいだと言うのか?!」
「違うのかよ!?」
「言い争っている場合じゃないぞ! こいつを倒さないと、8層に行けないぞ」
「ダーリンの言うとおりだ」
「よっしゃ! たまには俺がやって、経験値稼ぎをするか!」
俺はアイテムBOXから、剣を取り出した。
「やるか! ダイスケ、手伝うぜ」
「それじゃ、レッサードラゴンの諸々、山分けで」
テツオが参加するとなると、撮影は止めておくか。
「わはは、ドラゴンの素材なら異世界でも価値があるからな」
「いくぞ!」
「よっしゃ!」
「ギャースケ!」「ダイスケ!」
ハーピーたちは、部屋の上をぐるぐる回るように飛んでいる。
「ハーピーたちは、戦闘に巻き込まれるなよ!」
「ギャ!」「ダイスケ!」
「テツオ! あいつをひっくり返せるか?!」
「はは、余裕だぜ! シャザーム!」
彼の足元から伸びた黒い影は、地を這いレッサードラゴンの巨体へと滑り寄った。
黒く光る鱗に覆われた腹部の下へと潜り込む。
まともに攻撃して、この鱗を突破できるとは思えん。
次の瞬間、シャザームはぐにゃりと形を変え、巨大な掌のような形状に変わる。
その掌は、重力を無視するかのように、ドラゴンの体を下から持ち上げ、一気に天へと突き上げた。
「ギャォォ!」
ドラゴンが叫び声を上げる。
まさか、持ち上げられる――なんて、思ってもみなかっただろう。
巨体は宙を舞い、仰向けに叩きつけられると、鱗がきしみ地面が震え、空気が揺れる。
黒い掌は一瞬、勝ち誇るように指を開いた後、再び影へと溶けるように地面に消えていった。
「よっしゃ!」
俺は、剣を振り上げてドラゴンの上にジャンプ。
ファンタジーの舞台に無敵のライバルとして出てくるこの巨大な魔物だが、攻略に使われる弱点がある。
一つは、目玉――ここは鱗に覆われておらず、脳みそにも近い。
一つは、口の中――ここにも鱗はなく、柔らかい粘膜だけで、ここも脳みそに近い。
一つは、逆鱗――ドラゴンの弱点としては、超有名。
そして残る一つは――どんな生き物でも、粘膜が露出している場所。
そう、生殖器と排泄器官だ。
「おりゃぁぁぁぁ!」
俺はひっくり返っているドラゴンのケツの穴に、剣を突き刺した。
「ギャォォォォン!」
部屋の中に、鼓膜が破れるんじゃないかと思うぐらいの絶叫が響き渡る。
レッサーとはいえ、このダンジョンに巣食う魔物の中では、ほぼ頂点に立つ存在。
その鋭い爪も、硬質な黒い外殻も、他の魔物たちを圧倒してきたはず。
恐れられ、近づくことさえ躊躇われる存在として、この地に君臨していたと思われる。
そんな魔物が、まるで何の抵抗もできないまま、無様に地に転がされた。
生物としての致命的な急所へ、容赦なく鋭い剣が突き立てられる。
魔物の叫びがダンジョンの闇に木霊した。
まるでそれは、自分が絶対であると信じてきた「王」の座を、一瞬にして引きずり下ろされるかのような屈辱。
まさか自分が――そんなはずがない――という困惑と絶望を抱え、彼の中には、確かに「理解できなかった」という思いが残っているに違いない。
レッサードラゴンには悪いが、これで攻撃は終わりではない。
「くらえぇぇぇ! ナムサンダー!!」
俺の怒号が空間を裂くように響いた瞬間、ドラゴンに突き立てた剣が青白い光を帯びて唸りを上げた。
次の刹那――鋼のように硬質な鱗の下に潜り込んだ剣先から、凄まじい電撃が一気に解き放たれる。
まるで雷鳴そのものを凝縮して叩き込んだかのような衝撃。
電流は剣を媒介にしてドラゴンの巨体全体へと一気に走り抜け、体表を這うように閃光が迸る。
「ギギィィィアアアアアア!!」
ドラゴンの咆哮が、苦悶と怒りの混じった絶叫へと変わった。
全身を痙攣させ、体内の神経を無差別に焼くような電撃に、誇り高き魔竜の威厳が崩れ落ちていく。
俺の手に伝わる剣の震えは、まさに生き物を貫き、雷がその命を揺るがしている証。
オゾンの匂いが鼻を突き、視界の端では部屋の壁までもが熱で歪んで見えた。
激しく痙攣していたドラゴンだったが、すぐにその動きを止める。
眼の前に小山のような身体が横たわっているのだが、タンパク質が焼けたちょっと香ばしいにおいが辺り一帯に立ち込める。
「ふう……」
久々にちょっと大物を仕留めたな。




