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12話 バグ技?


 ひょんなことから助けた爺さん――彼には孫娘が2人いた。

 1人は俺が持っていたエリクサーとやらで病気が治った小さい子。

 もう1人は高校生ぐらいの女の子だ。


 歳は高校生だが、学校には行っていない。

 家族を養うためにバイトをしているというのだが、その彼女が冒険者になりたいという。

 バイトでは家族を養っていけないので、稼げる冒険者になろうというのだろう。

 こんな危険な仕事は、女の子にはオススメできないのだが、彼女には生活がかかっている。

 すでに覚悟完了しているし、俺が口を挟めない。


 俺が先導してダンジョンに潜り、魔物を倒すと――彼女にもステータスが表示された。

 魔法も覚えたので、魔導師生活の始まりだ。

 その彼女だが、俺とパーティを組みたいらしい。


 よく解らんうちにレベル49という冒険者になってしまったが、別に攻略ガチ勢ではない。

 暗いダンジョン内に、女の子がいたほうが潤いが増すってもんだ。

 それに、こんな若くて可愛い女の子を、他の冒険者どもの中に放り込むわけにはいかん。

 羊を狼の群れの中に放り込むようなものじゃないか。


 爺さんには、孫を頼むと――お願いされてしまったしな。

 ここは大人の責任というものがある。


 宿屋の部屋で、サナと話す。


「う~ん、それじゃパーティじゃなくて――俺がギルドを作るから、そこに入ったら?」

「いいんですか?」

「もちろんだよ」

「よろしくお願いします!」「します!」

 ペコリと頭を下げたサナを見て、ミオが真似をした。


「それじゃ、この部屋を貸し切ってギルドの本部にしようと思う。いいかな?」

「はい」

「悪いね、俺も金に余裕があるわけじゃないから」

「あ、あの……」

「なんだい?」

「私たちもここに泊まってもいいですか?」

「いや~、俺はいいんだけど……俺も一応、男なんだけど……」

「ダイスケさんなら大丈夫だと……」

 なにがどう大丈夫なんだ。

 信頼してもらって嬉しいし、自分の子どもぐらいの年齢の子に手を出したりはしないけどさ。


 とりあえず、話は決まったので、1階に下りるとカウンターのオバちゃんに話しかけた。


「お爺さんは帰ったけど、その子たちは残っているのかい?」

 オバちゃんが、じろりとサナたちのほうを見た。

 怖いのか、ミオがお姉ちゃんの後ろにサッと隠れる。


「お姉さんのほうは、冒険者になるんだよ」

「はぁ~」

 オバちゃんがため息をついた。

 やっぱりこういう若い子が冒険者なんて商売をやるのに、いい感情を持っていないっぽい。


「この子たち――お姉ちゃんが、家族の生活費をダンジョンで稼がないとだめなんだよ」

 俺の話を聞いた、オバちゃんがピクリと反応した。


「はぁ――世も末だねぇ……」

「妹ちゃんは病気で、ダンジョンでポーション使って治療をしたんだぜ」

 本当は、エリクサーぽかったけどな。

 言っても信じてもらえそうにないから、回復薬ポーションでいい。


「それで、治ったのかい?」

「なんだか調子はよさそうだよ――なぁ、ミオちゃん」

「コクコク」

 姉の後ろに隠れていた彼女が、小さくうなずいた。


「俺が泊まっているあの部屋なんだけど――貸し切りで1日1万5000円でどう?」

「……仕方ないねぇ――って、一緒の部屋なのかい?」

「構いません」

 サナが、オバちゃんを見て答えた。

 覚悟完了している彼女の顔を見て、オバちゃんはなにも言えなくなってしまったようだ。


「わかったよ……」

「よし、やったぜ」

「ありがとうございます」「……」

 サナがオバちゃんに礼をした。

 ギシギシと鳴る階段を上って、またあの四方がモルタルの部屋にやって来た。


「……それにしても、なにもないですね」

