111話 神さまを信じるか?
イロハを主人公にした映画の撮影中に魔物に襲われたりしてトラブル続きだったが、映画は完成に近づきつつある。
最後の撮影は残っているが、なんとかなりそうだが――なんで、こんなトラブルに巻き込まれるんだ。
俺か?! 俺のせいか?!
倉庫での襲撃のあと、監督さんと会う。
あのときに撮影した映像は、加工して使えそうなので、そのまま使うらしい。
あの魔物の正体は元人間なのだが、魔物に変わってしまったら、すでに魔物。
ダンジョンの存在が日常になってしまったこの世界では、冒険者が突然グールになるのも日常茶飯事。
なにかモラルが壊れてしまっている気もするのだが、こんな世界になってしまったのだから、致し方ない。
やつの出自も俺たちしか知らないしな。
監督さんと別れたあと、俺とサナの眼の前に、巨大な鳥が降りてきた。
特区に突然降りてきた得体のしれないものに、街ゆく人々が一斉にスマホを出して撮影を開始する。
その様は、まるでなにかの儀式のよう。
皆が撮影している眼の前のコレは、生き物には見えないのだが、乗り物なのか魔法なのか?
得体のしれないものに警戒していると、俺と同世代っぽいオッサンが降りてきた。
黒くて短い髪型に、デニムのズボンに白いシャツ。
すごく普通の格好だ。
他に、デニムに柄シャツ、派手な色をしたボサボサヘアーのチンピラ風の男と、セーラー服の女の子。
サナみたいな、なんちゃって女子高生ではなくて、どうやら本物っぽい。
かなり身なりが整っているので、いいところのお嬢様といった感じか。
かなりへんてこな組み合わせだ。
若い男女が鳥から降りてきたが、冒険者には見えない。
「シャザーム、戻ってくれ」
男が言葉を発すると、黒くて巨大な鳥がどこかに吸い込まれるように消えた。
シャザーム? シャザームって魔法なのか?
これが魔法だってんなら、7層の攻略に使える。
天井の入口まで飛んでいけばいいわけだし。
「「「おおお!」」」「エエエ~ッ?!」「消えた?!」
周りの野次馬からも、驚きの声が上がる。
「消えたのか?!」
俺の言葉にサナが反応した。
「え? 黒い鳥は、あの人が出した黒い穴に吸い込まれましたけど……」
「なんだって?! 穴? そんなもの見えないぞ?!」
「そこにありますよ?」
彼女が指し示すのだが、俺の目にはそんなものは見えない。
サナが嘘をつくはずがないのだが……。
今度はサナの言葉に男が反応した。
「んあ? お嬢ちゃん、この黒い穴が見えるのかい?」
男がこちらにやってきた。
「は、はい……」
男の口ぶりからすると、やっぱり穴が目の前にあるらしい。
「へぇ~」
男がニヤニヤしてサナに迫ってくるので、間に入った。
「止めろ!」
「なんだ――」
男がなにかしようとしたのだが、明らかな異変がその場を包んだ。
『ダ』『メ』
「なんだ?!」
どこからか解らないが、そう声が聞こえた気がする。
いや、正確には“聞こえた”のではなく、頭の奥に直接響いた感覚だった。
まるで言葉ではなく、純粋なエネルギーが脳内に流れ込み、それが意味を持った瞬間に「声」として認識されたような――そんな奇妙な感覚。
明らかに音ではない。
鼓膜を震わせる振動があったわけでもなく、空気を伝わって届いたものでもない。
それは一瞬のできごとだったのか、それとも長い時間をかけて流れ込んできたのか。
時間の感覚すら曖昧になるほどに、ただ確かに“何か”が入り込んできたのだった。
「んあ?!」
男もキョロキョロと当たりを見回している――ということは、彼にもなにかが聞こえたのだろう。
「止めろ!」
「ち! 神さまから止められたんじゃしゃーねぇ。悪かったな、お嬢ちゃん」
神さま?
「……」
彼女が俺の後ろで固まっている。
サナは高レベル冒険者、デカい魔物に立ち向かっていくだけの気概を持っているのにだ。
俺の直感も、「眼の前のこいつはヤバい」と、警戒音をビンビン鳴らしている。
「それで、神さま? この女の子はなんだって?」
男が独り言を呟いている。
傍から見れば、単に危ないオッサンなのだが……。
『セ』『イ』『ジ』『ォ』
また声だ。
確かにそう聞こえた。
「セイジョ? 聖女か? え~? マジで? まぁ、敵に聖女がいるなら、イザルの聖女がいてもおかしくはねぇが……初めて会ったな」
どこからか聞こえてきた声の主とこの男は、サナが聖女だと知っているのだ。
男が神さまと言っていたが、そんな存在が本当にいるのだろうか?
