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100話 作業員たちを守らなくちゃ


 俺たちは、ダンジョンの4層にある鉄道の復旧工事にやってきた。

 もちろん、俺が工事するわけじゃなくて、プロがいるわけだが。

 いけ好かない役人が着いてきてはいるが、他の問題はなし。


 あとは、魔物の襲撃ぐらいだが、今のところは大丈夫のようだ。

 ハーピーたちもやってきて、また上空からの監視を頼もうとすると――役人の男がハーピーたちにちょっかいを出し始めた。


 見かけは女の子の顔をしている鳥だが、立派な4層の魔物だ。

 攻撃力もそれなりにある――と、思っていたら、男が2羽から盛大にウ◯コ爆弾を食らった。


「うわぁぁぁ!」

 男が、頭からペンキを被ったように白くなっている。

 姫も食らったコレだが、非常にクサイ。


「く、くせーっ!」「うわぁぁぁ!」「ぎゃああ!」

 現場はパニックである。

 聞くところによると、冒険者が食事をしている所に爆撃をして、くさくて放りだしたものを漁ったりすることもあるそうだ。

 やっぱり、頭はいいよな。


「ぷっ! アヒャヒャヒャ!」

 いきなり、イロハが腹を抱えて笑い始めた。


「ぷっ! オガさん、わ、悪いですよ……」

 サナもプルプル震えているから、笑いを我慢しているのだろう。

 姫は、ものすごい形相で男を睨んでいる。

 心の中で、エンガチョ切っているのかもしれない。

 お嬢様なので、口には出さないだろうが。


「ロッパー……」

 あまりのにおいに、男がケロケロし始めた。


「あ~あ……」

 その姿を見ていると、ちょっと気の毒かな?

 まぁ、自業自得だけど。


「げ、ゲェ……わ、笑ってないでなんとかしろぉぉ!」

「ナントカ? こんなダンジョンの奥で?」

「お前のペットだろうが!」

「ええ? あれは人に懐いているだけの魔物で、ペットじゃありませんが」

「うぐぐ……」

「それよりも――そのにおいで、魔物が集まってくるかもしれませんから、皆から離れた所にいってくれませんか?」

「そ、それでは、私が魔物に襲われるじゃないか!」

「そちら様は、お偉い役人様なんでしょ? 30人以上の作業員を危険から守る責務があるんじゃありませんか? それとも、作業員たちを自分の盾として利用するおつもりですか?」

「……」

 男が黙ってしまった。


「ギャ!」「ギャーッ!」

 上では、逃げたハーピーたちが旋回しているようだ。

 アホらしいので、撮影を止めた。


「そちら様は、完全に敵と認識されてしまったので、攻撃の機会をねらっているかもしれないですよ」

「うぐぐ……」

 男が上を見ているが、普通の人間に暗闇は見えないだろう。

 どこから攻撃されるのかもわからないはずだ。


 男が俺たちから、離れ始めた。

 謝罪すれば手もあるのに、謝ったら死ぬ病気かなにかか?

