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第28話 栄光の凱旋。


 シュヴァリエがヴァイデンライヒ帝国へと凱旋した。



 ヴァイデンライヒの若き皇帝は、血塗れ皇帝とゲームの中では呼ばれていた。

 己すら数え切れぬ程の命を奪い続け、おびただしい量の血で大地が赤い絨毯のように染まった。

 敵兵の返り血を浴び続け、身につけた鎧が赤く染まった姿から、血塗れ皇帝と渾名が付いたのだ。


 …けれど、今現在そのような渾名でシュヴァリエは呼ばれていない。

 ゲーム時に語られた戦の話では、シュヴァリエは目に映る者全ての命を一切の慈悲をかける事なく奪い去る戦い方であった筈。


 以前シュヴァリエが話してくれた戦法は、高位魔法を数発撃ち込み、大混乱を起こした後、敵の大将の首を取る事で、指揮系統を続行不能状態にしてしまう。

 魔法で大混乱状態になった所で大将が沈み、さらなる混乱を誘引させた所を叩き、それぞれの隊を分離させた後、ゆっくりと各個撃破で戦力を削ぐ。


 シュヴァリエあっての強引な方法ではあるけれど、よく考えられて動いているから帝国兵の犠牲が最小限で済んでいるのだろう。


 今のシュヴァリエの渾名は“無敗の皇帝”だって。


 ゲームの時と内容が明らかに変わってしまっている。

 もしかしたら、それは私という異分子のせいなのだろうか?

