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訓練2

 王太子夫妻は、仲が悪い。

 それは、王城のみならず、貴族の中では常識のようにもなっていた。

 サーディがキークのことを見ようとしないからだ。

 サーディだって問題があることはわかっている。

 だが、やはりキークの美しい顔を見ると、鳥肌がたってしまうため、公務を恙なく済ませるためには仕方がない。


 キークは仕方ない、と言ってはくれている。

 夜は相変わらず目隠しをして、思う存分可愛がれているからいいよ、というのがキークの弁。

 サーディは、それでいいなら、と特に対策を練ろうとは思っていなかった。

 だから、キークのもとには、側室の話が時おり持ち上がる。


 王位継承権は、サーディとの結婚が条件ではあるが、側室については王家の血筋が途絶えては困るため認められている。側室に子供ができた場合は、正室の子として育てられる。それが、この国の習わしだった。

 事実、そんなことも過去には何度かあった。

 政略結婚が国のためだからと言ってうまくいくわけでもないからだ。


「今日も、ノック侯爵に側室をと言われてしまったよ」

 いつものように目隠しをされ、サーディはキークにベッドに押し倒されている。

 ヒヤッとした気持ちが、サーディには湧いてくる。

「そんな話を今する必要があって?」


 最近、使用人にこのための準備で目隠しをされると、サーディは以前にはなかったちょっとした興奮を感じるようになっていた。それは、キークによってしつけられた感覚が、甘美なものになっていたから、に違いなかった。

 だから、その甘美なことを期待する気持ちに水をさされたような気分になった。

「サーディが嫉妬してくれるなんて嬉しいね」

 ふふ、と笑うキークに、サーディはムッとする。


「嫉妬など、していませんわ」

 嫉妬などするはずがない。サーディは言い切る。

「じゃあ、どうして側室の話を聞きたくないんだい? 以前はそれこそ、好きになさったら、って言っていただろう?」

 そう言われて、サーディは確かに以前はそう言っていたのを思い出す。


「今は何だか嫌だったんですわ」

 理由にもなっていないとサーディだってわかったが、他に理由を告げられなかった。

 クスリ、とキークが笑う。

「それがきっと、嫉妬と言われるものだよ?」

 キークの手が、サーディの敏感な部分を触れていく。


 ビクビクと体を揺らしながら、サーディが首をふる。

「ちが……うわ」

 甘い吐息が簡単に生まれるようになったのは、この訓練を始めてから割りとすぐだった。

 キークの手がサーディの甘美な気持ちを満たしてくれると、サーディはもうよく知っている。


「知っている? サーディ。この行為は、心も預けていないと、本当に気持ちよくはないんだよ? でも、サーディは私が触れただけで、こんなにも気持ち良さそうだ。それは、私に心を預けているということではないかな?」

「そう……なの……?」

 予想外の内容に、サーディは戸惑う。考えたこともなかった。


「女性の体は繊細なんだよ? 本当に私のことを受け入れてくれていなければ、私たちは体を合わせることなどできないんだ」

 自分は既にキークを受け入れている。その事実に、サーディは困惑しかない。

「でも……あなたのことは見れないわ」

 未だに、サーディはキークを見ると鳥肌が立つ。


「それはきっと、サーディが思い込んでいるせいだと思うんだ。私を見ると鳥肌が立つって」

「でも……」

 サーディには前世でのトラウマがある。だから、よくなる気がしなかった。

「少しずつでいいから、私を見る練習をしよう?」

「どう……やって?」


「まずは、暗闇のなかで、目隠しを外してみようか。私の姿は見えないよ。どうかな?」

 暗闇。ならばキークの顔は見れない。

 サーディはこくりと頷いた。

「では、はずすよ?」

 キークに目隠しがはずされた。サーディの目の前は、確かに真っ暗だった。

 目隠しをしていたときと変わらない。


「ほら、暗闇ならば私を見ても大丈夫だろう?」

「ええ」

 鳥肌がたっていなかった。

「今日は、目を開けたまま、私を感じて? いいね?」

「……わかったわ……」


 サーディにも不思議な感覚だった。

 目隠しをしていなくてもキークに対して鳥肌が立たない。

 それでも、キスをする度に、近づいてきたキークの顔形は、ぼんやりとした月明かりにサーディの目にもわかった。

 だが、鳥肌は立たなかった。


 それが意味することは?

 サーディはキークに与えられる甘美な感覚に、考えることを放棄した。 


楽しんでいただければ幸いです。


10月28日14時に、新しい転載作品の公開を開始します。よろしければ、どうぞ。

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