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第六十八話 救いと罰

 



「いやいやおかしいでしょ! 何でこのダンジョンがB級なのよ! ギルド本部の人達頭おかしいんじゃない!?」


 ガーディアンである九尾を倒しダンジョンコアを破壊したことで元の世界に戻った義侠達は、既に帰還していたセイバー達と合流していた。


 待機していた警察に報告している最中、雪女から受けた傷を治療した木村は怒り狂ったように暴れ出す。


「それまでのモンスターだけなら分かるけど、喋るモンスターが三体も居たのよ。特にガーディアンの九尾はどう考えてもA級上位の化物でしょ。新田君が居なかったら確実に死んでたわよ私達。

 まぁ、それを倒しちゃう新田君もおかしいんだけどさ」


「ははは……」


 何故かとっばちりを受ける義侠は苦笑いを浮かべるしかない。

 彼女の言う通り、今回の殺生石ダンジョンの難易度がB級なのはどう見積もってもおかしい。


 百歩譲って茨木童子と雪女はB級でもまかり通るが、九尾に関しては余りにも強すぎる。

 木村と山田と武藤は遠くから眺めていたが、義侠と九尾の戦いは壮絶を極めるものだった。


 まるで怪獣映画を観ているようで、到底現実とは思えない光景。

 義侠が居なかったら、数多くのセイバー達が全滅していただろう。


 ギルド本部が査定する難易度はセイバーにとって命綱だ。

 実力に見合わないダンジョンに入れば死ぬ可能性は高まる。だから信頼しているのに、今回の殺生石ダンジョンがB級なのは納得できかねない。


 プンプンと怒る木村に、山田もボンバーヘッドを掻きながらため息を吐いた。


「だなぁ……俺がやった茨木童子もガーディアン級に強かったし、あの九尾に関しちゃ次元が違ったな」


「でしょ!? 納得できないわよね!」


「まぁいいじゃねぇか。こうして無事に生き残れたんだからよ。ありがとな、あんちゃん。また命を救われちまったぜ」


「そうね……また借りができちゃったわ。ありがとう、新田君」


「そんな、俺はただ自分のやる事をやっただけですよ」


 畏まってお礼を告げてくる二人に、義侠は全然気にしなくていいと返す。


「謙遜すんなって。つーかあんちゃん、ちょいと強くなり過ぎじゃねーか? 驚きを越えて呆れちまったぜ」


「そうよ。貴方何でまだB級なの? とっくにA級でしょーが」


「と言われても、まだ俺A級攻略してませんから、そこがネックなんじゃないですかね」


「「ああ……」」


 義侠から説明されて納得する二人。


 A級に昇格するのはB級のように試験がある訳ではない。

 ダンジョンを攻略したり、ドラゴン級やガーディアンを倒した功績などが評価されて昇格される。


 が、それにはA級ダンジョンを攻略しているかどうかも重要なことだった。

 義侠は今までに両手足じゃ数えきれないB級を攻略しているが、まだ一度もA級を攻略していなかった。


 そもそもA級は年に数回出現するかどうかの頻度で、機会が中々回ってこない。

 例え機会があったとしても、義侠自身がまだ自分にはA級は早いと避けていたのもあるが。


「少しいいだろうか」


「おう、なんだ武藤か」


 義侠達が話し込んでいると、傷だらけの武藤が声をかけてくる。


帝国ギルド(そっち)は散々だったな」


「ああ……そうだな」


 同情する山田に、武藤は俯きながら渇いた言葉を漏らす。

 帝国ギルドのセイバーは三人が戦死。他の者は奇跡的に生存していたが、魔力を吸い取られて殆どが昏睡状態。障害が残る恐れもあった。


 武藤は顔を上げ、三人に深く頭を下げる。


「礼を言わせて欲しい。私の我儘を聞いてくれてありがとう。特に少年――いや新田君には部下の命を救っていただいた。本当にありがとう」


 真摯に感謝の気持ちを伝えてくる武藤に、義侠と山田が微笑む。


「気にすんなって、困った時はお互い様だろ」


「そうですよ、それに部下を守っていたのは武藤さんじゃないですか」


「いや……私の気の迷いで部下を危険な目に遭わせてしまったんだ」


「そうしょげんなって。ほら、今回の評価で武藤もB級部隊だっけ? に上がれるんじゃねぇのか」


 暗い雰囲気を変えようと山田が話を変えるが、武藤は静かに首を振った。


「私は責任を取って帝国ギルドを辞める。また一から民間人を守ることにするよ」


「辞めるのはもったいねぇよ。つーことで武藤、お前俺のギルドに来い」


「急に何を言い出すんだ……私だけ他ギルドに転属するのは部下に示しがつかない」


 突然勧誘してくる山田に断るも、彼は「へへ」と笑いながら、


「それなら気にすることはねぇぜ。なんせその部下達があんたをギルドに入れてくれって俺に直談判してきたんだからな。そうだろ、お前さんら」


「「はい!」」


