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11話 女の子と一緒に


 ダンジョン前にいた爺さんを助けた。

 話を聞けば――彼には病気の孫娘がいるのだが、治療のための金はないし手術するのも難しい。

 ならばと、冒険者になって病気や怪我を治す回復薬ポーションを手に入れてやろうと考えたようである。


 ヨボヨボの爺さんが、冒険者になって――なんて、無謀すぎる。

 1層のスライムすら怪しいのだが――。


 オッサンはこういう話に弱い。

 話を聞いてしまっては見捨てるわけにもいかず、助けてあげることに。

 自宅の裏庭ダンジョン跡で拾った薬が、どうやらエリクサーというすごい薬らしい。

 爺さんが孫娘たちを特区に連れてきたので、ダンジョンに入るとエリクサーを飲ませた。


 ポーションや魔法は、ダンジョンの中ほど効果が増す。

 そのために、妹ちゃんもダンジョンに潜る必要があった。


 本当に俺が持っていた薬で、不治の病が治るのか? ――と思っていたのだが……。

 女の子の青白かった顔色もよくなって、お姉ちゃんと一緒に歩き始めた。

 マジで奇跡ってやつだな。


 エントランスホールで、爺さんが孫娘を抱きしめて泣いている。

 まぁ、死ぬかもしれないってところから、超回復したんだからなぁ。


 ――俺たち4人は、ダンジョンから出た。


「それじゃな、爺さんと女の子たち――達者でやってくれな」

「あの、ダイスケさん」

 お姉ちゃんが、俺に話しかけてきた。


「なんだい、サナちゃん」

「サナでいいです……」

「礼ならいらないよ?」

「……」

 彼女がなにか考えている。


「どうした?」

「……私を冒険者にしてくれませんか?」

「え?! 冒険者に?! そりゃ、年齢的には問題ないと思うが……」

 そういう話をされても、俺も初心者なんだがなぁ……。

 妹の病気は治ったが、今度は日常の生活に問題があるのだろう。

 早い話が、金がない。


「私がバイトして生活費を稼いでますが、まったく足りないんです」

「そりゃ、女の子のバイト代で、一家3人が暮らすのはなぁ……」

「冒険者になれば稼げると聞きました」

「その前に、冒険者の適性があるかどうかだけど……爺さんはいいのかい?」

「……危険な仕事と反対したところで、ワシらの飯代が湧いてくるわけでもないし……」

「そりゃそうだけどなぁ」

 爺さんが下を向いている。


「ワシみたいな老いぼれ、とっとと首を吊ってれば、孫たちにこんなに苦労をかけることも……」

「そういうことは言わないでくれよ」

「ワシに死ぬ勇気がなかったばっかりに……」

 彼は、ずっと下を向いたままだが、泣いているのだろう。


「止めて、おじいちゃん! タクシーの中で話したでしょ?」

 彼女の言葉を聞いて、爺さんが地面に手をついた。


「……ニワさん! 知り合ってばかりの方に、こんなことを頼むのは非常識だと重々承知している!」

「おいおい、爺さん……」

「孫たちを! 孫たちを頼む! このとおりだ! ううう……」

 街中でそういうのは止めてくれ!