 常軌を逸したやつってのは、いるもんだ。


 このまま上に戻ったら、粘着されるかもしれん。

 そうなったら、今撮った動画などで、黙らせるか。

 プライドが死ぬほど高そうだから、こんな動画を拡散されそうになったら、手を引くだろう。


 慌てて、小野田さんが行ったのだが、取り合わないようだ。


「丹羽さん!」

「ほっとけ。それより、鉄道の復旧が先でしょ?」

「そ、そうですけど……」

「別に小野田さんのせいじゃないし。上からなにか言われたら、総理経由で抗議してあげますよ」

「ありがとうございます」

 あんなピーに構っている時間はない。


 男が離れたら、ハーピーたちが俺の所に戻ってきた。


「よしよし」

 彼女たちにチョコをやると、なでてやり、また上空からの監視を頼んだ。


「ギャ!」

 そんなことをしている間にも作業が進んでおり、枕木の設置が終わったようだ。

 男たちが集まってレールを運ぼうとしている。

 レールってのは、1m辺りの重さが決まっているそうだ。

 主要幹線だと1m50kg、地方線だと40kg、支線は30kg――てな具合だ。

 ここに持ってきたのは、1m30kgのレールだろう。

 それが10mに切られているから、1本300kgってことか。


 作業を見ていたが、全部人力のためか中々進まない。

 300kgってことは、10人だと1人30kg――普通だとこれでもきついな。

 20人で、1人15kgって感じだろう。

 実際にそのぐらいの人数でえっちらおっちら運んでいる。


 余計な世話かもしれないが、工事は早いほうがいいだろう。


「お~い、俺が運んでやるよ。最後の調整だけやってくれ」

「た、助かります」

 レールをヒョイと持ち上げる。


「おおお~っ」

「機関車に比べたら軽いぞ」

「ダーリン、あたいも手伝うよ!」

「よっしゃ! これならすぐに終わるぞ」

 イロハもレールを軽く持ち上げた。


「こっちにお願いします!」

「おう!」

 彼女が長い鉄の塊を運んでいく。


 レールを運んで、枕木の上に直列に並べる。

 それを、枕木にボルトとナットで固定するようだ。

 本当は、電動やらエアを使ったレンチなどを使うのだろうが、ここには電気はない。

 作業員たちが、汗をかきながら船を漕ぐように、デカいレンチを回している。


 手作業だが、ボルト締めは人数がいるから、人海戦術でなんとかなりそうだ。

 みるみる、線路が敷設されていく。


「もう、作業が終わりそうじゃないか」

 小野田さんに話しかけた。


「丹羽さんのお陰ですよ。普通は、こんな早く終わらないですから!」

「機関車だって、準備から施工まで数ヶ月単位だろうしなぁ」

「そうですよ!」

 作業を見守る。

 上を飛んでいるハーピーたちも静かだ。

 珍しく魔物がポップしないらしい。


 作業員たちが休憩をしているので、差し入れをしたいのだが、公務員に色々と渡すとマズいので自重する。


「ふう……」

 俺も休んでいると、上がざわつき始めた。


「ギャギャ!!」「ギャーッ!」

 ハーピーたちが騒いでいる。


「敵だ! 魔物が湧くぞ! 避難してくれ」

「ひ、避難ってどこへ?!」「どうする?!」

「皆さん、機関車の近くへ!」

 さすができる女性だ。

 作業員たちを誘導している。


 魔物でも、見たこともないデカいものがあれば警戒するに違いない。

 ハーピーたちは、機関車や人間などを見慣れているからな。


 俺は機関車のボイラーを沸かすためについてきた女性魔導師に声をかけた。


「攻撃魔法は使えないのかい?」

「ファ、ファイヤーボールぐらいなら……」

「まぁ、十分だな。彼らと一緒に」

「もう、戦闘なんてしたことがないんだけど……」

「大丈夫だ。すぐにかけつける」

「は、はい」

 皆が機関車下などに隠れるのを確認すると、戦闘態勢に入る。


「うわぁぁぁぁ!」