「……」
サナが男のことを警戒している。
俺だって、こんな危ないやつは警戒する。
「はは、悪い悪い! 神さまから手を出すなって言われたから、なにもしねぇよ! それに、ウチの信徒なら俺の仲間だからな」
「信徒? この子は宗教になんて入ってないはずだが?」
「そんなことないよなぁ? お嬢ちゃん?」
「……」
「助けてください! とか、力がほしい! みたいなお願いを神さまにしたよなぁ?」
「……し、しました」
「サナ」
それだけ、彼女は悩んでいたのだろうか?
「ウチの神さまは、信徒には優しいよ」
「神さまってのは、なん人にも平等じゃないのか?」
「基本はそうだな。金持ちにはチョイプラ、貧乏にもチョイプラ、みんな平等にチョイプラ」
「他の神さまの信徒には?」
「他の神さまの加護に入っているから、チョイプラにはならないんじゃね」
「そういうものなのか」
「まぁ、神さまだって自分ところのいい子は可愛たがりたいし、ははは! ――シャザーム!」
男が叫ぶと、黒くて巨大な手が出てきて、男を持ち上げた。
「おお! 魔法か?!」
「ここにいる者ども、よく聞け! ダンジョンに頼らない力が欲しいやつはいないか?! どこぞの宗教と違って救ってはくれないが、力はもらえる! 我が神に祈れ! 神の名は、『イザル』!!」
黒く巨大な掌は、まるで大地から突き出た岩のように、不気味なほどに静止している。
自由に形を変えられるようだが、今は微動だにしない。
空を支えるように地面から伸びて、男の舞台としての機能を果たしている。
これだけ巨大なものが突然現れれば、当然目立つ。
掌の下には無数の民衆が集まり、ざわめきながら彼を見上げていた。
その視線には驚きと畏怖が入り混じっている。
彼の言葉は鋭く、それは戒めの言葉か、それとも救済の予言か──誰もが息を呑みながら、男の言葉に耳を傾けた。
黒き掌の上、男はなおも語り続ける。
その姿は、本当に神の使いのようだが……。
それにしても、イザル?
それが、この神さまの名前か。
どうも、信徒になるとなんらかの能力がもらえて、身体に黒い模様が浮かぶらしい。
サナの背中にある黒い模様も、どうやらそれっぽい。
「それじゃ、サナのダンジョンに由来しない力も、その神さまからもらった力ってことになるのか」
「そ、そうなんでしょうか……」
サナと話していると、黒い掌と男が降りてきた。
「ふ~、今日のお仕事は終了っと」
「説法というか、勧誘が仕事なのか?」
「まぁな、これでも使徒――信徒からは聖者と呼ばれているし。この世界でも信徒を増やさないとな」
聖者――そういう単語からは一番遠い存在のように思える男だが……。
「聖者?」
「そうなんだよなぁ。人を数千人単位で殺しまくって、自分の親も殺してるのに、なにが聖者なのかと自分でも思うよ、ははは!」
「そうなのか?」
「神さまにとっては、人間なんてどうでもいいんだよ。あんたの靴の下にも沢山の生物がいて、今も踏み潰しているだろ? 微生物が幸せになったり、悲しんでいたりしても、人間の生活にはまったく関係がない」
俺は足元を見た。
「確かに……」
「神さまにとって――つまり人間というのはそういう存在ってわけだな」
「しかし、信徒はほしいんだ?」
「そうだな」
「増やすとどうなる?」
「知らないのか? 神さまの力が増す」
「そういうものなのか?」
「そういうものなんだよなぁ……ははは!」
俺たちが想像している神さまとはだいぶ違うようだ。
「なんか神さまっぽくないような気がするが……」
「そうだな――人間が考えてる高貴で崇高なものではなくて、すごい力を持っている別次元の生物――と考えたほうが近いかもしれん」
「なるほど……」
男がサナに向き直った。
「お嬢ちゃんも、神さまから力を授かっただろう?」
「は、はい」
「神さまは、『こいつは役に立ちそうだ』と、踏んだから、力を授けたわけだ。しかも聖女ときた!」
「役に立つ――私は、なにをすれば……?」
「お嬢ちゃんがやるべきことは一つ! その力を使ってなるべく沢山の人々を救い、神さまへの信仰を向けさせることだ」
「そうやって、信徒を増やすと神さまの力が増すと……」
「神さまは、この世界の橋頭堡として、お嬢ちゃんを選んだようだな」
神さまの話は嘘か本当か解らんが、この男がダンジョン由来ではない力を使えて、それに詳しいのは間違いないようだ。
「さっきの黒い手とか、空を飛んできたのは――あれは魔法なのか?」
「おっと! まさか、人にものを尋ねるのに、タダってことはないだろう?」