 注目の的じゃねぇか。


「わかったわかった! 爺さん、止めてくれ!」

「おじいちゃん――私もミオも大丈夫だから。それに、家賃も溜めちゃってるでしょ? 大家さんはいい人だけど、そのうち追い出されちゃうよ」

「ううう……」

 爺さんが、孫たちに慰められている。

 まぁ、爺さんとしては孫が可愛いし、危険な冒険者という商売が心配なのは解るが――とりあえず日々の飯代を稼がないと駄目だからな。


 年寄りが落ち着いたところで、サナと話をする。


「本当に冒険者になるのかい?」

「はい、お願いします!」

 気合は十分だが――。


「最初に魔物を倒して、ステータスが表示されないと、適性なしとみなされるよ?」

「そのときは仕方ありません」

「それと――女の子だと、魔法系じゃないとちょっとつらいんじゃないかなぁ」

「それも理解してます」

 まぁ、俺が引っ張っていって、彼女にとどめを刺させてやれば、あっという間にレベルは上がるんだけどさ。


「ミオちゃんはどうする?」

「私は、お姉ちゃんといる!」

 まぁ、そのほうがいいかなぁ。


 サナが冒険者に挑戦することになったのは決定したが――。


「今日はどうする? 一旦家に帰るかい?」

「いいえ――早ければ明日には、冒険者になれるかどうか決まるんですよね?」

「ああ、仮免もらって、ダンジョンに潜って魔物を倒すだけで決まるからな」

「それなら、今日はここに泊まります」

 あちこち歩き回って爺さんも疲れている様子。


「それじゃ今日は、爺さんも特区に泊まったらどうだ?」

「いや、大丈夫だ」

「彼女が冒険者になれば、中々会えなくなるかもしれないし」

「……」

 爺さんも俺にそう言われて、考えを改めたようだ。

 今生の別れになるわけじゃないが――いや、冒険者なんて危険な商売だ。

 どうなるか解らん――といいつつ、1層のスライムで死んだりはしないだろうが。


 女の子たち一家は、特区に泊まることになったので、俺が泊まっている宿屋に連れていった。

 宿屋のオバちゃんに3人を紹介する。


「客を連れてきたぞ~」

「いらっしゃい」

「この3人なんだけど、部屋は空いている?」

「普通の部屋がいいんだろ?」

「そうだな、ははは」

 さすがに、俺の部屋みたいなモルタルむき出しの部屋はマズいだろ。


「サナ、金が心もとないなら、貸すぞ?」

「大丈夫です。すぐに稼げるようになりますから」

「おっと、やる気あるなぁ」

 俺の言葉に、オバちゃんが暗い顔になった。


「ちょっと、その女の子も冒険者志望なのかい?」

「ああ、そのぐらいしか稼げる仕事がないらしいからな」

「ふう……そういう時代だから仕方ないとはいえ……」

 身体を売るよりはいいだろう――と言いそうになって、止めた。

 子どももいるしな。


 3人の部屋は上の階らしい。


「それじゃ、明日な?」

「あの――冒険者登録だけ、今しちゃ駄目ですか?」

「ああ、そうか――そのぐらいはできるか」

「登録すれば、明日はそのままダンジョンに向かえますし」

「駄目だったら、そのまま3人で帰るんだぞ?」

「はい」

 彼女が気合を入れている。

 気合でなんとかなればいいのだが……。


 サナと一緒に宿を出て、役所に向かった。

 いつものお姉さんの窓口にいって、手続きをする。


「ほら、そこでできるから」

「はい」

 彼女が職員と会話を始めた。

 なんだか、女性がサナの国民カードを見て、俺のほうを睨んでいるように見えるのだが、気のせいか?

 別に俺が若い子の斡旋をしているわけじゃないよ。


 そんな風に見られているのは、ちょっと心外だな。

 こんな限りなき善意の人を捕まえて。


 数分待っていると、登録が終わったようだ。

 冒険者カードをもらって、サナが喜んでいる。

 本当に普通の女の子なんだが、こんな子をあの殺伐なダンジョンに突っ込んでしまって大丈夫なんだろうか?