 周囲を警戒する――暗闇から叫び声が聞こえて、男が走ってきた。

 あの役人だ。


 続いて暗闇の中から、不意に10体ほどの巨人が現れた。

 その肌は濁った緑色で、まるで腐敗した苔や泥が張り付いているかのように見える、

 手には巨大な棍棒や、粗末に錆びた剣を持っているようだ。


 辺りには、うめき声とともに異臭が漂う。

 腐敗した肉や腐葉土が混ざり合ったようなにおいに加えて、血生臭さと汗のにおいが鼻をつく。

 その匂いは息苦しいほど強烈で、まるで彼らがただそこにいるだけで空気が濁るようだ。


 ここは公共事業の現場だからなぁ。

 映像が使えるかどうか――まぁ、魔物との戦闘だけ切り出せばいいか。

 俺は動画の撮影を開始した。


「ゴァァア!」「ヌグオォォ!」

 魔物が、大声でこちらを威嚇している。


「チッ! なんだよ! クソゴブリンじゃねぇか!!」

 魔物の正体にイロハが吐き捨てた。

 彼女はクソゴブリンって言ったが、こいつらはホブゴブリンだ。

 まったく金にならないし、使い道もない。


 価値があるのは魔石ぐらいだが、今の俺たちには端金みたいなものだし、こんな奴らを解体するために触りたくない。

 買い取り屋にも嫌われるし。

 あと、くさい。

 これが嫌われる原因だろう。


「ダイスケさん! 魔法を!」

 サナとカオルコもやって来た。


「まてまて、こんな連中に2人の魔法はもったいない――」

 俺は辺りを見回していいものを見つけた。

 長さ10mの鉄の塊である。


「ダーリン!」

 姫の声が聞こえる。


「姫は後方の警戒をしてくれ」

「承知!」

「こいつは使えるぜ! 質量は正義ってな」

 俺はレールを頭上に抱え上げた。

 材料は余っているようなので、1~2本使っても問題ないだろう。


「うぉぉぉ! おりゃぁぁ!」

 俺は全力で走ると、レールを真横にして、ホブゴブリンに投げつけた。

 重さ300kgのものが、時速100kmぐらいで衝突する感じか。


 ホブゴブリンが5体ぐらい同時に吹き飛ばされて、そのまま鉄の塊の下敷きになった。


「ギャォォォ!」「ゲァァァァ!」

 潰されたホブゴブリンが叫び声を上げて、ジタバタを繰り返す。

 いつもは、剣などで切られて終了なのだが、今日は重たいもので潰されている。

 腹が破れて、長い内臓などが飛び出していた。

 自分でやってどうかと思うが、ちょっとグロい。


 自分に呆れつつ、アイテムBOXからメイスを取り出した。

 魔物を潰しているレールの上に飛び乗ると、敵の頭を潰す。

 当然、脳みそが飛び散る。

 さらにグロい。


「おお、ダーリン! それいいじゃん!」

 イロハがレールに駆け寄り、俺と同じようにそれを持ち上げると、武器のように振り回し始めた。

 これも質量と速度の攻撃だ。

 レールの先端は時速数百kmか?


 半径10mの円の円周は、62.8m――0.5秒で180度回すとすると――え~と、時速450kmぐらい?

 彼女が振り回した鉄の塊に衝突すると、ホブゴブリンが面白いように吹っ飛んでいく。


「おお! ホームラン!」

「あはははは!」

 彼女は楽しそうである。

 飛ばされた敵は、まだ息があるようなので、駆け寄ると頭を潰した。


「ダーリン! 後方からも敵だ!」

 暗闇から姫の声がする。


「イロハ! レールは持ったか?!」

「おう!!」

 姫の下に駆けつける。


「おりゃぁぁ!」

 姫が1匹を真っ二つにしたところに、レールを投げつけた。

 残った4匹ほどが、まとめて弾き飛ばされる。


「あははは!」

 相変わらず、イロハはレールをブンブンと振り回して、魔物をホームランしている。


「めちゃくちゃだ……」

 その光景を見た姫が呆れていた。


「ダイスケさ~ん! こちらからも!」

 サナの声だ。


「大丈夫か?!」

「はい!」「光弾よ! 我が敵を撃て!(マジックミサイル)

