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第十八話 ゲームとキャラ違くないですか?

宜しくお願いします。

「……大丈夫なのか?」


 シュヴァリエの心配気な声が聞こえた。


 先程、突き上げた拳をぎこちない動きで下ろし、そのままガクンと両膝をついた後、何を語る事なく静かに蹲っていた私。


 絶望をそのまま表した姿である。


 ああ神様仏様…大魔道士様…大賢者様…どなたでもいいです。

 どうか、愚かなわたくしめの体の真下に、常しえの闇を呑みこんだブラックホールでも出現させて下さい。

 そして、そのブラックホールで、私を跡形もなく呑み込んでくれませんか?


「………。」

「………。」


 心配してくれる優しさがあるなら、退室して欲しい。

 そして色々と察してくれ。


 ああ、出来るならこの五分間くらいの間の記憶も失って欲しい。


 無言(心の中では神様仏様に真剣に祈祷中)の私に、察するスキルをお持ちでなかったシュヴァリエは更に言い募る。



「えー…っと、俺は、何も見てないから。安心しろ。」


 そういう(私が蹲ってる理由)のは察しているようである。


 未だかつてこんな無様な姿を人に見られた事がない為、そこからの特大の羞恥に耐えきれず、真っ赤になった顔を隠していたのだが―――


 今の聞き捨てならない発言にバッと顔を上げてシュヴァリエを見る。


「はぃ…?」

「いや、だから、俺は、何も、見て、いない。」


 いや区切らなくても分かります。


「見てたよね…?バッチリ。目、合ったもん。アレは間違いなく見てました!」


 見ていないと言い張るシュヴァリエに何となくイラッとしてしまい、言葉遣いを取り繕う余裕もない。


「何故、見られた事にそこまで拘る。

 特段おかしな所はなかったように……思うが。」


(…! 何、いまの溜め!)


 見つめ合ったあの瞬間を忘れたとは言わせない。


(どうみても見てた癖にわざわざ見てないとか言って、有耶無耶にする事で慰めてるつもりなのだろうか…?)


 見てなかったと言ってくれたのはシュヴァリエの優しさなのだが、クラウディアは恥ずかしい姿を見たくせに謝罪とか無い訳? といった、ちょっと斜め上の思考に陥っている為、気付いていない。


 見ていないと言っているのだから、それに乗っかれば傷も浅くて済んだと思われる。


 大きな声で責めるクラウディアに、シュヴァリエの目線は落ち着かない。


 クラウディアを見たと思ったら気まずけに逸らす…


 人の気持ちを思い遣る事などほぼ皆無なシュヴァリエにしては奇跡のような気遣いだったのだが――――

 ちょっと変わったクラウディアには通じておらず、クラウディアが何故怒っているのか分からないシュヴァリエ。


 正直、幼い女の子の扱いに困り果てている。


 シュヴァリエは己の気遣いが通じてない事に気付き、観念するように大きく溜息を吐く。


「…いや、アレは…一瞬だけ見えた。」

「いいです、もう。あれは無かった事だと忘れて下さい! 記憶を司る大脳から綺麗に抹消して下さい!」


「だいのう…?なんだソレは。」


 先程は見ただろうと詰め寄り、今度は忘れてくれという。

 幼い女の子とはこんなに訳の分からない生き物なのか…?

 戸惑いつつも、その女の子の発言で知らない言葉が出て来て思わず訊き返した。


 訝しげな顔つきのシュヴァリエ。


 口にこそしていないが、拳は突き上げるわ、見たと言ったり忘れろといったり、恥ずかしがったり怒ったり、おまけに、よく分からない単語も話す。


 シュヴァリエの顔には「こいつ大丈夫か?」と書いてあるようだ。


「昨夜、またお前は倒れたんだ。あまり興奮しない方がいいぞ。今は安静にしておけ。」


「もう一回失神したい気分です。」


「お前が天高く拳突き上げるくらい元気なのは分かるが、まだ熱があるだろう?

 高熱を出すとな、思いもよらない奇行も出てくるらしい。

 ああ、そうか。

 先程から意味が分からない言動をするのは高熱が原因かもしれないな。

 ―――なるほど、理解した。」


 ハァ!?