「あの宿で飯を頼むと多分高いから、露店で買っていったほうがいいよ」

「ダイスケさんは買わないんですか?」

「俺は保存食があるから」

 まぁアイテムBOXの中にものはあるからな。


「う~ん、解りました」

「ミオちゃんは、病み上がりだから消化にいいもののほうがいいのかなぁ……」

回復薬ポーションで治ったので、お腹も治ってるんじゃないですか?」

 本当はエリクサーとかいう上位の薬っぽいのだが。


「ああ、そうかもなぁ……俺も、そういう経験がないし」

 一応、普通の食事と、消化にいい系を一緒に買ったようだ。


 買い物も終わったので、一緒に宿に戻る。


「それじゃ、明日の朝にな。用意ができたら、俺の所にきてくれ」

「わかりました!」

 彼女が買った食事を持って、階段を上っていった。

 心配だった妹のことも片付いたので、足取りも軽やかだ。

 爺さん一家も、食事をしながら今後についての話し合いをしなくちゃな。


 ――ひょんなことから、困っていた一家を助けてしまった次の日。

 パンをかじりつつ缶コーヒーを飲んでいると、ドアがノックされた。

 多分、サナだろう。

 ドアを開けると、元気そうな赤い顔があった。


「おはようございます!」

「おお、元気だなぁ。よく眠れた?」

「はい、大丈夫です」

 冒険者になれるか心配だったりはしてなさそうだ。

 意外と、図太いのか?

