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第30話 レベルアップしたシスコン。

 今日は本当に疲れた――


 主に、お兄様(シュヴァリエ)のせいで。




 ――クラウディアは戸惑っていた。

 頭の中の前世の記憶を引っ張り出して考えても落ち着かない程に。


 凱旋に高揚する気持ちは、何となく分かる。

 戦場へと向かい、その中で殺し合いをするのだから、大きなプレッシャーと抑圧された不安がホッと出来る祖国に勝利を土産に帰国出来たのだ。

 帰国出来た喜びと辛かった記憶がぐちゃぐちゃになってたがが外れる。

 おおいに結構。

 犯罪にさえ発展しない理性を残しているなら、飲めよ騒げよ!である。


 それに…だ。

 戦を経験し帰還した兵士達が、そのまま昂ぶった気持ちを持て余して、手っ取り早い解消へと誘惑され娼館に行くというお話は、前世の戦記物の小説にすらしっかり描写としてあった。


 ファンタジー要素を一切排除し、まるで歴史にこんな事がありました的なリアリティが売りの戦記物になると、そういった描写はより鮮明に書いてあった。

 クラウディアはそんな描写がお決まりのように出て来るので「殺し合いをする時の昂りは、性的な昂りと似てるものなのだなー。」と認識している。

 とか。


 やる事は全く真逆だけれど、命を主題にするなら根本が似てるのかもしれない。

 命を賭けて戦い死んでしまうかもしれない恐怖を味わうと、この世に自分の遺伝子を残したくなる衝動が生まれるのかも。

 生と死は隣り合わせだ。死を感じる時、生を感じる。


 女性もそういう風に生を感じる為に遺伝子を残したくなる衝動を持つのかな?

 前世ではそういう環境にはなく、現世では騎士といえば男性とばかりに男性比率が圧倒的だ。

 事実、クラウディアの専属護衛達は、全員男性である。

 アンナ……もしかしたら?と考えて、即ムリっ! と拒絶した。

 謎は謎のままそっとしておこう……とクラウディアは決めたのだった。


 ということは、まだ年齢的にも未経験であろうシュヴァリエは、そんな衝動は生まれるのか? 問題である。

 そもそもまだ成長しきってないシュヴァリエにそんな衝動なんてあるんだろうか。

 無い、きっと無い。


 けれど、このべったべたのあっまあまの態度は何だったんだろう。

 寂しかったにしては離してくれなかった。

 戦で昂ぶった気持ちのその矛先を、全て妹にぶつけてくるとはコレ如何に。


 肉親とのスキンシップで晴らしてるのかしら……





 ――――あれから抱っこされて移動した先はシュヴァリエの私室で。


 抱っこしたままソファに腰を下ろすシュヴァリエは、私を離す事もなく…


 晩餐の準備が出来たと移動した先で共にした夕食時も、その後の就寝前くつろぎの時間も、シュヴァリエの膝に乗せられて過ごした。


 なんという羞恥プレイ。


 頭のてっぺんに頬を寄せてスリスリしているシュヴァリエに、アンナを含めた皆の生暖かい視線。


 いや、そろそろ誰か止めてくれませんか!?


 中身が成人前の私は、綺麗な顔の年下の男の子に抱っこされて頭頂部にスリスリされる姿を、皆に観察されるのが恥ずかしくて仕方ない。


 私にはショタを愛でる趣味は無かったはずだったけれど、今、絶世の美少年の膝の上でそっちの趣味が開眼しそうです…。


 そう、これは戦で疲れたシュヴァリエのペットセラピーのようなものなのだ。

 シュヴァリエの唯一の肉親で、妹の私からの無事に帰って来てくれたことへのご褒美だと思おう。


 シュヴァリエがこんなに見目麗しくなければ、私だってここまで色々緊張しない。

 そういえば…ショタ好きの友達はこう言っていた。

「美少年は正義。大人になれば失われてしまう、今だけの特別な輝きを目に映せる幸せを享受する事の何がいけないのか。」

 前世でショタ好きで、特にショタを主人公とした薄い本が好きな友達を思い出してたら、思考を遮るようにシュヴァリエが話し始めた。



「ちょっと見ないうちに増々可愛くなったんじゃないか?」


 ――…はい?



