10話 本当に治った
冒険者1日目は、色々と上手くいったようだ。
やはりレベル49という力は絶大だ。
珍しい魔物を生け捕りにしたという動画を撮って、動画サイトにアップしたらバズっている。
このまま知名度を上げて、動画でもひと稼ぎしたいところだ。
――2日目、特区の外で買い物をして戻ると、ダンジョンの前でチンピラに絡まれている爺さんを発見。
チンピラを追い払ってやった。
話を聞けば――爺さんは病気の孫娘のために、最上級のポーションが欲しいらしい。
ヨボヨボのその歳で冒険者になるというのは、いくらなんでも無理がある。
「とりあえず、爺さんの孫娘に会ってみよう」
「ああ……」
「スマホを持っているよな?」
「こんなのしかないが……」
彼が差し出したのは、画面が割れたボロボロの古い機種。
なんとか使えているようだが、これも金がなくて格安のものを探した結果だろう。
とりあえず、国民カードとスマホがないと冒険者にはなれないしな。
登録はできるかもしれないが、支払いなどはカードと紐付けされたスマホで行われるし。
ダンジョンの情報をゲットするためにもネットが必須だ。
それに、今はスマホがないとなにもできない。
政府も電子マネー化を推進しているし。
話を聞けば金もないらしい。
世界が静止して、年金制度もほぼ崩壊しているしな。
年寄りが暮らしていくのは、中々ツライ時代だ。
俺が大金ゲットしてFIREしたいというのは、老後の資金を確保したいというのもある。
彼に当座の資金として、5万円貸した。
「こんな金を返す当てが……」
「いいって、孫娘が元気になれば、その彼女からいずれ返してもらうよ」
「……」
俺も本気で取るつもりはない。
「俺も一緒に行ったほうがいいか?」
「だ、大丈夫だ」
爺さんの話では、家に戻ってすぐに連れてくると言う。
それじゃ、今日のダンジョンはお休みか。
「孫娘をタクシーにでも乗せたら、そのときに連絡をくれ。羽田の船着き場まで行くから」
「わ、わかった」
連絡先を交換して彼と別れようとすると――。
「本当にありがとうございます」
爺さんが深々と頭を下げた。
「爺さん、爺さん、まだ気が早いぞ? 本当に治るかどうかは解らないんだから」
「だが、礼を言わせてくれ」
「はは、まぁ、待ってるよ」
「よろしくお願いたします」
彼が再び頭を下げると、船着き場のほうへ歩き始めた。
ヨボヨボな爺さんが、ここまで来るだけでも大変だったろう。
「オッサンオッサン! 正気かい?!」
突然若いやつが話しかけてきた。
「なんだ?」
「あの回復薬がなんだかわからないが、もしかしてエリクサーなら、億を超える価値があるのかもしれないぞ?」
「え? そんなに高いの?」
「ああ――それを、見ず知らずの爺さんにやるなんて」
「まぁ、まだ決まったわけじゃないしなぁ、ははは」
「「ざわざわ……」」
なんか色々と言われている気がするが……口から出てしまったものを引っ込めるわけにもいかんし。
とりあえず、その孫娘とやらにあってからだな。
それに、金を出して買ったものなら無理だが、偶然に拾ったものだし。
人前で薬を使ってしまったのは、ちょっと迂闊だったか。
孫娘のために頑張る爺さんを見捨てるわけにもいかんし。
「都内なら、まぁ1時間ぐらいだろう」
さて、勢いでエリクサー――かどうかは解らんが、使うなんて言っちゃったな。
お金も貸しちゃったし。
これが寸借詐欺だったら、彼はとてつもない役者ってことになるが――どうみても、怪しいところはなかった。
あれが演技だったら、逆にすごい。
さて、それはいいが。
その孫娘ちゃんがやってくるまで1時間ぐらいだとすると、それまで暇つぶしをしないとな。
この機会だ、特区内を散策してみるか――と、いっても、あまり遠くへは行けない。
女の子たちを迎えに、羽田に行かないと駄目だからな。
市場をウロウロしながら露店を見ると――トルティーヤみたいなものを売っている。
そういえば羽田で買い物をしたりして、もう昼近い。
早めの昼飯にするか。
露店の飯を食ってみることに。
いずれは食わないとダメだしな。
故郷の試される大地は地産地消が行われているので、魔物の肉はあまり入ってきてなかったんだよなぁ。
なにせあそこは食料自給率100%越えてるしな。
一応、店主に聞いてみたところ、やっぱり特区産の魔物の肉らしい。
そりゃ、ここで肉が穫れるのに、わざわざ外から持ってくる必要がない。
どうしても魔物の肉を食いたくない金持ちなら仕方ないが。
「ん~」
別に変なにおいもなく、くせもない。
「魔物ってダンジョンで生まれるだろ?」
エプロンをした露店の店主が、持論を話してくれた。
「ああ、そうだな」
「肉の味って、その動物の食生活に左右されるのよ」
