第63話 兄の執務室へ見学へ行く Ⅰ
クラウディアは、今、護衛に前も後ろも左右すら挟まれる形で移動している。
クラウディアの左にはセクシー腹筋でも鼻血が出そうというのに目尻に黒子までお持ちの色気の権化ではないだろうか? な、エリアス様。
右にはミントグリーンのサラサラな髪を風に靡かせ、微笑む姿は跪いて祈りを捧げたくなる中性的な美少年騎士カミル様。
(このお二人、エリアス様が十六歳でカミル様が十五歳らしいよ。シュヴァリエも規格外な美貌でパッと見は子供に見えない容姿になってきたけど、この二人も少年のような年齢だなんて思わなかったわぁ。)
成人年齢が十五歳であるヴァイデンライヒ。
近衛騎士配属だというだけでも騎士として凄い出世なのだけれど、
一応皇族である私付きの護衛騎士に任命された事で、もっと凄い出世になったらしい。
まだ婚約者が居ない二人。
近い年齢の令嬢達に超絶大人気だそう。
(まー、そうですよねー、めっちゃイケメンさんだもん。近衛騎士だからか? 物腰は優雅だし、ひとつひとつの所作もピシっとしてるしね。
うちの三人娘は二人より年上だけど、いい娘達ですが、どうですか?)
歩幅が小さい私の歩みに合わせて動いてくれている護衛騎士さんたち。
前には筆頭護衛騎士のカーマインレッドの髪が鮮やかなランベルト様、後ろには絶対腹黒そうなウルリヒ様。
ランベルト様はとっても強いらしく、移動するときは必ず居たりする。
ランベルト様と一応セットで行動させられてるらしいウルリヒ様は居たり居なかったりする。
近衛騎士団副団長のカルヴィンさんの(何故か“様”づけではなく“さん”付けしてしまう)溜まった書類を手伝わされてるらしい。
力仕事より、頭を使う仕事が好きらしく、本人も嬉々として手伝いにいってるとかなんとか。
―――と、まぁ説明はこのくらいで・・・
最近このガッチガチに騎士で固められながらの移動しかしたことないという、わたくしクラウディア。
こんな異様に目立つ状態に耐えかねて、月の宮に引きこもりがちだったのですけど…
ずっと引きこもってばっかりも良くないと思い立ちまして。
ちょっと散歩へ…も、何だかいつもしてる気がして気乗りがせず。
かといって市井なんて絶対許されないだろうし。
騎士団見学も何かシュヴァリエおにーさまがうるさいですし。
じゃあ…何をすれば? で、閃いたのが、別の見学先だったわけです。
見学先は、ま、まぁ…一択しかなかったわけですけれども。
お兄様の執務室一択でございます。
他の見学先も検討したのですけれどアンナが「まず陛下に許可を取り、許可が万が一おりたとして…一週間後になりますね。」と言うものですから。
なんでそんなに掛かるか不明なんですけど、尋ねたらアンナが無言で笑うもんだから、その口だけ笑って目が物騒な笑顔が怖くて、そっち目を逸らして私も黙りましたとも。
ではすぐに行ける所は? ってところで「陛下の執務室なら行けますよ。」とアンナに言われて「じゃー行きますか!」と軽い気持ちで決めたら―――
月の宮から出て、騎士様に四方を囲まれ移動開始したのだけれど。
――執務室遠っ
シュヴァリエお兄様の宮より遠っ
回廊っていうんですかね? 果てしなく長くないですか?
皇族専用のエリアを出たら、お貴族様の数の多い事多い事。
回れ右して帰りたくなりました。
その中でもお仕事してる文官さんもたくさんすれ違うのですけど、
一瞬ギョッとした顔をした文官さんは、その後見ないようにそっと目を逸らして歩き去ってくれました。
優しい…けど複雑…
何人も貴族様とすれ違うたび、
ええー、羞恥プレイが長いんじゃないのぉ、これ皆にプークスクスって笑われるんじゃないのぉー? と小心者な私は怯んだんですけど、わざわざ「誰の護衛だ?」と、騎士達の隙間から覗き込むような無礼な方が居なかったので、もう無心になって歩みを進める事にしましたよ。
(心頭滅却すれば火もまた涼し・・・ってね!)
シュヴァリエお兄様の執務室の扉が米粒大くらいの大きさで見えた頃、
突然に響く少女特有の高い声。
「まぁ! 物々しいですわね。どなたの護衛をされてるのかしら。エリアス様。」
名前呼びされてエリアス様は、声を掛けられた相手に反応をする事もなく、また歩みを止める事もなく。
声を掛けてきた方を放置されるようです。
職務中だからかな?
名前呼びって親しい相手だよね? ほっといていいのかな…?
話し方的にご令嬢ですけど、放置は良くないのでは…?
・・・と、心配していた時が私にもありました。
無視された事が気に食わなかったのか、「エリアス様!? お待ちになって!」と甲高い声が背後から上がる。
カツカツカツと足音後、背後から隣へと並んだらしい。
「何故無視されますの!? 酷いですわ!」と、大声がやけに近くから響く。
「エリアス、いいのですか?」
これ執務室まで着いてきそうだし、もし執務室前で騒いだりしたら怖い事になりそうだし。ちなみに心の中だけで騎士様達は様づけにしている。
皇女は身分が高いのだから、通常時呼び捨てにしないといけないらしく、アンナに注意されたのだった。
「姫様、申し訳ありません。しばしお時間を頂戴しても宜しいですか?」
エリアス様が凄い申し訳なさそう。
「エリアスが離れる事を許可します。」
話さないとしつこいだろうしと、許可したのだけれど。
「いいえ! すぐ済みますから。」
と、エリアス様が強く否定するから、立ち止まり暫し待つ。
枢機卿の娘さんも結構酷い方でしたけど、この方も大概やばそう…
大丈夫かしら…。
エリアス様は令嬢の方へ体を向けると、
「皇女様を護衛中です。貴方はどなたですか? 私の名を呼ぶ許可を与えた記憶がないのですが。職務中ですので話しかけないで頂きたい。
お話があるのなら、直接騎士団までいらして下さい。では。」
凄い早口でご令嬢に一方的に話すと、私の左側にサッと戻ってきた。
「お待たせ致しました。では行きましょう。」
そして、私の背中にそっと手を当て歩くよう促される。
エリアス様が一方的に話し背を向けこちらに戻る時に、令嬢の顔酷い事になってたな・・・
真っ赤になって怒ってた気がする。
大丈夫かしら。エリアス様より身分の高い方だと、エリアス様が面倒な事になるんじゃないのかな?
いや、でも職務中に話しかける令嬢が悪いんだから問題ないのかな?
エリアス様が心配になり、思わずチラリと見上げる。
視線を感じたらしいエリアス様は、私の方へと目線を下げるとニッコリと優しい笑みをくれたのだった。
キュン頂きましたー!
・・・じゃないわ。
ご令嬢がエリアス様に何かしないように、アンナに頼んでおこう。
困ったときのアンナ頼みって奴ですよ!
クラウディアは気合いを入れるように、胸元で拳をギュっと握りしめたのだった。
本日土曜日は3話投稿します。
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