神さまのことは教えてくれたが、あれは布教も兼ねているってことなのだろうか。
「対価か――なにが必要だ? 金か?」
「それも必要なんだが――俺には国民カードってやつがないんだ」
「カードがない? 再発行すれば……」
「いや、戸籍そのものがないから、それもできん」
「もしかして、外国人なのか? そうは見えんが……」
「かつては日本人だったんだが――話せば長くなるが、ずっと異世界で暮らしてたんだよ」
「異世界?!」
神さまの次は、異世界ときた。
こいつの言うことは、どこまで本当なのだろうか?
たんなる嘘つきなのか、それともピーなのか。
それにしては、支離滅裂ではなく理路整然としている。
「ほんで、また日本に戻されたと思ったら、俺がいたころとはまったく違ってるし、国民カードなんてものができてるし、端末がないと支払いもできねぇ」
「ああ、なるほど、そういうことか」
「そういうことなんだよ」
男がうんざり、という顔をした。
彼が言うことが本当なら、神さまという存在にこき使われてきたということなのだろう。
「要するに、衣食住の保証が欲しいと」
「お!? 察しがいいねぇ。それを保証してくれるなら、色々と情報も提供するぜ?」
見れば、男女3人。
生活の面倒をみてやっても、問題はないだろう。
なにせ今の俺には、使えきれないほどの金がある。
このまま口座に入れておいても、仕方ない。
老後に困らないぐらいの金が残ればいいのだ。
異世界の情報とやらが本当なら、新しい魔法やアイテムのヒントがもらえるかもしれない。
少なくとも、彼が使っている黒くて変形する魔法があれば、空を飛べる。
空を飛べれば、ダンジョン7層の攻略もすぐだ。
「わかった。俺はあそこに住んでいるんだ」
俺は自分が泊まっているホテルを指した。
「げ?! 兄貴! あのホテルは高級ホテルですよ!」
「あそこの宿泊代を全部持つよ」
「俺たち3人分ってことか?」
「ああ、特別室がまだあるはずだから、かなり居心地がいいはずだが」
「そんな大盤振る舞いをして、大丈夫なのかい?」
「普通のオッサンに見えるが、こう見ても超金持ちなのよ? 彼女もな」
俺はサナを指した。
「へ~! それじゃ、ゴチになるか! ははは! この世界に戻ってきて、頼れるものがまったくなかったから、四苦八苦してたんだよ」
「それじゃ決まりだな」
「っと、その前に」
男から突然、黒いものが野次馬の中に伸びていく。
「ウワァァァ!」「ヒィィィ!」
黒いものに巻き取られて、2人の男が掲げられた。
どうやら外国人らしい。
「おい! 外国語で悪口言ったら、解らねぇと思ってるだろ?! 全部聞こえてんだ、このボケ!!」
黒いものが鞭のようにしなると、外国人2人を投げ飛ばした。
「グワァ!」「アギャァ!」
男たちがゴロゴロと転がっていく。
「ははは! なめんなよ!」
俺の親父の世代には、そのセリフを言う猫が流行ったらしい。
「外国語ができるのか?」
「いや、コレも神さまから与えられた能力だ。言語の加護って呼ばれている」
男の話では、どんな言語でも解るという。
「英語もフランス語も? 超マイナーな言語も?」
「ああ、獣人やエルフとも話せるぞ」
彼の言葉が耳に届いた瞬間、俺の心はまるで長い冬を越えた草原のように、暖かな風を受けて跳ね上がった。
それはまるで、幼い頃に憧れていた冒険の話を聞いたときのような感覚。
言葉の真偽など、まだ確かめようもないが、そんなことはどうでもよかった。
唯一、その響きが、俺の中に眠っていた少年のような無邪気な喜びを呼び覚ましたのだ。
「エルフ?! 獣人?!」
「ああ、獣人は可愛いぞ。毛並みがよくて、もふもふでな」
「エルフって、やっぱり美人か?」
「男も女も美人だな。超排他的だが」
ファンタジーでそういう設定をみかけるが、やっぱりそうなのか。
彼の様子では、あまりいい印象ではないらしい。
個人的な考えだが――ダンジョンにポップする魔物というのは、どこか別の世界から送り込まれているんじゃないかと思っている。
一々、あんな魔物を作って送り込むなんて、手間がかかりすぎるだろ。
この男の言っていることが本当なら、異世界というのも存在する。
そのうち、エルフや獣人という種族も送り込まれてきたりするかもしれん。
いや――異世界なんて信じちゃってる時点で、俺もどうかと思うのだが……。
ダンジョンができてレベリングができたり、魔物が湧いて魔法で倒したりできるぐらいなら、異世界もあるだろ?
