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第七十三話 義侠VS織田信長




「はっ!」


(疾ッ!?)


 新田義侠と織田信長の戦いの火蓋が切って落とされた。


 先制したのは信長。ヒュンッと風切り音が鳴った時には、既に義侠へと肉薄していた。鞘から愛刀『へし切長谷部』を抜刀すると、高速の斬撃を放ってくる。

 義侠は咄嗟に両腕を交差して防御するも、耐えきれず宙に投げ出されてしまった。


 疾い。信長の疾さは蘭丸と比べ者にならないくらい疾い。

 体勢を崩している義侠に、信長は左手を向ける。その手にはいつの間にか、火縄銃が握られていた。


「緋弾」


「ぐぉ!?」


 ダンッと発砲音が鳴り響き、銃口から弾丸が放たれる。

 肩を撃ち抜かれた義侠は、苦悶の表情を浮かべた。だが信長の攻撃を止まらない。刀を鞘に仕舞うと、右手にも火縄銃が現れる。

 二丁の火縄銃で義侠へと連射した。


「ぐっ……クソ、どうなってんだよ!?」


 義侠は転移マントの形状を操作し、盾替わりにして防御する。

 火縄銃はその構造上、連射できる筈がない。ならどうして連射を可能としているのか。


 そのからくりは、信長の方にあった。

 彼は一発撃つ度に、火縄銃を放り捨てている。そしていつの間にか、新たな火縄銃が手に握られているのだ。

 考えられるとしたら、信長の能力によって火縄銃を高速で具現化しているのかもしれない。


「どうした義侠、この程度で終わりか?」


「なろう!」


 弾丸の嵐に防戦一方だった義侠は、意識を集中して瞬間移動を行う。

 信長の側面に転移すると、渾身の脚撃を放った。


「おらぁ!!」


「ヌッ!?」


 信長と言えど、初見で義侠の瞬間移動を見破ることはできなかった。

 いつの間にか側面に現れた義侠に驚愕している間に脇腹を蹴られ、吹っ飛ばされてしまった。


 攻守逆転。

 今度はこちらが攻める番だと言わんばかりに、義侠は両手に魔力を溜めた。


「十二煉魔砲」


 飛来してくる十二発の衝撃波に、信長は鞘から『へし切長谷部』と『長篠一文字』を抜き放つと、全てを斬り裂く。


「貧弱! この程度で儂の首を獲れると思うたか!?」


「な訳ねぇだろ」


「ぐぉ!?」


 遠くに居た筈の義侠が、瞬きの間に距離を潰していた。

 豪快なラリアットを胸元に叩き込まれた信長はビュンと吹っ飛ばされ、城下町の民家を崩壊しながら地面に叩きつけられる。


「ヌゥ……面倒な妖術だの」


 静かに立ち上がる信長は顔を顰める。

 信長であっても義侠の瞬間移動に対応するのは難しい。


 転移がある限り、義侠()にとって距離という概念は存在しない。不意に、いつどこからでも接近されてしまう。それは戦いに置いて非常に厄介な代物しろものだった。


 ――そう、こんな風に。


「流々演舞!」


「ヌン!」


 背後からの強襲を、紙一重で受け止める信長。

 されど義侠の連打は止まらず、二人は城下町を移動しながら拳と剣を交差する。二人の激しい攻防によって、城下町は跡形もなく粉砕されていった。


「喝喝喝! 楽しいのう、楽しいのう! これほど血肉沸き立つ戦いは久方ぶりだ! ウヌもそうなのではないか、のう義侠!」


「楽しかねぇよ!」


