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第七話 いざ皇宮へ。

宜しくお願いします。

 アンナからお母様が亡くなったという話を聞いた夜。

 また例の死神が来た気がした。

 “気がした”というのは、とても曖昧な表現ではあるけれど、視てはいないので雰囲気だけで察したという事である。


 生の塊のような元気な幼子の柔らかく丸い頬に、死の香りを撒き散らす死神の視線が痛い程に刺さる中、必死に目を瞑り寝た振りを続けた。


 本当に死神なのかと問われれば、それも微妙なのだけれど。

 クラウディアの中では物騒な魔法を使う侵入者は“死神”だと勝手に決めている。


(目を開けたらダメだと思うのに薄目で様子を見たくなるというこのジレンマよ・・・開けて居たら・・・怖くなってきたから考えるのやめよう。無心よ無心。)


 だって目を開けたら、また「 rest in peace 」と言われそうで・・・。

 もしかしたら、今度こそこの世とオサラバしてしまうかもしれないではないか!


 ――――どれくらいの時間が経ったのか。


 やけに長い時間が経った気がした。



 もういい加減帰ってくれませんか……と思い始めた頃に、ふっつりと気配が消えた。


(消えた・・・よね?)


 薄っすらと瞼を持ち上げた先には、誰もいない。

 例の死神が何も仕掛けて来ずに、ただ幼子の寝顔だけ見て消えた事にちょっと微妙な気持ちにはなったが、何はともあれ何もされなかった事にホッして二度寝した。


 あー…そういえば…


 ――――死神の気配が消える瞬間、フフっと笑った気がしたな。




 私は一週間の安静後、王宮へ引っ越す事になった。


 この世界に転生して前世の記憶を思い出すまでの間にも、思い出した後も、

 アンナだけしか人と接した事がないクラウディア。


 その目にアンナ以外を見たとしても、人が米粒くらいの大きさに見える遠い距離で、

「あれは…人かな?」程度に見かけた事があるくらいだ。


 そんなクラウディアが、いきなりアンナ以外たくさんの人が居るであろう王宮へ行く。

 行くだけでなく、住む事になる。

 5才のクラウディアが、アンナは心配だった。

 母親を亡くしたばかりなのに、大丈夫だろうか。

 心無い誹謗中傷を受けはしないか。

 王宮には様々な貴族も居るのだ、5才だからといって手心を加えてくれるとは限らない。


 離宮とはいえ、広大な土地の離れだ。

 幼い姫様の移動は馬車になった。


 アンナの心配をよそに、クラウディアは目をキラキラさせて馬車の窓から外の景色を眺めている。

 それはそうだろう。

 初めて離宮以外の場所の景色を目の当たりにしているのだから。



 馬車の扉が開き、アンナが先に出る。


 次は自分だとタラップに足を置いたところで、スッと知らない手が伸ばされた。


 クラウディアへと伸ばされた手。


 目をまん丸にして周りを見渡す。


 だ、だれですか………


 馬車の外には、四人の騎士が並び立ち、そのうちの一人が手を差し出してくれた様だった。


 こういう所作は、エスコートってヤツかな?


 ――――いやでも、この騎士背が高すぎるから…

 馬車のタラップに足を置いた状態でも少し見上げてしまうくらい高い。

 騎士の大きな逞しい身体を苦しそうに傾けて、ちびっこの手を引き不格好に歩く姿を想像した。

 ――――――ないわー。


 心中で拒否っていると、それを察したのかは分からないが、サッとアンナが抱っこしてくれた。




「本日、姫様の護衛を担う者たちです。」

 アンナの説明に、伸ばした手を下ろした先ほどの騎士が進み出る。


 騎士は胸に左手を当て、アンナに抱っこされる私を見て自己紹介をしてくれた。


「お初にお目にかかります、クラウディア姫。

 私は、近衛騎士団所属のカルヴィン・エックハルトと申します。

 私を含む四名が、本日の護衛に付かせて頂きます。

 姫様に付く正式な護衛は、後日改めて選ぶ形になります。

 本日は、私共が護衛として付きます。宜しくお願いします。」



 四人も護衛に付くなんて…王宮って危険なの…?

