第81話 ホーデンハイム伯爵家の皆さん。
「よそ様の晩餐にお呼ばれするって大変なのね……。」
前世の記憶を持ってから、もうウン何年経過したが、未だにこの何かある度に着替えるという面倒くさい慣習が受けいれられないクラウディア。
流石に夜着にガウンを羽織れば一日いける……! 的なバカな事を考えはしないが、起床して兄と朝食を共にする前に一度着替え、昼食を取る時にまた着替え、晩餐ではまた――――もう面倒で死にそう。
まだ幼いから化粧は薄いが、コレ成人したらもっと化粧や髪型も色々されるんでしょう!?
まだ先の未来であっても、既に想像出来てゲンナリしてしまう。
そこでクラウディアは閃いた! 私のスーパーウーマンであるアンナに相談する事を。
勿論、口頭で説明しても上手く伝わらない事を考えて、紙に何枚か描いてイメージし易いようにする事も忘れずに。
アンナに相談し自分としてはかなりイケてたデザイン画を渡して説明する。
アンナはクラウディアの絵を見て、しばらく放心した後、眉間にキュッと皴を寄せたのち「これは――斬新なデザインですね」と肩を震わせて感動していた。
と、クラウディアは思っている。
クラウディアが提案した楽チンドレスのひとつが、胸の下でフワッと広がるドレスである。シフォン素材のような軽い素材を何重かに重ねていても元の素材が軽いので負担もない。
装飾品も宝石やしっかりとしたフリルは極力減らして、繊細なレースを重ねたり付け足したりしてカバーしている。
後ろ身にボタンをズラリと並べるのは嫌なので、足袋のように鋼素材を薄い半円型に加工して貰ってくるっと入れ込むタイプを採用している。
勿論、ちゃんとした場所へはズラリとボタンが背中に細かく並んでいるタイプを着用している。
足袋の足を入れる所を留める素材は針に使われてる素材を使って貰ったので、色々探して検証する事もなかった。
そんな楽チンドレスが着れるのは皇宮の限られた場所だけなので、今回は一着も持って来てないのである。
持ってきたかったけど、アンナが般若になりそうだったのですぐに諦めた。
ガッチリしたタイプのドレスの中でも、まだ装飾が凄いのは止めて貰って、なるべくシンプルで軽い物を選んで持って来てくれたのは大変嬉しいけれど……。
今回は、ドレスより装飾品が重い……。
伯爵家はクラウディアの身内という訳でもないし、勿論シュヴァリエの身内でもない。
アレス叔父様の忠臣ではあるが、臣下である。
臣下を前にして身分が高い者……というよりこの国の最高位に居る物がお金の掛かっていない衣装や装飾品を身に付けて晩餐等を共にするのも「貴方達は着飾って時間を共にする価値もない相手です」と思われるのだそう。
(め、めんどくさい……)
という訳で、ドレスはシフォンとレースと小粒の真珠をこれでもかって程に散らしたドレスである。
色は紫がかった淡いピンクのドレス。
ドレスはピンクの布を多めに使っていて、主色はピンクなのだけど、そこに薄い紫色の透け感が強い素材を数枚重ねて薄ピンク紫という複雑な色味を出しているのだ。
そして、耳にも首にも手首にも、パパラチアサファイアの装飾品をこれでもかと付けて。
あ、髪飾りにも――――…
兄に大事にされてます! の主張が騒がしい仕上がり。
そして重い。兄の愛が重いのではなく(そう思わないでもないが)、宝石が重い。
「姫様、もう陛下がこちらへ着く頃ですよ。伯爵家の方達をお待たせするのも良くありませんからね、不満は後ほどアンナにいくらでも仰って下さっていいですから。」
「アンナ優しい……けど、アンナが悪い事じゃないから我慢するよ。
私のただの我儘なの。ごめんなさい。すぐ行こうね。」
「アンナは姫様に我儘を言って貰えるのも嬉しいのですよ。
受け入れてあげられる事とダメな事は今回の時のように言いますからね。
アンナには何ひとつ我慢せず話してくださいね。」
「アンナありがと……。」
「どういたしまして、姫様。」
(アンナはお姉さまのようで、そんな年の差じゃないでしょって怒られちゃうかもしれないけど、私のお母さんのように思ってる。)
クラウディアは眩しいものを見るように目を細めてアンナを見つめ、ウフフと笑みを零した。
私は、この世界に転生して、愛されているなぁ。恵まれ過ぎているなぁ。