 剣を振りながらも豪快に笑う信長に悪態を吐く義侠。

 こっちはそれどころではない。目の前の強敵を倒すのに必死で、戦いを楽しむ余裕なんてこれっぽっちもなかった。


 肺に残った空気が僅かとなった義侠は、流々演舞を途切れさす前に瞬間移動で距離を取った。右拳に漆黒の炎を灯し、一気に撃ち放つ。


「煉獄魔砲!!」


 大気を焦がし、驀進する黒炎。

 迫り来る強撃に、信長は口角を上げた。


「この儂に炎で対抗する気か。よい、受けて立とうぞ」


 勝ち気に笑む信長は、二本の刀を振り上げる。

 刹那、灼熱の炎が愛刀から噴き上がった。


「閻魔」


 振り下ろされた二刀から、灼熱の斬撃波が放たれる。

 轟々とうねるそれは、義侠の煉獄魔砲を真っ二つに斬り裂きながら突き進んだ。


「ぐぁぁああああああ!!」


 巻き込まれた義侠は、業火に身を焼かれながら吹っ飛ばされる。

 このままでは全身を焼き尽くされると、なんとか意識を集中させて転移し、炎から脱出した。


「はぁ……はぁ……」


 炎に焼かれ転移マントはボロボロ、肌にも煤が付いている。

 今のはヤバかった。咄嗟に転移マントで身体を覆わなかったら、致命傷を負っていただろう。


 強い……やはり信長は強かった。

 それに彼奴はまだ余力を残しているというか、全力を出していないようにも窺える。今の段階では歯が立たないと察した義侠は、更にギアを上げた。


サード武装強化ブースト


 器から魔力を捻り出し、魔力武装の練度をもう一段階高める。

 義侠の身体から迸る魔力に、そうでないと面白くないと信長は笑う。


「おぉおおおお!!」


「喝っ喝っ喝! いいぞ義侠! もっとだ、もっと儂を滾らせろ!」


 義侠が拳を、信長が剣を振るう。

 目で追えないスピードの領域に地形が変形し、大気が震える。

 そんな中、義侠は焦っていた。魔力武装を三段階まで上げているのに、まだ若干押されてしまっている。


 このままでは先にスタミナ切れで倒れてしまう。

 そうなる前に、賭けに出るしかない。倒すとまではいかなくとも、少しでも形成を有利にする為に。


 覚悟を決めた義侠は、瞬間移動を行い一旦距離を取った。

 必殺の一撃を放つ為に、右拳に魔力を溜める。


「大煉黒……」


 充分に溜め切った状態で、再び転移して信長の背後を取る。

 超火力の攻撃を直接身体に叩き込めば、いくら信長とはいえど無傷とはならないだろう。


「魔ほ――」


「その妖術はもう見切ったぞ」


「――っがは!?」


 拳を放とうとする寸前、信長は義侠に刀を振るう。

 まさか反撃をされるとは予想だにせず、渾身のカウンターを喰らった義侠は斬り飛ばされてしまった。


 ドンッドンッドンッと民家を貫通しながら吹っ飛ぶ義侠。

 ようやく止まって地面に倒れ伏し、斬撃を受けた痛みに苦しむ彼は酷く混乱していた。


「ぐっ……あ……(どうして……)」


 どうして瞬間移動を読まれたのか。

 完璧に不意を突いた筈なのに、信長はこちらを確認することなく斬ってきた。ただの勘にしては、恐ろしく正確無比な一撃を。

 その謎を、本人が秘密にすることなく説明する。


「ウヌの瞬間移動(妖術)は確かに驚異ではあるが、攻撃の先が読み易くもある。それに来ると分かっておれば、空間にひずみに生ずる魔力の変化にも気付けるものだ」


(何だよそれ……)


