127話 再び攻略に出発
カオルコが出演した動画から、日本に――いや、世界にイザルの神さまの信徒が増え始めた。
やはりダンジョンに関係なく、不思議な力を貰えるというのが大きいのだろう。
なにか対価を求められるわけでもないしな。
冒険者をやっている魔導師たちにはさらなる恩恵がある。
魔石に蓄えられた魔力を有効活用する手段がもたらされるのだ。
これは冒険者としてはかなり大きい。
いざというときのための魔力のストックにもなる。
攻撃だけではなく、防御や回復にも使えるし、テツオからもたらされた異世界の魔道具。
あれを実用化するためには、魔石を電池にする知識と技術が必要なのだ。
そのハードルが一つクリアされたことになる。
一番欲しいのは、アイテムBOX代わりになる魔法の袋というアイテムだろうが、魔法のランプ一つでも、世界が変わる可能性を秘めているわけだ。
テツオが見せてくれたゴーレムモーターなどがあれば、魔力を動力にも変換できる。
それがダンジョン内だけではなく、地上の津津浦浦で利用できるかもしれないのだ。
イザルの神さまのことはさておき――。
俺たちは、8層の攻略のための準備を始めた。
7層をクリアしたということは、他の冒険者たちも7層に殺到する。
トップランカーはさらに先に進まなければならない。
姫は行くだろうし、そうなると俺も一緒に行かねばならない。
ライバルのイロハも当然前に進むだろう。
俺がダンジョンに潜れば、サナも一緒についてくる。
結局、皆が行くわけだな。
ダンジョンの果てに用事がある、イザルの使徒――テツオも一緒だ。
彼とは目的地が一緒なので、持ちつ持たれつという感じだな。
テツオとシャザームのコンビは超強力だし、これからエンカウントする強敵にも有効だろう。
彼の力を借りるのは、かなりズルかもしれない。
アイテムBOXというチート持ちの俺と、異世界の神さまの加護とチート持ちのテツオ。
これはズルすぎる。
ダンジョン前に、いつものメンバーが集合した。
「ダイスケ――そういえば、八重樫グループから金が振り込まれたぞ」
「おお、それはよかったな」
「羽田に行って、エメラルドのドラゴンの鱗ももらってきた。色々と助かったぜ」
宝石の鱗は、テツオも驚いたらしい。
異世界にもなかった代物だし、彼が帰った世界でも高く売れるかもしれん。
「こちらも、貴重なものを提供してもらっているからな」
「わはは、あんなのは異世界に行ったら普通に売っているものなんだけどな」
こちらではありふれたものでも、ある地方では貴重――なんてものは、この世界でもよくある。
テツオと話していると、1人の女性が近づいてくるのに気がついた。
袖がないタートルネックにデニム、肩掛けバッグにかかる金髪、外国人みたいだが――なにやら、思い詰めた表情をしているのが解る。
「テツオ」
「ん?」
彼に注意を促そうとすると、彼女がバッグからなにかを取り出した。
「キエェェェ!」
そのまま振りかぶって、襲いかかってくる。
「なんだ?!」
俺が反応するより早く、黒いものが女の手を掴んだ。
シャザームがテツオを守ったのだが、手を見ると――なにか注射器のようなものを持っている。
毒物? だろうか?
「I'll kill you!」
コレは俺でもわかった。
なぜか、外国人にテツオが狙われたらしい。
「ダイスケじゃなくて俺かよ」
彼も驚いたようだ。
「You scoundrel who pretends to be God!」
ゴッドと聞こえたから、神さま関係だと思われた。
黒いものに手を掴まれて、おんなが宙ぶらりんになっている。
それでわかったのだが、胸がデカい。
「なんだって?」
「神を騙る不届き者! って言ってるな、わはは。まさしく、俺が目当てか」
これはガチで殺しにきたと思われる。
やっぱり、注射器に入っているのは――猛毒だろうか。
「それをどうするんだ?」
「ん?」
テツオがニヤリと笑うと、シャザームの黒い身体が女を包みこんだ。
そのまま黒い穴に引きずり込まれて――。
「消えた……」
「女がどうなるのかは、あの女次第だな」
彼の不気味な笑みに、俺は声をかけるのを止めた。
テツオは常日頃、「俺を殺しにきたやつは、絶対に殺すマン」と自称していたし。
神の使徒を自称しているテツオのことを許せない、他の宗教関係者だろうか?
