第四十話 交渉
「よぉあんちゃん、待ってたぜ」
「久しぶりね、新田君」
「山田さん、木村さん、お久しぶりです」
久しぶりに会った二人と挨拶しながら握手を交わす。
俺が会いに来たのは山田ギルドのギルドマスターの山田さんと、Believeギルドのギルドマスターの木村さんだった。
山田ギルドとBelieveギルドは栃木県で活動しているギルドで、二人と初めて出会ったのは二年前に日光東照宮に出現したC級ダンジョンを攻略した時だった。
共に死線を乗り越えた俺と彼等は今でも親交があり、これまでも何度かC級やB級ダンジョンを共に攻略している。
今日は俺が二人にお願いしたいことがあって集まってもらった。場所は山田ギルドのホームを借りてもらい、木村さんにもこっちに来てもらっている。
「どうよあんちゃん、ダンジョン攻略の方は順調なのか?」
「まぁボチボチですね」
「な~にがボチボチよ。一人で私達より稼いでる癖に」
「ははは……」
山田さんの質問を無難に返していると、木村さんからジト目で見られてしまう。前に木村さんから月どれくらい稼いでいるの? と聞かれた時に大体の金額をポロッと言ってしまったんだよな。
収入を話してから、彼女はウザくならない程度にイジってくる。
「っていうかよ、何でまだ自分のギルドを作ってねぇんだ? あれだけ自分のギルドを作りたがってたのによ。俺はてっきりB級に上がってからすぐにギルドを作ると思っていたんだがな」
「そうよ、私達の勧誘を断っておいてさ。あっ、なんなら今からでも私のギルドに入っちゃう? 新田君なら大歓迎よ」
「おい、俺のホームで勧誘してるんじゃねぇよ」
「いいじゃない別に、減るもんじゃないんだし」
はは、相変わらず二人は仲が良いな。
山田ギルドとBelieveギルドは仲が良く、よく協力してダンジョンを攻略している。B級に限れば必ずセットだ。栃木県ではかなり有名なギルドらしい。
「まぁまぁ、すいませんけど俺は自分のギルドを作りますよ。今は準備をしている最中です」
「なんだ、残念ね」
「そら上々だ。で? いきなり呼び出して何の用なんだよ。あんちゃんから急に連絡が来て話があるって聞かされた時は何事かってビビっちまったんだぞ。それにこいつまでいるしよ」
「うっさいわね、私だってあんたのホームなんかに来たくなかったわよ」
「実は二人にお願いがあるんです」
「「お願い?」」
「はい、実は――」
首を傾げる二人に、俺はお願いを言う前に事情を説明する。
魔道具の基礎であるヒイラギ式魔道具を開発した柊鋼造さんが死んだことにより、ヒイラギ製作所が帝国ギルドから契約を打ち切られてしまったこと。
再起を図ろうとしたが、帝国ギルドに邪魔されて他のギルドと取引をすることができず、倒産寸前の状況に陥っていたこと。
偶然知り合った俺がヒイラギ製作所に投資することになったこと。
そこまで話し終えると、二人は「へぇ……」と驚いて、
「まさか魔道具の始祖であるヒイラギ式がそんなやべー事になっていたとはな」
「そういえば帝国ギルドのセイバーがそんな話を言っていた気がするわね。ヒイラギ式の魔道具は使うなって。それとヒイラギという会社から取引を持ち掛けられても話を聞くなってね」
「俺も部下からそんな話があったって聞いているぜ。何様だよこらって腹が立ったがな」
(やはりか……)
既に二人のところにも話が回っているとはな。ムカつくが、流石は帝我園というところか。やるなら徹底的に叩き潰す。それがあの野郎のやり方だ。
「因みに、二人のギルドは何の魔道具を使っていますか?」
「B級が使っているオーダーメイドを除けば、最近販売され始めた帝国式だな。あいつらの魔道具なんか使いたくねぇが、兎に角値段が安いからな」
「私のギルドも同じよ。ヒイラギ式と同じ性能で安いから、そっちを買った方がお得だしね」
「ですよね……」
帝国ギルドが最近自社で魔道具を開発し、販売し始めていることは俺も知っている。
ヒイラギ式より値段が安い上に性能が変わらないから爆発的に売れているらしい。セイバーにとって消耗品である魔道具が安いのは大助かりだからな。
だが、それで諦める訳にはいかない。俺は鋼太さんから預かった新生ヒイラギ式魔道具をリュックから出して二人に見せる。
「これは?」
「見た所、ヒイラギ式の魔剣と魔銃みたいだけど」
「この二つは、魔道具を開発した柊鋼造さんの息子である鋼太さんが改良した新しいヒイラギ式魔道具なんです」
俺がそう言うと、二人は魔道具を手に持ってジロジロと眺める。
「そうなのか? 一見変わったところはねぇけどな」
「そうね。ねぇ新田君、何が改良されたの」
「変わったのは外見じゃありません。魔道具の“中にあるもの”です」
「「中?」」
今一理解できない彼等に、俺はジョイントパーツについて説明する。
「魔道具の心臓でもあるジョイントパーツを改良したんです。それによって、従来のものより性能が10%上がりました」
「10%!? マジかよ!?」
「マジです。使用する魔力の消費量が抑えられ、かつ丈夫になっています。分かり易く言うと一つの魔石を使って魔銃を使うなら数十発分多く撃てて、魔剣だったら持続時間が伸びます」
「それが本当なら凄いわね。これまでよりも魔石の消費を抑えられるわ」
ヒイラギ式の性能を知って驚く二人に、俺はようやく本題に話を進める。
「ここからが二人にお願いしたいことなんです。この魔道具をお貸ししますので、使ってみてくれませんか。それで満足してもらえれば、買っていただきたいんです」
「私達に協力して欲しいってことね」
「はい。それと他のギルドやセイバーにも宣伝して欲しいんです。ヒイラギ式の魔道具は性能が良いぞって。勿論、二人がその魔道具を良しと思っていただけたらで構いません。
帝国ギルドに釘を刺されているのにこんな事を頼むのは忍びないですが、無理を承知でお願いします」
山田さんと木村さんに頭を下げてお願いする。返事を待っていると、山田さんが「顔を上げろよ」と言って、真剣な表情を浮かべた。
「あんちゃんには俺と部下の命を助けてもらった恩がある。それだけじゃねぇ、B級ダンジョンの攻略でも何度も助けられてる。だから俺にできることならあんちゃんの頼み、喜んで引き受けるぜ」
「私も同じよ。新田君には恩返ししたいと思っていたの。魔道具を使うくらいで返せる恩じゃないけど、是非やらせて」
「山田さん……木村さん……ありがとうございます!!」
引き受けてくれた二人に、もう一度深く頭を下げる。
最初にこの二人に頼んで良かった。彼等の優しさが本当に嬉しい。
「それによ、帝国ギルドのやり方にはムカついてたんだ。なにか文句を言ってきても突っぱねてやるよ」
「そうね、他のギルドやセイバーにも伝えておくわ。勿論、この魔道具の性能が良かったらだけど」
「はい、それで大丈夫です」
それから二人と軽く世間話をした後、最後にもう一度お礼を言って別れる。スマホを取り出して、とある人に電話をかけた。
「あっ、広中さん。新田です、お久しぶりです。突然すいません、実は広中さんにお話ししたいことがあって――」
待っていろ帝我園。
お前が切ったヒイラギ式製作所の皆で造り上げたヒイラギ式で、帝国式の魔道具を打ち破ってやるからな。