 暗闇に魔法の閃光が輝く――カオルコの魔法だ。

 ホブゴブリンなら、光弾の魔法で十分だろう。


「え~い! えい!」

 サナは、打撃で戦っているらしい。

 チラ見すると、足を払って転ばせてから、頭を潰したりしている。

 彼女もたくましくなったなぁ。


 まぁ、彼女のレベルなら、打撃でもかなりの威力だろう。

 サナが持っているあの武器もある。


 魔法の杖と見せかけて――実は打撃武器。

 それにプラスすることの、サナの高い幸運値から繰り出されるクリティカル。

 イロハのホームランとサナの打撃、どっちがホブゴブリンが可哀想だろうか。。


「姫、止めを」

「承知した」

 彼女と2人で、魔物に止めを刺していく。

 こんな殺戮をしても、もう俺のレベルには関係ないので、まったく無駄な殺しなのだが……。

 政府からの仕事だし、作業員も守らなくちゃならん。


 イロハのほうも終わったようだ。


「サナ! 大丈夫か?」

「大丈夫で~す!」

 俺は小野田さんの所に向かう。


「小野田さん、大丈夫かい?」

「は、はい……」

 彼女も、作業員たちも震えている。

 まぁ、作業している場所から離れたら真っ暗で見えないから、なにが起こっているのか解らない。

 魔物の叫び声と潰れる音だけが聞こえている。

 そりゃ、不安だろう。


「後始末するから、もうちょっとまっててくれ」

 今回は潰してしまったから、臓物なども散らばっていて、酷い有様だからな。

 普通の人にはトラウマになるかもしれない。


「ひぃひぃ……」

 もう1人忘れていた。

 あの役人の男だ。

 やつは、腰を抜かして、その場から動けないでいた。

 ついでにお漏らしもしているようだ。


「ありゃ……」

 こりゃ、連れて帰るときには、嫌でも姫の魔法で綺麗にしてもらわないと。

 俺はため息をついて、撮影していたカメラを止めた。


「ダイスケさん!」「ダイスケさん!」

 カオルコとサナがやって来た。


「俺は魔物の残骸を片付ける。君たちは周囲の警戒を」

「わかりました」

 片付けをするために、イロハと姫の所に向かう。


「は~、まったくくせぇ……」

 イロハが、魔物の汚れを愚痴っている。

 そういえば、俺も全身血まみれだ。

 それでなくても、ホブゴブリンは臭いし。


「ダーリン、洗浄の魔法を」

 姫が魔法を使おうとしたので、止める。


「いや、皆まとめてでいいよ。あの男も綺麗にしてやらんと、連れて帰れないし」

「ダンジョンの穴があれば放り込むのに」

「それじゃ、小野田さんの立場がなくなるだろ」

「むう……」

 姫は不満そうだ。


「クソまみれ、小便まみれと一緒に帰れないだろう?」

「おい、ダーリン、小便ってなんだよ」

 イロハは、俺の言った単語に反応した。


「あの男だよ――魔物に襲われて、よほど怖かったんだろう。漏らしてた」

「あはは!」

 彼女がゲラゲラと笑っている。


「まったくなぁ……」

 こんな状態になっても頭を下げにこないってのは、逆にすごいね。

 あまり長生きはできないだろうけど。


 辺りを警戒していると、イロハが魔物の死体を漁っている。


「イロハ、こんなの買い取りに出すのか?」

「魔石を売って、オークの肉を買うんだ! ダーリンに、角煮を作ってもらう!」

 まぁ、これだけホブゴブリンの魔石を集めれば、オークの肉代にはなるか。

 俺も手伝うことにした。


 姫たちには、周囲を引き続き警戒してもらう。


「魔石を抜いた死体は、アイテムBOXにいれるぞ」

「オッケー!」

 イロハの手際はマジですごい。

 俺が1体やっているうちに、3~4体捌いている。


「イロハ、めちゃ手際いいな!」

「あはは、こればっかりずっとやってきたからな」

 そうか――俺みたいに棚ぼたじゃなくて、レベル1から、妹さんと一緒にやってきたんだな。

 俺のまぶたに、姉妹で協力してダンジョンで活躍する姿が浮かんで目頭が熱くなる。

 いかん――オッサンになると涙腺が弱くなってな。


 魔物を解体し終わり、魔石は全部イロハにやった。

 俺だけ数百メートル離れた場所に行くと、アイテムBOXに入っていたかばねを全部出して捨てる。

 頭が潰れて、臓物がはみ出した肉塊が山になった。

 こんなの見ても、もう全然平気だしなぁ。

 慣れってのはなぁ……。


「あ~、クソ! オークが出てくれれば、いいのによぉ!」

 皆の所に戻ると、まだイロハが文句を言っている。


「小野田さん、しばらく休憩します?」

「いや! 作業を再開する」

 作業のリーダーをしていたオッサンが立ち上がった。


「大丈夫かい?」

「こんなことでビビってたら、作業が終わらん。あんたのお陰で、もう少しで終わるんだ」

「もう線路は敷き終わってるしな」

「そうだ」

 他の作業員たちも立ち上がった。


「やるぞ!」

「「「おう!」」」

「あいつらも役に立つだろ?」

 俺は、地上に降りてきた、ハーピーたちを指した。


「本当に懐いているんだな」

「道案内もしてくれる、いい子たちだぞ」

 俺は、ぴょんぴょんとやって来た、ギギを抱き上げた。


「ギ!」

「よしよし、よくやってくれたな。チョコ食うか?」

「ギャ!」

 ハーピーたちにチョコを食わせていると、魔法の青い光が見える。

 姫が、あの男に魔法を使ったようだ。

 彼女が、一言も話さず俺の所にやって来た。


 やつも多少は凝りただろうか?