「まぁ!…お兄様ったら。有難うございます。ウフフフフ」


 流石にこの短期間で顔は変化しない。

 あ、言われなくてもクラウディアが絶世の美幼女で可愛いのは認めますけどね?

 まだこの顔が自分だと認識が薄い私は、鏡に映るクラウディアに見惚れてしまう事だってある顔立ちなのだ。


 すると急に不機嫌な顔になったシュヴァリエ。


「香水臭い令嬢の様な気持ち悪い笑い方をするな。お前はいつも通りが1番いい。」

「こ、香水臭い…?」



 確かに皇宮にまで日参する令嬢達にすれ違う度、香水がこれでもかと濃厚に香り、香水って浴びるもんなんだと思い始めてたくらいだけど。


 一番厄介なのは廊下にしばらくその匂いが残ってるから、日参する令嬢の数に比例して色んな香りが混ざり合い、嗅覚が麻痺する程の匂いになるくらい臭いこと。



「どれだけの体臭を隠す為にアレだけ振る必要があるんだ。

 しばらく嗅覚が麻痺して、鼻の奥が痛い。

 しつこい要請が来るから、短時間だけと厳命して茶会なんぞ出た日には、1日中鼻がおかしい気がするぞ。

 お前は絶対に真似するなよ。気軽に抱っこも出来なくなる。」



 シュヴァリエにも色々あるのね。

 素直に頷いておこう。



「――はい。」

 と素直に返事をすると、頭をいいこいいこと撫でられる。


 私の羞恥心は庭にでも捨てて、私は幼児、私は幼児と念仏の様に唱えてシュヴァリエのしたいようにさせておいた。






 というのが、就寝前のひとときである先程の会話である。

 満足気に会話を終えると、シュヴァリエはクラウディアの頭をワシャワシャと撫でて笑顔で自分の宮の私室へと帰って行った。


 私が就寝する為、アンナも退室したので寝室には1人。



 ふと今回までの戦を思った。


 どの戦も負け知らずで無敗。

 シュヴァリエが他の追随を許さない程に強いのは分かるけれど、何も感じない殺戮マシーンではない。


 普通の男の子の様に傷つきもすれば泣きもするし、大口を開けて笑ったりだってする。

 凄く強くて、たまに怖いけど、シュヴァリエだってただの少年だ。

 戦を仕掛けてくる相手を容赦せず屠ればいいのに、必要最低限の犠牲で済ませる事は、全てを屠るより難しい筈。

 敵の総大将だけを屠って戦を終わらせるやり方は、小さな隙間を見つけそこを正確に突かなければ成し得ない高度な戦略だ。

 ゲームの中のシュヴァリエだったら莫大な魔力に任せて火力でゴリ押していただろう。圧倒的な強さを見せしめのように振るう事でその場を支配するのだ。

 けれど、今のシュヴァリエはそれを是としない。

 敵であれど1つの命と捉えているかのように、シュヴァリエはたくさんの命を奪いたくないような作戦ばかりを実行している。

 シュヴァリエは、もう血塗れ皇帝ではない。

 あ、でも戦場の悪魔ではあるかも…。


 侵略戦争に大義名分は要らない。

 帝国を欲しがる国は多く、新皇帝が少年だという事で侮り、次々と戦をしかけてくる。

 その度にシュヴァリエが戦場に出向き、敵国を何度も返り討ちにする数が増える度、段々とシュヴァリエの戦い方が知られ、総大将の守りはより堅牢となるだろう事は必至だと思う。


 強さを過信すると、隙が生まれ易い、そして、確実にその隙を突かれる。

 単騎で中心へと突破して総大将を叩くやり方は、無謀過ぎてシュヴァリエしかやらないであろう。

 クラウディアは無策に近いシュヴァリエ在りきの作戦を訊く度、ハラハラして落ち着かない。


 確かゲームの中では、次が最後の戦争になる筈。

 そこで……

 ――何だっけ。


 シュヴァリエに危機が訪れた筈だったけれど……思い出せない。

 危機が訪れるだなんて怖すぎる。


 まだ宣戦布告はされてないはずだから、今は心配していないけれど、それまでに思い出さなければ。


 何でシュヴァリエは追い込まれるんだっけ……敵の総大将へ特攻中?それとも味方の……?

