第二十二話 C級ダンジョン
「う~ん、D級ダンジョン、全然出てこねぇな」
筋トレした汗をシャワーで流した後、テーブルに置いておいたスマホを取ってギルド協会のHPのマイページにログインする。
どこかにダンジョンが出現していないか確認したのだが、今は現れていなかった。
ショッピングモールに出現した難易度D級のダンジョンを攻略してから一か月が経った。
この一か月の間、俺はE級ダンジョンをほぼ毎日、D級ダンジョンを二回ほど攻略している。
自分自身がもっと強くなるために、そしてセイバーとしての評価を上げたい俺は沢山D級を攻略したいところなんだが、中々出現してくれない状況が続いていた。
俺の担当をしてくれる結賀さんから聞いた話なんだが、ダンジョンは難易度が高くなるほど出現する頻度は少なくなるんだそうだ。
E級ダンジョンはほぼ毎日全国各地に出現している。D級ダンジョンは一週間に一回出るか出ないかで、C級ダンジョンは二、三週間に一回ぐらいの頻度だった。
因みにB級ダンジョンは一ヶ月に一回ぐらいで、A級ダンジョンになると年に一回現れるくらいの頻度だそうだ。
平和を望む人々からしたら、ダンジョンが出現しない事はとても良いことだろう。しかしこう言ったらなんだけど、俺の目的を果たす為にはもっと難易度が高いダンジョンが現れてくれないと困っちまうんだよな。
セイバーの登録する時に結賀さんが、B級に昇格するには普通にやっても四、五年はかかると言っていたが、確かにその通りだった。ダンジョンを攻略したくたって、そもそもダンジョンが出現してくれないと攻略できず評価だって上げられない。
「どうすっかな~」
やる事がなくソファーに寝転がりながらこの後どうするか考えていたその時、テーブルに置いてあるスマホからダンジョン警報が鳴り響く。俺はすぐに立ち上がってスマホを取り確認すると、
「栃木の日光東照宮にダンジョン発生予告、難易度は……C級だって!?」
その内容に驚愕した。
栃木県の日光東照宮は俺でも知っている観光名所だ。そんな観光客が沢山集まる所にこれからダンジョンが出現するっていうのかよ。しかも難易度がC級ってヤバいだろ。
「C級か……」
俺はまだC級ダンジョンに挑戦したことがないし、結賀さんにもまだ早いと止められている。というのも、C級にはオーガ級の凶悪なモンスターがゴロゴロ現れるからだ。
『いい? 新田さんが強いのは分かっているけどまだC級は早いわ。お願いだから、C級に行くのはやめて。今度こそ死んでしまうわよ』
D級ダンジョンで手に入れた魔石を換金しに行った時に、結賀さんにそう心配された。俺自身、C級に挑むのはまだ早いと思っている。
オーガ級のワーウルフ一体に苦戦したんだ。それなのにオーガ級モンスターが多く現れるC級に挑むのは自殺行為も同じだろう。
だけど――
「このまま黙ってらんねぇよな」
俺はC級ダンジョンに向かうことにした。
別にダンジョンを攻略したい訳じゃない。民間人の避難や救助など、俺にだってやれる事は沢山ある。
恐らく日光には沢山の観光客が訪れているだろう。ダンジョンとモンスターの脅威から、一人でも多くの民間人を助けるんだ。
それに、結賀さんにも絶対に行っては駄目とは言われてないしな。
『そう言っても、きっと新田さんはその時になったら行くんでしょう? でもお願いだから、絶対に一人で戦おうとしないで。他のセイバーやギルドが到着するのを待って、協力して攻略してね』
一人で先走らず、応援を待つ。その約束の上なら、C級ダンジョンに行ってもいいと許された。まだ知り合ってそれほど経っていないが、結賀さんは俺の性格を良く分かってるよな。
そうだ、俺は指を加えて黙っていられる人間じゃない。
この手で助けられる命があるのなら、無理無茶なんか言ってられるか。
「行くか」
結賀さんにC級ダンジョンに向かうことをマイページから送信した俺は、いつもの私服に着替えて椅子にかけてあった転移マントを羽織ると、栃木の日光東照宮に瞬間移動したのだった。
◇◆◇
「おい、ここにダンジョンが出現するってよ!」
「早く逃げましょう!」
「あ~もう最悪だよ! 折角有給取って観光に来たってのによぉ!」