「ああ、ダンジョンから生まれた魔物たちは、生まれてからあまり時間がたってないから……」
「そうそう――家畜でも草食動物の肉は美味くて、肉食動物は不味いんだけどね」
家畜ってのは普通草食動物だから、そういう所も関係しているのだろう。
「そういえば、魚を食っている水鳥とか臭かったなぁ……」
腐っている魚のにおい――というか、そのぐらい臭い。
マジで食い物がなかったときにはそういうものも食うしかなかったわけだが……。
「ははは、そういうこと」
鳥でいうとカラスが不味いのは、肉を食うからじゃないかという話だな。
穀物とか虫ばっかり食わせたら、臭くないかもしれん。
「なるほどなぁ」
「ただ、生まれた魔物が長生きしてしまって、人間やら他の魔物を食い始めたら不味くなるかもな」
「ありがとう、ためになったよ」
「また買ってくれよな。臭い肉は売らないからさ」
そりゃ客だって臭くない肉のほうがいいに決まっている。
ものがないなら仕方ないが、今はそこまで食糧危機でもない。
「わかったよ」
俺が買ったのは、トルティーヤもどきだったが、普通の肉も売っているし、揚げ物も売っている。 コロッケやメンチなどもあるのだが、これは魔物の脂で揚げているのだろうか?
腹いっぱいになった俺は、露店を見て回った。
やっぱりかなり値段が高いな。
時間と運賃はかかるが、外で大量買いしたほうがよさそうだ。
俺にはアイテムBOXもあるしな。
露店で赤いポーションも売っていた。
一番安いやつだが、1本が1万2000~1万3000円。
買い取りが1万円だから、儲けが上乗せされているのだろう。
買うと、そこに税金が20%上乗せされる。
冒険者に直接売ってもいいが、それにも税金がかかるからなぁ。
税金税金――冒険者カードとスマホを使っているから、それからは逃げられない。
まぁ、そういう商売なのだから諦めるしかないか。
露店巡りをしていると、爺さんから連絡あり。
孫娘とタクシーに乗ったらしい。
「さて、羽田に迎えにいくか。今日は海の上を行ったり来たりだなぁ」
羽田で買い物して、帰ってきて、またトンボ帰りか。
ポンポンと音をたてる船に乗って、また羽田の桟橋にやって来た。
爺さんへ、スマホのSNSで連絡を入れる。
近くにいるらしいので、迎えにいくことにした。
病気の孫娘は、歩けないようだ。
連絡をなん回かしつつ、やっと爺さんたちを見つけた。
病気の孫娘ということだったので、1人かと思ったら、もう1人女の子がいた。
制服を着ているので、多分高校生ぐらいだと思うのだが。
肩口まである黒髪に、ほっぺたが赤くちょっとタレ目が可愛い。
多分お姉さんだとは思うが、こちらは健康そうだから、病気の孫娘というのは妹のほうだろう。
それだけではない。
ちょっと制服が小さめなせいもあるのか――胸のところがパツンパツンだ。
多分――かなりデカい。
う~ん、たいしたもんだ――と、思わず言いそうになるのを堪える。
お姉さんの胸はさておき、隣にいる妹さんを見て、驚いた。
多分――10歳ぐらいだろうか。
ボロボロでサイズのまったく合ってない、芋ジャージ。
上下で色が違うし、穴が空いている。
黒い髪は長いのだが、あまり手入れされていないっぽくて荒れている。
彼女の目は静かで、深い穴のように暗く、肌も青白くていかにも病弱という感じ。
生気が感じられない。
俺が見ても、あまり長くは生きられないんじゃなかろうか? ――と、考えてしまう。
そういえば、お姉さんの制服もツルツルで、かなり年季が入っている感じ。
誰かのお下がりだろうか。
「おお、やっと見つけた。こちらが孫娘かい?」
「ああ」
俺を見た妹が、姉の後ろに隠れてしまった。
人見知りらしい。
「妹のことをお願いします」
お姉さんがペコリと礼をした。
「爺さんにも言ったけど、俺の持っている薬で治るとは限らないからな」
「はい、わかってます」
「「「……」」」
3人で黙っているのだが、なにをしていいのか解らないのだろう。
ここは、俺が先導するべきだな。
「よし! とりあえず、女の子2人の服を買おう。その格好はマズい」
「……」
女の子たちが、赤くなっている。
べつに責めているわけじゃないが、ちょっとな……。
「孫たちに、服を買ってやりたいと思っていたのだが、生活するだけで精一杯で……」
「爺さんじゃ、ロクな仕事はないだろうしな」
「学校にも行かせてやれんかった……」
それじゃ、あの制服は余っているものをもらって着ているだけだったのか。
「じゃ、お姉さんは高校生じゃないのか?」
「私が働かないと3人で暮らせないので、働いてます」
「ううう……ワシがもっと働ければ……」
ちょっと、あまり湿っぽいのは勘弁してほしい。
1杯のかけ蕎麦を3人で食ったりするんだろ?
