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103話 映画企画


 俺のアイテムBOXに入りっぱなしだった、エメラルドのドラゴンがやっと売れた。

 買ったのは――なんと、八重樫グループ。

 姫のお姉さんであるカコが、解体現場にやってきていた。


 そのお値段――なんと、500億円。

 俺とサナで半分ずつで、250億円。

 こいつは冒険者としての収入なので、源泉徴収で20%引かれるから、入ってくる金は200億円。


 金が入って来るばかりで、なにかいい使い道がないだろうか。

 八重樫グループの株を買うことも考えたが――それじゃ、あまりおもしろくない。


 ドラゴンの解体を待っている間、レストランで食事をした。

 食事をしながらの会話で、イロハをヒロインにして映画を撮ることを思いついた。

 高レベル冒険者のダンジョンでの本物の戦闘をそのまま映画にしてしまおうというわけだ。

 どんな特撮も、この迫力には敵わないだろう。

 ダンジョンの異空間の中なら、魔法も使えるしな。


 本当に可能かどうか、やってみないことには解らない。

 ダンジョンに潜って殺戮の日々ばかりじゃ、あまりに殺伐としすぎている。

 人生には、潤いってものが必要だろう。


 俺の場合は、すでに金はあるし。

 ダンジョンの深層攻略を求めている姫に付き合っている状態だ。


 ホテルに帰ってくると、アイテムBOXからPCを出して企画書を書く。

 企画書なんて書くなんて十数年ぶりか。


 俺がカタカタとキーボードを打っていると、カオルコがコーヒーを頼んでくれた。

 彼女が持ってきたコーヒーを置くと、ノートPCの画面を覗き込んでいる。


「サクラコ様から聞きましたが、映画ですか?」

「ああ、姫は魔王役な。カオルコも出てくれるかい? 魔王の片腕、悪魔大将軍役だ」

「それって格好いいですか?」

「もちろん」

 それを聞いた、彼女が立ち上がって、右腕を差し出した。


「勇者よ! よくぞここまでやって来た! しかし、貴様らの命運もここまでだ! はははは!」

「え?! カオルコ、すごいじゃないか」

 そういえば、彼女は薄い本を沢山集めている、お腐れ様だったな。

 ――ということは、漫画やアニメなども好きなのだろう。


「えへへ~」

 珍しく、彼女が照れている。

 これは出るの確定だな。


 サナにも協力してくれるかどうか、連絡を入れる。

 一応、彼女も話を聞いていたが……。


『いいですよ。面白そうです』

「サナに言われたから、ストーリーもだいぶ直したし」

『楽しみです~』

 彼女の役はないが、魔法で協力してもらうつもりだ。

 イロハの相方役のあの美少年は、レベルが低そうだったからな。

 すごい魔導師に見せかける必要がある。


 サナやカオルコが魔法を使って、それを美少年に置き換えるわけだ。

 今はAIを使って、そういう特殊効果が簡単にできるらしい。

 映像編集ソフトを買えば、俺にも映画編集ができそうだが、こういうのはセンスの問題だからなぁ。

 普通のオッサンにそういう才能があるのかと言われれば――微妙。

 やっぱりここは、プロに任せるべきだろう。


「そうだ」

 肝心な、あの美少年に連絡をしてなかったな。

 彼が出てくれなかったらどうしたもんか。


 イロハのギルドにいる女の子の中から選んで、男の子っぽくメイクして出演してもらうか。

 サナでもいいんだが――彼女は隠しきれないデカいものを持っているから、男の子を名乗るのは少々むずかしいんじゃなかろうか。


 まぁ、とりあえず、あいつに連絡を入れてみるか。

 名前はなんだったか。