テツオは俺のサイトを使って、神の使徒であることと、神さまからもらった奇跡を披露している。
それが気に障ったのか?
突然のできごとに、姫たちも驚いているのだが、反論や意見などはないようだ。
神さま関係は不介入――という感じだろう。
まぁ、マジで俺たちには関係ないし。
「よぉ! ダーリン!」
人混みを分けてやって来たのは、デカい声のイロハ。
冒険者の装備、魔法のマイクロビキニを装備している。
姫やカオルコ、サナは、人目を気にして浅層ではローブを羽織っているのだが、豪快な女戦士はそんなことは気にしない。
威風堂々と、己が肉体を誇示している。
「イロハ、なにか面白いことはあったかい?」
「そういえば、幽鬼のやつがそのオッサンの神さまの信徒になったって話だぜ」
彼女は俺と一緒にテツオを指した。
「やっぱりか。まぁ、魔導を極める手段が目の前にあるわけだし、当然といえば当然か……」
「信徒がすごく増えたと、神さまも喜んでたぜ? ダイスケのお陰だ」
俺たちの話を聞いて、テツオが笑っている。
「やっぱりダンジョンの外で魔法が使えるようになるかもしれないのと、魔石の有効利用ができるようになるってのがデカいのだろう」
イザルの信徒になれば、なんらかの加護を貰えるのはたしかなのだが、ダンジョンの外で魔法が使えるようになるとは限らない。
そこら辺は、ダンジョンでの冒険者になれるかどうかの線引があるのと一緒だ。
「日本中どこでも魔法が使えるのが、普通になるのかもしれません」
カオルコの言葉だが、新しい神さまを受け入れるのが難しい人もいるだろうし……。
「テツオ――イザルの信徒になったら、寺とか神社とか駄目か?」
「別にいいんじゃね? 日本の神さま仏さまも、象徴みたいなものだろ? 本当に神さまがいるわけじゃねぇだろうし」
「やっぱり、受けいれられない人は出るだろうなぁ……」
「まぁ別に、信徒になるのを無理強いしているわけじゃねぇし、わはは!」
通常の信徒は、信仰を辞めれば身体の模様もなくなり、神さまからの加護もなくなるという。
「通常じゃないのもいるのか?」
「信徒より上位の、俺やら神さまが抜けるなと命令すれば、抜けられなくなるが……」
「そういうことがあるのか?」
「あるな。だが、そういう連中は、それだけのことをやらかしたから縛られるわけだ」
「なるほど……」
「ダイスケさん、キララさんも信徒になりましたよ?」
俺たちの所にサナがやってきた。
「え?!」
彼女の言葉に驚く。
「やっぱり、魔石に魔力を溜められるというのが、大きかったようです」
キララでも、あの魅力に抗えなかったか。
まぁ、魔導師ならなぁ……。
「あいつは、神さまとか信じないようなタイプだと思っていたのに……」
「そうでもなかったみたいですよ」
「素行不良も治るだろうか?」
「もう、そんなこともないですよ? 毎日しっかりとお祈りしてます」
「変われば変わるもんだ」
それはそうと――あいつもこの先どうするんだろうな?
