空前のクソ妹ブームに乗り遅れるな!
空前のクソ妹ブームときいて
『お姉さま、ずるいですわ! 私も金塊5000トン欲しい!!!』
傲慢な妹の声が会場いっぱいに響き渡る。
司会者の俺は、観客に向かって煽る。
「おおっと、これは最高クラスのクソ妹だ!」
「うおおおおおお!」「素敵!」「待ってました!!!」
ドーム型のコンサート会場でオークションにかけられているのは、クソ妹のおねだりボイスを録音した魔道具だ。
最近、貴族界は空前のクソ妹ブームである。
貴族席の継承順位が低い妹に好き放題させて、とんでもないわがまま娘に成長させることが一種のステータスになっている。
ブームの始まりは三年前、一本の論文から始まる。
霊薬エリクサーの原料について書かれた、画期的な論文であった。
マンドラゴラに様々な言葉を聞かせて、効能を調べるという実験の産物であった。
毎日「ありがとう」と聞かせ続けたものも、罵倒を聞かせ続けたものも、特に変化はなかったらしいが、一つだけ明らかに効能がアップしているものがあった。
わがままな妹が姉の物を欲しがる発言を聞かせ続けたマンドラゴラだ。
特定の薬と一緒に煮たあと、煮汁を瓶に詰めると、どんなケガや病気にも効くという、霊薬になったのだ。
しかも発言がクソであればあるほど効能がいいらしい。
当時は注目されなかったが、この結果が少しずつ広まっていくにつれて、貴族の間ではマンドラゴラの育成と、あまり目をかけていなかった妹たちをクソ妹へ改造する計画が人気になっていった。
今では妹は傲慢でなければならない、みたいな風潮がある。
それでいいのか、貴族たち。
生のわがままボイスを聞かせなくても、録音でいいということが判明してからは、録音の魔道具にクソ発言を録音して、こうしてオークションが開かれるようになった。
どれほど邪悪なクソ妹発言を持ってくるかを、最近の貴族たちは競っている。
最高値のクソ妹発言を持ってきた貴族は一躍ヒーローで、社交界でも活躍するという。
それでいいのか、貴族たち。
録音の魔道具は、同じ発言を繰り返し聞くことができるが、複製はできない。
クソ妹発言は一点ものだ。
だからオークションが開催されるようになり、どんどん大金が動くようになった。
『お姉さまのものは全部私のものですわ!!!』
「きゃー!」「よ、三代目!」「いいぞー!」
金貨三枚で売れた。
『お姉さま、今日のパチンコ代くださいな!』
「うひょおおおお!」「いいぞー!」「ダメ人間!」
金貨一枚で売れた。
『お姉ちゃんのことなんて全然好きじゃないんだからね!』
「うおおおお!」「ツンデレ!!」「クソ妹じゃなくね!?」
銅貨五枚。
いやなんで出品した?
『お姉さま、ずるいですわ! 私も金塊5000トン欲しい!!!』
いやどういう状況だよ。
金貨百枚。
『お姉さまの周りの男、多分全員寝ましたわ!』
「外道すぎる」「えっ(ドン引き)」「うっそだろお前」
本日一番の値段がついて、白金貨三十枚。
これを聞かせて育てたマンドラゴラはきっと、飲んだ瞬間にたちまち若返るくらいの効能があるだろう。
この空前の妹ブーム、きっとまだまだ続くだろう。
さあ、お貴族の皆さまは、ブームに乗り遅れずに、クソ妹を育てましょう!
出品の際はぜひ、当オークションをご利用くださいませ!!
完