「そうなんだよ。でも、ここで一番安いから仕方ない」

「はい」

 う~ん、彼女たちと一緒に行動するなら、話しておかないとだめだろうなぁ。

 隠したままじゃ、なにもできないし。

 もちろん、アイテムBOXのことだ。


「……サナ、俺たちは一蓮托生だよな? あ、解るか? 一蓮托生」

「わかりません……」

「そうかぁ――まぁ、簡単に言えばマブダチになったってことだよな?」

「はい」

「人に話せない秘密も共有しなくちゃならない」

「……わかりました」

「本当?」

「はい」

 まぁ、覚悟はできているようなので、話を進める。


「俺の秘密はこれだ」

 アイテムBOXから、エアマットを取り出した。


「なんか出た!」

 突然現れたものに、黙っていたミオが反応した。

 毛布も出してやる。


「これがなんだか解るか?」

「……もしかして……アイテムBOXですか?」

「そう――人には知られたくないから、絶対にしゃべらないように」

「コクリ」

 彼女が黙ってうなずいた。


「ミオちゃんも――オッサンがなにもない所から、なにか出した! とか言わないようにね」

「わかった!」

 本当に解っているのだろうか。


「サナ、カレーはどうだった? 芋ばっかりだったろ?」

「美味しかったです」

「ウチで芋を作っているから、マジで芋だけはあるんだよ」

「このお芋はダイスケさんの所で作ったんですか?」

「そうそう、そんなに大きくない畑なんだけどな。自分で畑を耕して、自分で収穫してな。自分の食い扶持だけを作ってた」

「お芋食べ放題……」

 話を聞いていたミオがつぶやく。


「サツマイモも作っていたけど、毎日毎日芋だからなぁ……食い物がなかったから仕方なかったけど」

「けど、腹ペコよりは……」

「はは、そうだな――よし!」

 このあと、やることもない。

 思い立ったが吉日。

 ギルドの登録に行ってくるか。


「どうしたんですか?」

「サナ、これからギルドの登録に行くか?」

「はい!」

 ギルドとパーティーの違い――パーティーってのは、単にメンバーを組んだだけ。

 なにかあっても口約束で、なんの義務もない。

 それと違い――ギルドには、仲間を守ったり面倒を看たり、分前を与える義務が発生する。


 パーティーはその場で組まれて、ダンジョンから出たら解散だが、ギルドはそうはいかない。

 役所に行ってメンバー登録しなければならない。


 早速、サナと一緒に役所に行った。

 俺が登録したときと同じ女性職員がいたので、その人の窓口に向かう。


「あの~、ギルドの登録をしたいんですが……」

「はい、メンバー――そちらの女性だけですか?」

「はい」

「……」

 やっぱり、職員の目が冷たいような気がする。

 高校生ぐらいの女の子を連れ回しているとか、そんな感じで見られているのだろうか。

 まぁ、傍から見たら、そのとおりだからな。

 仕方ない。


「彼女、ちゃんと正式な冒険者になったんだから問題ないでしょ?」

「ええ、まぁ……」

 俺とサナの冒険者カードを提出した。


「ギルド名をここに記名してください」

 職員がタブレットを差し出した。


「あ!」

 そういえば決めてない。

 すっかりと失念していた。


「サナ、ギルド名はどうする?」

「ダイスケさんが決めていいですよ」

「オッサンのセンスを舐めると、大変なことになるぞ?」

「大丈夫ですよ」

「本当か?」

 彼女が笑っているのだが、本気にしていないようだ。


「……」

 女性職員の目が冷たい。

 それはさておき、どうしたもんか。


 俺がレベル49だから、フォーティナイナーにするか。


「それじゃ、フォーティナイナーで」

 5分ほど待っていると、名前を呼ばれた。


「丹羽さ~ん」

「はい」

「これで、ギルド登録されました」

「ありがとう」