 よく解らんが、黙って客車の所に行って座っている。

 なんかブツブツ言ってる気がするが、関わらないようにするか。


 そんなことをやっているうちに、作業が終了した。


「す、すごいです! 本当に1日で作業が終わってしまうなんて!」

「仕事は段取り8割でしょ? 小野田さんの段取りのお陰だと思いますよ」

「いいえ! なんと言っても、丹羽さんのアイテムBOXでしょ!」

「確かに、そうだなぁ」「アイテムBOXがなきゃ、なん日かかっていたことか……」

 作業員たちも、小野田さんと同意見らしい。


「それはそうと――試運転はするんですか?」

「無論です!」

 敷いた線路が問題ないか、実際に上を走らせてみなければならない。

 機関車の準備が整い、作業員たちが線路の脇に並ぶと、テストが始まる。

 男たちが見守る中、ゆっくりとレールの上に機関車が乗る……問題ないようだ。

 そのまま、白い蒸気を吐き出しながら、工事が終わった区間を走りきった。


「やったぁ!」「「「うぉぉ!」」」

 作業員たちが、ガッツポーズをしている。


「上手くいったようだな」

「ああ」

 姫は物足りなさそうである。

 もっとトラブルがあると、思っていたのだろうか?

 いやいや――この人数を抱えて、前のトラップみたいなことになったら、守りきれない。

 それだけは勘弁してもらいたい。


「小野田さん、OKですか?」

「はい! OKです!」

「それじゃ、撤収作業に入りますよ。アイテムBOXに収納してもいいですか?」

「よろしくお願いいたします!」

 俺の所にイロハがやってきた。


「ダーリン、あのレールはいいな! ダーリンのアイテムBOXに入れて置いてくれねぇ?」

「確かに武器になるかもな」

「小野田さん!」

 俺は彼女に声をかけた。


「なんでしょう?」

「魔物退治に使っちゃったレールはもらってもいいですかね? 血まみれ臓物まみれになったレールは使いたくないと思いますし……」

「ああ、問題ないと思います。魔物に襲われたときに曲がってしまって、投棄したことにしますから……」

「まぁ、実際に少し曲がってしまったかも、ははは」


 作業が終了したので、残ったレールや工具を収納して、撤収することになった。

 これで4層の鉄道も使えることになる。


 帰りは、列車に乗って戻ることにした。

 あの男は、黙ったまま客車の外れに座っている。

 下を向いたままなにかブツブツ言っているみたいだが、壊れてしまったか?


 そのまま4層のキャンプに到着。


「ちょっと待っててくれ! 買い物をするからさ!」

 イロハはさっき集めた魔石を使って、オークのリブを買うつもりらしい。

 5分ほどで、デカいアバラの部分を担いだ彼女が戻ってきた。


「買えたのかい?」

「えへへ! こいつで、美味いものを作ってくれよ!」

「今回、手伝ってくれたしな」

「角煮、角煮~!」

「リブ焼きも美味いぞ」

「いいな~……」

 ボソリと誰かが、呟いたと思ったら――小野田さんだった。


「サナも食うか?」

「もちろん!」

 カレーは簡単だが、角煮は結構手間がかかる。

 そろそろ、部屋に備え付けのIHじゃ間に合わなくなってきたな。

 専用のデカいコンロでも買うか?

 いや、そもそも、あそこで火を使ってもいいのだろうか?