「力を授かるってのは、通訳できたりとかそういうのも含まれているのか?」
「まぁ、そうだな」
普通の人間は信仰が薄いので、大した加護はもらえないらしい。
それで、「聖女」なんて能力をもらったサナは、どんだけ真剣に祈ったんだ。
それはともかく――話はまとまった。
皆でホテルに向かって歩き始めると、途中で彼らの身の上話を聞く。
「その子らは知り合いじゃないのか?」
「このチンピラは、俺からカツアゲしようとしたからボコって財布代わりにしてる。女の子のほうは、家出中みたいだが、俺についてきてるだけだ」
「フヒヒ、サーセン!」
チンピラがペコペコしている。
国民カードがないと買い物もできないので、チンピラのカードを使って買い物をしているらしい。
「それなら、俺が全部金を払ってやれば、その男は用済みってことか」
「そういやそうだな! よし、お前は帰ってもいいぞ」
「そりゃないっすよ、兄貴! 俺はもう、あの街には戻れないっすよ!」
「俺の知ったことか」
なにがあったか知らないが、随分とドライな関係のようだ。
「いったい、なにをやったんだ」
「こいつの地元の反社をボコって金を巻き上げたんだ、ははは」
「見つかったら、絶対にヤバいっすよ」
「反社のリーダーは、魔物にやられて死んだじゃねぇか」
「確かに、そう見えたっすけど……」
「魔物って、街中で湧きか?」
「そうそう――ダンジョン以外にも、魔物が出るんだってな。随分と物騒な世界になったもんだぜ」
話している間に、ホテルに到着した。
「このホテルだよ」
「ひょえ~いい所に住んでるじゃねぇか」
彼は、ホテルを見上げて感嘆の声を上げた。
「この子も俺たちの隣の部屋に泊まっているんだ」
「嬢ちゃんもか! 中々やるもんだな」
「そういえば、自己紹介もしてなかったな」
「俺はテツオだ。名字は忘れたな、ははは」
「俺もダイスケでいいぞ。彼女はサナ」
「よろしくな」
「は、はい」
サナは、まだちょっと警戒しているっぽい。
ホテルに入ると、フロントで相談をする。
特別室も開いている部屋があるので、問題ない。
フロントで話していると、フロアの責任者が飛んできた。
まぁ、お得意様だしな。
今回、俺が金を払うって言ってるわけだし。
「テツオ、ちょっと」
「なんだ?」
「フロントに話を聞いたら、2人部屋しか空いてないんだと」
「かまわんかまわん! タダだろ? ははは、こいつを床に寝かせればいい」
「ひでぇ!」
チンピラがブーブー言っているが、このグループの中ではヒエラルキーが一番下っぽい。
まぁ、女の子を床に寝かせるわけにはいかないだろうしな。
いつもの従業員のお姉さんに部屋まで案内してもらった。
俺たちの部屋と同じフロアだ。
「ここが、俺たちの部屋で、隣がサナたちの部屋だ」
サナが会釈すると、自分の部屋に戻った。
「こちらです」
女性がドアを開けると、広い部屋が現れた。
中心部分が一段低くなっており、ソファーが置かれているのは、俺たちの部屋と一緒だ。
寝室は個室になっていて、2部屋に分かれている。
「おおお~っ、めちゃすごい部屋じゃねぇか」
「まぁ、特別室だしな」
「2人部屋って話だが、寝室は別なのか。それじゃ、お前はソファーで寝ればいいだろ」
「まぁ、床よりはマシっすね……」
「こんないい部屋に、タダで泊まれるのに、文句をぬかすな。だいたい、ダイスケが全部払ってくれるから、お前は帰っていいって言ってるだろうが」
「兄貴、そりゃないっすよ~」
「ルームサービスも、全部俺のツケでいいぞ」
「ほっほ~、そりゃありがたい。そういや、腹が減ったな」
彼が腹を押さえている。