 ぐわっと目を剥いてシュヴァリエを凝視する。


 私が赤面してるのは、それ恥ずかしさからですから!


 私を変人扱いしないでよね。

 こちとら、ほやほやの可愛く幼い5才児だぞ。


 5才児は基本的にテンションが高く奇行っぽい事に走りがち!

 …多分。


 そうそう、幼稚園児くらいの頃って、音楽が流れてる訳でもないのに、意味もなく急に踊りだしたりしてたよ。

 妄想の中の妖精さんが現実に居ると思って、何もないとこに話しかけたりしてたもの。お母さんが「見えない」って言ってるのを「見えないと思うから見えないのよ」と偉そうに言い返してたっけ。


 …私だけかもしれないけど。


 くだらないことをぼーっと考えてたら、シュヴァリエの言う通り安静が必要だったのだろう、またクラクラして来た。

 シュヴァリエに言われた通りなのが癪だけれども、おとなしくベッドに横になる。


「お前、驚くほど病弱だな。すぐ死にそうだ。」


「まだ5才ですからね。何かこの所色々有り過ぎまして。夜半に寝室に変態が出たりですとか。その心労が原因なのかもしれません。」


 本当に今更だけれど口調を丁寧に戻す。

 私の口調が丁寧になったことにすぐ気づいたのか、シュヴァリエの口の端が意地悪そうに上がる。


「変態とは誰か気になる所だが訊かないでおこう。…そうか。

 恐らく内包している魔力量が大き過ぎて、器である身体の生命力に干渉してるかもしれないのか。」


 シュヴァリエはクラウディアの髪色と静かに漏れ出している魔力に気付き、その流れをジッと見つめ考え込む。


「魔力量が多いと体が弱くなるのですか?」


「ずっと気易い口調だったからか、そんな畏まった口調だと違和感しかないな。」

 ジト目で見るシュヴァリエ。


「わたくしの素はこちらです。続きをどうぞ。」


 ツンとした態度のクラウディア。

 その顔を見て、ハァ……と大げさに溜息を吐くシュヴァリエ。


「理論上はそうなる。魔力は血液の様に人体を巡っている。

 体が小さい子供は、その幼い体と同様にそれを支える器が小さく脆い。

 器は人の体の成長と同調している為、体の成長によってしか大きくならない。

 そんな小さく脆い器の子供が、器以上の莫大な魔力を持ち産まれてくれば、普通ならば当然の事、耐えられない。

 収まりきらなかった魔力は、小さな器からダラダラと漏れ出てしまうだろう。

 漏れでた魔力は体を巡り始める。

 血流が早まり鼓動は早鐘を打ち始める。

 どんどんと溢れでる魔力を抑えきれなければ、そこで魔力暴走を起こし、器が破壊される。

 器が破壊されるという事は肉体の死だ。

 魔力がとても多い子供の死亡率がかなり高いのはその為だ。

 抑える薬もあるが、副作用が酷すぎて使う者はいない。

 何度も改良が加えられ治験され続けているが、今の所、あまり成果をあげていないのが現状だ。

 死なずに生き残ってる子供は、常に零れ落ちそうな魔力を支える器を維持するだけでも体力の消耗が激しくなる。

 幼い体はそれに耐えれず虚弱になる……という仕組みだ。」


 真剣な顔で語ってくれるシュヴァリエに、こんなことを考えているの非常に申し訳ないのだけれど…


 真面目な話をしている時の表情のシュヴァリエって、やっぱりシュヴァリエだわ。


 白金プラチナの髪、子供の癖に少し色気のある切れ長の目、髪色と同じ色をした長い睫毛、スッと通った鼻筋、薄い唇。

 ゲームのシュヴァリエを二次元にして幼くさせたら、そっくりこのままだと思った。


 けど、髪色も含めて全体的に色素が薄い冷たい美貌でも、9才だからかどこかあどけなさがあって…

 けれど、ほのかに目元に色気があって……


 ――――天使。

 これに尽きる。


 私の邪な眼差しから何か伝わるものがあるのか、シュヴァリエの目付きが悪くなる。


「……おい、お前真面目に聞いてたか?お前にとって大事な事だってわかってるか?」


 ムスッとされてしまった。


