第五話 アンナは怒らせてはいけない。
宜しくお願いします。
あれからアンナに甲斐甲斐しく世話をして貰い、和風味の雑炊っぽいものを食べた。
前世で風邪の時にでも食べる様な優しい味に、涙がジワっと浮かぶ。
アンナが心配する!と思い、それを高速瞬きで散らした。
もしかしたら、この世界に私以外にも転生者いるのかもしれないな。
日本の和風味の雑炊なんてピンポイント料理、いくら異世界といえどもおかしい。
厨房にお願いしてきます。とアンナが言ってたし、料理人に前世日本人とか居るのかも?
私の中の現世の断片的な記憶では、この部屋と部屋の前のこぢんまりとした庭くらいしか、過ごしちゃダメなようだったけど。
姫だから、ある程度の年齡になるまで大切に囲われてるとか?
雑炊の器を下げに行ったアンナが戻ってきた。
「姫様、目覚めたばかりでまだ油断は出来ませんので、もう少し横になった方がいいです。」
二日間も寝たのに寝れる訳ないのだけど……
そこで、コレだ!と気付いた。
“二日間も寝込んでいたのだから、記憶が混濁したフリをして、記憶にない情報を聞き出しちゃおう!”と。
「ねぇ、アンナ、わたし、お熱が出て休んでたからかなあ?自分の名前もよくわからないみたい」
と言ってみた。
「姫様!?なんという事でしょう!医師を、医師を呼んでまいります!!」
「ちょぉぉーーーーっと止まって!!!」
この世の終わりとでもいう様に血の気が引いた顔をして扉に駆け出したアンナを大声で止めた。
「えっと…、アンナ、ちょっとした事だけだから、だってアンナの事だって分かってるでしょ?」
「姫…様?」
アンナの傍に寄り、手を伸ばしキュッとアンナの手を握る。
「お会いした事ないお兄様の事とか…」
(私は幼児、私は幼児……)
呪文の様に心の中で唱えた。
大人びた表情など今は不要!
「陛下がどうされましたか?」
アンナがしゃがんで私と目線を合わせてくれる。
「知りたいなって。分からないから。お兄様の事……」
「では、姫様が知りたい事をお話ししましょうね。でも心配なのでお話が終わったら、医師を連れて参りますからね?それは絶対に譲れません。いいですね?」
アンナが私がワガママを続ける時にする“それをするならお菓子はしばらくありませんよ!”の時の強い瞳だった。
こんな目をする時は、アンナは絶対に譲らない。
「はい」
長い物には巻かれろ。
5才でも分かる格言だと思う。
一も二もなく素直に頷いた。
ありがとうございました。