 爺さんと妹さんの生活費を稼ぐためにバイトをしているって言ってたし、根性はあるとみた。


「よっしゃ、俺も準備するから数分待っててくれ。男の準備なんてすぐに終わるから」

「はい」

 女だと、ここからが長かったりするが、即出撃だ。

 防具を装着して、バックパックを背負ったら、準備完了。


「ほい、おまたせ! さて、行くか」

「はい」

 階段を下りると、カウンターのオバちゃんに挨拶をしてチェックアウト。

 なにもないあの部屋だが、結構気に入ったし、貸し切りでもいいかもな。


「行ってくるよ」

「ああ、気をつけるんだよ」

 俺に言ったんじゃなくて、サナに言ったんだろう。


「いい人ですね」

「そうか?」

「昨日、差し入れをもらいました」

「あのオバちゃんからか?」

「はい」

 因業大家かと思ったら、中々いいところあるじゃないか。


 特区の喧騒の中を歩く。

 ケミカルライトを買って、サナに手渡した。

 一緒にバックパックに入れていた、短剣を渡す。


「わわ、重たい……」

「そうか、それじゃダンジョンに入ってから渡すよ」

「はい」

 自分は高レベルだから、普通の状態を忘れてしまっているな。


「すごい人混みだろ? 今まで特区に来たことは?」

「なんどか、あります」

「冒険者になろうとして?」

「は、はい……中々踏ん切りがつかなくて……」

「そりゃ、女の子が1人なら、そうだろうなぁ」

 ダンジョン前の改札までやってきた。


「さて、これからダンジョンだが――相手は魔物とはいえ、生き物を殺さなくてはならない。その覚悟はある?」

「は、はい……大丈夫です」

 彼女の瞳には確かな信念が輝いている。

 揺るぎない決意と強い意志を映し出しているようだ。


「よし、それじゃ行こうか」

「はい!」

 彼女と一緒に自動改札を通って、エントランスホールに入った。

 そのままスルーしてダンジョンの中に入る。


「暗いですね」

 彼女はケミカルライトを使っている。


「昨日も言ったが、俺は暗い所が見えるから大丈夫だ」

 ここでスライム退治なんて面倒なことはしていられない。

 一気に2層まで行って、狼でも仕留めよう。

 それなら一気にレベルアップするだろう。


 ステータス画面が現れて、冒険者になるとしても、そっちのほうがいい。


「あの、どこまで行くんですか?」

「2層だ」

「だ、大丈夫なんですか?」

「俺にくっついていれば大丈夫だよ」

「は、はい……」

「手を繋いだほうがいいか?」

「お、お願いします」

 彼女の手を握ると、温かみの中にちょっと震えを感じる。

 まぁ、初めてのダンジョンだし、真っ暗だから仕方ない。


 俺が1人だとスタスタと先に進んでしまうが、サナはまだ冒険者ではなく普通の人間。

 注意して進む。

 暗闇の中、あちこちで狩りの明かりが見える。


「あの明かりの所は、みんな魔物を狩っているんですか?」

「そうだよ」

 幸い1層では、魔物とエンカウントしなかった。

 キャンプ地を通り過ぎて、2層の中に進む。

 ここで、彼女に短剣を渡した。


「そろそろエンカウントすると思うから、ちょっと離れて後ろにいてくれ」

「は、はい」

「それから、背後を取られないようにな」

「わかりました」

 バックパックから抜いた砂鉄バットを構える。

 サナにトドメを刺させないと駄目だから、一発で仕留めちゃ駄目だ。

 上手く瀕死にしないと。


 武器を構えながら、そろそろと進むと、地面をなにかが這ってきた。

 狼あたりがいいか――と思っていたのだが、どうやら違うようだ。


「なんだ?! デカいイモムシ?」

 驚くほどの大きさ、サナのケミカルライトの明かりで極彩色をしているのが解った。

 その色彩の美しさに目を奪われつつも、ゆっくりとした動きには不気味な迫力がある。


「きゃあ! 気持ち悪い!」

 後ろからサナの声が聞こえる。


「周囲を警戒してな」

「は、はい! 大丈夫です」

 俺がサナに気を取られているうちに、イモムシの口から白いものが吐かれた。


「はは、そんなものはヒラリと躱すのだ」

 どうやら白いものは糸のようだ。

 こいつで絡めて動きを止めてから、襲いかかってくるのだろう。


「おりゃ!」

 大きく振りかぶって、イモムシの頭を一閃した。


「ブギュ!」

 変な音を出して、魔物の動きが止まる。


「サナ! いいぞ、こっちに来てくれ!」

「は、はい」

 彼女が恐る恐る、イモムシの横までやって来た。


「俺が見ているから、頭を短剣で突き刺せ!」

「うう」

「ほら、早く!」

「え~い!」

「プギュ!!」

 突然、イモムシがバタバタし始めたので、もう一度頭を殴った。


「まだ生きているぞ!」

「やぁ! やぁっ!」

 彼女が虹色の魔物の胴体に、ブスブスと短剣を突き立てると、白い液体が噴き出す。

 うごめいていた魔物だったが、すぐに沈黙した。


「やった! これで仕留めたと思うが――サナ、どうだ?」

「ええ? わかりま……」

 そのとき、彼女の身体が光に包まれる。


「わわわ!」

「やったな! レベルアップだ! これならステータスは出ると思うぞ」

「ほ、本当ですか?」

「ああ、俺のときもそんな感じだったし」

「わ、わかりました」

