第71話 小賢しい。
本日は朝から荒ぶるアンナをお届けします。
アンナ Side
アンナの目の前で堂々と陛下に熱い視線を向ける少女。
姫様を不敬にも睨みつけた命知らずの平民。
この大商会を潰すのは惜しい。
この会長は椅子の件では陛下の虎の尾を踏みそうになった時は、商会の癖に皇都の情報も知らぬのかと蔑みはしたが、その汚点になる所を姫様に救われた。
姫様が赦すと言ったのなら、アンナに否やはない。
わざと姫様への椅子を置かない愚物であったなら、老い楽の安寧を取り上げてやろうかと思ったが。
孫娘を陛下と少しでも懇意に出来ないかと画策する風でもない。
切れ者の商会長とのイメージしかなかったが、そこに分を弁えた人物という評価も追加してやろう。
孫娘はどうするか。
最近男爵位を継いだ男との婚約の話が上がっていた筈だ。
孫娘は若さゆえか、胃の中の蛙か、周囲に己より美しい者が存在しない環境で育った弊害か、酷い自信家に育ったようだ。
アンナは視察場所へ向かうルートにある街の有力者や貴族、その関係者全員を出発前に徹底的に調べ上げている。
その調査の報告の中に孫娘も記載されていたのだった。
貴族令嬢であれば孫娘程度の美貌などごろごろいる。
その中でも突出して神々しいばかりに美しい姫様。
その美貌を見て、己を省みないのが愚かしい。
まして睨みつけるなど。
大体このような女の行動パターンは決まっている。
陛下に媚びを売り始め陛下の逆鱗に触れて自滅させられるか、姫を侮辱したり虐げて陛下に徹底的に潰されるか。
どちらのルートでも滅ぶ事は変わらない無いが、姫様のルートだと陛下がえげつない行動を取るであろうから、その事が姫様に知られれば酷く嫌がられるであろう。
姫様の事に関して陛下が人に在らずになるのはいつもの事であるのに、陛下の怒りを自分に関わったせいで向けられてしまう事に、罪悪感を持たれてしまう。
姫様はお優しい方だから。
孫娘マリーナはあれから何をする事も無かった。
時折探るような視線を姫様に向け、そして陛下を見る。
それを度々するものだから、護衛の者達もピリピリし始めた。
何の思惑を持ったのか。
姫様に何かするのであれば容赦はしない者達ばかりだ。
私が手ずから専属護衛をそう教育したし、陛下は姫様関係ならやり過ぎても褒められこそすれ叱責される事はない。
その後三十分程商会で過ごした。
姫様は急遽貸し切られた商会の一階を軽やかな足取りで見て周りながら、目新しいと感じたらひとつひとつに立ち止まりじっくりと観察していた。
何を見ても楽しくて堪らないように瞳をキラキラさせて喜ばれていた。
陛下はそんな姫様にご機嫌な様子で着いて行きながら、立ち止まる度に買い求めようとするものだから、最後には姫様に説教をされていた。
「欲しくなくてもじっくりと見たいものなんです! ウィンドウショッピング? この言い方で伝わりますか? 伝わらない?
まぁいいです……。とにかく! 見るだけで楽しい事もあるんです!
お金は天から降ってくる訳ではないのですから、大切に使って下さい。お兄様はお金持ちかもしれませんけど、金持ち程浪費せずって言葉があるんですよ!」
姫様は真面目な顔で説教していたが、されている陛下は「可愛い子猫が爪を立ててきた、物凄く可愛い」って顔してますけど気付いてませんね。
アンナは馬車に同乗するのを断り、馬上にて影たちとの遣り取りをする。
孫娘のあの探るような視線がどうしても気になった。
そういう時のアンナの直感は外れた事がない。
何もなければそれでいいが、アンナの直感は何かあると告げていた。
「おまえたち数名、あの娘を監視しろ。報告は次の宿泊施設で良い。」
姫様担当から外れるのを嫌がり影達の間で少し揉めているようだ。
姫様と陛下が移動する馬車の後方を付かず離れずついてきていたが、気配が無くなりやがて見えなくなった。
「バカどもが……」
アンナの額に青筋が立つ。
戻って来た気配に剣呑な殺気を向けつつ「早くいけ」とドスの利いた声でアンナが呟くと、渋々といった様子で数名の気配が消えた。
「姫様が餌付けするからですよ……」
アンナはついつい遠い目になりつつ、優しくお人好しなクラウディアを思った。
そしてアンナの直感はやはり的中した。
次の宿泊施設に影達からの報告が上がると共に、宿に姫様宛で孫娘から手紙が届いた。
そして翌日、孫娘は厚顔無恥とばかりに図々しくも宿に訪れた。
陛下には近づけないから姫様を懐柔するつもりか?
その瞬間、アンナの瞳に猛者も裸足で逃げ出す剣呑な光が灯ったのだった。
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