114話 紋章隊
俺たちが知り合った、異世界からやって来たという男――テツオ。
彼が持っていた魔道具という魔石で動くアイテムなら、ダンジョン内で使える。
魔石の明かり、魔石のコンロ、俺が持っているアイテムBOXのような袋も魔法で作れるらしい。
それだけではない。
要は、魔石を電池代わりに使ったりできるようになる。
これはもうエネルギー革命だ。
こんなの世界が変わるだろ?
金になると踏んだ俺は、八重樫グループに売り込むことにした。
テツオも金に困ってるようなので、乗り気だ。
これらのアイテムは彼のいた異世界では、多少高価ではあるが日常的に使われているものらしい。
この世界で売っても、自分の世界に戻ればすぐに買い戻せる。
異世界では科学は発達していないが、魔法という文化が花開いているようだ。
テツオの持っていたアイテムを実際にダンジョン内で使えるのを確認。
彼の仲間が冒険者として登録するのを手助けして、ホテルに帰ると――。
漆黒のティルトローター機が空を裂くように舞い降りてきた。
その姿はまるで巨大な鳥が獲物を狙って滑空するかのように不気味だ。
翼は鋭く広がり、鋼鉄の羽ばたきが冷たい風を切り裂く。
それが落とす影はまるで大地に滲む悪夢のようで、俺の胸に不安が重くのしかかった。
「悪い予感がする……」
「ああ? あの飛行機か?」
テツオが俺のつぶやきに反応した。
「まぁ、このメンバーなら、どんなやつらが来ても負けはしないだろうが」
「解らんぞ? もしかして――俺の神さまと対立している神の尖兵かもしれん」
「そんな連中がいるのか?」
「いるんだなぁ、それが」
敵にも聖者や聖女がいて、そういう連中を相手に戦ってきたらしい。
「そいつはコトだぜ!」
「なんとかせにゃ!」
「「ははは」」
オッサン同士で意味は通じたようである。
若い子は、まったく意味不明な顔をしているし。
アホなことをしていないで、ホテルに入る。
俺たちの顔をみると、従業員たちがバタバタと走ってきた。
「どうしたんだ?」
「あ、あの――長谷川様のところに……その……」
「サナの所に?」
やっぱりさっきの黒いティルトローター機か。
「え?! 私ですか?」
彼女が驚いている。
まぁ、変な客といえば、俺の所が定番だったかな。
「は、はい」
「どこのどいつなんだ?」
「そ、それが――紋章隊だと……」
「紋章隊?!」
噂に聞いていた紋章隊とやらがお出ましか。
「げ?! 紋章隊?! 兄貴、やべーっすよ!」
「ああ、お前が言っていた、特区の外でも魔法だか力が使える連中ってやつか」
「そうっす!」
「それは解るが、なぜサナの所に?」
「解らないです……」
サナも思い当たる節がないようだ。
「う~む? 相手が行政機関じゃ逃げるわけにもいかんし……」
「逃げたら、指名手配とかされるんじゃね?」
「別に犯罪者じゃないぞ?」
「そこはなぁ――相手が政府関係者なら、どうとでもできるじゃん」
「マジで、それが本当なら、政府からの仕事を全部断ってやる……」
「ダーリン……」
姫が心配そうだが、なんだかよく解らんし、とりあえず行ってみるしかないだろう。
皆で特別通路を歩いて、その先にあるエレベーターに乗る。
「「「……」」」
エレベーターの中は皆無言で、1人を除いて緊張している。
飄々としているのはテツオだ。
まぁ、彼はこの世界には関係ないと言っているし、いざとなればあの黒い相棒とともに、どんな苦難でも乗り越えられるという自信があるのだろう。
彼の話が本当なら――異世界というのは、たくさんの神がいて、尖兵同士が戦う戦場。
数千単位で、人も殺しているというし。
考えごとをしているとベルが鳴ってドアが開いた。
通路には誰もいないが――キンキンとした女の怒鳴り声が聞こえてくる。
「キララさん?」
「そうだな、キララの声だ」
サナも声の主に気がついたようだ。
「揉めているんじゃねぇのか」
テツオの言うとおりだろう。
気の強いキララのことだ、紋章隊とやらに食ってかかっているに違いない。
「仕方ない、行くしかないか」
「はい!」
サナも覚悟を決めたようだ。
「え?! マジで行くっすか?」
「別にお前は隠れててもいいぞ? つ~か、関係ないし」
「へへへ、そうしま~す」
俺の言葉にイチローが後ろに下がる。
「ダーリン、紋章隊というのはかなり手強い連中だと聞くぞ?」
姫もやるつもりだ。
彼女とサナはいがみ合ってはいるが、冒険者同士だ。
部外者が相手となれば、冒険者を助けるほうへ回るのだろう。
「特区の外で悪さをする冒険者を捕まえたりするんだろ?」
「そうだ」
「ここなら、私の魔法もまだ使えますよ」
カオルコもやるつもりらしいが――魔法はかなり減衰する。
「まてまて、まだドンパチすると決まったわけじゃないぞ」
また通路を壊したりしたら、ホテルが気の毒すぎる。
