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第二十一話 ヒーローと普通のおじさん

 



「少年! どこだ少年! 返事をしてくれ!」


「ここに居ますよ、セイバー仮面」


「ええ!?」


 エレベーターから出てきて俺の名前を呼び続けるセイバー仮面に、屋根の上から声をかける。声に反応した彼は俺を見上げると大仰に驚いた。しゅたっとセイバー仮面の横に飛び降りると、彼は慌てた声音でこう言ってきた。


「ビックリしたじゃないか。なんでそんなところにいるんだい、ガーディアンはどうなったんだ」


「あいつなら俺が倒しましたよ」


「な、なんだって!?」


「はい。ちょっとやばかったですけどね」


「は~~~、少年は強いとは思っていたが、まさかオーガ級のガーディアンを一人で倒してしまうなんてね。凄いじゃないか」


 唖然としながらも褒めてくるセイバー仮面に、俺は照れ臭くなってしまいポリポリと頭を掻いた。


「それじゃあ警察に報告しに行こうか」


「はい」



 ◇◆◇



「なに~~!? オーガ級のガーディアンを新田一人で倒しちまったのか!?」


「まぁ……はい」


「か~~こりゃ驚いたぜ! そんなに強かったのか! 応援を呼ぶ必要はなかったようだな。なんにせよ、よくやってくれた! セイバー仮面(あなた)もな。二人のお蔭で、民間人に死者は出なかった。助けられた人達も二人に凄く感謝していたぞ」


 俺とセイバー仮面はショッピングモールを出て、柳葉さんに今回の報告を行う。

 自動ドアが誤作動によって開かなく民間人が閉じ込められてしまったことや、緊急のため俺が二か所のドアをぶっ壊したこと。その時にはセイバー仮面がモンスターを引き付けてくれたこと。


 途中から帝国ギルドがやってきて、民間人の救助をせずダンジョンの攻略を優先したことや、駐車場に現れたガーディアンにやられたこと。最後に俺が一人でガーディアンを倒したことなど、覚えていることを詳しく説明した。


 報告を終えると、柳葉さんが笑顔でバシッと肩を叩きながら、よくやったと褒めてくれた。そしてセイバー仮面にも感謝を伝える。


 俺としてもセイバー仮面には凄く助けられた。俺一人だったら民間人を守りきることができなかったし、判断を間違えていたかもしれない。


 それにセイバー仮面の雄姿は民間人の心の支えになっていただろう。彼がはっきり『大丈夫』と大きな声で言い続けてくれたからこそ、モンスターが現れた時に民間人がパニックにならずに済んだのだと思う。


 俺だって、セイバー仮面から立ち向かう勇気を貰ったからビビることなくワーウルフと立ち向かえたんだ。マジで凄いぜ、この人。


「では、我々は先に失礼する」


「はい、ご協力感謝いたします。お大事になさってください」


 柳葉さんとセイバー仮面と話していると、別で報告していた帝国ギルドの連中が帰っていく。それを眺めながら、俺はつい舌打ちをしてしまった。


「ちっ、あいつら助けてやったのに一言の礼も無しかよ。民間人より先にダンジョンを優先したことといい、マジでどうかしてるぜ」


「まぁまぁ、彼等も多くの仲間が傷ついてしまって今は余裕がないんだろう。それに攻略を優先した件だって、彼等がモンスターを倒してくれたから民間人に被害が及ばなかったともいえるしね。その場の適材適所というやつさ。少年の気持ちも分かるが、そんなに怒る必要もないよ」


「そう……ですかね」


 セイバー仮面に諭されて、俺は怒りを鎮める。

 まぁ確かに、考えてみれば避難と救助だけをしていても駄目だった。どんどん生まれてくるモンスターの相手を誰かが担わなくては民間人がモンスターに襲われていただろう。


 ショッピングモールのモンスターはほとんど帝国ギルドが殲滅していた。それがあったからこそ、民間人に危害が及ばなかったんだ。


 それは分かってるけど、やっぱりなんかムカつくんだよな。個人的に帝国ギルドに対して因縁があるから、気に喰わない奴等っていう先入観を持っているからかもしれないが。


 納得できずにちょっと不貞腐れた態度を取っていた俺に、柳葉さんがこう言ってくる。


「新田も知っているとは思うが、帝国ギルドは国内最王手のギルドだ。セイバーの数も他のギルドとは桁が違ぇし、全国各地に支部がある。そんな帝国ギルドも、ギルド内では競争が激しんだよ。

