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第二十四話 ドラゴン級

 



 帝国ギルド、山田ギルド、Believeギルドの三つのギルドに俺を含めた無所属のセイバーを加えたレイドは、日光東照宮に出現したC級ダンジョンの攻略することになった。


 侍ゾンビの群れを協力して掻い潜り、陽明門まで突破して帝国ギルドに後を任せる。


 山田ギルドに臨時加入した俺は、陽明門の両脇に鎮座されてあったオーガ級モンスターの武将像と戦い、苦戦しながらも勝利する。


 粗方片付け終えると、Believeギルドが追いついて合流した。

 後は帝国ギルドがガーディアンを倒して、ダンジョンコアを破壊するのを待つだけなのだが、俺と山田ギルドのギルドマスターである山田さんと、Believeギルドのギルドマスターの木下さんの三人で本殿へ応援に向かう。


 そうしたら、レイドリーダーである武藤と帝国ギルドのセイバー達が負傷していたのだ。


 武藤の話によると、本殿にはダンジョンコアが存在せず、もう一つの部隊が手柄を横取りしようと独断で奥級に行ってしまい、追いかける前にオーガ級に襲われてしまったんだそうだ。なんとか倒せはしたが、武藤もセイバーも負傷してしまった。


 警察の柳葉さんに以前聞いたことがあるが、帝国ギルドはギルド内でも競争が激しいらしい。今回の仲間割れはそれが原因で起こってしまったのだろう。


 最悪の事態が起きたのはここからだ。

 突如地震が起き、動けないセイバー達を外に運び出していると、驚愕する山田さんが空を見上げて叫んだ。



「おい、なんだよあれ!」


 ――そこには、推定十五メートルの巨大な武将が聳え立っていたんだ。



 しかも、出し抜こうとした帝国ギルドのB級セイバーが、武将によって握り殺されてしまう。


 いったい何が起きているのか分からず誰もが混乱している中、一早く正気に戻った山田さんが険しい表情を浮かべて口を開いた。


「ふざけろ! ありゃ多分“ドラゴン級”だぜ!!」


「なんですって!?」


 確証を持って発言する山田さんに、誰もが驚いた

 ドラゴン級は、モンスターの脅威度でも最上級に位置する。その強さは異次元で、A級やB級セイバーが束にならないと倒せないとまで言われている。


「でもおかしいじゃない! なんでC級ダンジョンにドラゴン級が出てくるのよ!?」


「そんな事俺に聞くなよ!」


 慌てふためく木下さんに、山田さんが怒鳴り返す。

 そもそもドラゴン級はC級ダンジョンには出現しないって聞いている。B級ダンジョンのボスとしてか、A級ダンジョンにしか出ない筈なんだ。


 それが何故、C級ダンジョンに現れているんだ?


「あなたの勘違いじゃないの!?」


「いや……その男の言っている事は本当だ」


「あんた、大丈夫なのか?」


 座っていた武藤に問うと、彼は苦しそうに「大丈夫だ」と言って、


「私は一度だけドラゴン級と戦ったことがある。離れていても感じるだろう、あのモンスターから放たれる強大な魔力を……」


「「……」」


 武藤の話に、山田さんと木下さんが黙ってしまう。

 これが魔力かどうかは分からないが、俺もなんとなく感じている。巨大な武将から放たれる重厚な圧力プレッシャーをな。


 ワーウルフと対峙した時とは比べ物にもならない。こんなに離れているのにもかからわず、生きた感じがしなかった。息苦しく、背筋が凍るように鳥肌が立っている。


 人間としての本能が激しく警鐘を鳴らしていた。“あの化物から早く逃げろ”と。


「C級ダンジョンではあるが、ガーディアンとして生まれたドラゴン級。それに恐らくあの巨人は、土地の伝承に関係するとしたら徳川家康の化身だろう」


 その事、武藤も知っていたのか。

 俺は現国の授業の時に先生から聞いたのを思い出したけど。


「天下の大将軍を彷彿としたドラゴン級モンスターなど私達が勝てる相手ではない。攻略は中止だ、今すぐここから逃げるぞ」


「あぁ、俺も賛成だ。あんな化物と戦ったら命がいくつあっても足りねぇよ」


「そうね……とっと逃げましょう」


 満場一致で方針が決定した。

 巨大な武将とは戦わずに撤退する。それが最も正しい判断だ。ここにいる誰もが、あんな化物と戦って勝てるとは思っていない。


「仲間はどうする、置いていくのか?」


「助けに行く時間なんてない。それに助けにいったところで、既に死んでいるかもしれん。今は生きている者の生還を優先する。これはレイドリーダーとしての命令だ」


「……わかった」


 元々帝国ギルドのセイバーは二十人いて、その半数がダンジョンコアを破壊しに向かったとしたら、十人近いセイバーが取り残されている。


 そいつ等を助けるかどうか聞いたら、武藤は首を横に振った。彼の言う通り既にもう死んでいるかもしれないし、ここにも動けない帝国ギルドのセイバーがいる。彼等の命を優先した方がいいだろう。