「登録されたことによって、取引金はギルドの口座に入ることになります」

「そこから分配しろということですか?」

「そのとおりです。それから、毎月積み立て金が取られますから、ゼロにしないでください」

 引き落としの遅延などがあると、存続不能と見なされてギルドの資格が取り消されるようだ。

 積み立て金は、ダンジョン内で死亡したメンバーなどが出た場合に、補償などに使われると言う。

 なるほどなぁ。


「それと、ギルドの運営年数によって、脱退したときにも一時金が出ます」

「へ~ありがとう。口座はゼロにしないようにするよ」

「そんな女の子を路頭に迷わすようなことはしないでくださいよ」

「ははは」

「ダイスケさんは、すごいんですよ! そんなことはしません!」

「……うう」

 女性は、サナから反撃を受けると思っていなかったようだ。

 タジタジになっている。


 とりあえず手続きは済んだので、役所から出た。


「ふん! 失礼ですよ」

 役所から出たサナが憤慨している。


「まぁ、傍から見たらオッサンが女の子を連れ回しているように見えるのは仕方ないよ」

「私の他にも女の子はたくさんいるのに」

「そりゃ、いるけど――オッサンと若い子の組合せってのはよろしくないんだよ、はは……」

 苦笑いするしかない。


 途中で晩飯を買い込み、夕方になってから食事にした。

 ミオも普通の食事をして問題ないみたいだな。

 マジでエリクサーってのは、超常のブツだな。

 オークションなんかに出したら、いくらつくんだろうか。

 不治の病の富豪などがいたら、いくら積んだって欲しいだろう。

 金で健康は買えないのだから。


「お腹が膨れたなら、1階のオバちゃんの所に行って、2人でシャワー浴びてきな?」

「!」

 サナは自分の腕をクンカクンカしている。

 いや、服は今日買ったばっかりだろ。


「昼間にあげたお金がまだ残ってるだろ?」

「……はい」

「女の子は綺麗にしておかないとな~」

 俺に言われるまでもなく、風呂かシャワーを浴びたかったのだろう。

 1回2000円らしいが、仕方ない。

 俺も、浴びたいところだが、金は節約しないとな。

 田舎に帰ればいくらでも入れるし。


 アイテムBOXに入っていた新品のタオルとシャンプーとボディソープをカゴに入れる。

 そいつを2人に持たせてやって、シャワーに行かせた。


 早くサナをレベル上げして、高レベルの魔法を覚えさせたいところだ。

 それで洗浄の魔法を覚えてくれるとありがたい。

 それだけで金が稼げる。


 暗くなってきたので、アイテムBOXから電池式の蛍光灯を出した。

 LEDが全滅して、また蛍光灯の時代が来るとはなぁ……。


 一度便利を覚えてしまうと、不便に戻るのは大変だが、魔石が半導体の代りになるからLEDの代りにもなるんじゃなかろうか?

 実際、そういう研究もされているらしいし。


 明かりを床に置いて、魔法について調べる――洗浄についてだ。

 血だらけ、泥だらけになっても、魔法で綺麗になるらしい。

 風呂にも入らなくてもよくなるな。

 いや、風呂は風呂で身体を洗うだけではないのだが……。


 俺がスマホを見ていると、頭にタオルを巻いた2人が戻ってきた。


(ライト)よ」

 サナが魔法を使ってくれた。

 小さな光の玉が部屋の中に浮かぶ。


「ここでも、魔法が使えるんだよな」

「はい、なんとか」

「でも、ダンジョンの中より暗いな」

「やっぱりダンジョンから離れると、魔法の効きも悪くなるみたいです」

「それじゃ、洗浄の魔法をかけてもらうときも、ダンジョンの前――とかのほうがいいってことか」

「そうですね」

 彼女たちの手にはジュースが握られていた。


「ボッタクられなかったか?」

「いえ、あのオバサンからいただきました」

「え? タダで?」

「はい」

 なんだ、強欲大家に見えたが、それなりに善人なのか?