 一抹の不安を覚えながらも「よろしくおねがいします」と答える。


 そのまま、王宮内をズンズン歩く。

 結構な人数が行き交う回廊も、無視してズンズン歩く。

 チラチラ見られてるのも気付かない振りしてズンズン歩く。


 結構奥まったとこまで来たね?と思い始めた頃、王族専門の区画に着いた。


 私も側室の子とはいえ、王族だったわ。

 と、日頃、度々忘れかけそうになる事を思い出した。


「こちらが月の姫宮と呼ばれ、姫様専用の宮です。」


 案内されて入室した宮はとても広かった。


 真っ白な壁と床、テラコッタ色の家具達に、天井までの高さのある大きな窓。

 大きな窓のカーテンは、淡いベビーピンクとシェルピンクのストライプ。


 離宮の部屋もピンクがいっぱいで5才のクラウディアに似合って可愛かったけど、

 こちらの部屋はもうちょっと大きな女の子の部屋をイメージしてあるみたいで、可愛いだけじゃない感じ。


 応接室、食堂、私の執務室(えっ、姫って執務とかやっぱりあるの…いやあるよね…)

 私の寝室、待機するアンナの私室まである。

 支度部屋として、私専用の衣装部屋まであった。

 姫って凄いんだなー…今更だけど。


 ごねたって受け入れて貰える可能性はゼロに近いけど、

 ここが気に入らないってごねにごねたら、もしかしたら離宮へ戻れるかも…

 なんて思わないでもなかったけど。


 だけど…こんな素敵な部屋気に入らないなんて出来ない!


 前世の年齡の私が使っていても違和感の無い室内に、私の顔はニッコニコだ。


 すると、アンナが「お気に召しましたか?良かったです。」と頭を撫でてくれた。

 多分、心配してくれてたのかな?

 朝からずっと不機嫌だったもんね…私。


「アンナ、ごめんなさい…。」

「姫様どうされたのですか?謝られる様な事はされてませんよ。」


 私を抱えたままのアンナは、そのままギュッと抱き締めてくれた。

 ――――あったかい。



「姫様、ここで新しい暮らしが始まります。

 姫様のお傍で姫様のお世話をする者がアンナだけじゃなくなります。

 もしかしたら、嫌な事も増えるかもしれません…。

 ですが、姫様にはいつだってアンナがお傍にいますから。

 小さな事も大きな事も、嬉しい事も悲しい事も。

 何でもアンナには話して下さいね。」


「うん、わかった。」



 アンナには死神の事は話してないけど(怖すぎて)

 もし嫌な事や嬉しい事があったら、話そうと思った。

 

 生まれた時からずっと傍に居てくれた。

 いつも優しくて時々怖いアンナ。

 大好き。



 ――――翌日。


「姫様、こちらの三名が新たに姫様付きとなったメイドです。」

 アンナに紹介される。


 新しく私付きになったメイド達は、赤毛の美女のスザンヌ、艷やかな黒髪のモニカ、金髪巻毛のバーバラという。

 皆、十代というだけあってキャッキャッウフフしていた。




 今の生では5才でも、心は前世の年齡に引きずられてる私。

 残念だなー、この三人とはきっといい友達になれそうなのに。

 この三人と女子トークがしたくて堪らない!


 素敵な騎士様の話とかしてみたいんですけど!

 キャッキャウフフしながら、イケメンの話で盛り上がりたい。


 昨日護衛して貰った近衛騎士の四人とか、本当にイケメン揃いだし。

 イケメンBest10とかないんですか!あったら知りたい!


 というか、騎士団の鍛錬風景も見に行きたい。

 5才の姫が騎士団見学とか大丈夫よね?離宮の様に出して貰えないとか…

 ないといいな…。


 三人を見てミーハー感丸出しになる私。

 異世界のイケメン達を探しに行こう!王宮限定で!


 アンナも混ぜてあげたいけど、アンナ、そういうの嫌ってそうだもんな…

 「姫様、はしたないですよ」って怒りそう。

 ミーハーな人とか軽蔑してそう。(偏見)



 三人とそれとなーく会話して仲良くなってきたら、

 騎士団の鍛錬場とかに連れてって貰って、四人でキャッキャウフフすると決めたのであった。



ありがとうございました。

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