 ふざけるなと胸中で悪態を吐く。

 簡単に言ってのけているが、そんな芸当を成せるのは信長くらいしかいないだろう。

 今まで自分に勝利をもたらしてきた瞬間移動までも破られ、窮地に陥ってしまう義侠。


「もう終わりか? 折角本気を出せる相手と巡り逢えたのにのう。残念でならん」


「はぁ……はぁ……」


 三段階でも歯が立たず、頼みの瞬間移動も見破られてもう後がない。

 信長には後一歩及ばなかった。


「雌雄は決した。武士ならば最後は潔く死ね、義侠」


「まだ……だ!」


「なに?」


 ぐっと足に力を込めて立ち上がる義侠。

 一歩及ばないというのなら、一歩踏み込めばいい。その一歩先は死の領域ではあるが、死線を乗り越えるには死の淵に立たなければならないんだ。


「はぁぁあ……」


 声を出し、器から魔力を捻り出す。

 迸る膨大な魔力によって、義侠の身体に異変が起きた。


「はぁぁああああああああ……」


 バチバチッと、溢れ出す魔力が黒い稲妻として鳴り響く。

 彼の左半身が黒く染まり、顔の左側に痣のようなものが広がっていく。さらに髪の左側部分は、桜色に染まっていった。



「ぉぉぉおおおおおおおおおおおおおお!!!」



 空を穿つような猛々しい雄叫びを上げる。

 そんな彼を中心に暴風が吹き荒れ、周囲のものを消し飛ばしていく。風が収まると、そこには禍々しい姿に変貌した義侠が立っていた。


フォース武装強化ブースト


「義侠……ウヌはいったい……」


 義侠の変貌した姿に、信長が初めて目を見開く。

 左半身は黒く染まり、左顔も黒い痣が浮かび。左眼は紅く、髪の左側は桜色に染まっていた。

 変わったのは見た目だけではない。義侠の身体から、途轍もなく濃密な魔力が迸っていた。


フォース武装強化ブースト』。

 サードの更に向こう側。魔力武装のギアを四段階にまで上げた、彼が今出せる最高の出力。

 だが、その力は義侠にとっても諸刃の剣だった。


「肉体が魔に犯されておるぞ。正気の沙汰ではないの、身体が崩れるぞ」


「そんな事は分かってる」


 義侠の大きな器に宿る魔力を目一杯引き出した魔力武装は、肉体が魔力に耐えきれておらず浸食されている。その様子が外見に顕著に現れていた。


 まだ完璧ではないし、この状態で居られるのはもって数分。いや、一分か。それ以上を越えてしまえば、義侠の肉体は魔力に耐えきれず崩壊してしまうだろう。


 だから――、


「その前に倒す」


「喝っ喝っ喝! 決死の覚悟という奴か! 実によい! ウヌの覚悟、この織田信長が全身全霊を持ってして相手をしてやろう!」


 義侠の覚悟を受け取った信長は盛大に笑う。

 その覚悟に敬意を表し、こちらも全力で立ち向かおうと、二本の愛刀を強く握り締めた。


「行くぞ!」


「来い!」


 最後の戦いが始まった。

 時間は一分と極僅かだが、その一分に己の命を懸ける。義侠が信長の横っ面を殴れば、信長が義侠の腕を斬り裂く。

 血反吐を撒き散らすが、それでも攻撃の手は緩めない。止まったら最後、二度と動かないと分かっているから。


 だから命を燃やし続ける。最後の一滴まで。



「「おおおおおおおおお!!」」



 絶叫を迸らせる二人は、同時に大きく距離を取った。

 義侠の右拳には漆黒の炎が、信長の二刀には真っ赤な炎が灯る。

 この一撃に全てをかけて、解き放った。


「大煉黒魔砲!!」


「閻魔!!」


 発射された黒炎の波濤。

 斬り放たれた純火の斬撃波。


 黒と赤が衝突し、拮抗する。

 が、徐々に黒が押され始めた。


「ッおおおおおおおおおおおおお!!」


 ブチブチっと血管が弾き切れながらも、天に吼えてさらに出力を上乗せする。

 すると黒が押し返し、やがて赤を呑み込んだ。


 そうなったら一瞬。

 漆黒の炎は純火を呑み込みながら進み、その先にいる織田信長を捉えた。


「ぐぉぉおおおおおおおおお!!」


 苦悶の声を上げる信長は、漆黒の業火にその身を焼かれたのだった。



 ◇◆◇



「はぁ……はぁ……」


「見事也。まっこと見事だぞ、義侠」


 死力を尽くした敵に最大の賛辞を贈る。

 そんな信長の身体は四肢が消失し、残る頭部と胴体も灰となってゆく。


「全てを尽くして負けた。この晴れやかな空のように一片の後悔はない。感謝するぞ義侠、ウヌと戦えて儂は満足だ」


「ああ……俺もあんたと戦えて良かった」


 その言葉を聞いた信長は、微笑みながら散っていく。


 かくして、安土城ダンジョン攻略は死者ゼロ、重傷者多数の結果で幕を閉じたのだった。



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