 B級ぐらいになれば安泰だが、C級セイバーは成果を出さなければクビにもなるって耳にするほど厳しいらしいぜ。だから早くB級に上がる為にも、ダンジョン攻略に躍起になっているんだよ。あいつらのようにな」


「へぇ……」


 柳葉さんから理由を聞いて腑に落ちる。

 あいつらが我先にとダンジョンを攻略しようとしていたのは、そういう事情があったからなのか。


「別に帝国ギルドの肩を持つ訳じゃないが、警察としても非常に助かっているのが現状だ。ダンジョンを攻略してくれるだけ、結果的にも多くの民間人が救われている訳だからな」


「だからって、協力しようとせず傲慢な態度を取られても我慢しろっていうんですか」


「そこが悩みの種でもあるんだよなぁ……。そもそもダンジョンが現れてからこれまで平和を守ってきたのは帝国ギルドだ。その実績と信頼があのギルドにはある。だから警察やギルド協会だって強く言えねぇんだ。

 俺は好きじゃねぇが、どっちの組織も帝国ギルドに頭が上がらねぇんだよ。それどころか媚へつらっている奴もいるしな」


「マジですか……」


 衝撃の事実に唖然としてしまう。

 帝国ギルドが凄いのはとっくに分かっていたつもりだったが、まさかギルド協会や警察よりも権力が上だとは思いもしなかった。


 俺は……そんな奴等を相手に下剋上を掲げていたのか。ちょっと考え無しに舐め過ぎていたかもしれないな……。


「その割を食っているギルドやセイバーには申し訳なく思ってる。ただまぁ、帝国ギルドが態度でけぇのはいつもの事だが、今の焦り具合は以上だな。ここ最近、誰かさんが所かまず全国のダンジョンを攻略しまくってるせいじゃないか?」


「……」


 ニヤニヤしながら見てくる柳葉さんに、俺はそっぽを向いて黙った。


 えぇ……それってもしかして俺のせいってことなのか? しかも俺が関東だけじゃなくて全国のダンジョンを攻略していることもバレているようだし。


 転移マントのことを追求される前に、俺は話題を変えようと柳葉さんに尋ねる。


「そ、そういえばあいつらは無事なんですか? ガーディアンに結構やられていましたけど」


「ああ……片腕が斬れちまったりと重傷者はいるが、死人は一人も出ていないようだぜ。あいつらが着ているスーツは魔鉱石を素材にしているから防御性能も高いしな。心配するな」


「へぇ……あんな数のスーツに魔鉱石を使っているんですか」


「スーツだけじゃなく、武器だってそうだ。帝国ギルドは自社でも魔道具を開発したりと、高い性能の装備を保有している。良い装備を持っているってのはそれだけセイバーとしての強さに直結するからな。だからセイバーになって上を目指そうとするなら、帝国ギルドに入るのが一番の近道なんだよ」


「まぁ……そうかもしれないですね」


 武器の性能が高ければ、それだけモンスターにやられるリスクも少ないしな。それに武器だって無限にある訳じゃない。


 セイバー登録の試験の際に冬樹さんに聞いた話では、魔道具を使うには魔石を加工した物が必要で、つまるところ消耗品だ。魔石の魔力が尽きたら買い足さなければならない。


 セイバーの中にはケチる奴もいるだろう。だけど一々消耗を気にしてモンスターと戦っていたら、殺されるリスクだって上がってしまう。


 だが帝国ギルドほどの資産があれば、消耗なんか気にせずドンドン性能の良い魔道具を使ってモンスターを倒せる。モンスターを沢山倒せばべセルアップもするし、自分の評価も上がる。


