ざまぁされるヒロインを選んじゃった攻略対象の王子様視点……なんでこうなった?
短編小説「いずれざまぁされるヒロイン視点」と世界観が一緒です。
転生したヒロインフェリシアに恋をして、悪役令嬢エレノアを断罪してしまった王子様サージェ視点の短編です。
ヒロイン視点が評判良かったので、王子様視点で書いてみました。
こうしてみると、どちらともクズです。
「エレノア、お前とは婚約破棄をする」
清々しい春の茶会で、忌々しい婚約者に三行半を突きつけてやると、それまでのモヤモヤが一気に晴れるような気がして気分が良くなった。
可愛らしいフェリシアの腰を引き寄せ惨めなエレノアに見せつけると、いつも澄ました顔を歪め悔しそうに歯軋りした。
実に愉快だ。
そうだ、俺はエレノアのこんな顔がずっと見たかった。
エレノア・バゼロ公爵令嬢は物心つく前から当然のように婚約者として存在していた。
小さい頃は、使節団など王子として出席しなければならないパーティで、招待客の名前をこっそりと教えてくれる便利な存在だった。
挨拶からゴタゴタの尻拭いまでまで面倒なことは率先して片付けてくれる、それが婚約者という存在だと思っていたのでエレノアが婚約者であることに不満はなかった。
それがいつの頃からか、少しだけ俺より勉強ができることを報告してきたり、周りに寄ってくる女を嗜めたりするようになる。
「お子ができるようなことは控えてください」
メイドを部屋に連れ込んだ時は、母上にまで告げ口をした。
まあ、確かに尊い王族の血をあちこちばら撒くのはまずい。
それならエレノアが相手をすればいいだけの話だ。
そのために早くから婚約しているのだから。
「婚姻するまで絶対にあり得ませんから」
そう言った時のエレノアの顔は今でも忘れない。
こいつ何か勘違いをしているんじゃないのか?
一つの疑問が頭に浮かぶ。
尊い存在であるのは俺一人だ。
公爵家など、後ろ盾だと偉そうに振る舞ってはいるが所詮は爵位と領地を授け管理させているだけだ。王族にさからえばその身分は一瞬で吹き飛んでしまう存在なのを忘れているのではないか?
すぐさま婚約破棄をしたかったが、バゼロ家は母上の親戚筋だ。
母上が「うん」と言わない限り婚約破棄をすることはできないだろう。
そんな面倒をわざわざエレノアのためにする気はなかった。
別に、誰を連れ込もうとバレなきゃいいだけの話だし、子供ができない方法などいくらでもある。
⭐︎
「サージェ様、聞いてください。エレノア様に教科書を捨てられました!」
俺が見逃してやっているのをいいことに、花のようなフェリシアに嫉妬し、数々の嫌がらせをしたあげく、ならず者に襲わせるという蛮行を働いていた。
偶然、ならず者に襲われた時、俺が居合わせ助けられたからいいものを、フェリシアは逃げ出そうと暴れたため怪我をしたらしい。
「ここです。ここが痛いです!」
美しい足をあらわにし、泣きながら訴えかけてくる。
「撫でてください」
「え? それはちょっと……」
今まで、メイドや娼館の女の肌には触れたことがあるが、一応フェリシアも男爵家とはいえ貴族の令嬢だ。直接肌に触れるのはまずいのでは……。
「いつも痛いところはお母様に「痛いの痛いの飛んでいけー」と言って撫でてもらうんです。そうすると、痛いのを我慢できます」
グッスン。とフェリシアは目にいっぱい涙を溜めて俺を見上げた。
うっ……。
なんて俺は不純な目でフェリシアを見てしまったんだ。
こんな天使のように純粋な彼女を汚すだなんてあり得ない。
俺は言われた通り「痛いの痛いの飛んで行け〜」と足を優しく撫でてやった。
「あん!」
フェリシアが甘い声で身を捩る。
「え! 痛かったか?」
「いいえ、大丈夫です。なんだか気持ちよくって背中がゾクゾクしちゃいました」
「気持ちいい……」
「はい、サージェ様に触られるとすごく気持ちいいです。もしかして癒しの手を持っているのかも?」
「そ、そうか? そうかもな。遠慮しなくていいぞ、いつでも撫でてやるからな」
「はい、今度エレノア様に酷いことを言われて、お胸がチクンとしたらお願いしますね」
お胸がチクン……。
いいのかそれ?