いつまでもできる商売じゃないと思うが……。
話をしながら、ダンジョンに入った。
エントランスホールを抜けて、少々移動すると、人目のない所で、テツオのシャザームに乗る。
「おう、これこれ! これが便利すぎて、毎回乗りたいぜ!」
「イロハはすっかり、シャザームが気に入ってしまったみたいだな」
「楽ちんだし、乗り心地はいいし。雑魚敵の相手はしなくても済むし――最高だな!」
「うむ!」
姫もうなずく便利さだ。
「よっしゃ! 出発!」
テツオの号令で、シャザームが暗闇の中を疾走し始めた。
前と同じようにスピードはセーブされている。
漆黒の闇に包まれたダンジョンの奥深く、ひと筋の風のようなうねりが走る。
その中心にあったのは、まるで夜の影を塊にしたかのような、黒いシャザーム。
無音のまま、壁をかすめ、天井すれすれを滑り、崩れかけた石の柱を器用にかわしていく。
その軌跡は、闇に縫い目を刻むように流麗。
冒険者たちが使うケミカルライトの明かりが一瞬ちらつき、シャザームの身体の輪郭が浮かぶ。
それもまた一瞬、すぐに再び闇へと沈む。
「うひょうぉぉ!」
天井からイロハの声が聞こえてきた冒険者は、ビビるだろうな。
俺が笑っていると、すでに2層への連絡通路に入っていた。
そのままダンジョン内を飛び続ける。
「姫、7層でまた経験値稼ぎをするのか? それとも8層に?」
「8層に行こうぜ! 8層!」
イロハの心はすでに8層に向かっているようだ。
「そうだな――8層から始めてみよう」
「わかった」
「やったぜ!」
「それはいいが、4層か5層でハーピーたちを連れていく必要があるぞ」
「確かにな――あいつらがいないと迷子になる」
イロハは、すでにハーピーたちの力を信用しているようだ。
「テツオ、4層はちょっとゆっくりと飛んでくれ」
「オッケー」
「助かる」
「ハーピーが見つからなければ、俺の魔道具を使う手もあるぞ?」
「あ、そうか」
彼が持っている魔道具の中には、方向探知器のようなものがある。
親機をダンジョンの出口に設置すると、子機が常にそっちの方向を指し示す――というものだ。
これなら出口は解るが、次の階層への入口を見つけることができない。
やはり、ハーピーたちの力が必要だろう。
4層にはいると、シャザームは低速飛行に入った。
「ダイスケ、周回飛行したほうがよくね?」
「ああ、そうだな、頼む」
「よっしゃ」
広い場所でゆっくりと円を描いて飛ぶ。
暗闇に魔法の明かりが見えて、続いて爆発音が響く。
「おっと、近くで戦闘か」
「ハーピーたちじゃないだろうな?」
暗闇の中を飛行を続けていると、戦闘の音が聞こえてきた方角から、なにか飛んでくるのが見える。
「ギャースケ!」「ダイスケ! ダイスケ!」
この声はハーピーたちか。
「やっぱり彼女たちが魔法で狙われたのか」
「冒険者のご飯を狙ったんじゃないでしょうか?」
サナの言うとおりかもしれない。
「俺が、人間の食い物は美味いって教えちゃったせいかなぁ……」
「ダイスケさん、結構前からハーピーたちは、冒険者の食事を狙っていましたから」
「そうそう、エンプレスの言うとおりだぜ」
ハーピーたちは、ウ◯コ爆撃して冒険者が逃げたところで飯を漁ってたりしたので、すごく嫌われていたらしい。
シャザームはゆっくりと飛んでいたから、ハーピーたちは一直線に俺の所に飛び込んできた。
「ギャースケ!」「ダイスケ!」
「はいはい、魔法で追われたんだよな――可哀想に」
彼女たちをなでなでしてやる。
「ダーリン!」
姫が怒っているのだが、仕方ないだろう。
「ダイスケ、先に行くぜ」
「悪い、頼む!」
シャザームは、再び暗闇の中を滑るように進み始めた。
5層を飛ばし6層――そして7層に到着した。
シャザームに空中に静止してもらい、下を覗く。
壁は穴が開いたままで、ダンジョンによって修復されてはいないようである。
「他のパーティはいないようだな」
姫も下を見ていた。
「サクラコさま、隅に物資が積んであります」
「それでは、中に入っているパーティがいるのかもしれないな」
「皆、通路の中に入るから、もっと固まってくれ」
テツオがシャザームの形を変える。
通路を進めるぐらいの幅にしないと前に進めないからな。
皆が縦に2列に並ぶ。
それに合わせてシャザームも細長い形に変化した。
そのままぽっかりと開いた迷宮の入口に突入する。
「テツオさん、これ――マップです」
「おお、サンキュー!」
カオルコからテツオにマップが手渡された。
「シャザームは字を読んだりはできないのか?」
「目がないからな~、でも言葉は理解してくれるんだよなぁ」
人間や物がどこにいるのかあるのか、位置関係も把握しているという。
どうやって位置を掴んでいるのかは、解らないようだ。
コウモリのような超音波レーダー? 魔力を使っての探知か?
