第二十八話 デート?
「ちょっと早く着き過ぎちまったか?」
左手に付けている腕時計を確認すると、時刻は11:40を表示していた。
待ち合わせの12時まで20分あるけど、待たせてしまうよりかはマシだろう。
俺は今、新宿の改札で人を待っている。その人とは、俺の担当をしてくれる結賀さんだ。
何故結賀さんと会う約束をしているのか。
それはA級セイバーの冬樹さんに俺の面倒を見て欲しいと結賀さんが頼み、指導のセッティングしてくれたお礼に「何かお礼をさせてください」と言ったら「じゃあお昼ご飯に付き合ってもらっていい? 気になるお店があったの」と食事に誘われたからだった。
正直初めは戸惑ったが、「駄目なら全然いいのよ!」とちょっと悲しそうに笑う結賀さんを見たら、「行きましょう」とつい了承してしまった。
結賀さんが冬樹さんに頼んでくれたお蔭で、俺は魔力の扱い方や魔具を使わない魔闘の基本を伝授してもらえた。
それに、結賀さんは冬樹さんにお願いしてもらう為の約束として食事に行ったらしい。ちょっと食事してすぐに帰ったとは言っていたけど、俺の為に色々と無理をしてくれた結賀さんにお礼がしたかったから、一緒に食事をするくらいなら構わないと思ったんだ。
俺が行くと言うと、結賀さんは嬉しそうに待ち合わせ場所と時間を俺に伝えてきて、食事をする約束をしたって訳だ。
「新宿か~、余り来たことねぇんだよな」
結賀さんが来るまでの暇潰しに、目の前を過ぎゆく人々をぼ~っと眺める。
ピシッとスーツを纏ったサラリーマン、奇抜なファッションのおばあちゃん、髪を赤や紫など派手な色に染めている若者、外国人観光客。
新宿にいるのは個性溢れる人達ばかりで、見ていて全然飽きない。
(っていうか皆オシャレだよな。俺こんなんだけど大丈夫か?)
新宿にいるオシャレな格好をしている人達を目にして、今更自分の服装が心配になってきた。
下からスポーツシューズに、黒のパンツ。上は白のシャツに上着として黒の転移マントを羽織っている。
良く言えば無難だけど、悪く言えば地味なんだよな……。女性と食事に行くんだったら、もっとマシな服にしておけばよかったか?
いやでも、センスの良い服とか持ってねぇもんな……。
「ねぇ……あの人かっこよくない?」
「だよね!? 私も思ってた!」
(気のせいか……何かあちこちから視線を感じるんだが)
俺以外にも誰かと待ち合わせをしている人は沢山いる。その人達を含めた歩行者、周囲にいる人達からチラチラと見られている気がしていた。
ええ……やっぱ俺の服装ってかなりマズいのだろうか?
そんな心配をしていると、突然ギャルっぽい見た目の女子二人に声をかけられてしまう。
「ねぇお兄ぃさん、この後予定ある?」
「もしよかったら私達とご飯行かない?」
「はっ?」
突然そんな事を言われてつい驚いてしまった。
なんだこれ……何を言われているんだ? ご飯行かないって……まさかこれ俗に言うナンパってやつか?