 ミオもジュースを飲んで、俺のスマホをじ~っと見ている。


「ミオ、だめだよ」

「うん」

 まぁ、子どもだから、スマホをいじりたいんだろう。

 ゲームもできるしな。


「お姉ちゃんが稼いで、スマホを買ってやればいい」

「スマホなんて早すぎます」

「そんなことないし!」

 ミオが反撃しているのだが――それより、忘れていたことがあった。


「元気になったのなら、ミオちゃんの学校はどうする? 通ってなかったのか?」

「ここ半年ぐらいは、身体の調子が悪かったので休ませていました」

「まぁ、あの様子じゃ、学校に行くのもつらかっただろうし」

「はい」

「でも、元気になったのなら、学校は必要だと思うぞ」

 日本がグチャってしまったが、小中の義務教育はまだ存在している。


「……」

「学校に行けば、お姉ちゃんがダンジョンに潜っている間も安心だし、給食も出る」

 ぐぐってみると、特区内にも学校がある。

 そりゃ、子育てしながらダンジョンに潜っている人もいるからな。


 学校のことを調べてみると、評判は悪くない。

 少々治外法権的なところがある特区だが、学校の治安は守れているようだ。

 まぁ、そうしないと心配で、ダンジョンでの仕事ができないからな。

 そこらへんは、国も考えているということだろう。


「あの……ミオが転校するとしたら、住民票を移さないとだめでしょうか?」

「本来はそうだが、ここは特区だからなぁ。一時的に出稼ぎに冒険者やっている人も多いだろうし、住民票を移してない人がいるかもしれないなぁ。役所に行って聞いてみたら? 学校に直に行って聞いてみる手もあるよ」

「わかりました」

「心配なら一緒に行ってやるが……」

「大丈夫です」

 俺は点灯していたままの蛍光灯を収納することにした。

 魔法の明かりがあるのに、もったいない。


「収納」

 眼の前から蛍光灯が消えたのだが、俺はあることを思いついた。

 この特区にあるダンジョンってのは、仕組みがゲームっぽい。

 このアイテムBOXもだ。


 ゲームには、バグがつきもの――と、いうことは……。

 アイテムBOXから入れたり出したりすることで、なにかバグが起きたりしないだろうか?

 ゲームで装備を高速で脱着することでバグが起きたりするし。


 たとえば、ものが2重になって、無限増殖できたりとか?

 そんなことができたら、あっという間に大金持ちだ。

 貴重なアイテムだろうがなんだろうが、増やしたい放題。

 そうなれば、危険な冒険者なんて商売をしなくても済む。


 とりあえず、思いついたことは試さないとだめな性格なので、やってみる。


「――と、その前に」

 俺はアイテムBOXから、玩具を取り出した。

 透明な箱の迷路の中を玉がコロコロ転がる玩具と、水が入ったケースの中に輪っかが浮いている玩具だ。

 電池も使わないで楽しめるアナログ最強。


「ミオちゃん、スマホは無理だけど、これなら貸してあげる」

「コクコク!」

 姉妹は俺の渡した玩具で遊び始めた。

 単純な玩具だけど、これが結構楽しいのよ。


 それよりもだ。

 アイテムBOXの仕様を試してみよう。

 眼の前の蛍光灯を入れたり出したり、ステータス画面のボタンを連打しまくったり。


「オラァァァ!」

 アイテムを高速で出し入れしていると、異変が起こった。

 蛍光灯が空中で止まったままになっているのだ。

 しかもステータス画面では、収納されていることになっている――バグだ。

 触ろうとしてみたが、空振りした。

 まるで幽霊だ。


 これは面白い。

 蛍光灯はスイッチが入ったままで収納されているので光っている。

 今までの経験則からいって、アイテムBOXの中は時間が止まっているか、ゆっくりと流れている。

 光っているということは、電池を消費しているのだろうか。


「う~ん」

 しばし考える。

 電池の消費は問題ではない。

 この光った状態で、ダンジョンの中に持ち込めないか?

