第67話 出発。
ヴァイデンライヒ帝国皇帝自らが出向く視察という事もあって、戦ではなくただの視察であったとしても出発するだけで仰々しいのは仕方がない。
愛馬にクラウディアを乗せて駆けて視察先まで行くつもりだったシュヴァリエは、アンナとマルセルに「人外な陛下と一緒にしないで下さい! 姫様は普通の人間ですしか弱い女の子ですから!」と、一歩間違えれば不敬な窘め方をされ、かなりごねた後に、渋々馬車に乗り込む事を了承した。
「戦でもない視察程度で盛大に送り出すな。今回の視察先だけでなく他にも視察する予定の領地はいくらでもあるのだぞ、その度に仰々しく送られては堪らない。」
眉間に皺を寄せ非常に不快ですオーラを撒き散らすシュヴァリエ。
そこには私も同意しかないけれども。
皇女だけれど発言権はほぼ皆無な私は表立って同意することなく静観です。
―――それでもヴァイデンライヒ騎士団総出で見送られたわけですが。
近衛騎士団だけでなく、黒、青、白の騎士団もお見送りに参加している。
皇族の護衛を任される近衛騎士団の部隊がいるのは当然の事として、それ以外の者達も出てきた事にシュヴァリエは面倒そうな顔をしていたが、内心は嬉しく思っていたのかもしれない。
シュヴァリエは騎士団の人達には貴族に対する態度よりも気易いのである。
もちろん騎士団に所属している者たちの中に貴族の嫡男以外の令息は多い。
けれど、武を志す者に悪い者はいないと絆みたいなものがあるのか、所属していない貴族よりは所属している貴族には気易い気がする。
皇帝ではあるけれど偉ぶってないというか、皇帝の覇気が無いというと失礼かもしれないが、カリスマオーラを封印していて、いたって普通なのだ。
苦楽を共にし、戦という血生臭い命のやり取りがある経験を共にした者同士に生まている絆みたいなものなのかな。
そういう残酷な境遇で戦う経験が私にはないから、あくまで想像でしかないけれど。
仰々しいのは嫌だとは思うけれど、イケメン・美丈夫・イケオジという眼福な面々に見送られるのは……最高だ。
この世界に転生して一番何が幸せかって、毎日国宝級のイケメン(兄)と三次元が二次元化したようなイケメンがどこに目を向けても必ず存在していて、そんなパラダイスで心の中で「今日も存在してくれてありがとうございます。」と拝めることが出来ることだと思っている。割と真剣に。
「どうした? 乗るぞ」
イケメン観察に忙しかった私をシュヴァリエが訝しげな表情をしながら見ていた。
(あ、ヨダレ出てたかな。気を引き締めないと口元が緩々だわ……)
エスコートするようにスッと伸ばされたシュヴァリエの掌にそっと手をのせる。
乗せた手を軽く包み込むように握られた。
馬車まで移動しながら、横を歩くシュヴァリエをチラリと見上げる。
今日のシュヴァリエの装いは、前世で見た事があるようなデザインの軍服を更に華美にしたような装いで、クラウディアの好みど真ん中であった。
シュヴァリエは美しさも麗しさもずば抜けている為、キリッとした軍服の装いであっても、どこか麗しい天使のような美貌を持つ絵本の中の王子様っぽくも見える。
私がそっと手をのせた瞬間に、少し口元が意地悪そうに持ち上がるところが、清廉な天使のような見た目だけではない二面性なところを醸し出していてカッコイイ。
ポーっ妄想しつつシュヴァリエを眺めていたクラウディア。
シュヴァリエにさっさと誘導されて、殆ど揺れない馬車に乗り込んで対面するように座らされ、気付いた時にはとっくに出発していた。
一緒に馬車に乗ると思っていたアンナは、女性騎士用の騎士服を着用して凛々しい姿でクラウディアたちが乗る馬車の横を他の騎士達と共に馬で併走していた。
馬車の小窓からその姿をしばらく見つめていると、アンナが視線だけチラリとこちらに向けてくる。
私と目が合って、目を細め優しく微笑んでくれるアンナ。
その姿になんだかホッとして、微笑み返した。
いつの間にかいろいろと力んでいたみたいだ。
体の力を抜いて座席の背もたれに体を預けるとシュヴァリエが見ていた。
「海の幸を食べに行くくらいの気楽な気持ちで行け。視察の難しい所はすべて俺が引き受ける。お前は小旅行に行くようなものだ」
「少しはお仕事させて下さい。せっかくの視察なのですから」
「お前の仕事は余計な事をせずおとなしくしている事だからな」
「……そんなに頼りないですか?」
「お前の事が心配なんだ。
―――詳しくは今は話せないが、時期が来たらクラウディアに全て話す。
それまでは不安で心配でまともに仕事が出来なくなりそうな俺の気持ちを守るのが仕事だと思ってくれ。害虫駆除を終えたら、もっと色々手伝って貰うから。いいな?」
「はい。(害虫駆除…?)」
私が知らないところで何かヤバイことが起こってるのだろうか。
馬車を厳重に囲み馬を進ませながら整列して並ぶ騎士達を見て思う。
シュヴァリエはこの世界最強である。
最強な人間を護衛するにしては多過ぎる人数だ。
皇帝が移動してますよ!的なパフォーマンスが入ってると思ってたけど…
…そうじゃなかったら?
――この物々しい人数がシュヴァリエと私の護衛ではなく、ただ私を守るためだけに配置された人数だったり……?
私専属の護衛騎士達は居るというのに、さらに数を増やす理由は……。
かなりヤバイことに私が巻き込まれそうになってるって事なのだろうか。
ええ!?
……まさかね?
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次は夜19時に投稿します。
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