 くるくるとゲームのスチル絵が頭で回る。

 シュヴァリエはシークレットキャラだから一度しかプレイしておらず、そのせいで記憶が曖昧だ。

 こんなことになるって分かってたら、もっと気合入れてプレイしたというのに神様は意地悪だ。


 そんな事を悶々とするうちに寝入ってしまった。





 翌日、シュヴァリエといつの間にか恒例となっていた朝食を共にする。


 前夜に明日は一緒に取れないと言われない限り、基本は一緒に取る事になるようになった。


 アンナに朝の支度を手早く済ませて貰い、ダイニングルームへと足を運ぶ。


 先に朝食の席に座り、不在時の間の政務内容に目を通すシュヴァリエがいた。


 ダイニングルームに入ってきた私を視認すると、シュヴァリエが立ち上がりエスコートしてくれた。


 席へ案内してくれると思いきや、シュヴァリエは先程自分が座っていた椅子まで私の手を取り移動する。


 ――あ、何かデジャヴ…

 昨日からのシュヴァリエのシスコンっぷりにこの後の事が想像出来てしまうわ…。


 先程までシュヴァリエが座っていた椅子に、座るシュヴァリエ。


 そして私の脇に………ああ、はい。

 また膝の上の羞恥プレイ……了解致しました。


「お、お兄様、クラウディア、1人で座れるし食べれるよ…?赤ちゃんじゃないんだから…」


 聞き入れて貰えるなど微塵も期待していないが、一応は戸惑った表情を作り、暗に降ろせと伝える。

 ポーズってヤツですよ。

 喜々として同意なぞしてないけれど、仕方なくという態度を崩さないのは大事。

 喜々としてたらもっと酷い事になりそう。



「ん?似た様なものだろう?」


「6歳です!ぜんっぜん違いますから!赤ちゃんじゃないです!」


「まだ6歳だろう?甘えられるうちに甘えておけ。」


 いや、そっちも十一歳でしょう!?

 大人び過ぎてやしませんか? 色々と。


「……お兄様が寂しくて仕方ない様なので、クラウディアは《《仕方なく》》我慢しておきます。

 とっても恥ずかしいですけど、お兄様が寂しい寂しいって言うもので仕方なくですからね。」


 からかう様な口調で言えば、

 前なら「なわけないだろう!」と照れ隠しなのか怒っていたので、

 今回もそれを利用させて貰おう。


「ああ…そうだ。とっても寂しかった。クラウディア不足だな。落ち着くまでは常に膝に乗せよう。」


 こ、これは違うパターン……

 恥ずかしい言葉をスラスラと言うシュヴァリエ。



「なっ……!」



 ぶわって真っ赤になった頬に手を当てシュヴァリエを睨む。

「真っ赤……。」

 シュヴァリエがニッコリして指摘してきた。


(いちいち言わなくていいですから!)


 唇を尖らせプイっとするクラウディア。

 可愛くて仕方ない様子のシュヴァリエ。

 仲良し兄妹である。

 シュヴァリエの膝上に居る為、頬の赤みは食事を終えるまでひかなかった。



 そんな状態のシュヴァリエと共に朝食を済ませると――


 シュヴァリエは、次は貴族達との謁見が控えていた。


 お披露目は済ませていないけれど、クラウディアも謁見の間に伴ってくれるとのこと。


 初めて参加するクラウディアは、どんな事をシュヴァリエと貴族が話すのか興味が湧いてワクワクした。


 ハハーっとか平伏するのかな。

 皇帝然として態度のシュヴァリエをまだ見たことなかったから、そちらの方も興味がある。


 また抱っこされて移動しながら、クラウディアは謁見が楽しみになった。

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