これがゲームの世界で、死んでしまう未来があるなんて信じられないや。
扉を開けて外に出ると、アンナの言う通りすぐにシュヴァリエが部屋前に着く所だった。
「お手をどうぞ、マイレディ」
大天使のような美しい顔で見惚れるような微笑みを浮かべ差し出された手に、何だか説明のしようのない照れを感じながら手をのせる。
「お兄様、最近ちょっと気障が過ぎますよ。キャラ変するならもっと時間をかけてゆっくりのペースでして下さい。」
少し可愛くない態度を取ってしまうクラウディア。
「分かった。少しずつにする。」
素直に答えるが、シュヴァリエの内心で「キャラ変とは何だ?」と何かを指し示す用語なのか? と考える。
それに、ペースを落とす気は更々ない。
クラウディアを狙う存在は一人ではない事がシュヴァリエをこの行動に駆らせる程に一番焦らせているのだが、それを抜きにしても、シュヴァリエは早くクラウディアを完全に囲ってしまいたい。
兄の立ち位置、兄としての好意、それを全てひっくり返す為に、これからどんどん攻めていくつもりである。
アンナは存在を消し背後に控えつつも、ゆっくりと二人の後ろを歩く。
陛下は今まで恋愛遊戯の類いや、令嬢の存在に一切興味を持つ素振りもなかったから、淡泊な方だと思っていたが、これは陛下の心情をしっかりと見定めないとダメだと感じた。
陛下が暴走し姫様が泣く事がないように時々はガス抜きも必要かもしれないな、とアレコレを考えながら。
より慎重に行動し調査する必要がある。
一度暴走されると、この世界の誰も止められはしないのだから。
伯爵家の方達は皆さんは、とても優しい方達だった。
貴族的な冷たい印象がなく、言葉も態度も思いやりに溢れていて温かい。
まるで仲良しの友達のお家にお邪魔してしまったような。
初対面の方達だけども。
畏まられ過ぎて萎縮されたり、粗相がないか常に緊張されるのってご飯も美味しくないからね。
上座に座らされてるシュヴァリエは、私の隣に座りたかったようだけれど、流石にそれは皇帝だから我慢したのかおとなしく上座に座った。
私の斜め左にシュヴァリエで、目の前にホーデンハイム伯爵が座り、その隣に嫡男のセドリックさんと次男のエドウィン君……私と同い年くらいかな?
私の隣には伯爵夫人、その隣に娘さん達が三人。
長女のリリニアさん、次女のミナリアさん、三女のソフィアちゃん。
会話する時は様付けしてるけど、心の中では「さん」「くん」「ちゃん」で呼んでいます。
も少し仲良くなれたら、そう呼んでいいか聞いてみよう。
「皇女殿下、滞在している間、私達とお茶会しませんか?」
可愛いソフィアちゃんが、嬉しい提案をしてくれる。
「ええ、勿論です。ご招待楽しみにしていますね。」
「有難うございます! 私も楽しみにしています!」
弾けるような笑顔がとっても愛らしい。
どう会話すれば「クラウディア」と呼んでって言えるかしら……。
皇女殿下は少し遠い存在な気がして寂しくなってしまう。
お茶会の時に名前呼びをして下さいってさり気なく言えるように、後でアンナにどう言えばいいか相談しよう。
晩餐は伯爵家の人達の持てなしが素晴らしくて、楽しく過ごす事が出来た。
私も皇女殿下っぽく出来たかな? 恙なく終わる事が出来た。
これからの晩餐もこんな感じであれば、緊張しないで済みそう。
料理もとっても美味しかった。
小麦の産地だから出された三種類程のパンもどれも美味しかった。
バターの香りが濃厚だったなぁ。
皇宮でも食べてみたい……作り方知りたいな……。
仲良くなったら教えてくれないかしら。
私も新しいパン考案する代わりに、なんて。
男性陣は、テラスルームへと移動するらしい。
女性陣は、このまま食事後のお茶をする。
あれ、お茶会もうしちゃってる感じじゃない?
とクラウディアが思っていると、
「姫様は、本当に陛下に大切にされていますね。」
と、伯爵夫人の嬉しそうな声。
「は、はい……。大切にして頂いてます。」
突然の話題にしどろもどろになった。
え、シスコン話って需要あるんですか!?
ネタが尽きても、違う話ってブラコン話しか出てこないですけど……。
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