 彼女がレベルアップしている間、俺は周りを警戒する。


「終わりました!」

「ステータスを見てみて」

「はい――え?! レベル5なんですけど……」

「そりゃ、いきなり2層の魔物を倒したからね。なにか覚えてない?」

「……魔法を覚えてます! (ライト)の魔法です」

「やったな! これで冒険者になれる」

「やったぁ!」

 彼女がピョンピョンしているのだが、ジャージの上からも解る大きな胸もポヨンポヨンしている。

 むむむ……オッサンの心もピョンピョンしそうだ。


「それじゃ――今日はこれで終わって、役所に申請に行こうか?」

「わかりました!」

「登録が完了したら、明日から冒険者だぞ?」

「稼げますかね!」

 サナがガッツポーズして、フンスフンスしている。


「ははは、多分な。その前に、もうちょっとレベルを上げよう。レベルを上げれば、強力な魔法を覚えられるかもしれないし」

「やりますよ!」

 おお、燃えてるなぁ。

 意外と、熱血派だったりして。


 今日の目的は達成したので、外に戻ることにした。

 来た道を引き返して、エントランスホールから外に出る。

 そのまま、彼女と一緒にまっすぐ役所に向かった。


 仮免をもらった女性職員の所にいって、サナがカードを出している。

 職員もニコニコしていたのだが、こちらを見るときだけ目が鋭い。

 いったい俺がなにをしたってんだ。


 手続きが完了して、サナは正式な冒険者になった。


「やったな」

「ダイスケさんのお陰です!」

「ははは――まぁ、爺さんに頼まれてしまったからな」

「やっぱり、ご迷惑ですよね……?」

「そんなことはないぞ」

「ありがとうございます」

 彼女がペコリとお辞儀をした。

 バイトをしているという話なので、お礼などはしっかりと言えるようだ。


「それじゃ、宿に帰って爺さんに報告しようぜ」

「はい!」

 サナと一緒に宿に帰ってきた。


「今日は早いね」

 カウンターのオバちゃんが、一言。


「彼女の初ダンジョンで、ステータスが出たんだ。すぐに引き返して登録してきた」

「そいつはおめでとう」

「ありがとうございます」

「それじゃ、俺はまたあの部屋を借りるよ」

「ほい、鍵だよ」

「ありがと」

 サナは、爺さんに報告するために階段を上がっていった。


 あのモルタルの部屋に戻ると、ちょうど昼頃。

 飯を食うか。

 俺はアイテムBOXから芋カレーを取り出した。


「……さて、爺さんはこれから帰るのかな?」

 カレーを食っていると、ドアがノックされた。


「は~い」

 ドアを開けると、爺さんだった。


「お、爺さんか。サナは冒険者の適性があったみたいだぞ。魔法も覚えたようだし」

「……大変ご迷惑をおかけいたしました。ありがとうございました」

 彼が深々と礼をした。


「まぁ、乗りかかった船ってやつだ。爺さん、これからどうする?」

「……家に帰ります」

 そこにサナがやって来た。


「おじいちゃん! 帰ったら大家さんに、もうちょっと家賃を待ってって言っといてね。孫が冒険者になって、すぐに稼いでくるからって」

「ああ……」

 爺さんは孫の冒険者稼業を喜んではない。

 彼としては複雑な心情だろう。

 自分が働ければベストだが、もうそれも無理。

 孫に危険な仕事をさせて、それに頼るしかないわけで。


 祖父としては、孫と一緒に家に帰ることを望んでいたに違いない。

 まぁ、それじゃ生活できないからなぁ。

 どの道、サナが働くしかないとなれば、冒険者稼業なら一山当てられるかもしれんし。


「カレー……」

 爺さんの後ろから、ミオちゃんが顔を出した。

 俺のカレーに興味があるようだ。


「俺のカレーはあまり美味くないと思うけど……」

「カレー……」

 彼女は、どうしてもカレーを食いたいようだ。

 これは困った。

 いや、カレーを食わせるのはいいのだが、鍋などをアイテムBOXに収納してしまったのだ。

 まさか、この場で鍋を出すわけにはいかない。


「こら! ミオ!」

 爺さんに怒られて、ミオちゃんが爺さんの後ろから俺の後ろに隠れた。


「ははは、それじゃ爺さんも俺のマズいカレーを食っていくかい?」

 もちろん、冗談だ。

 それに、女の子は病み上がりなのに、いきなりカレーを食って大丈夫なのだろうか?

 昨日はなにを食べたんだろう?

 普通に食事をしてなにもなかったら、胃腸も超回復したってことになるのだろうか?


「いえいえ、とてもそこまで甘えるわけには参りません。このまま家に帰ります」

「そうか、解ったよ」

「失礼いたします」

 爺さんがペコリと頭を下げた。


「私は、おじいちゃんを桟橋まで送ってきます」

「それじゃ、ミオちゃんはカレーを食うかい?」

「食べる!」

「本当に、色々と申し訳ない」

「昨日、ミオちゃんも食事を食べたと思いますが、普通に食べました? なにか消化のいいものにしたとか?」

「いえ、ワシも心配したのですが、ミオがどうしても皆と同じ食事を食べると言いまして……」

「それで、大丈夫だったと?」

「はい」

「それなら、大丈夫か――子どもなら、カレーは食いたいだろうし、ははは」

 サナと爺さんが、階段を下りていった。


「さて――」

 後ろを向いて、カレー鍋や食器を取り出した。

 子どもならこれでごまかせないか?