 ダンジョンは物理の現象をひん曲げる。

 さらに物理を無視しているアイテムBOXで、ダンジョンの裏をかけないだろうか?


 アイテムBOXに入れたまま、ダンジョン内で電気機器を使えるということになれば、夢が広がる。

 照明の問題だけではない。

 たとえば、ダンジョン内の撮影もできるかも。

 動画が撮れれば、動画サイトで稼ぐことも可能になるぞ。


 こりゃ、大儲けの予感。

 とりあえず、この裏技を使って異空間で電気機器が使えるかどうかの実験だな。


 蛍光灯を取り出して再び収納すると、俺はアイテムBOXから芋を取り出した。

 皮を剥いていない、生の芋である。

 プラのボウルを取り出すと、10個ほど選んだ。


「お芋!」

 眼の前に現れたジャガイモに、ミオが反応した。


「なんだ、ジャガイモが珍しいのか?」

「うん」

 ミオがジャガイモを覗き込んでいる。


 まぁ、身体の調子が悪かったんじゃ、台所で手伝いなどはしてなかっただろうし。

 そもそも、流通が壊滅している今じゃ生の野菜は高価だ。

 そう考えると、東京にいる人たちは、普段からなにを食っているのか気になる。


 それはさておき、姉妹がここのオーナーからジュースをもらったようだし、しばらく厄介になることになる。

 少し媚びを売っておこう。

 俺はジャガイモを持って、カウンターに向かった。


「どうしたい? シャワーかい?」

「いや、芋はどうかと思ってな」

「なんだい、押し売りかい?」

「いや、タダだよ。女の子たちにジュースくれただろ?」

「そういうことなら、もらっておくよ」

 オバちゃんが、芋を受け取って、1個1個確かめている。


「まぁ、俺が作ったものだから、バラバラだぞ」

「へぇ~」

「味はそこそこな」

「……あの、女の子たちの面倒はちゃんとみるんだろうね?」

 彼女がじろりとこちらを睨む。


「もちろんだよ」

「そうかい……」

 オバちゃんがなにか考えごとをしている。


「どうした? そんなに俺は信用ないかい?」

「いや――私にも子どもがいたのさ……」

「いたって過去形かい?」

「ああ、世界が止まっちまったときにね」

 彼女の話では、当時子どもが病気になったらしい。

 当時は、電気もないし燃料もない。

 薬もなかったからな。

 かつてなら死ぬような病気じゃなかったが、手の打ちようがなかったという。


「ウチの田舎でも、年寄が死にまくったよ」

「そうだろうねぇ……」

「まぁ、生きてるのが奇跡みたいなもんだ」

「そうだねぇ」

「暗い話はさておき、お姉ちゃんがダンジョンで稼ぐ間、妹ちゃんは学校に行くらしいから、稼ぎが太くなるまで頼むよ」

「ウチは金さえ払ってくれれば問題ないし」

「はは、頼む」

 話はついた。

 こちらの事情を理解してくれているのは、ありがたい。

 人の事情なんぞ知ったこっちゃねぇ――けんもほろろってやつは、マジでいるからな。


「もう一度確認するけど、あんた大丈夫なんだろうね?」

 オバちゃんが、俺をジロリと睨む。

 俺が、子どもたちに手を出すんじゃないかと踏んでいるのだ。


「大丈夫だ」

「そうかい」

 あまり信用はされていないようだが、部屋を貸してくれればいいよ。


 部屋に戻ると、エアマットと毛布を女の子たちに渡す。


「いいんですか?」

「俺は寝袋があるからな」

 それでも、エアマットの追加を買ったほうがいいだろう。

 また船に乗って買い出しかぁ。

 いや、その前にアイテムBOXの裏技が本当に使えるかどうか、調べてみないことにはな。


 ――夜になったので寝る。

 オッサンなので、ちょっと格好をつけてみたが、やっぱりモルタル床に寝袋は身体が痛かった。

 少々値段が高くても、船に乗って往復する時間がもったいないし、特区でエアマットを探してもいいだろう。


 ――訳あり姉妹と暮らし始めて次の日。

 朝は、皆でパンと缶コーヒー。