今回はさすがに弁償したほうがいいと思うし。
通路を歩き、部屋に近づくと、声が一段とデカくなる。
角を曲がる――通路の赤い絨毯の上に、黒装束の連中が立っていた。
黒いスーツの上下に黒いネクタイをした、男女4人。
黒いグローブに黒い靴と、背筋は伸び、動作には迷いがない――そう、一見して只者ではない。
銀のアクセサリーなどもつけていそうだが、タダの厨二病患者ってことは、あるまい。
「なにか用か?!」
とりあえず、話しかけてみた。
「あ! ダイスケ!」
キララも俺に気がついたようだが、やっぱり彼女が揉めていたようだ。
紋章隊という連中も俺たちに気づき、こちらにやってくる。
先頭の女性がリーダーか。
黒いショートヘアに、まるで漆黒の刃のような存在感。
髪は耳のすぐ上で軽やかに揺れ、僅かに斜めに流れる前髪が、その鋭い視線をより際立たせている。
切れ長の目は冷静で鋭く、周囲を見渡すだけで場を掌握してしまうような強さを感じた。
「お前に用はない!」
「なに?」
女は、サナの前にいくと厳しい視線を彼女に送り、胸の内ポケットからなにか黒い物を出した。
「長谷川サナだな!?」
女性が前に出したのは、金色のレリーフが彫り込まれた黒い手帳。
「は、はい」
怯えたサナが俺にしがみついてきた。
「こいつら、サナを連れていくって言うのよ!」
キララが怒鳴っていたのはそのせいか。
「紋章隊だ! 我々と一緒に来てもらおうか!」
これが噂に聞いていた紋章隊ってやつか。
レアキャラとエンカウント――などと喜んでいる場合ではない。
こいつらの目的はサナなのだ。
「なぜ彼女を?!」
「特区外で魔法を使えるような者を野放しにしておくわけにはいかないからな!」
「ああ、解ったぜ、ダイスケ」
テツオが、なにか頷いている。
「なにがだ?」
「特区の外で魔法を使える連中をスカウトして、仕事をさせて監視しているのが紋章隊ってことさ」
多分、彼の言うとおりなのだろう。
「そちらの言い分は解ったが――ここは特区だ。公権力に従うつもりはないな」
「ほう――? 逆に言えば、こちらが力ずくで奪っても、罪に問われないのだが?」
どうやら、向こうもやるつもりらしい。
「こちらは、冒険者のトップランカーが揃っているんだぞ? 勝てると思っているのか?」
マジで、ここにいるのは冒険者のトップランカーに間違いない。
俺とサナは載ってないから、知らないかもしれないがな。
それにしても、紋章隊の力ってのは、そんなにすごいのか?
どう考えても、俺のレベルに敵う力があるとは思えないのだが……。
「ダイスケ、ダイスケ!」
後ろからテツオがやって来た。
「なんだ?」
「あの女を狙ってるのか?」
彼が、紋章隊の女を指した。
確かに美人だが……。
「そんなわけないだろ? 俺はサナを守りたいだけだ」
「む~」
後ろで姫が睨んでいるのだが……。
「姫――まさかこのままサナを差し出せって言わないよな?」
「そ、そんなことを言うはずがない」
「安心したよ」
姫だって、冒険者の意地ってものが解るはず。
「それじゃ、俺に代わってくれ」
テツオが俺たちの前にでた。
「え? いいけど……」
「へへへ……」
なにをするつもりなんだろうか。
「ダイスケ、あの男はなんなの?!」
キララが扉から首だけ出している。
「知り合いだ」
「なんだ、お前は?!」
突然出てきた無関係な男に、相手の女が戸惑っている。
「シャザーム! 後ろの男どもを狙え! シャザームパンチ!」
突如として巨大な黒い拳が空間を裂くように現れた。
生き物のようにうねり、しなやかな触手が伸び広がる。
まるで獲物を狙う蛇のように前衛にいた女性たちの間を縫うようにすり抜け、その軌跡すら掴ませない。
空気を切り裂く轟音とともに、後列にいた黒服の上半身に炸裂した。
衝撃を受けた男たちは呻く間もなく飛ばされる。
廊下の絨毯に叩きつけられると、ゴロゴロと転がっていった。
これは魔法ではない。
詠唱も準備動作もない。
突然現れた黒い拳に、なすすべもなく相手は床に転がった。
「え?! 魔法?! 初めて見る!」
キララと一緒に、同じギルドのエマという女の子も顔を出していた。
黒い拳はまるで意志を持っているかのように波打ちながらテツオに戻り、虚空へと溶けるように消えていった。
「貴様ぁ! 光弾よ! 我が敵を撃て!」
女の前の空間がゆらめき、そこからまばゆい光を放つ複数の矢が静かに生まれた。
女の指がわずかに動くと、光の矢が放たれ、鋭い閃光を引きながら空間を裂くように向かってきた。
通路に唸りが反響し、矢は一直線にテツオへと迫るが――。
彼の目前に達した瞬間、それらはまるで存在を拒まれたかのように、一瞬の輝きを残して消えた。
攻撃の余波すら感じられず、ただ静寂だけがその場に残る。
もしかして、テツオは魔法を無効化できるのだろうか?