止めてくれ――そういう話はオッサンに効く。
「わかった、金はオッサンが出すから心配するな。着替えやら下着も全部買え。多分、持ってないだろ?」
「は、はい」
女の子たちは恥ずかしそうにしている。
「おっと、自己紹介がまだだったな。俺は丹羽だ。ダイスケでもいいぞ」
「ワシは長谷川です」
「私はサナ、妹はミオです」
「よろしくな――ミオちゃん」
俺はしゃがみ込むと、彼女に目線をあわせて挨拶をした。
「……」
妹は姉の後ろに隠れて、オドオドしている。
「ミオちゃんは歩けないだろ? 俺が背負ってやる」
「え? で、でも……」
サナが俺の提案に戸惑っているのだが、妹の様子では徒歩での移動は厳しそう。
爺さんが背負うのも無理だろう。
車椅子でもあればいいが……。
「特区の桟橋まで結構歩くの知ってるだろ? 特区に行ってからもかなり歩くぞ?」
それに服を買うにしても、店の中を結構移動することになるし。
自転車に乗せて、押してやる手もあるのだが――ここじゃ自転車は出せないし。
「……」
「ほら」
俺は、お姉さんにバックパックを手渡すと、しゃがんで背中を向けた。
「……」
妹が覚悟を決めたのか、俺の首に抱きついてきた。
「よし!」
彼女を背負うと、腰を上げる――つ~か、軽い! 軽すぎる。
「お、重くないですか?」
姉が心配しているのだが、俺には高レベルパワーがある。
このぐらい余裕だ。
「見ず知らずの方に、本当に申し訳ない……」
「いやいや爺さん、自己紹介したから、もう見ず知らずじゃないからな」
「……ありがとうございます」
ミオを背負って4人で、アパレルショップに向かう。
幸い店には車椅子があったので、それを借りると、妹を乗せて店内を歩く。
女の子の服なんてさっぱりと解らんので、全部お姉ちゃんに任せた。
量販店でいくら買っても、たかが知れている。
2人とも買った服にすぐに着替えた。
妹ちゃんは、黒いスカートに黒いタイツ、ピンクっぽい上着。
かわいいじゃないか。
お姉さんは、黒と白のジャージにしたようだ。
ジャージといっても、学校の芋ジャージではなくて、丈が長いスエットのような。
まぁ、動きやすさ重視だろう。
いいと思う。
「2人とも、いいな」
「ありがとうございます」「……ありがとう……」
ミオの声はめちゃ小さいが、嬉しそうだ。
車椅子をショップに返して、再び妹ちゃんを背負った。
「よっしゃ、いくぞ」
「うむ」
「はい」「……」
4人で桟橋に行くと、また船に乗る。
今日3回めだ。
ミオがしゃがんで手すりに掴まったまま、海をじっと見ている。
爺さんと話す。
「爺さん、大丈夫か? あちこち行ったりして、結構な距離を歩いているが」
「ミオのことを考えれば、なんのこれしき」
「無理すんなよ。まぁ、普通の回復薬もあるから、飲むか?」
「いや、そこまでしてもらうわけには」
「まぁ、倒れられると、こっちも困るから早めに言ってくれよな」
「ありがとうございます」
「礼なら、治ってからでいいよ」
「……」
黙って頭を下げている爺さんはさておき、女の子たちの所に行く。
「海を見るのは初めてかい?」
「コクコク!」
妹ちゃんがうなずいた。
しばらく揺られるが、船酔いしないだろうか。
心配したのだが、大丈夫のようだった。
特区に入ったので、再びミオを背負うと役所に向かう。