謎だ。
「あんなに正確に人間のマネができるなら、声帯も再現できれば喋れるようになるかもしれないぞ?」
「おお、それはおもしろそうだな! 結構知能はあるようだから、教えてみるか」
空気を溜め込んで風を送る機能と、薄い膜を震動させる機能があればいいわけだし。
細く伸びたシャザームの先に、テツオが魔法のランプを持たせた。
これで先が確認できるし、少しの明かりがあれば、俺たちもだいぶ視界が広がって助かる。
「姫、ここでの戦闘はどうする?」
迷宮を進めば、どうしてもエンカウントは避けられない状況もある。
「ダーリン、8層へ直接行こうぜ?」
イロハは、もう気分は8層らしい。
「俺に言われてもな。リーダーは姫だし」
「う~む……よし、決めた。魔物とのエンカウントはなるべく避けて、直接8層に向かう」
「よっしゃ! そうこなくっちゃな!」
イロハがバチンと拳を鳴らす。
「そうと決まったが……空中に浮いていてもエンカウントするんだろうか?」
「解らん」
俺のつぶやきに、姫が反応したが――まぁ、そうだろうな。
テツオの操縦によって、スルスルとシャザームが迷宮の通路を進んでいく。
振動も揺れもないので、飛んでいることを忘れてしまう。
「ここに突入した連中は、カオルコのマップを見て移動しているはずだから、そのうち合流するかもしれないが……」
「そうですねぇ……アイテムなどを探して小道に入ることもあるんじゃないですか?」
「それもあるだろうが――俺なら温泉をベースにして、そこから攻略するがなぁ」
「とりあえず、そこまでたどりつけなくね?」
イロハの言うことも一理ある。
ここは、なかなか厳しいからなぁ。
7層のことを考えていると、デカい戦闘音が聞こえてきた。
爆発音とともに、ダンジョンが震える。
おそらく魔法だが、それを使ったのが魔物か、冒険者なのか、判別はつかない。
「テツオ、マップの進路上か?」
「みたいだな」
やっぱり、こうなるか。
「回り道ができればいいが……」
現時点で迷宮のつながりが把握できていない。
ここで迷うと面倒だ。
「ゆっくりと近づくとしよう」
「了解」
姫の指示で、俺たちを乗せたシャザームがゆっくりと戦闘音がする方角へ進んでいった。
通路を進むにつれ、聞こえてくる戦闘の音が次第に激しさを増す。
まるで命を賭けた叫びのように迷宮の石壁にぶつかり、幾重にもこだました。
その合間を縫うように、重々しい爆発音が響き渡る。
青白い閃光が遠くの曲がり角を照らし、魔法の放たれた余波が空気を歪めた。
轟く音とともに風圧が押し寄せると迷宮が震え、壁のひび割れが微かにきしみ、粉塵が舞い上がる。
「近いぞ」
そう思ったら、どうやら様子がおかしい。
「うわぁぁぁ!」
「だ、だれか助けてくれぇぇぇ!」
「きゃぁぁぁぁ!」
戦闘音から善戦していたと思ったら、そうでもないらしい。
これはピンチになっているのではないだろうか?
「姫!」
「やむを得ん!」
「まぁ、こんな感じじゃ、横から倒しても文句は言われないだろ」
イロハも姫に同意した。
とりあえず、人命救助だ。
いくら自己責任のダンジョンとはいえ、ここで見捨てるのは少々マズイだろう。
知らない場所でくたばったというのなら、俺たちの預かり知らないことなんだが。
現場に到着すると――黒い巨体が、負傷した仲間を背負った冒険者たちを追い回していた。
どうやら、グレーターデーモンとエンカウントしたらしい。
ここでも、一番厄介な敵だ。
それにしても――この状態なら、魔物は負けているほうに一気に止めを刺せると思うのだが、そうはしていない。
思うに、敗北者たちを追い回し、いたぶって楽しんでいるのではなかろうか。
――ということは、人間並の知能があるということだ。
「ダイスケ! やべーぞ! 俺が殺ってもいいか?」
惨状を見てテツオから提案がされた。
「姫!」
「非常事態だ、任せる!」
「おっしゃあ!」
敗走する冒険者たちにグレーターデーモンのパンチが迫る。
これをメメタァと喰らえば、人間などミンチだろう。