「これは?! もしかして――対魔法?」
彼が起こした奇跡に、カオルコも驚き、俺と同じことを思ったようだ。
「いいえ――黒いのは、あの人が出した黒い穴に戻りました」
サナには出入り口がはっきりと見えているようだ。
「おい!」
紋章隊の女が声を上げた。
「ははは、なんだ?」
テツオがニヤニヤしている。
「今のはなんだ?! その穴は魔法か?! あいつらを弾き飛ばした黒い拳も魔法か?!」
「その前に――お前らもこの穴が見えるのか?」
「それがどうした?!」
「わはは! なんだよ、紋章隊っていうから、なにかと思ったら、ウチの信徒か」
テツオが使っているという黒い穴。
彼が仕えている神さまの信徒なら、それが見えるという。
サナも穴が見えると言っていた。
紋章隊の連中も見えるということは、実は信徒だったということなのかもしれない。
彼らが使っている、ダンジョン由来ではない力も、イザル――という神さまから、授かった力ということなのだろう。
「おい! 質問に答えろ!」
テツオがのらりくらりとしているので、紋章隊のリーダーらしき女が苛ついている。
「ウチの信徒ってことなら、身体に黒い聖刻があるんだろ?」
「セイコク?」
「身体にある、黒い模様だよ」
彼の言葉に漢字を当てはめるなら、聖刻――だろうか?
思いがけない言葉に反応したのか、彼女が手を自分の身体に巻きつけて、隠すような仕草をしている。
もしかして、そこに黒い模様があるのかもしれない。
「……」
「よし、ちょっと見せてみろ」
テツオが女にぐいっと近づいた。
「なぜ、私が!?」
彼女が拒否したのだが、当たり前だ――俺もそう思ったのだが……。
「おら、見せろ」
「あ、兄貴! マズいっすよ!」
後ろからイチローの声がする。
「マズくねぇから、黙って見てろ」
どうなるのか? 成り行きを見守っていると紋章隊の女に変化が現れた。
「え?! か、身体が……勝手に」
女の言葉とは裏腹に、白いブラウスをめくり始めたのだ。
その下から、美しく鍛えられた腹筋が現れたのだが――確かに黒い模様が見える。
「あ、あの、ダイスケさん……」
俺の後ろからサナの声が聞こえ、かなり心配しているのが解る。
「紋章隊ってのは、要は君と似たような力を持っている連中ってことなのか」
リーダーの女性の腹に黒い模様があったのだが、もう一人の髪の長い女性の腹にも、それがあった。
やっぱり、ダンジョンに依存しない力を持っている人たちには、こういう模様があるようだ。
「俺は信徒には親切だから説明してやろう。お前らが使っている力というのは、ある神さま由来のものだ」
「ふ、ふざけるな!」
女がテツオの言葉を強く否定する。
「そんでもって俺は――その神様の使徒。信徒からは聖者と言われている。つまりお前らより、立場が上なわけだ」
「ええ~っ?! あ、兄貴! やっぱりその設定でいくんすか?!」
「うるせぇな! 設定じゃねぇっての!」
どうやら、仲間からも信じられていないらしい。
「そんな戯言を信じろと言うのか?!」
確かに、神様なんだと言われて、すぐに信じることができるのかと問われれば、かなり胡散臭いのは確か。
「よし! 手加減したんだ。後ろにいる男どもは生きているだろ!」
「「……」」
彼の言葉どおり、絨毯に転がっていた男たちが起き上がった。
「お前らには興味がねぇから、帰ってもいいぞ? 必要なのは女どもだけだ」
「「……」」
テツオの言うとおり、黒服の男たちが帰り始めた。
服はヨレヨレで、口から血が出ているのだが、歩けている。
「おい、お前たち!」
女性が必死に止めるのだが、男たちの歩みは止まらない。
「も、申し訳ございません! この男の言うことに逆らえないんです!」「わ、私もです!」
まるでギャグを見ているようだが、ふざけてこんな寸劇をやっているわけがないから、テツオの言うことは本当なのだろうか?