子どもは入れない決まりになっているので、特別な許可がいるのだ。
爺さんは仮免を持っているが、サナの入場許可も必要だ。
ダンジョンに入るためには自動改札のゲートがあるし警備もいるのだが、出るときにはチェックしていなかったように思える。
俺が中で見た子どもたちは、許可をもらって中に入った者が、そのままダンジョンの中にいるってことなのだろう。
なんともザルだ。
爺さんが窓口の女性からタブレットをもらって、必要事項を書き込んでいる。
タブレットに慣れていないのか四苦八苦。
なにせ、国全体がそうなってしまったのだ。
苦手でもなんでも、なんとか覚えて電子デバイスを使わないと生活ができない。
「はい、ポーションを使った孫娘さんの治療のために、ダンジョンへの入所許可ですね」
「は、はい」
「少々お待ち下さい」
爺さんの冒険者カードを受け取ると、職員が奥に引っ込んだ。
仮免のカードでも使えるのだろうか?
数分で、入場カードができ上がってきた。
こいつで自動改札をくぐり抜けられる。
再び、ミオを背負って役所から出ると、まっすぐにダンジョンに向かうが――。
途中でケミカルライトを追加で購入した。
俺は暗闇でも見えるが、女の子たちと爺さんは違うだろう。
「爺さん――ミオちゃんのことが治らなくても、恨まないでくれよ」
「こんなに親切にしてくれたのに、そんなことをしたらバチが当たらぁ」
自動改札までやって来たので、降りて通ってもらう。
おんぶしたまま通るわけにはいかないからな。
そういえば、このゲートって夜中も開いているんだろうか?
ちょっと検索してみると――24時間稼働しているらしい。
それじゃ、夜中に突破されても解らんよなぁ。
警備もそんなに力を入れてるようには見えないし……。
ミオが無事にゲートを通過したので、また背負ってダンジョンの中に入る。
天井を見上げると光ファイバーの照明が輝いているエントランスホールだ。
ミオが天井を見上げて、その場でクルクルと回っている。
「一応、ここもダンジョンの中ってことになっているんだが……ここで使ってみるか?」
「ワシには解らんので、ニワさんの好きにしてくれ」
「効果が弱いと困るか、もうちょっと奥に行ってみるか?」
「……お願いします」
お姉ちゃんが、ペコリと頭を下げた。
「了解」
爺さんとサナにケミカルライトを手渡し、使ってもらう。
皆で暗闇の中に入った。
「ダイスケさんは、大丈夫なんですか?」
「俺は、暗闇でも目が見えるんだよ」
「そういうスキルなんですか?」
「みたいだね」
「便利ですね」
「ははは、まぁな」
「……」
お姉さんは、あちこちをクルクルと見回している。
ダンジョンに興味があるのだろうか?
話している間に、1層の中間辺りまでやってきた。
見回すと、明かりがチラチラと見える。
狩りをしている連中がいるようだ。
「ここらへんでいいか」
「はい」
「でも、その前に――」
俺は背中のミオちゃんを下ろすと、サナが持っていたバックパックから砂鉄バットを取り出した。
俺が武器を出したのでサナは驚いたようだが、当然彼女たちをどうこうするつもりはない。
「おら!」
少し進んだ所にスライムが湧いていたのだ。
そいつを横から一閃すると、魔石と一緒にまた小瓶を落とした。
ポーションか? こんなに頻繁にドロップするなら、結構美味しい獲物じゃないのか?