「ぎゃぁぁぁ!」
迫りくる巨大なパンチを、黒い掌が受け止めた。
俺たちを降ろしたシャザームが、敵の攻撃を防いだのだ。
「グゴ!?」
突然現れた黒い敵に、グレーターデーモンも困惑しているように見える。
「よっしゃ!」
テツオが鋭く気合を上げたその瞬間、巨大な黒い腕が鋭利な刃物で断ち切られたように、まるで抵抗を見せる暇もなく、きれいに両断された。
断面は信じられないほど滑らかで、音さえも立てずに切断された腕は、重力に従って無様に床へと落ちる。
鈍い衝撃音とともに、黒い腕は床に転がり、なおもびくびくと痙攣していた。
そこからは闇のような黒い液体がじわじわと滲み出し、冷たい石床を染めていく。
「グゴォォォ!!」
突然腕がなくなったデーモンが、迷宮が震えるような叫び声を上げた。
まさか、自分がいたぶって遊んでいた小動物に反撃されるなど、夢にも思わなかったに違いない。
「いくぞぁ!」
相棒の黒い波に乗って彼がジャンプすると、腕を横に一閃。
武器すら見えず、ただ空間が裂けたかのように、鋭い気配だけが残った。
次の瞬間、デーモンの頭が半分の所で水平にズレる。
「グォォォ!」
魔物が叫ぶと、頭のズレが大きくなり、そのまま床に落下して鈍い音を立てる。
それでも、動きを止めていない。
「これでも死なないのか?!」
頭が半分なくなっているため、視界はもうないはずだ。
その証拠に、黒い巨躯が方向を見失って、壁に衝突している。
「シャザーム!」
テツオの声に反応した黒いウネウネが鋭い槍状に変化した。
そのまま弧を描き、魔物の真上に上昇すると急降下。
90度の角度で魔物の露出した頭に突き刺さった。
「うわ!」
思わず、俺の隣にいたイロハが声を漏らす。
こんな攻撃は、普通じゃ見られない。
黒く巨大な槍が、そのままデーモンの魔物の体を貫き、胸から飛び出した。
槍は拳に変化しており、体液が滴り落ちなにかが握られている。
おそらくは――魔物の動力となっていた魔石だろう。
凄まじい攻撃に、さすがのデーモンも動きを止めた。
巨体をこわばらせビクビクと痙攣し、苦悶と恐怖の入り混じった呻きが、喉の奥から漏れ出す。
敵の口からは黒い泡があふれ、身体は断末魔のように震え続けていた。
魔物の攻撃も恐怖だが、シャザームの攻撃も恐怖だ。
これが俺たちに向けられたら、防ぎようがない。
ビビる俺に、シャザームが大きな魔石を預けてくれた。
そのまま受け取ると、まるで逆再生のように黒い槍がデーモンの身体から引き抜かれて、テツオの元に戻っていった。
「ヒッ!」「ヒィィィ!」
助けた冒険者らが、俺たちを見て顔を引き攣らせている。
まるで、死神を見たかのような顔だが――失礼な。
見れば、よくあるローブ系のファンタジー装備の男が3人、露出が高いワンピースの女性が1人――おそらく魔導師のパーティ。
1人は意識がない。
よくあるパーティ構成だが、他にもいてやられてしまった可能性もある。
「心配するな。助けにきただけだ」
姫が投げかけた優しい言葉に、冒険者たちも、助けられたと察したのだろう。
表情が緩むと、そのまま抱き合って嗚咽を漏らし始めた。
「回復薬は持ってるか?」
「つ、使い切ってしまって……」
俺の問に女性が答えてくれた。
「あまりたくさんはあげられないが」
アイテムBOXから出した、回復薬を3本ほど女性に渡す。
「あ、ありがとうございます」
「カオルコ、回復だ」
「承知いたしました」
姫の指示にカオルコが治療をするようだ。
相手は、意識のない男性。
かなり重傷に見えるが、回復と回復薬でなんとかなるだろうか。
「あ、あの! 桜姫さまとエンプレスさまですか?!」
「さまはよしてくれないか」
姫が、困った顔をしている。
カオルコはいつもさまづけで呼んでいるのだが、他人に言われると恥ずかしいのだろうか?
「姫、ここだと、また敵とエンカウントするかもしれない」
「うむ」
「前にキャンプした部屋が近い。そこに避難しよう」
俺たちは、以前に訪れた部屋を目指すことになった。