(もうみんな避難しているようだな……異界化もまだみたいだ)
日光に瞬間移動してきた俺は、すぐに周囲の状況を把握する。
ダンジョン警報を聞いた民間人達が慌てて避難していた。幸いなことに、ダンジョンはまだ出現していない。しかしいつ出現してモンスターが生まれてくるか分からないし、できるだけ早く避難させた方がいいだろう。
「おばあさん、運びますから乗ってください」
「おや、親切にありがとうねぇ」
俺は足腰が弱い老人や、小学生などの子供を優先して運び出す。日光東照宮には沢山の小学生らしき子供が居た。駐車場に観光バスがあったから、恐らく遠足で訪れたのだろう。最悪な遠足になっちまったな。
出現するダンジョンがどれくらいの範囲か分からないので、できるだけ遠くに避難させる。
「よし、とりあえず皆避難できたみたいだな」
もぬけの殻となった境内を見渡して、ほっと安堵する。
取り残された人が居ないか探し回ったが、姿は見当たらい。避難は無事に完了したようだ。
よかった……ダンジョンが出現してモンスターが生まれていたら、こんなスムーズにはいかなかっただろう。
「ヘリ……警察も来てくれたのか」
ダンジョン警報が鳴ってから約三十分後、避難を終えたタイミングで二台のヘリコプターが飛んできて、駐車場に着陸した。
様子を窺いに向かうと、ヘリの中からぞろぞろと武装した人達が出てくる。やはりダンジョン課だったようだ。
「おい新田! お前こんな所にも来ていたのか!」
「えっ、新田さん!?」
「柳葉さん、宮城さん」
ダンジョン課の中には、いつもお世話になっている柳葉さんと宮城さんも居た。まぁ、二人は関東地区の担当だから居てもおかしくないんだけどな。
こちらに近付いてきた二人と軽い挨拶を交わした後、柳葉さんが険しい表情を浮かべて問いかけてくる。
「今の状況はどうなっている?」
「民間人は全員避難しました。取り残されている人も居ません」
「そうか、よくやってくれた。お前さんにはいつも助けられているぜ! ありがとな!」
「ありがとうございます、新田さん」
柳葉さんに肩を叩かれながら、宮城さんには真摯に感謝を告げられる。
「まだダンジョンは出現していないようだな」
「はい。そのお蔭で避難もスムーズに行えました」
「よし、すぐに結界装置を起動するぞ。準備に取り掛かれ!」
「「はい!」」
柳葉さんが待機している部下達に命令した、その時。
ゴゴゴゴゴゴッ!! ――と地面が揺れたと思ったら、強烈な悪寒が身体中を駆け巡った。
「――っ!?」
異様な気配に全身が粟立つ。
この感覚は、ダンジョンに入った時と同じものだった。同じなんだが、今まで感じことがないほど気配が強い。
「ちっ、とうとうダンジョンが発現しちまったか……」
舌打ちをする柳葉さんに、俺は震えた声音で問いかける。
「ここって、もうダンジョンの中なんですか?」
「いや、ここは範囲外だな」
「そんな……」
こんな強い気配を感じているのに、ダンジョンの外だっていうのかよ?
信じられない事実に驚愕していると、タブレットっぽい機械を持っている宮城さんが柳葉さんに報告する。
「範囲を割り出しました。データによると、表門から奥宮あたりまでがダンジョンです」
「よし、ならモンスターが生まれてくる前にさっさと結界装置の準備をするぞ」
「「はい!」」
「新田、くれぐれも一人で先走ろうなんて考えるなよ。C級ダンジョンってのはそんなに甘いところじゃねぇ。E級やD級よりも遥かにモンスターの強さも高くなっている。一人でどうこうできるレベルじゃねぇんだから、大人しく待ってろよ」
「はい、分かってますよ」
キツく注意してくる柳葉さんに返事をすると、彼は肩を撫で下ろして、
「それを聞いて安心したぜ。お前はいつも一人でやろうとするからな。他のセイバーやギルドも応援に来るって報告もきてるし、到着するのを待っていろよ」
「わかりました」
その後、警察は無事にダンジョンの周りに結界装置を準備して起動させる。これでモンスターがダンジョンの外に出てくる恐れはなくなった。
さらに一時間後、総勢四十人のセイバーが日光東照宮に集結したのだった。