 セイバーになるなら、帝国ギルドのような優良ギルドに入るのが一番良い選択なんだろう。


 まぁ俺の場合、モンスターを倒す手段は素手による格闘で魔道具は転移マント以外一切使ってねぇから、金はかからないんだけどな。


「そうだ少年、この後って用事はあるかい?」


「えっ……まぁ、用事っていう用事はないですけど……」


 突然セイバー仮面に聞かれた俺は、曖昧な返事をする。

 帰ってからもダンジョンが出現するのを待つだけだし、待っている間は身体を鍛えているくらいだからな。


「よかったらご飯でも行かないか。少年には命を救われたからね、恩を返したいんだ」


「恩って……そんな気にしなくていいですよ。俺だって貴方に助けられましたし」


「おっ、飯に行くのか? じゃあ俺も一緒に行こうかな!」


「駄目ですよ隊長、私達にはまだ仕事が沢山残っているんですから」


 俺も俺も! と乗り気な柳葉さんだったが、いつの間にか居た宮城さんに窘められてしまう。


「それでは新田さん、セイバー仮面さん、ご協力感謝致します」


 宮城さんは俺達に敬礼した後、「かたい事言うなって!」と言う柳葉さんを引き連れながら去っていく。柳葉さんって、なんか昭和の刑事みたいだよな……。


「どうだい少年、遠慮なんかせずに行かないか」


「わかりました、行きましょう」


「そうこなくっちゃ」



 ◇◆◇



「やぁ、待たせたね」


「え……あ、はい」


 あの後、セイバー仮面がスーツを着替えたいというので、近くの駅のトイレに迎えた。私服に着替えてトイレから出てきたセイバー仮面を見た俺は、目がキョトンとしてしまう。


 彼の外見は四十代くらいの男性で、良く言えば優しそうだが、悪く言ってしまうと頼りなさそうな普通のおじさんだった。


 人々に勇気を与え、モンスターに立ち向かっていったセイバー仮面とはとても思えない。なんかこう、凄いギャップがあって戸惑ってしまった。


 なんと言ったらいいか迷っていると、彼はふふっと面白そうに微笑んで、


「ビックリしただろう? セイバー仮面の正体がこんなおじさんで」


「まぁ……はい、正直言うと驚きました」


「それはそうだろう。あっ、自己紹介がまだだったね。僕は広中ひろなかだ、よろしくね」


「新田です、よろしくお願いします」


 軽い自己紹介をした後、セイバー仮面改め広中さんと並んで歩き出す。彼に連れて来られたのは、こじんまりとした居酒屋だった。


「ここは僕の行きつけの居酒屋なんだよ。ここでもいいかい?」


「大丈夫ですけど、俺は十七歳なんで酒は飲めませんよ」


「ええ!? 十七!? 未成年だったのかい!?」


「いやいや、広中さんだって俺のこと少年って呼んでたじゃないですか」


「それはまぁ、役に成りきっていたからというか。てっきり新田君は二十代前半、大学生ぐらいだと思っていたよ」


 そうだったのか。もしかして俺って老けて見えるのか?

 会う人会う人、十七歳だって伝えるとめっちゃ驚かれるしな。


「それなら居酒屋ここ以外のところにした方がいいかな」


「別にここでいいですよ。酒を飲まなくても、飯は食えますし」


「そうかい? なら入ろうか」


 そんな感じで、俺と広中さんは居酒屋に入る。

 まだ日は落ちている時間ではないが、ぽつぽつと客が入っていた。テーブル席に座ると、広中さんはカウンターの中にいる店員に親し気に頼む。


「大将、いつものお願い」


「あいよ」


「新田君も好きなもの頼んでいいからね。若いんだからじゃんじゃん食べちゃってくれ」


「ありがとうございます」


 広中さんはビールに唐揚げ。どうやらここの居酒屋の唐揚げは絶品らしく、彼の「いつもの」はその二セットなんだそうだ。


 俺は唐揚げに加えてごはんや肉などをめっちゃ頼んだんだが、想像以上の品数だったのか広中さんがドン引きしてしまう。何故か分からないけど、セイバーになってからすんげー食べるようになったんだよな。