 これで、あとは地上に戻るだけ。

 あの男が静かなのはいい。

 列車と蒸気エレベーターを乗り継ぎ、エントランスホールまで戻ってきた。


 結局、あの役人は地上に出るまで黙ったままだった。

 外に出ると、すでに空はオレンジ色になりつつあった。


「姫、俺は彼らの荷物を持っているから、羽田まで行ってくる」

「承知した」

「わ、私も行きます!」

 サナが手を挙げた。


「駄目駄目、もう暗くなるから、家に帰りな」

「む~」

「ふふ」

 それを見た、姫がニヤリとしている。


「姫とカオルコも先に戻っててくれ」

「わかりました~。暗くなるので、ダイスケさんも気をつけてください」

「大丈夫だよ。暗くても見えるしな」

 俺が姫たちと話している間、小野田さんが自分の端末でどこかに連絡をしていた。

 多分、仕事の報告だろう。

 ダンジョンの中じゃ、報連相ができないからな。


「それじゃな、ダーリン! 角煮を頼むぜ!」「私も!」

 イロハ、サナと別れた。


「おまたせいたしました」

 ホテルに戻る姫とカオルコを見送っていると、小野田さんが戻ってきた。


「さぁ皆さん――家に戻るまでが、公共事業です」

「ふふふ」

 彼女が笑っている。

 なんか、クソ真面目っぽくって、メガネキラリって感じだったのが、随分と砕けた印象になったな。


 作業員たちと船に乗り、羽田に到着した。


「あの~、申し訳ございませんが――トレーラーが来るまで、待っていただけますか?」

「ああ、いいですよ」

 俺が回収した機関車を運ばないと駄目だからな。

 そのためのトレーラーだろう。


 固定作業などのために作業員たちも、その場に待機している。

 迎えのバスが来ないと、彼らも帰れないだろうしな。


「それじゃ、ちょっと買い物をしてきてもいいですかね?」

「多分、大丈夫だと思います」

「予想より早かったら、スマホに連絡を入れてください」

「わかりました」

 俺は羽田の商店街に走った。


「さて、コンロコンロっと」

 デカいガスコンロを買うつもりだ。

 業務用のデカい圧力鍋も必要だろう。


 店を探すと調理器具などを置いている場所に、圧力鍋や中華料理などで使うデカいコンロもあった。

 ついでに、大量に食器なども買う。

 人が集まることが多くなったからな。

 さて、ガスボンベも必要だが、どこに売っているのか。


「こういうときには検索か……」

 スマホで場所を検索すると、店を見つけたので、ボンベごと購入した。


「お客さん、配達しましょうか?」

「いや、大丈夫だよ」

「うわ?! 消えた?!」

「アイテムBOXだよ」

「こ、これが、噂の……すげぇ」

 若い店員が驚いている。

 次からは、ここにボンベを持ってくれば、充填してもらえる。

 俺は買い物が済んだので、小野田さんの所に戻ることにした。


 辺りはすでに暗くなり、防波堤の近くに明かりが灯っている。

 ダンジョンでは、こういう明かりがないから、文明の明かりが余計に眩しく感じるな。

 すでに、トレーラーが到着していたのだ。


「すみません! 待ちました?!」

「大丈夫、今到着したところですので」

「それじゃ、早速載せちゃいましょう」

「「「おう!」」」


 アイテムBOXに入っていた機関車や持って帰ってきたレールをトレーラーの上に出す。

 あとは、作業員たちの荷物も出した。


「いや~、手ぶらで仕事ができるなんて、マジで天国っすよ」

 若い作業員がニコニコしている。


「こういう仕事って、重い荷物ばっかりだしな」

「マジっすよ、あはは」

 そういえば――なにか忘れているような……。


「あれ? あの男は?」

 俺は、男が消えているのに気がついた。


「え?! そういえば……」

 小野田さんが辺りをキョロキョロしている。


「勝手に帰ったんじゃない?」

「本当に困りますねぇ……」

 彼女が呆れている。

 作業員たちも確認したが、やっぱりいないようだ。

 ダンジョンの中でいろんなものがズタボロになったんだろう。

 ちょっとでも、人に頭を下げることができれば、こんなことにはならんのに。

 まったく度し難い。


 なにを考えているか解らんが、絡んでくるようなら、ダンジョンで撮影した、やつの無様な姿をネットに流してやろう。

 なんか知らんがプライドだけは異様に高いようだし、そういうのは耐えられんだろう。


 俺は、やっと仕事を終えて、小野田さんたちに別れを告げると、暗くなった波止場に向かった。



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