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第92話 不可能を超えて、もはや神の御業レベル。 in 影二人

 

「ローデヴェイク准将が、そう仰ったのですか?」


 薄茶色の真っすぐな髪を肩で切り揃え愛らしさよりは端正な顔立ち。

 細身だが上背があり何処もかしこも引き締まった筋肉質な肢体。

 姿を見る度に肉食獣を彷彿とさせられるのは、常に音を立てずに移動しているせいもあるかもしれない。

 少し釣り目で黄みの強いオレンジ色の瞳。

 その猫のような瞳で、今、オレは侮蔑を隠そうともせずに睨まれている。


(オレ、一応、キミの、上司、なんですけどねぇ~)


 内心で苦笑しながら愚痴る。

 この計画の責任者(本人は望んでいないが)であり、目の前で侮蔑を浮かべる部下の上司でもあるのだから、もう少し敬ってくれても罰は当たらないよ?


 こいつのコードネームは「シトリン」

 オレらのコードネームは宝石や鉱物などから選ばれている。


 名付け親はもちろん我らが閣下である。

 閣下とは、ローデヴェイク准将であり、母性を拗らせた……ゲフンゲフン、その渾名は禁句だった。


 影の任務を請け負い任されるようになってから、生まれた時に名付けられた名の人物は公的には存在しないものとされて捨てさせられた。

 それは帝国の諜報機関に属する者が任務で動く時には必要とないものとされた。

 居ないものとされるのは、家族等の近しい者への危険性を減らすため。

 オレの失くされてしまった名は、今では親か兄弟にしか呼ばれる事がない。

 名に対して思い入れがあったわけではないが、一応親から貰った一番最初の贈り物だ、失くすことに抵抗はあった。けれど、一度踏み入れた世界から去ることは出来ず、やがて慣れてしまった。

 名を捨てたから平和に暮らしている両親にも兄弟にも会う事が出来るのだと思えば、仕方がないことなのだと思っている。


 任務の秘匿性の重要性から社交等は一切してない。

 ただ任務で仮の姿となって社交をさせられることはあるが、基本的に影は影に潜んだ存在のため大っぴらな場に姿を現す任務は少ない。

 実家に顔を出しに行く時は、その為に伸ばした長い前髪を下ろして鼻の頭辺りまでしっかり隠して向かうし、貴重な休みにぶらりと街に出掛ける時も見た目の基本は常に一緒だ。

 街の場合はもう少し変装に変化を付けて黒縁の伊達眼鏡をかけたり、フード付きローブでフードを深めに被って出掛けたりしている。そこは徹底しているつもり。


 そんな見た目だし秘匿性の高い職場だから彼女を作るなんて夢のまた夢だったりする。

 もちろん、現在のオレも彼女なんて癒やしMAXの存在など作れない。

 付き合ったとて外出もままならないだろうし、幸せに出来るビジョンが浮かばないもんな。


 大体こういう話をすると誤解される。

 誤解しないで貰いたいが、オレにはカワイイ彼女が居た時もある。

 決して年齢イコール彼女いない歴ではない! 声を大にして言いたい。


 ただ、あの頃のオレ達って恋愛と呼ぶには微妙な関係というか熱さ? ではあったかもしれないが。

 オレが影に正式に配属される時までは、付き合ってたよな? といった自信なくなるくらいの薄い関係性の相手ではあった気がしないでもないけど……いやいや! 知人じゃなくてちゃんと彼女だったから!

 素顔を晒せばそこそこモテる方よ? オレ。


 ……オレは誰に脳内で言い訳をしているのだろう。



 話は戻り―――

 コードネーム「シトリン」は、オレからあの少女へのこれからの対応の説明を受けて「本当に閣下が言ってた事なのか? リアリティのない胡散臭い話だなソレ」と思われてる訳です。


「現実味がないんですよ。アレは子爵令嬢レベルでも何とかやっといけるかいけないかで、上位の枠に入る伯爵令嬢レベルなんて行けるかどうか超微妙なラインなんですけど? そこを侯爵家……もっと言うなら皇族レベルでとは、翡翠隊長が言う冗談にしては悪質過ぎますよやめて下さい。おまけに、期間も最短でどうにかしろとは無茶ぶりが酷すぎです」