「それじゃあ、乾杯しようか」


「はい」


 俺は水、広中さんはジョッキを掲げて乾杯する。

 ビールを呷った彼は、カーッ! と美味しいそうに声を出した。ご飯を食べながら当たり障りない会話をした後、俺は広中さんにずっと気になっていたことを尋ねる。


「あの、どうしてわざわざヒーローみたいなスーツを着て戦っているんですか?」


「はは、やっぱりそこは気になるよね」


「そりゃまぁ……」


 普通、誰だって気になるよな。


「新田君はトイレから出てきた僕を見た時、どう思ったかい?」


「えっと……」


「“普通のおじさん”だと思っただろう?」


「え、あ……はい。すいません」


 正直に伝えながら謝ると、彼は「ははっ」と笑って、


「謝ることじゃないよ、誰だってそう思うはずさ。でもね、だからこそヒーロースーツが必要なんだよ。僕のように頼りなさそうな普通のおじさんが「セイバーです! 助けに来ました!」といきなり現れて言っても、民間人は安心すると思うかい?」


「……」


「思わないだろう? 僕だって思わないんだから。だけどヒーロースーツを着た『セイバー仮面』が言ったなら、見方が変わってくる。民間人はヒーローの姿を見て、少しは安心するだろう」


「そんな理由があったんですね」


 広中さんの言うことは間違っていない。

 俺も最初に目にした時は「何であんな格好しているんだ?」と不思議に思ったが、彼の堂々とした振る舞いによってモンスターに脅えていた民間人もパニックにならずに済んだ。


 分かり易いヒーローの姿から放たれる言葉には、人の心を動かす力が確かにあったんだ。


「他に何か聞きたいことはあるかい?」


「えっと、じゃあ広中さんもどこかのギルドに所属しているんですか?」


「僕はギルドに所属していないよ。普段はサラリーマンだし、セイバーは趣味でやっているんだ」


「えっ! そうなんですか!?」


 この人、趣味でセイバーになったのかよ。驚く俺に、彼はこう言ってくる。


「そうだよ。元々子供の頃からヒーローが大好きでね、ヒーローに憧れを抱いていたからっていうのもあるんだけど、大きな理由は自分が無力であることが嫌だったんだ」


「無力……ですか」


「そうだね。ダンジョンってさ、今日みたいにいつどこに現れるか分からないだろう? いざその時になって、何もできない自分が嫌だったんだ。迫り来るモンスターから助けたい、人々の不安を少しでも取り除きたい。こんな僕にも何かできることはないだろうかと考えて、セイバーになることを決意したんだ」


「そうだったんですか」


 広中さんがセイバーになろうとした理由は、凄く立派なものだった。

 やろうと思っても簡単にできるものじゃない。モンスターと戦うということは死ぬ可能性だってある。自分の命を懸けているんだ。


 それでも尚、この人は誰かを守りたいという想いでセイバーになったんだ。人としてマジで尊敬できる。

 感動していると、今度は広中さんが俺に問いかけてくる。


「新田君は? その若さでどうしてセイバーになったんだい?」


「俺は、その……」


「無理に話さなくていいさ、理由は人それぞれだからね。新田君がセイバーになったことで多くの人達が救われている。それだけでいいじゃないか」


「広中さん……」


 気を遣ってくれる彼は、「さぁ食べて食べて!」と催促してくる。


 広中さんと出会えて良かった。

 セイバーの中には帝国ギルドみたいな奴等もいるけど、彼のように正義を抱いているセイバーも居るということを知れて凄く嬉しかったんだ。


「ごちそうさまでした」


「良い食べっぷりだったね。大将も喜んでいたよ。新田君、またどこかで会ったらよろしく頼むよ」


 居酒屋を出た後、そう言って握手を求めてくる広中さんに「はい」と言って、俺もその手を握ったのだった。



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