「よしよし、男なんていらねぇからな」
「私たちをどうするつもりだ?!」
さすがに、女たちの顔に不安の陰が見える。
「どうするって、そりゃ決まっているだろ? よし、その場でズボンを脱げ」
「な、なに?! そんなことを……」
女が反抗しようとしているのだが、あっさりと黒いパンツを脱いだ。
「きゃっ!」「きゃあ」「お~おっ!」
女性からは悲鳴――アオイとサナか。
イチローの歓声も聞こえるが、姫とカオルコは平然としている。
「よし、尻を向けろ」
「や、止めろぉぉぉ!」
紋章隊の女たちが叫んでいるが、身体は止まらない。
テツオに白いお尻を向けた。
彼が、なにかやっている。
「くっくっくっ――思ったとおりだ」
「な、なにが思ったとおりなんだか」
なにか変わった所があるとか?
「よしよし、俺が可愛がってやるからな」
「や、止めろぉ!」「た、助けてぇ!」
さすがに、女性たちに泣きが入ったのだが……。
「いやぁ――サナを強引に連れて行こうなんて輩は、俺たちの敵だしなぁ。助ける義理はないよなぁ」
「ウヒヒ」
テツオがなにかを堪能している。
「いやぁぁぁ! 広げないでぇ」
いったい、なにを広げているのだろう。
謎だ。
「「「うわぁ、さいてー……」」」
サナとキララ、そのほかの子たちも、白い目をテツオに向けている。
「う……」「ドン引き……」
姫とカオルコもドン引きだ。
「わ、わかった! 止めるぅぅ!!」
「はぁ? なにを?」
一応、確認はしないと。
「長谷川サナを連れていくのを止める!」
「ふぅ……」
サナを諦めてくれたのはよかったが、テツオが大人しく話を聞いてくれるだろうか?
「テツオ、いいかな?」
「ええ~?!」
彼はすごく嫌な顔をしながら、女たちの尻をもみまくっている。
気持ちは解らんでもないが……。
「頼むよ」
「しゃーねぇなぁ……でもよ!」
彼がリーダーの女の尻をパチンと叩いた。
「にゃあぁぁぁ!」
女の叫び声が廊下にこだまして、ビーンという反響音が響く。
「でもよぉ……こっちむけ」
「うう……」
女が立ち上がってテツオの正面を向くと、彼が鍛えられた腹筋に刻まれた黒い模様に指を這わせた。
「ひゃぁぁぁぁ!」
女が叫び声を上げて、その場に崩れ落ちると、ビクビクと痙攣している。
「な、なんだ? どうしたんだ?」
「実は、この聖刻は育てることができる。デカく美しくなれば、もっとデカい力を使えるようになるぞ?」
「テツオ、それって本当なのか?」
なんか興味深い設定が出てきたぞ。
いや、設定ではないと思うが……。
「マジだよ、マジ!」
彼の住んでいた異世界の都市に「魔法の塔」という魔導師の組織があったらしい。
そこの女性リーダーが、下腹部から首の所まである美しい聖刻の持ち主だったようだ。
「聖刻って、そんな感じになるんだ」
「ああ、そして、てっとり早く聖刻をデカくする方法が――神の使徒である俺とやること――なんだよなぁ」
なんか、とんでもないことを言い出したぞ?