 俺達は動けない者に手を貸して、陽明門で出る。


「山田さん、あの巨人はなんなんですか!?」


「木下さん、どうなっているんですか!」


「話は後だ! 今すぐズラかるぞ!」


「怪我をしている人を運ぶのを手伝って! ダンジョンの外に出るわ!」


 陽明門の入り口で待機していた山田ギルドとBelieveギルドのセイバーにギルドマスターの二人が指示すると、全員は慌てて表門へと引き返す。


 そんな中、負傷している帝国ギルドのセイバーを背負っている俺は背後にいる巨大な武将――家康像を振り返る。


(なんであいつは襲ってこないんだ……)


 家康像は逃げる俺達を見たまま、そこから動こうとはせずじっと黙っている。

 その様子が不自然かつ不気味で、俺は嫌な予感がした。


 ――その嫌な予感は、すぐに最悪な形として的中してしまう。


「山田さん! ダンジョンから出れません!」


「なんだと!?」


 表門から出ようとした山田ギルドのセイバーが困惑した声音で叫ぶ。


 ダンジョンから出られないって……そんな馬鹿なことがあるかよ。確認しに行った山田さんと木下さんが魔道具で突破しようとしても、無駄に終わってしまう。


 しかも、通常はダンジョンの外の景色が見える筈なのに、今は白色に染まっている。これでは内から外に助けを呼べないし、外からも内側の様子が分かっていないかもしれない。


「嘘だろ……なんで出れねぇんだよ!?」


「武藤さん、なんとかならないの!?」


 絶望の声を上げる山田さん。木下さんが武藤に懇願するも、彼は険しい表情を浮かべる。


「すまない……俺にもわからない」


「そんな……それじゃあ俺達……」


「ダンジョンの中に閉じ込められたってこと?」


 ダンジョンから出られないと知ったセイバー達の顔が恐怖に染まる。


 原因は不明だが、俺達はこのC級ダンジョンに閉じ込められてしまったんだ。最悪の展開に誰もが言葉を失っていると、ズンッと、大きな地響きが轟く。


 音の発生源に視線を向けると、今まで黙っていた家康像が俺達の方へと歩き出していた。


(あの野郎……嗤ってやがる!!)


 こちらに迫ってくる家康像の口角が上がっているのに気付いてしまう。


 分かっていたんだ……あのモンスターは、俺達がダンジョンから出られないことを最初から分かっていてその場から動かなかったんだ。

 ダンジョンから出られないと気付き、絶望する俺達の様子を面白可笑しく眺めて嗤っていやがったんだ。


「おい武藤さんよぉ、本当に何か手はないのかよ!?」


「出る方法は一つだけある……あのモンスターを倒してダンジョンコアを破壊し、ダンジョンを消滅させることだ」


「“あれ”と戦えっていうの!? 冗談言わないでよ! あんたが言ったんじゃない、勝てる訳がないって!」


「言ったさ。だが、生き残る為には戦うしかないだろう。このまま黙っていても、奴に蹂躙されるだけだ」


「そうだけど!」


「えっ、私達があのモンスターと戦わないといけないの?」


「あんなん敵いっこねぇって……」


 絶望が増し、伝染してしまう。

 この場に家康像と戦う気力がある者は居ない。が、俺は違った。


「俺は戦う」


 背負っているセイバーを下ろすと、一言告げて家康像へと駆け出した。


「おい待てあんちゃん! 早まるんじゃねぇ!」


「勝てっこないわよ!」


 山田さんと木下さんの制止を振り切り、俺は真っすぐ家康像に接近する。

 ダンッと地面を強く跳躍して陽明門の上に飛び乗ると、もう一度ジャンプして家康像の憎たらしい顔面に拳を放った。


「はぁぁあああああああ!!」


「フンゴォ!?」


 あらん限りの力を入れてぶん殴ると、家康像は転倒して尻もちをつく。

 俺は陽明門の上に再び上がると、家康像を見下ろしながら吐き捨てるように告げた。


「舐めんじゃねぇぞ、クソ野郎」


「凄ぇなあんちゃん、あのデカブツをぶん殴っちまったぞ……」


「嘘でしょ……あの子C級セイバーよね?」



 ――戦えない人に無理して戦えとは、俺は言えない。



「グフフ」


 知りもちをついていた家康像が立ち上がり、俺を掴み取ろうとしてくる。

 その手を飛び越えて手首に着地すると、腕を駆け上がり顔に近付き、頬を蹴っ飛ばした。


「マグレじゃない……マジでドラゴン級と戦り合ってる」


「もしかして、勝てるのか?」



 ――だけど、勇気を与えることはできる。



 家康像がたたらを踏んでいる間にまた陽明門の上に上がり、俺は奴に向け大声でこう言った。


「どうしたデカブツ! 見かけ倒しかよ!?」


「カッカッカ!」


 ショッピングモールに現れたD級ダンジョンで、自動ドアが開かず民間人は恐怖に脅えていた。モンスターが生まれてパニックに陥ってしまうかと思われたが、それはセイバー仮面によって免れた。


