第97話 兄妹喧嘩……? 勘弁してください。
―――マルセル Side
こちら、ヴァイデンライヒ帝国の皇帝が政務をされる執務室から、本日の陛下をマルセルがお届け致します。
寝起き一秒で完全覚醒されるらしい陛下(レイラン談)は、時間に余裕がある時や、何か気になる事がある場合……いや気になる内容によっては即座に行動するので深夜に皇女殿下の寝室に侵入して皇女殿下に叱られてる事もあったような?
…………。
こ、こほん。話を戻しますね。
時間に余裕がある時は、クラウディア皇女殿下の宮まで足を運びまして、陛下の宮の朝餐室まで皇女殿下を優しく丁寧にエスコートされ共に朝食を召し上がります。
時間がない場合は、皇女殿下の宮で摂られますね。
時間が有る無しに関わらず、毎朝一緒に朝食の時間をお過ごしになられるという所は同じなのですが……。
陛下の宮にて朝食を頂かれる場合……
陛下に「人に訊かれたくない話をクラウディア皇女殿下とする」事が目的である場合が殆どですね。
本日は陛下の宮にて皇女殿下との朝食の時間を過ごされた後、私が待つこちらの執務室へとお出でになられた陛下……。
(ものっすっごく不機嫌なんですけど!? 誰かタスケテ!!)
陛下が執務室に入室される前から何となく察してはいました。
突然に頭の旋毛あたりから何か重たいもので圧されるような感じがジワジワと伝わり始めましてね?
「アレ? もしかして陛下ご機嫌宜しくない?」と一瞬過ったのですが、この重たい圧に僅かながらにでも抵抗出来る(呼吸が出来る)人員のみ此処には配属されていますのでね。
全く抵抗出来ない者は志願する資格もない為、この周囲に近づくこともありませんから。
という訳で書類を運ぶ文官達等もそれなりに耐えられる人間が耐久度によって配置されているのです。
今、抵抗出来ている人員、以前は何日かに一度は嘔吐してましたからね。
陛下の執務室前に続く回廊とかで、陛下の執務室では何とか吐くのを我慢した者達が、ギリギリ持った場所がソコまででして。
ケロケロとする音がしてたものです。
最近はほぼ毎日のようにご機嫌で。
皆の職場環境が良くなったと喜んでいましたけど。
それが今朝は……何かあったんでしょうね。ええ。
陛下が入室される際に直立不動でお出迎えさせて頂き、朝の挨拶をしたのですが。
いつもであれば「ああ、今日も宜しく頼む」と、マルセル並に見慣れてないと見分けが付きにくいようなほんのりとした笑顔を向けてくれるんですけど。(それを笑顔と呼べるかどうかは別として)
いつも陛下のお顔を拝見させて頂く度に人外レベルのお美しさだなぁとしみじみと感嘆させて貰ってたんですけども。
今日は本当の人外になってましたよね。生命を感じない顔色でしたし表情筋が死んでました。所謂、無の顔でしたからね。
触らぬ陛下に祟りなしと、せめて仕事を早く済ませておこうと頑張っていましたが―――
レイランよりは劣るかもしれませんが、陛下の執務室にてお仕事をご一緒させて貰える栄誉を賜われる耐久度の慣れてる私でも、吐き気が込み上げてくる程の圧が放たれ始めまして。
もう、ちょっと、少し、新鮮な空気を、というか、陛下のこのとんでもない圧から少し距離を……状態になってしまいまして。
こいつはヤバいぞと。
(皇女殿下と何があったんだーーーーー!!)
と心の中で叫び散らかしましたよ。
「陛下、少し席を外しても宜しいですか?」
帝国の太陽の前でケロケロする不敬を働く訳には参りませんのでね。
もう最も近い側近である自負がありますからね、そのプライドと気合いで吐き気の塊を喉から胃まで押し戻し、許可を願いましたとも。
「ああ」
感情の全く感じられない平坦な声での許可でしたけど、それが余計に怖いといいますか……いや考えるのは止めましょう。許可は許可です。
不敬にならない程度の素早さで退室すると、真っすぐ宰相閣下の執務室へと向かいました。
その前に、皇女殿下専属のアレとレイランにも問い詰め系の手紙を出しておきました。
陛下の宮の朝食の席で室内に滞在する事を許されるのは、アレとレイランだけだからですね。
他は全て人払いされるとのこと。
私も混ざりたいところですが、私は侍従じゃないですらね。非常に残念です。
それにしましても……。
よもや「お兄様なんてだいっキライ!」系の揉め事じゃありませんよね……?
万が一そっち系ですと、ものすっっっごくっ面倒な事態しか思い浮かびませんが……。
嫌な予感を感じつつもその予感が絶対に外れるようにと、普段は都合良く忘れている神にさえ祈りを捧げながら、宰相閣下の執務室へと向かったのだった。
♦♢♦♢♦♢
本来であれば、先触れも無い状態での入室は、宰相閣下の執務室前に立っている騎士に自分の名を告げ入室の許可を得なければならない。
しかし、マルセルはフリーパスである。
陛下の最側近という事が一番の理由ではあるが、執務時間中に宰相閣下の執務室と陛下の執務室をマルセルが出たり入ったりすることが多いから手間だというのもあるらしい。
という訳で、先触れを送ってはいないマルセルだけれど、アレスの執務室前へ到着後すぐに扉前に立つ騎士は目視して頷き、各関係者ごとに使い分けている特別なノックで扉を叩いた。
室内側で待機していた騎士が扉を開け、マルセルを確認すると頷く。
いつもの遣り取りに、マルセルも頷き返し入室した。
仕事中のアレスはいつものように凄いペースで書類を捌いていた。
そんなアレスの第一声が「陛下とディア関係でしょう?」と顔を上げる事なく断定した。
「はい。陛下の魔力が物凄い事になってます。耐久度の高い私ですら吐き気が……何があったか分かりますか?」
情けない声でアレスに話すマルセル。
皇女殿下と喧嘩でもされたというのなら、甥である陛下を諫め宥められるのはこの方しかいない。
「心当たりが在るような、無いような。しかし、その程度で……? とも思えるし。」
「どっちですか!? 我々の死活問題なんですよ……」
情けない顔になっていたマルセルの顔が、その答えにますます情けなくなる。
「朝食の場に居たのは、手紙を出したあの二人でしょ? こちらへ来るように追加で私も手紙を出しておいたから。二人が来たら別室に移動して今朝の状況を話して貰おうか。」
いつもながら先手先手で先読みして動くアレスらしい手腕に、マルセルは頼もしさを感じ少しだけホットする。
目の前で一切手を止めることなく書類を素早く捌きつつ会話をしているアレスがとても落ち着いているというのも安心材料になった。
マルセルは、少しだけ肩の力を抜くと、アンナとレイラン、二人の訪れを待つのであった。
ご覧いただきまして有難うございます。
今日の夜は改稿が間に合うようだったら投稿します。
ストックが切れそうなので新しい話も書きつつなので中々時間が掛かってしまいすみません。
イイネ、ブックマーク、評価★、誤字脱字報告有難うございます。
特に誤字脱字報告を丁寧に訂正して戴いておりまして、大変有り難く感じております。
有難うございます。
本日も良い一日をお過ごし下さい!