 まぁ、それも追々分かってくる事だろうけれど…

 ゲームのオープニングの年に何が起こるかわからないし。

 おまけに、私ゲームが始まる前に死んでるし…

 死因を早く思い出さないと、回避の対策や方法も考えられないし。



 それにしても…シュヴァリエにカッコいい渾名がついてよかった。

 血塗れなんて不気味な渾名じゃなくなって本当に嬉しい。

 私には優しい兄だから尚更に嬉しいのだ。

 早くシュヴァリエに会いたいな。





 王都へ戻る直前にでも着替えさせられたのだろう。

 戦で疲れているだろうに、効率重視した結果、帰城兼凱旋パレードになった為に、通常の軍服から別の華美な衣装に強引に着替えさせられたシュヴァリエ。


 きっと「何故この服ではダメなのだ。面倒だ。このまま行くぞ」と怒って、側近のマルセルさんを困らせたんだろうな…。

 シュヴァリエの不機嫌な顔が想像出来てちょっと笑えた。


 パレードを見に行けない私を気遣ってくれたアンナから、遠見の鏡(遠見の魔法が施された鏡)でちょっとだけ見せて貰う。


 立派な黒鹿毛の軍馬に跨り、華やかな赤と漆黒の黒の軍服風衣装に身を包んだ姿は、うっとりとした溜息が出る程にシュヴァリエに良く似合っていた。

 厳しい顔を保ちつつ、時々薄く微笑むシュヴァリエ。

 その度に大歓声に沸き立つ民衆。


 ――――生まれながらの皇帝って感じよね。


 戴冠式は白で天使感すらあったけれど、今回は黒と赤が主体になって暗黒魔王感が出ている。

 どちらも絶世の美貌ありきなので、やっぱりシュヴァリエは凄く美しいのだろう。


 ――――こんなに美しいと、ヒロインが狙ってきそうよね。シュヴァリエの存在を忘れて隣国で愉しく過ごして欲しい。



 ヒロインの事を考えながらシュヴァリエを見つめていると、フッと遠見の鏡の映像が消えた。


「さぁ、姫様。シュヴァリエ様をお迎えしましょうね。」


 満面の笑みでアンナがクラウディアを促す。


「あ、そっか、もう王城に着くの?」

「ええ、もうそろそろでございます。お支度も終わっていますし、姫様がお出迎えになる事が1番お喜びになられますわ。」


 背中にアンナの手が添えられ、さぁさぁと退出を促される。


 ――――アンナ、やけに今日は強引ね。


 首を傾げながら、シュヴァリエを出迎える為に歩き出した。






 王城の門がギギギと重い音を立てて開く。

 シュヴァリエを先頭とした大勢の帝国騎士団が入城した。




 シュヴァリエを出迎える為だけに、城で働く高官、その下で働く文官武官に至るまでズラリと並び立ち城の主を待つ。



 高位貴族が並び立ちシュヴァリエを待つ場の中央に、ちょこんとクラウディアが居た。

 アンナと護衛騎士4名に、やや手厚く守られ囲まれている事を確認して、帰ってきた実感以上にホッとする。




 4ヶ月ぶりに見る生のクラウディア。

 シュヴァリエの胸が溢れんばかりの思慕で一杯になった。

 早くクラウディアに触れたい、抱きしめて無事を確かめたい。

 自分に叶う者などおらず此度の戦でも命の危険など一切感じなかった。

 だが、皇族として1人で城で待つクラウディアは、魔法もまだ使えず酷く脆い存在なのだ。

 離れている間、アンナがいると分かっていても酷く不安だった。

 騎乗していた馬が所定の位置まで移動するまで待ちきれず、ひらりと飛び降り駆け出す。


 クラウディアの瞳が目一杯開かれた。


 ――――えっ、まさか…来ないよね?駆け出してますけど…


 突発的なシュヴァリエの行動に、戸惑いオロオロするうちに、シュヴァリエがクラウディアの目の前に辿り着いた。


 両脇をガシッと掴まれ、小さな背丈のクラウディアは、高い高いをするかのように高く持ち上げられた。



「えっ、は?お、おにいさま!?」

 絶賛パニック中のクラウディア。


「ああ、俺だ。クラウディア――――逢いたかった。」


 高い位置からシュヴァリエの胸の位置まで降ろされたと思ったら、そのままギュギューーっと強めにプレスされた。


「お、お…にいぃふぅぅ」


 ちょっと待ってと止めようと出した声は、胸の中の空気が出される事で言葉にならない。


 ――――く、くるし…何なのいきなり…

戦から戻って色々昂ぶってるのかしら…。

今生の別れから奇跡の再会並の態度なんですけど…。

もう少しの我慢よクラウディア…戦から帰ったばかりで嫌がるのは可哀想だわ…


 今回の戦は思ったよりも長くかかり、4ヶ月という長期に渡った。

という事は、仲良くなってから初めてここまで離れていたのだ。

いつの間にかクラウディアにとっても居ないと寂しいと思う相手になっていたように、シュヴァリエも同じように感じてくれていたのを今実感している。

 


事前にアンナから訊いていた情報では、こんなに時間が掛かってしまったのは、距離が遠いという事もあるのだろうが、交渉事と戦後処理に思ったより時間が掛かった為だそう。



 ――――だからシュヴァリエがこんなになるのも分からなくはないけど…


 もう無理!たくさんの人に見られながらの長い抱擁は精神的に無理です!


 シュヴァリエの肩をテシテシと叩いて注意を引く。


 シュヴァリエは少しだけ身体を離しクラウディアを見た。


 ――――なんて慈愛に満ちた眼差しなんでしょう。絶世の美貌の慈愛に満ちた魔王様…これは是非写真に……



 …現実逃避してる場合ではなかった。


 物凄い人数が居るこの場で、兄妹愛溢れた公開羞恥プレイをするつもりはないのだ。


「お兄様、兄妹水入らずは後ほどにして、まずは臣下の皆様に帰城の挨拶を……」


 こんなに人から注目された事など、前世と現世合わせても生まれてから一度たりとも無く、

 クラウディアは最早涙目である。


(早く冷静になって下さい!現実に戻ってきて!)



 シュヴァリエは薄く微笑むと、私を抱えたままぐるりと周囲を見渡した。


「大勢の出迎え感謝する。

 此度の戦は遠い地という事もあり、少しばかり戦後処理に時間を要したが…戦死者1人出す事なく戻る事が出来た。

 帝国の属国がひとつ増えるぞ。喜べ。

 二度と他国から侮られる事のない強国ヴァイデンライヒの復活だ。


 …戦から帰ったばかりだ、今日は皆も疲れているだろう。

 ゆっくり休んで英気を養う様に。

 明日、祝勝の宴を開く事とする故、皆もそのつもりで。

 では、私も疲れた――――これにて解散。」



 シュヴァリエの良く通る声がよく響く。

 大声を張り上げてる訳でもないのに、皆ちゃんと聴き取れているようだ。


 高官文官武官、そして並み居る高位貴族達も崇拝の眼差しをシュヴァリエに注いでいる。


“この御方に付き従って居れば間違いない”と思わせる覇気をシュヴァリエから感じている様だ。



 まだ十一歳の皇帝…シュヴァリエ。

 そこには“傀儡にするか”と思われ易い甘さも愚かさもない。


 戦争をいくつも経験しその全てで先陣を切って戦い、勝利を討ち取ったシュヴァリエ。

 圧倒的な強さで属国を増やすシュヴァリエ。

 強者の力を見せつける事で、幼い自分に対する不満・不信・不穏の種を捻じ伏せたんだろう。


 ――私が思う手段として使うには血生臭い戦争は却下だけど…。


 シュヴァリエは確実に従え、やってのけたのだ。






 クラウディアを抱っこしたままシュヴァリエは王城の中へ進み、王宮内の奥の月の宮まで足を進める。


 最初「降ろして下さい……」と小さな声で言ったが、

 即座に「却下」とシュヴァリエに一言言われてから、すぐに諦めておとなしく抱っこされていた。


 公開羞恥プレイ第二弾に耐えきれず、シュヴァリエの首に顔を隠して抱っこされる。


 そんな私を見てシュヴァリエは嬉しそうにしている。

 アンナも三人娘も護衛騎士の2人までウンウンと頷いていた。


 私の想像する兄妹より仲良し度合いが凄い…主にシュヴァリエが。

 親もおらず兄妹2人だけだったらこんな感じなのかな?



 シュヴァリエは月の宮まで私を届けると「湯と着替えをしたらまた来る」と去っていった。



 えっ、戦帰りだしゆっくりしなよ…とは思ったが、好きにさせとくことにした。


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