 たまに連絡をもらっていたんだが……連絡先も交換してある。


「え~と、佐古村瑛人(エイト)だったか……」

 連絡を入れてみるが、ダンジョン内かもしれんな。

 ――と、思っていたら、つながった。


「暇? アタック中?」

『なんですか? 今は、大丈夫ですけど……』

「ゴーリキーのオガ氏がらみで、いい話があるんだけど、話を聞かない?」

『聞きます! 聞きます!』

「それじゃ、俺がいるホテルのロビーで待ち合わせをしよう」

『丹羽さん、ホテルにいるんですか?』

「ああ、桜姫のギルドの本拠地がホテルだからな」

『へ~、やっぱりトップランカーは違うな~』

 とにもかくにも、彼は来るようだ。


「姫、ちょっとロビーに行ってくる」

「……女か?」

「男だよ」

「珍しい……」

「俺にだって、男の知り合いはいるよ」

「……」

 なんだか、彼女は信用していないようだが。

 姫の白い目に送られて、部屋を出ると1階に降りた。

 ロビーの椅子に座って彼が来るのを待つ。


 しばらく待っていると、金髪を揺らして美少年がやってきた。

 頭の色がこれなので、すぐに解る。


「ハァハァ……来ました!」

「なんだ、走ってきたのかい?」

 高レベル冒険者は、息を切らしたりしないので、ちょっと新鮮である。


「は、はい! もちろんですよ」

「ちょっと移動しよう」

 彼と一緒にホテルのカフェに向かった。

 一緒に座ると、俺はパフェを頼む。


「え~と」

 彼がメニューを持って固まっている。


「なんでもいいよ。奢るから」

「ありがとうございます!」

 彼も注文をした。


「最近の調子はどうだい? レベルは上がったかい?」

「う~ん、イマイチですねぇ……」

 彼は、伏し目がちに視線を落とし、長い睫毛の影が頬にふんわりと落ちている。

 照明のスポットライトの光を受けて輝く金髪は、繊細な絹糸のようにさらさらと揺れ、まるで夢の中の妖精のような美しさを放っている。

 きらめく黄金の髪と白く滑らかな肌のコントラストが、まるで少女のように儚く愛らしい雰囲気を醸し出していた。


「う~ん、本当にエルフみたいだな……」

 名前もエイトって外国人みたいだし。


「なんですか?」

「いや、こっちの話でな……君もその気なら、俺たちのアタックに参加するかい?」

「そ、それって危なくないですか?」

「マジで危ない。マジで死ぬかと思ったことが、数回」

「そ、そんなの無理ですよ~遠慮しておきます……」

 ここらへんが覚悟完了しているサナとの違いか。

 彼女は、危険をものともせずに深層に突入して、ついには姫よりレベルが上がってしまった。


「あまりガチ勢じゃないのか?」

「ええ? あの~怖いの苦手で……」

「なんだそりゃ」

「あはは……」

「そんなんで、イロハ――じゃないや、オガさんにアタックするつもりかい?」

「いいえ! そんなの無理ですよ! 僕は単に憧れているだけですから……」

 まぁ、相手はトップランカーで、雲の上の人なのかもしれない。

 俺は棚ぼたで最初から高レベルになってしまったから、そういう感覚がよく解らない。


「そんな君に朗報だ」

「え? な、なんですか?」

「実は――オガ氏が主役で映画の企画を作っている」

「ええ~? 本当ですか?」

「その、相手役で君も出てみないか?」

「……は?」

 俺の言葉が理解できないのか、彼が固まっている。


「説明するとだな――オガ氏がヒーローで、君がヒロイン役ってことだ」

「えええ~っ?!」

「どうだ? 君の夢が叶うかもしれないぞ?」

「そ、そ、そんなのムリムリムリカタツムリですよ」

 これが今流行っているのかな?