 俺は1人分のつもりで食糧を集めていたが、この分だとすぐになくなりそうだ。


「はぐはぐ……」

 ミオが美味しそうにパンを頬張っているので、オッサンは和む。

 また、羽田で食料を仕入れてこないとだめだが、こういう場所じゃ調理ができない。

 一応、カセットコンロやらガソリンバーナーは持ってきているが、火は使うなって言われているし。


 ここの大家は、俺たちの事情を理解してくれているし、頼んだら場所を貸してくれるのではなかろうか?

 他の宿に移って、また最初から色々と説明するのは面倒だ。

 一緒に朝食を食べているサナとも話す。


「今日は、ミオちゃんの学校に行ってくるのかい?」

「はい」

 さすがに、小中学ぐらいは出ておかないとマズい。


「そうか、俺はダンジョンに行って、試したいことがある」

「わかりました」


 それはさておき、俺のアップしたハーピーの動画をチェックしてみると――。


「お?!」

 なんと、100万再生されているじゃないか。

 これなら早々に収益化できるかもしれない。

 もっと、色々と動画を集めないとな。


 なんでバズっているのかといえば、俺をカツアゲしようとした連中が動画のコメ欄で暴れていたせいらしい。

 さすがに、こいつらが所属しているギルドもお気持ちを表明したようで、荒らしは収まっている。


「ダンジョン攻略という困難を前に、冒険者が一丸となって立ち向かう必要がある。そのためには冒険者同士がギルドの垣根を越えて助け合う必要がある」――などと、書いているのだが、こういう綺麗ごとを言う連中は、そういうことに貢献していないことが多い。

 案の定、「助け合いってのは、カツアゲのことかよw」などと、ツッコミが入りまくっている。

 追加で燃料が投下されているので、余計にバズっているのだろう。

 当の本人の俺はまったく蚊帳の外だ。


 それでも、バズっているのはありがたい。

 上手くいけば収益化できるし、ギルド同士の争いなんて俺には関係ない。


 朝食のあと、姉妹は役所と小学校へ行ってみるという。

 俺は早速、ダンジョンに潜って実験だ。


 入り口の自動改札を抜けると、すぐにダンジョンの中へ。

 暗闇の中に溶け込むと、アイテムBOXから自転車を取り出した。

 真っ暗なので、このままじゃ危険だが、俺は暗闇でも目が見えるし問題ない。

 1層は人が多いので、そのまま2層に降りて、人気のない路地に入る。

 あまり奥に行くと、迷子になる可能性があるので注意しないとな。


「さて、やってみるか……」

 俺は、アイテムBOXから蛍光灯を高速で出し入れし始めた。

 機器の電源は入ったままで収納してあるが、ダンジョンに出現したときには消えている。

 これは、このダンジョンの特性のせいだ。


 なん回か試していると、空中で蛍光灯が止まった。

 俺の思惑どおり、光ったまま――成功である。


「やった!」

 俺はガッツポーズをした。

 照明は、アイテムBOXに入ったままになっているので、ダンジョンの法則から外れているのだろう。

 ただ、空中に浮かんだままなので、掴んだりはできない。

 俺の動きに合わせてついてくるが、照明だけ向きを変えたりは不可能。

 それでも、ダンジョンの壁などはしっかりと照らされている。


 掴めないのに、光子は出ているのか?

 いったいどういう理屈なのだろう――いや、考えるだけ無駄か。

 そもそも、魔法やらレベルやらが、「なんじゃそりゃ」って代物だし。


「こりゃすごいぞ!」

 暗闇でも目が見える俺には、照明は大したことではない。


 照明が動くってことは、電子機器も動く。

 もしかしたら、カメラを動かして動画を撮れるかもしれないってことだ。


 こりゃ、手っ取り早く金が稼げるかもしれないぞ。



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