「!」
びっくりしたミオが、お姉ちゃんに抱きついている。
魔石とポーションを拾うと2人の所に戻った。
「悪いな、魔物がいたんでな」
「……」
2人が、抱き合ったまま固まっている。
「鮮やかなもんだな」
爺さんが感心している。
「どうだい爺さん、今の見て自分でもできそうと思ったかい?」
「……いや、無理だろう……」
「はは――そうだな。それじゃやるか」
サナからバックパックを受けると、そこから出すフリをしてゴールドエリクサーかもしれない小瓶を取り出す。
そいつをサナに渡した。
「ほい、お姉さんが飲ませるかい? それで治らなくても恨まないでくれよ」
「そんなことはありませんから」
彼女が蓋を取ると、自分で口に少々含んだ。
大丈夫だと確認したサナは、妹に飲ませ始めた。
「俺は傷口に塗っただけだったが、味はどうなんだ?」
「美味しくはありません」
「そうなのか。俺はまたエナジードリンクみたいな味かと」
普通の回復薬でも、マジで体力が回復して怪我やら病気が治るんだから、最強のエナジードリンクだよな。
話をしながら、ミオがポーションを飲んでいるが、変化は現れない。
もしかして外れとか?
ポーションを使うのも初めてなので、どういう効果が現れるのかも解らない。
一応、ポーションを使ってみた――みたいな動画も観たのだが、身体が光ったりはしていなかったな。
「妹さんの病気はどんななの?」
「心臓の壁? という所に、大きな穴が空いているらしくて」
「ああ、なるほど」
今塞いでも、身体の別な所に不具合が発生する可能性が高いという。
エリクサーを飲めば、その穴が塞がり、副作用も不具合も起きないかも――というのだろう。
そう考えるのもおかしくはないが、エリクサーが効く効かないという状態の見極めは、どこが境になっているんだろうか?
遺伝子レベルの病気も、ポーションで治す実験が行われたようだが、成功している。
こういうことが積み重なって、「宇宙人やら神様の実験台や、ゲームの駒にされている」みたいな話もでてくるんだ。
回復薬のことを考えていると、妹ちゃんがエリクサーを飲み終わった。
やっぱり美味くないので、やっと飲んだって感じだ。
「ミオ、どうだ?!」
「……」
爺さんがミオちゃんに効き目を聞いているが、まだ解らないらしい。
「効くかな?」
「わかりません……」
俺は辺りを見回した。
「これって効くまで、ダンジョンの中にいないとだめなのか?」
「……」
爺さんとサナも判断に困っているようだが、ミオが口を開いた。
「お姉ちゃん、苦しくなくなった」
「え?! 本当?!」
「コクコク」
ミオがうなずいた。
彼女の顔を見る――確かに、顔に生気が戻っている気がする。
羽田で見たときとは別人だ。
「やったぁ! 治ったのかも!」
お姉ちゃんが妹を抱きしめて喜んでいる。
元気になった女の子の顔を見れば、高価かもしれない薬を使った価値があるってもんだ。
「それじゃ、エリクサーが効いたのか。そうと決まったら、ここから出ようぜ? 危ないからさ」
「はい」
俺がまた背負うつもりだったが、女の子はお姉ちゃんの手を取って歩き始めた。
本当に、手術もなしに病気が治ったのか?
「ミオぉぉ!」
今度は爺さんが、女の子を抱きしめた。
「爺さん、爺さん! そういうのは、ダンジョンを出てからな。魔物と遭うかもしれないから」
「ああ、すまねぇ。取り乱した」
これじゃ、難病に苦しんでいる人がいたら、いくらでも金を出すだろう。
だって、外科手術もなしに病気が治るんだからな。
3人でエントランスホールに戻ってきた。
明るい照明の下だと、女の子の顔色がすごくよくなっているのが解る。
こりゃマジですごい。
ミオちゃんの顔を見て、爺さんがまた抱きしめて、今度は3人で涙を流している。
そりゃ、もう治らない、助からないかも――なんて思っていたのが、いきなり完治? するんだからな。
話によれば、切り傷だって骨折だって、ポーションで治る。
信じられない、これぞ神の奇跡だ。
俺だってそう思うんだから、他のやつらもそう思う。
そういう事になって外国の宗教関係者が渋い顔をしているという。
神の奇跡じゃないのに、奇跡を起こされちゃってるからな。
一向に地上に姿を見せない神さまの代りに、ダンジョンを拝む宗教まで出てくる始末。
だって、目の前にそれがあって、実際に奇跡を起こしているんだからな。
宗教のことはさておき――俺たち4人は、ダンジョンの外に出ることにした。
さて、これからどうするかだよなぁ。