えっ……俺今逆ナンされているのか? マジか……新宿の女子って自分からナンパするのか。すげー肉食系なんだな。
何はともあれ、無視せず返事はした方がいいだろう。
俺は後頭部を掻きながら、申し訳なさそうに返事をした。
「あ~すいません、この後約束があるんで」
「そっか~、残念だわ~」
「またどこかで会ったら声かけるね~」
じゃあね~と、女子達は軽く手を振りながら後腐れなく去っていく。
何と言えばいいか分からねぇけど、新宿って色々とすげぇ所なんだな。そんな風に新宿に圧倒されていると、再び声をかけられた。
「新田さん、早かったね。私も早めについたと思うんだけど」
「あっ結賀さん」
今度はナンパではなく、俺が待っていた結賀さんだった。
軽く挨拶をしていると、いつもと雰囲気が違う彼女の見た目につい視線がいってしまう。
彼女の服装は下からブーツに、黒いセンタープレスタックパンツ。上は白いニットセーターに、ブラウンのチェスターコートを羽織っている。ネックレスや小さいバッグも持って眼鏡もかけているから、なんかこう全体的に大人の女性ってコーデだ。
髪型も少し変えているし、こう言ってはなんだが今日の結賀さんは滅茶苦茶綺麗だった。
「な~に~そんなに見て。どこか変かしら?」
俺の視線に気づいた結賀さんは、自分の服を見ながら聞いてくる。俺は慌てて、
「いや、そんなことないですよ! 大人って感じでめっちゃ綺麗です!」
「も~新田さんはお世辞が上手いわね」
「本当ですって。逆に俺がこんな服装で申し訳ないっていうか」
結賀さんと並んだら、俺の見た目なんか子供っぽく見えてしまうだろう。俺と結賀さんじゃ全然釣り合わないと申し訳なく思うぐらいだ。
「全然そんな事ない、新田さんの服も似合っているわ。普通にか……かっこ良いし(小声)」
「えっ? 最後の方聞き取れなかったのでもう一度お願いしてもいいですか」
「そ、そんな事より! 早く行きましょう、この時間だと込んでいるかもしれないしね!」
顔がほんのり赤く染まっている結賀さんに催促され、俺達は一緒に並んで歩き出した。
俺達が訪れたのは、レトロチックなカフェ&レストランだった。
結賀さん曰くここは人気店で、前から気にはなっていたが中々一人で来れず、丁度良くお礼がしたいと言ってきた俺を誘って行ってみようと思ったらしい。
確かに店内はほぼ満席だし、人気なのも頷ける。外観も内観もオシャレで、落ち着いた雰囲気もあってかなり良い。俺達はたまたま並ばずに入れたが、もう外で待っている人もいる。
「こういう所初めて入りましたけど、結構良いですね」
素直に思ったことを伝えると、結賀さんは嬉しそうに「でしょ?」と微笑んで、
「ここのパンケーキが美味しいらしいのよ」
「何でも頼んでくれていいですよ。俺が出しますんで」
「あら、そんな事言っていいの?」
「結賀さんにお礼をするんですから当たり前ですよ。遠慮なくいっちゃってください」
「そう? じゃあ今日はお言葉に甘えようかしら」
結賀さんは注文する物は決まっているので、店員さんを呼んで注文する。
「私はパンケーキとコーヒーをお願いします」
「俺はハンバーグのセット、ご飯は大盛で。それと――パスタとピザとステーキとシーザーサラダと、あ~オムライスとガパオライスもお願いします」
「「……えっ?」」
メニューを見て片っ端から注文すると、結賀さんと店員さんは呆然としてしまう。僅かな沈黙の後、結賀さんに聞かれてしまう。
「そ、そんなに食べられるの?」
「あ~、なんかセイバーになってから食欲が増したんですよね。これぐらいなら全然余裕です」
「そ、そうなんだ……」
セイバーになってからの俺は、何故か食欲が増した。さらに魔力を扱うトレーニングをするようになってからは、自分でも信じられないくらいの量を食べている。
魔力を扱うトレーニングをすると、凄い腹が減ってくるんだよな。だから最近は自分で作らず外食だったり食べ放題ばかり行っているんだ。
「じゃ、じゃあそれでお願いします」
「は、はい……ご注文承りました」
苦笑いを浮かべながら注文を確認した後、店員さんは気持ち小走りで厨房へと戻っていったのだった。
「あ~美味しかった。新田さんに釣られてデザートも食べたからお腹一杯になっちゃったわ」
「それは良かったです。俺も美味しく食べられましたよ。味も凄く良かったです」
「それにしてもよくあれだけの量平らげたわね~。今でも信じられないわ……セイバーって凄いのね」
「これでもまだ腹八分目ぐらいですけどね」