 話しながらも怒りが増していくのか肉食獣の表情がコワイ。

 あの少女との遣り取りも思い出しているのか、物騒なオーラを立ち昇らせているシトリン。


「あーー、いや! 閣下も陛下に頼まれてるらしくてな!? ほら、今の段階ではまだ動きはないけど、これからは姫様を狙う命知らずな勢力が出てくる可能性があるのは、もう知ってるだろう? その中で一番執着してしつこそうなのが、治外法権を持って偉そうにふんぞり返っている教会の現枢機卿というのは、影一同に情報共有されてるハズだから、知ってるよな?」


「ああ、はい。アンブロジーン枢機卿ですよね。確か娘が酷く愚かで勘違い系で、我らが姫様に大変な無礼を働いたとか」


「そうそう。あの娘は、オレたち影の敵認定済みだからな。今思い出しただけでも殺―――その話をしている場合じゃないな。話を戻すぞ。その枢機卿が姫様を狙いに来る前に、無茶ぶりで教育させられている平民少女のアレに注目させようとしてる訳。何処かから姫様の諸事情が露見した時に、姫様ではなく平民のアレに注目がいくようにしたいのだそうだ。先に別の人間として噂を流してあちらさんがソレに食いつかない場合は、姫さまの影武者として使うらしい」


「それでは、公爵令嬢並の所作を身に付けさせろというのは? 伯爵令嬢でも十分かと思われるのですが?」


「より姫様に近づける為って事らしい」


「はい? あの容姿レベルで姫様に近づけるなどそれこそ不可能を越えて神の御業レベルですが?」


「ははっ、オレもそう思う。教育はどうにか出来ても容姿はな……」


 翡翠は、はぁ……っと大きなため息をつく。


「陛下にもお考えがお有りになられるのだろう。オレらに出来るのはあの平民を限界のその先まで引っ張り上げる為に、拷問レベルに扱くしかない」


 いつも飄々としており上官らしくない気易い態度で接してきて、誰にでも人懐っこい笑顔を浮かべてみせる。そんな翡翠が冷酷な笑みを浮かべていた。


 シトリンの背にぞくりとしたものがゾワリと這いあがった気がした。

 翡翠の本質はソレなのではないかと。


 実力は上官らしく群を抜いて備わっているのに、普段の飄々とした気易い態度が周囲の油断を誘って警戒心を解かせているだけ。


「ローデヴェイク准将は大変優秀な方ですから。全くの勝算なく仰られた訳ではないのでしょう。……あの方の為にも、何よりも姫様の為にも、徹底的に締め上げてどうにかしますよ」


 シトリンはアンナを尊敬しており、クラウディアの事は崇拝している。


 日々クラウディアを見守っていくうちに任務として宜しくはないかもしれないが、情がわいていた。

 そこにクラウディアが影に差し入れしたり気遣ってくれて、何この子いい子過ぎっ! となってしまってメロメロなのである。

 影達はクラウディアの為なら不可能を可能にしてみせる! と一致団結しそれを可能にする能力を持った出来る子集団なのである。


「やってみせる。ではなくて「やる」しかもう残されてないんだけどね? もちろん、影総出で取り掛かって仕上げるから遠慮なく色々と詰め込んでくれ」


「承知しました。では早速、皆を集めてスケジュールの組み直しをしましょう。」

「ああ、そうだな。影達全員が揃ったら特大のやる気スイッチが連打されること間違いなしの報告があるぞ。シトリンも楽しみにしてるといいよ」

「はい」

 いつもの真面目な表情でシトリンは頷いた。


 シトリンの上司に対する乱暴な言葉遣いが落ち着き丁寧になっている。

 会話するうちに情緒が落ち着いたのだろう。いいことだ。


 翡翠はしてやったりな気持ちでシトリンを眺める。

 期待する気持ちを表すようにシトリンの口角が僅かに上がっているのを確認して、その隠せぬことが出来なかった期待を発見した翡翠は『シトリンにも可愛いトコあるんだよな』とニンマリとしたのだった。


影視点の楽しさよ。

アンナ視点と影視点を書く時が一番楽しい私ですw


拙作をご覧頂きまして有難うございました!!

明日はいつもの時間の7時に投稿致します。

(今から改稿箇所をチェックして投稿予約してきます……遅刻常習者なので)


暇つぶしのスキマ時間にご覧頂けたら嬉しいです。

よろしくお願いします。


良い土曜の夜をお過ごし下さい!

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