いいか、フェリシア本人が言っているんだから。
俺はエレノアがフェリシアに酷いことしないか目を光らせて待った。
従者にもフェリシアの胸がチクンとする出来事がないか見張らせていたが、エレノアがフェリシアを虐めることはなかった。
クソ! これじゃあいつまで経っても「痛いの痛いの飛んで行け」ができないじゃないか。
そうか、俺が四六時中フェリシアのことを守っているから警戒しているんだな。
それから俺はフェリシアと少し距離を置いてみることにした。案の定、エレノアがフェリシアを階段から突き落としたという。
「殿下、エレノア様が……エレノア様がぁぁぁ」
「そうか、それで、怪我はないか?」
「あちこち痛いです!」
「そうか、じゃあ俺が癒してやろう」
「ダメです」
「え? なぜだ?」
「だって、ここでは他の人も見ているし。恥ずかしいのでどこか他の場所がいいです」
「そ、そうだな。場所を移動しよう……ところで胸もチクンと痛むのか?」
こくんと、恥ずかしそうにフェリシアが頷いた。
「じゃあ、保健室に行こう。あそこなら二人きりで存分に撫でてやれるから」
「はい、優しくしてくださいね」
フェリシアが俺の胸にしなだれかかり目をつぶった。
もちろん! 隅々まで優しくしてやる。
⭐︎
「サージェ様、今日のお茶会でエレノア様と婚約破棄するって本気ですか?」
「勿論だ。あんな野蛮なやつを皇太子妃にするわけにはいかない」
「そうですか、みんなの見ている前でなんてお可哀想です。でも、仕方ありませんね。皆さんに有る事無い事私の悪口を言いふらしているのですから、きちんとそれが嘘だって否定するためにも大勢がいるところで婚約破棄した方がいいです」
「そうだな。エレノアの悪事を白日のもとに晒し修道院から一生出られないようにしてやる」
そう宣言して、俺はエレノアを国外追放にしてやった。
まあ、修道院より重くなったがそれも仕方ない。
これでフェリシアと残りの学園生活をイチャイチャして過ごし、卒業したらどこかの身分の高い貴族に養子縁組させて、それから結婚しよう。
ニヤリと笑い、フェリシアのピンクのドレスのひらひらに埋もれる大きい胸に視線を移した。
「いやん。そんないやらしい顔で見つめないでください。みんなに私たちの関係がバレちゃうじゃありませんか」
「すまん。今日は俺の部屋に来るか?」
「うーん。どうしようかしら?」
フェリシアは小悪魔のように可愛く首を傾けた。
⭐︎
このまま、何もかもうまくいくような気がしていたのに、どこで間違えた?
従者のカイルが明け方近衛兵と一緒に俺の部屋をノックした。
年下だが、頭の切れるやつでエレノアを断罪し国外追放したのもこの男である。
「カイル、いったいどういう事だ?」
腕を押さえ込まれ拘束される。
「残念ですが、ライラ王妃陛下が投獄されました」
「なんだと、母上が?」
「はい」
カイルは冷たく頷くと、母上の罪状と俺が関与していないかをこれから取り調べることになったと告げた。
「そんなバカな。何かの間違いではないのか?」
「いいえ、王妃様の横領は確定しています。それにフェリシア様のご実家も今捜索されているので事実が明るみになるのはそう遠くはないでしょう」
「俺は何も知らない」
「ええ、わかっていますよ。殿下にそのようなことができないのは」
「じゃあ、拘束する必要はないだろう? そもそもお前は俺の従者だろ。こいつらをなんとかしろ」
「残念ですが、私は今日従者として参ったわけではありません。父である宰相の名代として参りました」
そもそも、初めからあなたの従者になった覚えはありませんからね。と、カイルは真っ赤なふわふわの髪を手で邪魔くさそうに掻き上げると、扉に向かって歩き出した。
「あ、そういえばエレノア様は今元気に隣国で学校に通われているみたいですよ」
「なんだと、エレノアは国外追放のはずだったのでは?」
「ああ、国外留学です。ちなみにフェリシア様はエレノア様に暗殺者を送った罪を追及されそうになりマイクと逃げたようですよ」
フェリシアが……。
「まさか、あの優しいフェリシアがそんなことするはずない……しかもマイクと逃げたなんて」
マイクは俺の従者でフェリシアとのことを応援してくれていたのに。
「殿下、もうそろそろ見たいものだけ見るのをやめて自分自身で考えた方がいいです。フェリシア様のお腹にはお子さんがいたそうですよ」
「俺の子か!」
「やはり知らなかったんですね」
「妊娠が本当ならその子は王族だぞ。すぐ探し出せ」
「妊娠のことではありません。サージェ様は親であるはずないのです。王妃様が毎朝避妊薬をお茶に盛っていたのですから」
「なんだと! じゃあ一体誰の子……」
「本人も生まれてみないとわからないそうですよ」
「嘘だ! 俺は信じないぞ」
「まあ、これから時間もたくさんあるでしょうから」
そう言い残して今度こそカイルは部屋から出ていった。
俺は病気という名目で尖塔にと幽閉された。
数年後、新しい皇太子が決まり俺は身分を剥奪され去勢後王都から追放される。
どうしてこうなった?
その叫びに答えてくれるものはいない。
異世界短編他にも書いてます。
褒められると伸びる子です。ポチッと⭐︎押してもらえると書く気が湧いてきます^_^