「お前達……」


 山田が武藤の後ろに声をかけると、大きな返事が聞こえてくる。

 振り返った山田に、部下達が想いのたけをぶつけてくる。


「俺達、隊長と離れたくないです!」


「お願いします隊長、私達を見捨てないでください!」


「どこまでもついて行きます!」


「何で……どうして……」


 私利私欲の為に部下達を危険な目に遭わせた。

 そんな自分に、どうしてそんなに必死になってついてきたいと言ってくれるのだろうか。ポロポロと涙が零れ落ちる武藤に、義侠が語り掛けるように口を開く。


「それは武藤さんが誠実だったからですよ。確かに貴方は、欲に負けて魔が差したのかもしれない。だけど貴方は、最後まで部下を死なせずに守り抜いた。

 それは今日に限ったことじゃなくて、今までそうだったんでしょ?」


「うっ……ぐ……」


「そんな武藤さんの背中を見続けてきた彼等だからこそ、貴方についていきたいと心の底から願っているんです。示しがつかないと言うんなら、彼等を導くこそ武藤さんがしなくてはならない示しなんだと俺は思います」


「そうだぜ武藤、ここまで慕ってくれる仲間ってのは早々いねぇよ。全員纏めて俺んところで引き取ってやっからさ」


 部下ごとギルドに来いと言ってくれる山田に、武藤は恐る恐る尋ねる。


「本当にいいのか?」


「いいって言ってんだろ。何度か一緒に攻略してるし、知らねー顔は居ねぇからな」


「山田……」


 山田の漢気に心を打たれる武藤は、涙を拭いて部下達に問いかける。


「皆……もう一度私についてきてくれるか?」


「「勿論です!!」」


 迷いなど一切せず、間髪入れずに答える部下達。

 という事で、帝国ギルドの武藤含めC級部隊は纏めて山田ギルドに所属することになった。


「やっぱり山田さんってかっこ良いですね」


「んだよ急に、気持ち悪いこと言うなや」


「だって、武藤さんと部下の人達を纏めてギルドに入れるんでしょ? 中々できない決断をパッとしてしまうなんてかっこ良いですよ」


 褒め倒してくる義侠に、山田はボワボワの頭を掻きながら悪い顔を浮かべる。


「おいあんちゃん、俺が百パーの善意であいつ等全員勧誘したと思ってるのか?」


「え、違うんですか」


「武藤は言わずもがなセイバーとしても指揮官としても一級だし、部下の連中も何人かB級だしC級の奴等も戦える奴等だ。そいつら纏めて俺のギルドに来たってことはつまり、ギルドの戦力も強化されたってことだ。

 これで山田ギルドはさらに名が上がるぜ、がーっはっはっは!」


「ええ……」


 引き取ることで彼等は山田に恩ができるし、山田としては優秀なセイバー達を傘下に加えられて戦力増加。

 一石二鳥の万々歳に高笑いを上げる山田に、義侠はドン引きしていた。


「騙されちゃ駄目よ新田君。こいつ基本的にアホだけど、したたかなアホなんだから」


「そうみたいですね……」


 耳元でこそっと教えてくる木村に、義侠はげんなりとした顔を浮かべる。

 男の中の男だと評価が爆上がりしていたのに、最後の最後で義侠からの評価を落とした山田だったのだった。



 ◇◆◇



「やってくれたな、矢島」


「っ……申し訳ございません」


 殺生石ダンジョンを攻略した翌日、矢島は帝国ギルド本社に呼び出されていた。

 彼の目の前には、顔を顰めている帝国ギルドダンジョン攻略部部長の園崎。


「自分が犯した罪は理解しているな?」


「……はい」


「お前の軽率な行動で部隊の混乱を招き、三人のB級を戦死させ、他の者も重傷。手柄を他のギルドに取られ、帝国ギルドのセイバーも他のギルドに奪われた」


「……」


 恐怖で黙り込んでいる矢島に、園崎はこう告げた。


「それに武藤に対しては、結果を出せばB級部隊に昇格させるなどと言ったそうじゃないか。笑えるな……いつからお前はそんなに偉くなったんだ?」


「そ、それは……」


「何様のつもりだ!」


「ひっ!」


 ドンッと机を叩きながら怒鳴る園崎に、矢島は引き攣った声を漏らす。


「矢島、お前には今回の件の責任を取ってもらうぞ。C級部隊に降格、それも誰も居ない地方に配属させる」


「そ、そんな!」


「辞めて逃げられると思うな。一生をかけて帝国ギルドの為に働いてもらうぞ、覚悟しておけ」


「あ……あぁ……」


 もう二度と這い上がれない場所に左遷を命じられた矢島は、その場に這いつくばって項垂れる。

 そんな哀れな矢島を、園崎は虫ケラのように見下ろしていた。


 こうして、武藤と矢島の因縁に決着がついたのだった。



この話までは義侠のギルドに武藤を入れるつもりだったんですが、彼では義侠パーティーのインフレについていけないと思いやめました笑


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