「…すみません。5才児の私には難しくて。理解するのに必死でした。」


 分かりやすい説明のお陰で、何とか理解は出来たけど、話してる相手の顔に見惚れていたとは言えない。


 そういえば、アンナ何処行ったんだろう。

 今は何時なのだろうか。


「そういえばアンナは……?」


「お前を心配してずっと眠らず一日中傍に居た。他の人間が替わると言っても聞かないから、強制的に寝させて連れて行かせた。

 眠らせた俺が責任を取って、代わりにここでお前を見ていた。」



 アンナ……心配かけてばっかりだ。

 後で謝らないと。


 アンナを思い出しクラウディアはシュンとなる。


「そう気に病むな。《《5才児》》なんだろう?お前が気にするのは自分の体の事だけにしろ。」


 5才児って所をやけに強調してくるな…

 疑われてるとは思わないけど、何かを察してるのかもしれない。

 気をつけよ…


 沈む気持ちで目を伏せたままのクラウディア。


「はーい…」


「と、この話が終わったところで…だ。」


 体をベッドに横たえながら視線だけシュヴァリエに向けた。


「俺は次期皇帝“シュヴァリエ・ヴァイデンライヒ”、そしてお前の兄だ。

 お前は不敬にも変態だと叫んで暴れたが、変態ではない。」


(変態は自分で変態だとは言わない気もするけど…黙っておこう)


「5日後に、俺は十の齢を迎える。

 それから一週間後には戴冠式を迎え皇帝に即位する。

 お前は、まだお披露目をしていないから戴冠式への出席は出来ない。」


(えー、戴冠式見れないんだ……)

 クラウディアはガッカリする。

 煌びやかな式になる事は間違いなく、攻略キャラの戴冠式のスチルなんて、ゲームでも見れなかったレア映像ではないか。


 眉を下げ酷く沈んだ顔のクラウディアに、シュヴァリエはどうにかしてやりたい気持ちになった。


「―――だが、こっそり覗くくらいなら…。

 その目立つ髪をどうにかして、その姿も変装なりして――

 端からおとなしく見るだけならば、許可する。

 勿論、護衛は連れていって貰う。

 ガチガチに固めてやるがな。」


 ポカーーン


 脳が停止した様にシュヴァリエを見つめる事しか出来ない。


「フハッ、お前、その顔…くくっ」


 笑い声を堪える様に口に手を当て、それでも堪えきれず目を細めて微笑った――――


 ――えっ、あの冷徹皇帝のシュヴァリエが微笑んだ!?

 それに、恐らくだけど落ち込んだ私を気遣ってくれた。

 変装して護衛をつけるなら、こっそり見に来てもいいって!?


(9才の時のシュヴァリエってこんな感じなの?)


 口調は荒いし、ちょっと乱暴な口調だったりもするけれど…

 ゲームでのキャラと違いすぎる。


(もしかして、学園に留学する前、即位する前のシュヴァリエはこんな感じなのかな…?)


 唖然としながら見つめ続けた。


「アンナが言っていた。お前が俺に会いたがって居たと。

 それに、戴冠式を見たがっていたと。

 それをただ叶えてやろうというだけで、何をそんなに驚く。」


「アンナが……。ありがとうございます…?」


「だから、早く良くなれ。皆が心配する。」


 先程の笑いを目元に残したまま、優しい声で話しかけられる。


 その顔と声にまた衝撃を受けて固まる。


 シュヴァリエがソファから立ち上がり、クラウディアのベッドのすぐ傍まで来る。


 そのまま手を伸ばし、クラウディアの額に掛かる髪を指先で横に流す。


 その指先はそのまま瞼までなぞり………


 ――――えっコレってまた例のアレじゃ!?もしかしてアンナにもしたの!?


「 rest in peace 」


 ――――やっぱりね!!


 私の意識は深い眠りに引きずり込まれた。

ご覧頂き有り難うございました。

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