「いいのかい? せっかくのチャンスだぞ? 彼女の大きな身体で抱きしめられて、あんなことや、そんなことをしてもらえるかもしれないのに」

「そ、そんなこと、僕は望んでないですよ~」

 ――と、いいつつ、彼が顔を赤くしている。

 俺がからかっていると思っているのかもしれない。


「まぁ、まだ企画段階なんで、君にその気があるなら、連絡をくれ」

「は、はい……」

 頼んだものが運ばれてきた。

 俺はやって来たパフェを掬い口に入れたのだが……。


「ダ~リン?」

 聞こえてきたのは、姫の声。

 振り向くと腕を組んで仏頂面の彼女がいた。


「ああ、姫か。君もパフェ食うか?」

「会うのは、女じゃないって言った!」

 どうやら、眼の前の金髪美少年を女の子だと勘違いしているらしい。


「え?! 彼は男だぞ?」

「……じ~っ」

 姫が、エイトの顔を覗き込んでいる。


「僕、男ですけど……」

「……」

 彼女が黙って、尻を使って俺をどけると隣に座った。

 姫もなにか食べるようだ。


「男の子にも手を出すようになったの?」

「そんな人聞きの悪い。彼は、イロハのファンだぞ?」

「オガの?」

「そうなんですよ」

 彼が答えた。


「ふん……趣味が悪すぎる」

 そんなことはないと思うがなぁ……。

 彼女と勝負してみたら、中身は普通で可愛い女の子だし。


 姫は納得したのか、してないのか。

 いくら相手が女の子みたいな美少年でも、男には手を出さないぞ。


「知っているとは思うけど――桜姫さんだ」

 彼に姫を紹介する。


「は、はい! もちろん知ってます! トップランカーの方と一緒に話せるなんて、とても光栄です!」

「彼と話していたのは、イロハの映画の件だよ」

「あの映画の?」

「彼は、この見た目だろ? 特殊メイクで耳を長くしたら、エルフとして出演できるんじゃないかと思ってな」

「エルフ……じ~っ」

「スゲー美少年だろ? 金髪だし青い目だし、メイクしたら本当にエルフみたいだと思う」

「確かに……外国人なのか?」

「日本人です。クォーターなんです」

「そうなのか、すまん」

「いいえ」

 姫を前にして、彼は随分と恐縮しているなぁ。

 俺には全然なのに。

 まぁ、俺は高レベル冒険者として、ランクにも載ってないからな。

 アイテムBOXを持っているオッサンってだけで、そんなに高レベルだと思っていないのかもしれない。


「映画には、彼女も出るんだぞ?」

「え?! マジっすか?」

「ああ、マジマジ」

「う~ん……」

「一緒に、エンプレスも出るぞ」

「えっ?! エンプレスさんも?!」

 彼が唸っているのだが、カオルコの巨乳を想像しているかもしれない。

 女の子みたいな顔をしているが、彼も男だ。

 おっぱいは好きに違いない。


 おっぱいそれは、人類の叡智だからな。

 まぁ、俺は尻派だが。


「なんだ、エイト君――筋肉も好きだけど、おっぱいも好きか」

「え、え~」

 彼が姫のほうをチラ見している。

 憧れのトップランカーの前でそういう答えは言いにくいだろう。


「その点、イロハは大胸筋もすごいからなぁ。バスト150cmぐらいあるんじゃないか?」

「やつのは全部筋肉だろう?」

 話が逸れてしまった。

 本題に戻そう。


「映画と言っても、まだ企画段階だから、実現するかどうか解らん。ゆっくりと考えて見てくれ」

「は、はい」

「でも、憧れのオガとペアを組んで、映画に出られるなんて、こんなチャンスは二度とないぞ?」

「そ、そうですけど……」


 素人の思いつきがどうなるか、マジで解らんが、一応話は通した。

 次は、映画界との接触だな。


 俺はパフェを食ったあと、エイトと別れた。

 姫と一緒に部屋に戻ると、いつも動画をやっているクアドリフォリオさんに連絡を取った。


 彼女と軽く話したのだが――。


『なにそれ! すごく面白そうです!』

 すごい食いつきである。


「時間があるときでいいから、軽くお話できます?」

『すぐにお伺いいたします!』

「え?! 今から? いいですけど――それじゃ、いつものようにホテルのロビーで」

『承知いたしました』

 やれやれ、忙しいぞ。


「姫、下に行ってくる。今度は、女性だぞ?」

「いい、わかった」

