現代版ヘンゼルとグレーテル
この辺りに住んでいる大人達は口を揃えて子供が幼い頃から言い聞かせる。
この森に足を踏み入れてはいけない、と。
大半の子供は大人の言うことを聞き、森に近づこうともしない。
好奇心旺盛な子供は複数人で森を探検しようとするも、薄暗くて不気味なため入口付近で断念する。
ここにヘンゼルという少年がいる。
彼は友達と遊ぶより一人で虫を追いかけている方が好きだった。
だから珍しい虫を見つけて夢中で追いかけた結果、森の中で迷子になったのは必然だった。
見事目的の虫を捕まえたヘンゼルは帰り道なんか分からなくても最高の気分だった。
意気揚々と歩きながら肩から下げている虫かごの中を覗いてニンマリしていた時、突然目の前にお菓子の家が現れた。
精巧につくられているソレに興味津々で近づいた彼は、あらゆる角度から至近距離で観察する。
その様子を隠れて見ていた魔女はタイミングを見てヘンゼルに声をかけた。
「この家、美味しいかい?」
突然現れた魔女にヘンゼルは一瞬驚いたものの、礼儀正しく返事をする。
「食べていません」
魔女は空腹であろうヘンゼルがお菓子の家の誘惑に負けなかったことに感心した。
「勝手に食べないなんて律儀な子だね。
ささ、家の中にお上がり」
魔女が開けた玄関のドアから家の中を覗いたヘンゼルは、悲しそうに首を振った。
「残念ですが、クッキーやビスケットでつくられている家の中に入ることは出来ません」
「何故?」
「僕、小麦アレルギーなんです」
魔女は仕方なく杖をヘンゼルに向けて呪文を唱えた。
次の瞬間、森の出口に立っていたヘンゼルはお菓子の家のことも魔女のことも覚えていなかった。
続編としてグレーテルのお話も投稿しています。