「カレー!」

 彼女の目が輝いた。

 どうやらカレーに集中していて、どこから鍋が出てきたのかは、あまり重要でないらしい。


「俺のカレーはちょっと薄味で芋がたくさんなんだが」

「人参が入ってない!」

「え?! 人参好きなのかい?」

「嫌い!」

「ははは、そうか」

 俺のカレーは玉ねぎと芋しか入っていない。


「ご飯は?」

「たくさん入っている芋が、ご飯の代わりなんだ」

「変わってる」

 彼女にスプーンを渡すと食べ始めた。


「どうだい? ご飯も食べるかい?」

「これでいい!」

「そうか」

 どうやらお姫様の口に合ったようで、よかった。


「でも、からい!」

「ああ、俺のカレー辛口なんだよなぁ……」

 再度後ろを向くと、アイテムBOXに牛乳があったと思うので、それを出してあげた。


 ミオがカレーを食い終わると、ドアがノックされる。

 サナが戻ってきたのだろうか?

 ドアを開けた。


「おかえり~」

「……た、ただいま……です」

「サナもカレー食うかい?」

「……はい」

 ちょっと迷っていたようだが――ミオのカレーを見て、食べたくなったのかもしれない。

 彼女にも芋カレーを盛ってやると、美味しそうに食べている。


「爺さんは、帰っていったかい?」

「はい」

「一緒に暮らせるなら、それに越したことはないけど、暮らすためにも金がいるからなぁ」

「そうなんですよね……」

 彼女がパクパクとカレーを食べている。


「魔導師は魔法を使うとカロリーを消費するらしいから、ダイエットになると思うぞ、ははは」

「わ、私……太ってますか?」

「いやいや、太ってはないと思うけど、女の子ってダイエットで悩むパターンが多いじゃない」

「ダイエットのためだけに、ダンジョンに潜る人もいるみたいですよ」

「あ~、なるほどなぁ……生活に困ってないなら、そういうのもありなのか」

 魔物と戦わないで、ダンジョンで魔法を壁打ちしていれば、ダイエットできるわけだしな。


「お姉ちゃん! 魔法見せて魔法!」

「遊ぶためのものじゃないんだけど――光よ!(ライト)

 彼女の魔法で、部屋の中に光の玉が現れた。

 ダンジョンの中で使用するときよりは減衰するらしいので、その輝きも弱々しい。


 そのぷかぷか浮かぶ光る玉で、ミオが遊んでいる。

 楽しそうだ。


「まぁ、魔法は有限だからな。遊びで使って肝心のダンジョンで使えなくなったんじゃ意味ないし」

「そうなんですよ」

 そう言った彼女だが、なにか考え込んでいる。


「どうした? まだなにか心配ごとがあるのか?」

「あの……ダイスケさん」

 彼女がカレーの皿を置いた。


「私とパーティを組んでいただけませんか?」

「う~ん、俺としては構わんのだけどなぁ」

「お願いします!」

「まぁ、いいよ」

 別に問題もないしな。


「本当ですか?!」

「ああ」


 オッサンが1人で黙々とダンジョンに潜るより、女の子と一緒のほうが多少マシだろ。

 やはり若い子が一緒だと、潤い成分が違う。

 若い子といると若さも分けてもらえる。

 故郷では、爺婆しかいないから、こっちまで爺婆気分になってしまう。


 初心者の女の子を抱えてても、俺はガチ攻略勢でもないしな。

 だいたい、俺自身がまだ初心者なんだけど。


 ダンジョンで金を稼いでFIRE! する方法は、あとで考えよう。



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