「それって、本当の話なのか?」
「嘘じゃねぇっての、わはは!」
「マジかぁ」
「――というわけで、俺とやったほうがよいと思うがな~」
「……も、申し訳ございません」「どうか、お許しください」
下半身もろ出しの紋章隊の女たちが、テツオの前で土下座をしている。
「「「うわぁ……」」」
女性陣が全員ドン引きしている。
「なんだ、ツマランなぁ。こういう連中は最初に完膚なきまでに叩きのめして、心を折ったほうがいいんだぞ?」
「ほら、ここは異世界じゃなくて、日本だからさ……」
「う~ん、それもそうか。郷に入ったらヒロミ郷のように歌えって言うしな」
「言わねぇ」
「わはは!」
彼は楽しそうだ。
「くっ!」
紋章隊の女たちがパンツを履き直すと、俺たちの脇を走って抜けて行く。
エレベーターに向かうのだろう。
「お、覚えていろよ!」
なんかやられ役のようなセリフを残してその場から去ろうとした女たちを、黒い触手が捕まえた。
「ほらやっぱり、痛い目に遭わないと解らねぇんだよなぁ……」
黒い触手が、彼女たちの手足をガッチリと拘束して、肢体をギリギリと締め上げている。
「ぎゃぁぁ!」「ひぃぃぃ!」
「ダイスケ、このままやっちまったほうが、後腐れなくていいぞ?」
「まぁまぁ、許してやってくれよ」
「しょうがねぇ――それじゃ、サービスで服ビリビリだけでも……」
触手が彼女たちのシャツの隙間に入り込むと、引き裂き始めた。
「ひゃあぁぁ!」「きゃぁぁ!」
胸が露出したところで、触手から解放されて、ポイと捨てられた。
「わはは! いい格好だな! やっぱりこうじゃないと」
「「うわぁぁぁ!」」
女たちが泣きながら廊下を駆けていったのだが、上にまだティルトローター機がいるのだろうか?
「「「……」」」
この場にいる女性陣全員が、テツオを白い目で見ている。
「わはは! おたくのお姫様たちには、すっかりと嫌われてしまったな」
「だって、絵に描いたような女の敵だし!」
サナの言うとおりだと思う。
彼は本当に神の使徒なのだろうか?
「彼女たちには手は出さないでくれよ? まぁ、トップランカーだからそう簡単にはいかないと思うが――サナが心配だ」
テツオが使徒の力を使えば、彼女も紋章隊の女たちのようになる。
「大丈夫、大丈夫! 聖女にそんなことしたら、神さまからなにをされるか解らんし」
彼がもらっている加護というのも捨てることになる。
テツオにも家族がいるようだし、まぁ――信用してもいいだろうと思う。
不意に俺の端末が鳴る。
見れば――カコだ。
『ちょっと! 屋上に黒い機体がいて着陸できないんだけど! どこのどいつよ!』
「あ~」
紋章隊のティルトローター機がまだいるらしい。
もしかして、上に報告などをしているのかもしれないな。
「大丈夫、すぐに飛ぶと思うから、ちょっと待ってて」
『本当なの?!』
「ああ、今帰るところだと思う」
『あ、ローターが回り始めたわ』
飛び立つようだ。
通信が切れた。
「姫、カコが来たようだぞ」
「早いな」
「ダイスケ、誰か来たのか? また厄介ごとか?」
「いや、テツオのアイテムを買ってくれる人だよ」
「おお、なるほどな」
それもあるが、総理にメッセージを入れておこう。
「え~と、『紋章隊という連中が、私の仲間である長谷川サナという女性を拉致しようとしました。大切な仲間を強引に連れていこうなどと、この行為を断じて許すことはできません。つきましては、このようなことを肯定なさるなら、今後私は政府系の仕事を一切引き受けません。なお、力ずくというなら、こちらもありとあらゆる方法で抵抗いたしますので、あしからずご了承ください』――と、こんなところか」
「私のせいで、ごめんなさい」
「別にサナのせいじゃないさ」
「でも、ダーリン。どうするんだ?」
「どうもしないさ。サナは守るし、政府の仕事はしない。相手が自衛隊だろうが、紋章隊だろうがやっつける」
「それなんですけど、ダイスケさん」
カオルコが手を挙げた。
「なんだい?」
「ダイスケさん、サナさん、姫、私――と、冒険者トップランカー四天王が揃っているわけですが、あの紋章隊の人たちは私たちより上なんでしょうか?」
「う~ん――それは俺も思ったよ。特区外でも魔法が使えるってだけで、どう見ても俺たちより戦闘力は低そうだけどなぁ」
「そうですよねぇ……」
「わはは! 俺もいるしな」
「いや、テツオの言うことが本当なら、紋章隊は逆らえないだろ?」
「そのとおりだが――懲りずにもう1回来てくれねぇかなぁ。次はやってもいいんだろ?」
「本当にやって来たら、もう仕方ないな」
「よっしゃあ!」
テツオがめちゃ張り切っていると、俺を呼ぶ声が聞こえた。
「ダーリン!」
全力疾走してくると、誰かが俺に飛びついてきた。
――突然鼻腔に飛び込んでくる花のような香り――カコだ。
「ぐぎぎ!」
カコの行動に、姫が爆発しそうだ。
それはそうと、総理の返答はいかに……。