 彼女がソファーに寝転がったまま、動かない。

 俺の心配をするのがアホらしくなったのかもしれない。

 まぁ、俺も仕事相手と勝負する気にはならんし。


 再び1階に行くと、クアドリフォリオさんを待つ。

 ロビーのソファーに座っていると、彼女がやって来た。

 相変わらず派手な格好をしているからすぐに解る。


「クアドリフォリオさん、こっちです」

「あ! こんにちは~!」

「こんにちは」

 彼女の額にはうっすらと汗が滲んでいる。

 そんなに急がなくてもいいのに。


 クアドリフォリオさんと一緒に、またカフェに行く。

 いくらパフェが好きでも、さっき食べたばかりなので、普通にコーヒーにした。


「好きなものをどうぞ。私のおごりですから」

「あの~」

「どうぞどうぞ」

 彼女は遠慮がちに、ケーキを頼んでいた。

 食べたかったに違いない。

 ここのケーキはホテルのカフェだけあって、かなり上等だからな。

 まぁ、値段も上等だが。


「早速ですが、始めてもよろしいですか?」

「は、はい! 丹羽さんの出資で、映画を作りたいということですね」

「そうなんだよ。一応企画書も作ったから、送るよ」

 彼女のスマホに企画書を送る。


「紙に印刷したほうがいいかな?」

「いいえ、最近はこういうのは全部デジタルですよ」

「台本なんかも?」

「台本は、横長の電子ペーパーを使ってますね~。すごく軽いんですよ」

「へ~」

 まぁ、今は紙も高いからなぁ。


「……」

 彼女が企画書を、つらつらと読んでいる。


「あ、あの~」

 彼女が顔を上げると訝しんだ顔をしている。


「なんでしょう?」

「高レベル冒険者たちによる、初の映像化ってなってますが……」

「やっぱり、それが最大の売りになりますね~」

「高レベル冒険者って難しい方が多いって聞きますが、本当に?」

「ええ、ほぼ出演の同意をいただいてますよ」

「ほ、本当ですか?」

「ええ」

 彼女がまた企画書を読んでいる。


「このエルフの方は?」

「その人は、高レベル冒険者じゃないのですが、クォーターで金髪碧眼の超美少年ですよ」

「美少年?!」

 彼女のメガネが光る。


「彼の耳を特殊メイクで長くすれば、エルフ役にぴったり――と、いうことで現在出演交渉中です」

「は~」

「戦闘シーンは、実際のダンジョン内での映像を使う予定ですが、映像の専門家として、私の動画をそのまま映画に使えそうですかね? 初期のは駄目だと思うのですが、最近のはカメラもグレードアップしてますし」

「大丈夫だと思いますよ。今はAIで解像度を上げる技術も発達してますし」

「とりあえず、それが心配だったので、第一関門クリアって感じですかね」

「こんな面白そうな企画なら、撮りたい監督さんが沢山いますよ!」

「それは、ありがたい」

「しかも! スポンサーの心配をする必要もないと!」

「ええ、費用は全部私が出しますから」

「それで、予算はいかほど?」

 彼女が恐る恐る聞いてきた。

 やっぱり、気になるだろう。

 素人映画で、100万円で撮る! みたいな企画にするつもりはないし。


「そうですね~10億ぐらいあったら、足りませんか?」

 まぁ大作なら、もっとかかるのだろうが、自主制作的な映画でもあるし。

 世界が止まる前のハリウッドなら、1本100億とかな。


「ええ?! そ、そんなに?!」

 彼女も素人の俺がそんなに出してくるとは思ってなかったようだ。


「せっかく高レベル冒険者を集めて映画を作るなら、いいものにしたいと思いますし……」

「よ、予算としては十分だと思います……」

 そのまま、彼女が考え込んでしまった。


「どうしました?」

「映画業界って序列が決まっていて、若い人がいきなり監督とかできないんですよね……」

「まぁ、どこの業界もそういう感じですかねぇ。若いやつは下積みだけしとけ! みたいな~」

「そうなんです。助監督でしばらくやってから、やっとって感じで」

「要は、上がいなくならないとアカンちゅ~ことか」

「そうなんですよねぇ」

 彼女は、監督を任せてみたい若い人を知っているのだろうか。


「私の映画はスポンサーもないし、広告代理店も入らないし、自主制作で作りました~って感じでどうだろう? なにか言われても、『自主制作映画なので!』で押し通しちゃったら?」