大量のご飯を平らげて山盛りの皿を持って行ってもらった後、俺達は食後のコーヒータイムを嗜んでいた。
食べている時は他の客からも「なんだあいつ……?」みたいな視線を感じて、結賀さんには居たたまれない思いをさせてしまったかもしれない。
正直、今日は空気を読んで抑えておけばよかったと少し後悔している。
結賀さんはコーヒーを一口飲んだ後、世間話として俺の近況を聞いてきた。
「トレーニングは順調? 最近は余りダンジョンを攻略していないようだけど」
「結構難しくて中々上手くはいってないっすけど、日々成長はしています」
結賀さんが言ったように、俺は今ダンジョンに行っていない。
それよりもまず、魔力を上手く扱うようにできるのと、マジカルアーツの鍛錬に励んでいる。C級やさらに上のB級で戦う為には今の俺の実力じゃ駄目だからだ。もっと力を付けてから、また挑戦したいと考えている。
「そっか、頑張っているのね。私にできることがあるなら相談に乗るから、何でも言ってね。私は新田さんの担当なんだから」
「はい、ありがとうございます、結賀さん」
食事を終えて会計をクレジットカードで払った後、「これで帰るのはもったいない」と結賀さんの提案で買い物に行くことになり、彼女に俺の服装をコーディネートしてもらったのだった。
◇◆◇
「はっはっはっは」
俺は今、家の周りをランニングしていた。
その理由は勿論、基礎体力を向上させる為である。
魔力を身体に纏って戦う魔力武装は身体に負担がかかってしまう。魔力武装の鍛錬をしたらすぐにバテたり、身体がガタガタになってしまうんだ。
特に俺の魔力量は他のセイバーと比べても多いらしくて、全力で強化すると身体が耐えられない。
だから俺は、魔力に耐えられるようにしようと筋トレやランニングなどの基礎トレーニングを重点的に行っていた。
お蔭で、今じゃ筋肉も付いてきて腹筋もシックスパックに割れている。鏡に映る自分の身体を見て驚いちまったよ。筋肉を魅せるボディービルダーの気持ちがちょっとだけ分かってしまった。
「ん? あれは……」
そろそろ家に着く頃まで走っていると、目の前に制服姿の女性が歩いていた。その後ろ姿を知っていた俺は、大きな声で女性に声をかける。
「咲桜!」
「……義侠」
「「……」」
振り向く彼女のもとまで近寄るが、何を喋っていいのか分からず口が動かなかった。それは咲桜も同じみたいで、二人とも顔を見合わせ黙ってままである。
咲桜に会うのは随分久しぶりだし、なんだか気まずいな……。
上手く言葉が出せないでいると、咲桜がふっと柔らかい笑みを浮かべて、
「少し会わない内に背が伸びたんじゃないか?」
「そ、そうか?」
「ああ、伸びたよ。身体付きも良くなっている」
「はは、なんかこっ恥ずかしいな。咲桜は学校の帰りか?」
「ああ、そんなところだよ」
「「……」」
また話題がなくなっちまった。
あれ、なんか変だな。咲桜と話すのってこんなに気まずかったっけ?
このままモヤモヤとした感じで別れるのは何か嫌だった俺は、ポリポリと頭を掻きながら提案する。
「この後予定あるか? よかったらウチに上がってけよ」
「ふっ、なんだそれは。そうだな、久しぶりに義侠の家にお邪魔するか」
「おう」
誘いに乗ってくれたことに安堵し、俺は咲桜を連れて自分の家に入る。
両親に線香を上げた後、お互い椅子に座ってとりとめのない話を始める。
「セイバーはどうなんだ? やはり大変なものか?」
「ああ、それがよ――」
俺はセイバーになってからの出来事を搔い摘みながら話していく。
セイバー試験のこと、初めてダンジョンを攻略したこと、セイバー仮面っていう勇気ある人がいること、他のギルドとレイドを組んだこと、C級ダンジョンで危うく死にそうになったことなど、色々話した。
「そんなことがあったのか。やはりダンジョンは危険なところなんだな……なんにせよ、義侠が無事でよかったよ」
「まぁな、咲桜もセイバーになるなら覚悟しておいた方がいいぜ。そうだ、そっちはどうなんだよ?」
「私も今、お父様から本格的にセイバーとしての指導を受け始めているよ。卒業した後はすぐにセイバーになる予定だからな。即戦力になる為にも頑張らねば」
「咲桜ならすぐ強くなれるだろうな」
「ふっ、どうだかな」
それからも俺と咲桜は、日が暮れるまでセイバーのことや学校のこと、昔話などに花を咲かせる。
やっぱり俺にとって、咲桜は大事な幼馴染で、惚れているんだなということを再認識したのだった。




