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第91話 無理無理、あれを公爵令嬢レベルとか。 影 side

 

「シュヴァリエ様は此方にはいらっしゃらないのかしら。」

「私、帝国で三本の指に入る商会の会長の孫ですのよ。お爺様に連絡をとって頂戴。きっとご心配されていると思いますの……。」

「私の愛用している香油も無いし、化粧道具も揃ってないし、何この無臭石鹸……センスがなさすぎではありませんこと?」


「陛下は此方に来る事はありませんね。」

「なるほど。連絡は取りましたよ。「孫を頼みます。」とのお返事を頂きました。貴女がやらかさないかの心配はされているようでしたけどね。」

「香油は我慢して下さい。といいますか、貴女いま現在自分の置かれている状況わかってます? センス悪くて悪かったですね、無臭石鹸は影の者として必要なのですよ。お分かり頂けることはなさそうですが。」


 閣下に猿轡を噛まされて馬に括りつけられ、遠慮のない早駆けをされて、女性として見るに耐えぬ経験をされた平民の少女。


 涙や鼻水やら吐しゃ物やらに塗れてどえらい状態になってる時は、憔悴しきってしおらしかったのに。

 しばらくは静かだろうと思っていたが、三日目には上記の遣り取りが出来る程にまで復活していた。

 今まで蝶よ花よで甘やかされて育てられていた少女だというのに、驚異的な復活力である。


 平民というのは根っから逞しいのかもしれない。


 オレも平民に毛が生えた程度の男爵家出身だけど一応貴族だからな、三男だったからスペアにすらならずそこまで大事にされた覚えはないからアレだけど、もし何の訓練も無しに閣下にアレをやられたら一週間は引きずると思う。

 何の心構えもなく猿轡に緊縛に馬に括りつけられての容赦ない早駆けは、相当堪えると思うけど。


 この少女の教育を影総出で仕上げるつもりではいるが、一応その中でも責任者っぽいのが必要って事で、琥珀(無謀な発言を閣下にした阿保)のせいで閣下に約束した手前もあり、オレが責任者になっている。

 正直、やりたくない。

 我儘だし生意気だし、陛下の美貌と地位に頭がやられてしまったからといって、殿上人を名前呼びは有り得ない。

 平民という身分を考えたら「早急に仕上げろ」と閣下から通達されてなければ、血の気の多い影とかに首と胴体を切り離されても文句は言えないと思う。


 閣下に命を受けたあの日から数日。

 生意気な口は利かなくなった。

 閣下の話では貴族令嬢のように仕立てろとの事だったので、影の中でも高位の令嬢である者に指導させる。

 少女は不満そうな顔しながらも、脳内で己にとってお目出度い妄想で答えを出したのか、ハッとしてしばらく無言になった後、人が変わったように熱心になった。

 平民でも凄腕商売人の孫であり元々のポテンシャルは高かったのか、水を得た魚のようにぐんぐんと吸収してモノにしているようだ。


 定期連絡を閣下に入れる為に呼び出されたオレはその事を報告すると閣下から「そうか。そのまま手を抜かずに素早く仕上げるように。早ければ早い程助かる。」と言われる。


「現在、子爵令嬢として出せるかどうかレベル程度には仕上げてあります。勿論、反復学習の必要な所作となると男爵令嬢と呼べたらいい所レベルですが……閣下はどの程度をお望みですか?」


「そうだな。せめて侯爵令嬢レベルは欲しいといったところか。叶うなら皇族レベル」

「……皇族!? 伯爵令嬢でも年単位の時間が掛かると思われますが、本人のポテンシャルを考慮しても厳しすぎますね。(皇女殿下レベルは無理無理! 侯爵令嬢も無理! 睡眠二時間程度ですべて教育に回してもギリギリ子爵令嬢以上伯爵令嬢以下ってとこだぞ……)」


 閣下はそれを訊いて首を傾げた。

「役不足なら他の女を用意せねば厳しいか? 用済みのアレはどうなるか……」

 と独り言のように口にした。


「アレは廃棄でしょうか」


(姫さまに無体をしたアレだ。廃棄するというのなら手伝いたい影は大勢いるだろう)


「廃棄するにも手間が掛かるしな。新しく連れてくるにも時間が掛かりそうだ。どちらがいいか悩ましい。もし侯爵令嬢レベルに仕上げることが出来れば、アレは姫様の影武者みたいなものにする予定でな」


「!(何ソレ! めっちゃくちゃ羨ましい役! オレが女だったら、即立候補したい……)」

「アレス様がな。毒虫の駆除に罠を張る予定なのだが、その罠の餌として平民少女に色々仕込んで欲しいらしいと、陛下が仰っていてな。」

「成程、承知しました。(王命みたいなモンじゃないですかー!? ヤダー。アレの教育が最重要任務に格上げされた……これ失敗したらもしかしてオレの責任とかじゃないの!?……終わったわ)」


 背に冷や汗を垂らしながら、表情だけは神妙な顔を保つ。

 閣下はオレの何かを見透すかのようにジッと凝視する。

 その重い圧にオレの喉がコキュンと鳴った。


「それでな、今回はお前たちにかなり無理を言っているという自覚が陛下にはあってだな。無論、私も。特別褒章というものを出される。」


「はい。(マジかー、金一封とかかなー、無いよりはやる気が出るから有難い)」


「褒章に姫様手製の品々を用意している……らしい。」


「えっ!?(姫様手製の!? 品々って事はひとつじゃないって事!?)」


「嬉しかろう? 私も欲しい……今からお前たちの任務を肩代わりしてもいいなとも思ったのだが―――」


「いえいえ、閣下のお手を煩わせる程では御座いません! 身命を賭して、何を何と捏ねくり回してでも、あの平民の少女の淑女レベルを限界地点ギリッギリまで引き上げて見せますっっ!」


(もはや拷問に近いスケジュールを組んででもやり遂げてみせる!)


「ふ……わかりやすいな。」


「閣下、これ以上お話されることがないのであれば、申し訳ありませんがすぐにこの場を辞させて頂き、早速皆に報告後、あの少女の訓練スケジュールを組み直して来ます!」


「あ、ああ……いっていい。」


「御意! 失礼致しますっ」


 行きの足取りの重さは何だったのか去る足取りは軽く鼻歌でも歌いそうな様子で影は去って行った。

 影に溶け込むようにいつもなら消えるのだが、余程嬉しかったのだろう普通に扉を開けて退室して行った。


「コードネーム翡翠だったか。あんな単純な男だったか?」


 アンナは翡翠の去っていった扉を見つめ、苦笑した。




遅くなりました!

個人的に書くのが楽しい影視点です!


今、この作品と同時進行で転載しつつたまに改稿する話をお月さまの方に出してるのですが、

血濡れの最新話を書いてたらあちらの話のストックもなくなり……

と、てんやわんやとなってました\(^o^)/

毎日投稿されて同時進行されてる方とか本当に凄いと思いました。

精進せねば。


そんな私の拙作を日々ご覧下さいまして大変有り難く思っております。

いつもイイネ、ブックマーク、評価などの応援も有難うございます。

誤字脱字報告を最速でサポートしてくださる読者様にも大変感謝しています。

助力に頼りきらず精進したいと思っています。

(それなのに毎度最速で誤字脱字しています……申し訳ありません orz)


いつも有難うございます!!


次は19時投稿します。

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