「そ、それでいいのですか?」

「クアドリフォリオさんが、任せてみたい監督さんがいるのなら」

「よろしくお願いいたします!」

 ――とはいえ、100%信用するわけじゃない。


「そうだなぁ。予算出すから、その監督さんに10分ぐらいのショート映像を作ってもらってよ。それで判断してもいい?」

「はい! 彼女にもそう伝えます!」

「え? 彼女ってことは女性なの?」

「はい」

 まぁ、出演者に女性が多いから、女性の監督が上手く嵌まるかもしれない。

 その前に、普通にデカい作品を監督する実力があるかどうかって話だが。


「編集関係では、当然クアドリフォリオさんも、関わるんでしょ?」

「もちろん! こんな仕事は、普通は回ってこないですし!」

「よろしくお願いするよ」

「こちらこそ、よろしくお願いいたします!」

 どうやらやる気まんまんだが、その若き監督さんの実力次第だな。


 話はまとまったのでクアドリフォリオさんと別れた。

 すべてが上手くいけばなぁ。


 映画のことを考えつつ、部屋に戻る。


「どうでした?」

 出迎えてくれたのは、カオルコだった。


「どうやら、若い子を中心でスタッフを集めて作るみたいだよ」

「大丈夫でしょうか?」

「解らん。ベテランだから、いいものが作れるとは限らないってのが、創作物ってやつだからな」

 誰が作ろうと、面白いものが正義。

 市場に出して、売れたら正義。


 まぁ別に、俺はこれで儲けようとは思ってないが。

 広告代理店やら、映画館との契約がなければ、上映はできないが、今はネットの時代だ。

 俺の魔物との戦闘動画を、チャンネルで流しただけでも1億アクセスするのだ。

 そこにイロハ主演、姫が魔王の映画を載せたら、1億どころじゃないと思うんだがなぁ。


 ――監督希望という女性からの返事はすぐにやってきた。

 こんなチャンスを逃がしたら、二度とないかもしれない。


 後日、クアドリフォリオさんと一緒にその女性と会う。

 やって来たのは、すらっとした長身の黒尽くめの女性。

 黒いショートボブに、黒い手袋、黒いマスクと徹底している。


「初めまして、フラミニアと申します」

「丹羽です。よろしく」

「よろしくお願いいたします」

 長身の彼女がペコリとお辞儀をした。

 普通に礼儀正しい。

 いつも冒険者と一緒だから、こういう普通の挨拶をすると「これが普通だよなぁ」――などと、思ってしまう。


「あの、マスクと手袋はアレルギーで外せませんので、申し訳ございません」

「ああ、なるほど、解りました。大丈夫ですよ」

「ありがとうございます」

 手もアレルギーによって、荒れているらしい。


「アレルギーって状態異常っぽいから、ダンジョンで回復薬ポーションを使うと治らないかな?」

「それも試したことがあるのですが……」

 その場では治るのだが、すぐに再発してしまうらしい。

 回復薬ポーションも買うと、安いものじゃないからなぁ。


 病気の根本的なものとなると――エリクサーか。

 普通じゃ手がでない。

 八重樫グループが超高額でも買うようなものだし。


「アレルギーっていうと――オッサンや爺さんが『そんなもの気合で治る』『甘えだ』『食えば治る』とか言う人ってまだいるの?」

「いますいます!」

「騙して食わせようとしてきたり?」

「もう、本当にうんざりですよ」

「地球が静止して、そのあとの物資不足を生き抜いたから余計にそういうことを言う人もいるのかもしれないなぁ」

「こっちは、命に関わることもあるんですけど……」

「そうだよね~」

 そんなこともあって、古株の映画関係者には反発もあるようだ。

 反骨精神があるのはいいけど、実力が伴っていないと困る。


「それじゃ、サンプル動画の話をしてもいいかい?」

「はい、よろしくお願いいたします」

 彼女たちの実力を観るためのサンプル動画を作ってもらう。

 時間は10分でお題は自由。


 そのための制作費用は俺が出すとして――彼女たちが示してきた予算は500万。

 動画の予算としてはちょっと多いのか? 解らん。


 仲間ウチのビデオ撮影だけで、それっぽいの撮ったらなぜかヒットしちゃったみたいなものもあるし、結局は中身勝負だよな。

 まぁ、いいだろう。

 予算を出して、俺を納得させられる動画ができないのなら、ここで話は終了だが――。


 八重樫グループのコネを使って広告代理店を紹介してもらうというのが王道だろうが、そういう感じにはしたくないな。

 参加する人が多ければ、俺の望んでいたものからどんどん離れていってしまうし。

 色々なゴリ押しも入ってくるだろう。

 それは勘弁だな。


 彼女たちの口座に振込手続きをして、打ち合わせは終了した。

 さて、どうなるかな?

 そのまま金を持ち逃げされたりして。

 まぁ、それも面白い。


 俺は部屋に戻った。


「姫、監督さんも、背の高い真っ黒なファッションの女性だったよ」

「そうか」

「もう、ぐぬぬ――するのは止めたのかい?」

「いくら追い払っても、ダイスケさんの所に女性が集まってくるから、諦めたんですよ」

 カオルコが姫の様子を説明してくれた。

 さすが、付き合いが長いな。


「どんな女性が来ても、姫が一番なのにな」

「もっと態度で示したほうがいいと思いますよ」

 カオルコのアドバイスだが、そういうものか。

 女性と男の感じかたって違うからな。


 俺は姫の所に行くと、彼女を抱き上げた。


「姫」

「な、なんだ」

「愛してる」

「へぁ!」

「愛してる愛してる愛してる」

「にゃぁぁぁ!」

 彼女がいきなり俺を突き飛ばした。


「どうした?」

 姫が床に座り込んでいる。

 覗き込むと、顔を真っ赤にして震えていた。


「うふふ……くくく……」

 姫の様子にカオルコが腹をかかえている。


「カオルコぉ!」

「あははは!」


 それはさておき、サンプルの動画はどんなものができあがってくるかな?



マンガボックスさんで

https://www.mangabox.me/

アラフォー男の令和ダンジョン生活改め、「アラフォー男の東京ダンジョン生活」のコミカライズが連載中です。

更新されているのは、スマホサイトだけのようです。

よろしくお願いいたします~。


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