「カレーでいいなら、ウチで奢るけど……」
「カレーか……いいねぇ」
「聞きたい話もあるし」
「そういえば、そうだったな。なんでも聞いてくれや、ははは」
派手な頭の彼は、カレーよりホテルのルームサービスを食べたいらしい。
「女の子も、ルームサービス頼んでもいいぞ?」
「アオイです。私もカレーでいいです」
「そうか。アオイちゃんな。よろしくな」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
彼女がペコリとお辞儀をした。
本当に、いい所のお嬢様みたいだな。
テツオたちと一緒に、俺の部屋に戻る。
「ただいま~。悪いけど、お客さんだ」
姫はソファーに寝転がって、タブレットでなにかを見ていた。
「おっと、こんな格好で失礼」
姫がソファーから飛び降りた。
「ダイスケさん、連絡ぐらい入れてください」
「悪い、ちょっと驚くできごとがあってな」
「おいおい! こんな美人たちと一緒なのか? さっきの女の子も、まんざらじゃなかったみたいだが……」
テツオが、姫たちを見て驚いている。
ホテル住まいなのもそうだが、美女たちを侍らしているとは思ってなかったのだろう。
べつに侍らしているわけでもないのだが。
「女の子……?」
姫の視線が、俺に突き刺さる。
「サナだよ、サナ」
「なぜ、一緒にいるんだ」
「外で偶然会ってな。イロハにも会って監督さんと話していた」
「むう……やっぱり一緒に出るべきだったか……」
「そんなに心配しなくても大丈夫だっての――それより姫!」
「なんだ?」
「7層の攻略のヒントを、彼からゲットできるかもしれん」
「なに?!」
姫も俺の話に食いついた。
「ダイスケ、この美人たちを紹介してくれよ」
「お、そうだな――悪い。ここは彼女たちのギルドで、俺が居候してるんだ」
「――ってことは、ダンジョンに潜ってる冒険者って連中か」
「そうだ。彼女たちは、冒険者のトップランカーの桜姫と、エンプレスだ」
「よろしく」「よろしくお願いいたします」
「へ~」
テツオは、まったく興味なさそうだったが、アオイという女の子のほうが食いついた。
「え?! 桜姫さんとエンプレスさんなんですか?!」
「そのとおり」
姫が腰に手を当てた。
「すごーい!」
女の子はランカーを知っていたらしい。
まぁ、今の時代、子どもや若者のなりたい職業ナンバーワンだからな。
「すごいのか?」
「すごいですよ!」
やっぱりテツオは興味ないらしい。
話はあとにして、飯の用意をする。
俺のアイテムBOXから、ストックしてあるカレーを出した。
「カオルコ、悪いが、食器を用意してくれ」
「はい」
「お?! 魔法の袋か?」
テツオが気になる単語を口にした。
「魔法の袋? いや、俺のはアイテムBOXだ」
「ええ?! アイテムBOXですか?! すごい! 本当に持っている人がいたんですね!」
アオイが興味津々といった顔をしている。
「なんだ、ものを収納するなら、俺でもできるぞ――シャザーム、俺の袋を出してくれ」
彼の目の前で、黒く蠢く何かがゆっくりと伸びてきた。
「なんだ?!」「魔物?!」
姫とカオルコも驚いて立ち上がると、手刀で構えた。
それはまるで意志を持った影のように揺らぎながら、触手のようにしなやかに動き、次の瞬間——パッと、花のように開いた。
そこから落ちてきたのは、刺繍が入ったカラフルな袋。
「そうそう、それを聞きたかったんだよ」
「それ? この袋か?」
「いや、その黒い触手だ」
「ああ、シャザームか」
シャザーム?
まるで生き物のようなのだが、いったい正体はなんなのだろうか。