 あの時の堂々とした彼の姿に、皆が勇気を貰ったんだ。

 セイバー仮面のように心強い言葉は言えないけど、臆さず戦う姿なら見せられる。


 伝染するのは恐怖や絶望だけではない。その逆も然りで、勇気と希望だって伝染するんだ。

 そんな大事なことを、俺はセイバー仮面から教えてもらったんだ。


「あんちゃん一人に戦わせる訳にはいかねぇ、いっちょやったろうじゃねぇか!! 行くぞお前等ぁ!」


「「おおーー!!」」


「こうなったらもう焼けよ! どうせここに居たって死ぬんだから、私達も行くわよ!」


「「はい!!」」


 俺を叩き潰そうと家康像が拳を固めて振り下ろしてくる。

 ズドンッと陽明門が破壊されるが、寸前に回避していた俺は無傷だった。背後の地面に着地すると、いつの間にか山田ギルドとBelieveギルドが俺の周りに集まっていた。


「あんちゃん、俺達も戦うぜ!」


「私達もね!!」


「役に立つか分からんが、帝国ギルドも加勢する」


「山田さん、木下さん、武藤さん……」


 ギルドマスターの三人が俺にそう言ってくる。

 先程まで恐怖と絶望に染まっていた彼等や他のセイバー達の顔色が変わっていた。その目と顔には、戦う意志が宿っている。


「ありがとうございます……」


「礼を言うのはこっちの方だぜ。勝つぞ、あんちゃん!」


「はい!」


 この場にいる全ての者の思いが一つになった。

 家康像を倒して皆で帰る、ただそれだけだ。


「帝国ギルドとBelieveギルドは遠距離から魔銃で攻撃! 山田ギルドは攪乱とサポート、くれぐれも前には出過ぎるなよ! メインはB級と少年の四人で叩く!」


「残弾なんか気にしなくていい、撃って撃って撃ちまくっちゃいなさい!!」


「お前等、山田ギルドの意地を見せてやろうぜ!!」


 レイドリーダーの武藤が全体に指示を出すと、それぞれが指示通りに動き出す。Believeギルドと負傷している帝国ギルドのセイバーは距離を取って魔銃を撃ちまくる。魔力の弾丸が一斉に放たれ、ドドドドッと家康像の上半身に直撃する。


「ムウウウゥ」



 効いているか分からないが、嫌そうにしているのは感じ取れる。山田ギルドのセイバー達が死角に回り込み、魔剣による斬撃を与える。

 その間にB級セイバーの三人は家康像に肉薄し、同時に攻撃を仕掛けた。


「おらよぉ!」


「喰らいなさい!」


「はぁああ!」


 山田さんが大剣による斬撃を、木下さんが二丁魔銃による弾丸の嵐を、武藤が双魔剣を家康像の両足に繰り出す。B級セイバーの攻撃は流石に効いたのか、家康像は初めて痛そうな顔を浮かべた。


「はぁああ!!」


「グォオオ……」


 攻撃の隙を与える前に、間髪入れずに接近して家康像の胸部を蹴り飛ばす。俺達の攻撃を喰らった家康像は、堪らず背後に後退あとずさる。


「いける……お前等、これなら勝てるぞ!」


「皆、その調子よ!」


「油断するな、まだ終わってないぞ!」


 押せ押せムードにセイバー達の士気が上がっていく。

 武藤が言うように油断は出来ないが、優勢である今の内にどんどん攻撃した方がいい。反撃の隙を一切与えなければ、俺達が殺られることはないんだからな。


 確かにドラゴン級は強敵だ。少人数で戦うとしたら敗北を喫していただろう。


 だが、B級を含めたこれだけ多くのセイバーが一同に戦えれば、ドラゴン級だって倒せないことはない。

 今の一連の流れを見て、俺はそう確信した。


(このまま押し切ってやる!)


 追撃を仕掛けようと、建物の屋根に上がってさらに跳躍し、家康像の顔面を殴りかかろうとしたその時、奴の目が突如光輝いた。


(ヤバい――)


 全身が粟立ち、マズい雰囲気を察した直後、



ーーーーーーーーーーーーーーーつ!!」


「「――っ!?」」



 大気を震わすほどの絶叫を家康像が放った途端、身体が硬直してしまう。

 不可解な現象は俺だけではなく、全てのセイバーの身体に起こっていた。


 何だ、何をされた!? 身体が全然動かねぇぞ!?

 不測の事態に戸惑っていると、家康像が俺を見てニィと嗤った。空中で身動きが取れない俺へと、剛腕を振るってくる。


(やられる!?)


「カーー!」


「がはっ!?」


 ズドンッ!! と。

 防御できず無防備なまま巨拳を喰らった俺は後方に吹っ飛ばされ、建物の壁を破壊しながらめり込んだのだった。



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