自己否定感
昨日はとんでもない一日だったな、今日こそは平穏な一日になるように願っている。
しかし今日はそうはいかないだろう。なぜなら俺は三浦問題に決着終止符をうちに行く覚悟だからだ。
あいつと喧嘩になっても構わないとすら思っている。正直あいつのクラス内評価は最悪だからな。いい顔面持ってんのにもったいねぇやつ。まぁ俺にとってはどうでもいいんだが・・・
「昨日は災難だったね・・・」
本多が話しずらそうに、しかし仲直りをしようと必死なのか、俺に話しかけてきた。
「あ、本多、昨日はホントごめんね。正直三浦さんが何考えてるんだか・・・」
俺は愛想笑いと共に、本多にあらためて謝罪をしておいた。
「全然大丈夫だよ。それにしてもやっぱり相田くんが私に怒るなんて思ってもいなかったから・・・怖かったんだよ?あれだけ悪口を言われても怒らない相田くんがあそこまで怒るなんて、ごめんね昨日のことは忘れるし、春樹のことはもう二度と話題に出さないし、相田くんの中学時代についても深く話さないようにするね。せっかく同じ高校になったんだし、仲良くしようね。」
本多はかなり頑張って笑顔を作っている様子だ。まぁ無理もない、
「ういっす裕太」
松が俺の首に手を回してきた。どうやら昨日のいざこざをさほど気にしていないようだ。
「お前また先生に連行されてたな」
「ああ、なぜやってないが通らないのか?ホント不思議だよ・・・」
「まぁ上田が見てなかったっていうのは大きいな。被害を直接受けてんのは上田だからな。」
「上田さんは俺を目の敵にしているからね。」ホントあいつ俺をゴミ扱いしやがって・・・
「裕太も飛んだ災難だったな。」
松は俺に同情している。『正直どうでもいい。』何なんだろうかこの気持ちは・・・すごく腹立たしいようででも冷静な、高ぶってるようで落ち着いた、何も感じたくないという感情に俺は苛まれている。
同情が欲しくないか欲しいかと言われれば欲しい。だが俺はこいつと距離をとらなければならない。きっとそういうやり方しかできないのだ。
「うん」俺はそっけない返事を返し、数ⅠAの教科書を読み始める。
とりわけ話すこともない、故にもう会話は終了。それでいいだろ。
「あれ?数学テストなんかあったっけ?」それでも松は会話する。
「いや、自主的に・・・」
「へー偉いな裕太は。」
「まぁやりたくてやってることだから・・・」
「そんなに行きたい大学とかあるのか?」
「いやないな。」踏み込まないでくれ。
「じゃあれか、とりあえずいい大学に行きたいみたいな?やっぱり偉いよ裕太は。」
「どうも・・・」感情を抑えよう。教科書に集中しなきゃ。
「朝から勉強なんて偉いな裕太。」爽やかに稔が話しかけてきた。うわっ!来たよ・・・
「それ松も言ってたよ。そんなに偉くないよ勉強することは誰でもできるんだから。」
早く一人にしてくれないかな・・・
「まぁでも勉強ばっかしてても何にも残らないんだけどな。」
稔の顔に闇がかかったように見えたのは気のせいだろうか。
何も残らない?そんなことはないという反論はおいといて、稔がこんな強烈な一言を発してくるなんて、意外だったな。あれかこいつこんな爽やかなのに勉強苦手なのか?それとも実はこいつ俺よりも表裏激しいとか。
まぁ俺はこいつの今の発言にムカついてぶっ殺したくなったが、どうでもいいことだ。
「そんな言い方はないだろう。」松が速攻稔に反論を呈した。
どうせ稔は受け流すのだろう。
「すまない、今のは忘れてくれ。」やっぱり、綺麗に流したよ。
「忘れろって?何でだよ。」松がまだ食い下がる。
普通に考えてみろそこは踏み込まないのが正解なんだよ。
「まぁ松もういいじゃないか。僕も気にしてないから。」
そんなことより、もう少しでホームルーム始まるから席に戻ったほうがいいんじゃないか?」我ながら素晴らしい采配だ。稔のつまらない過去のトラウマか、何かを聞いてしまえば見て見ぬ振りをするのは不可能だ。けれど知らないとなれば話は別だ。知らないのだから何をすることもできないのは当然となる。結局そうゆうのに首を突っ込んでも中途半端になるのがオチなんだよ。それに、俺は稔の過去なんざに興味がない。
「それもそうだな、早く席につこうぜ稔。」松は稔に声をかけた。
松はどんな感情に苛まれているのか。少し興味が湧いたが、すぐにどうでもいいなと思った。
「すまないな裕太・・・」
は?
「気にしなくてもいいよ。」
まぁいいや。これ以上あいつらについて考えるのは時間の無駄でしかない。二人が席について三分くらいたったころホームルームが始まった。今日の昼休み仕掛けますか。三浦・・・?だっけあの女に俺に危害を加えないように忠告しなければならない。この問題が簡単に解決しそうにないのが憂鬱でしょうがない。まぁ久しいな。
昼休み、テラスで行われているあいつらとの食事を早々にすませ、足早に教室へ戻り三浦の机の前にたった。
「三浦、話があるんだが・・・」
作戦たてんのめんどいし、普通に昼休み話しかけてみた。
「話は弁護士を通してからして頂戴。」
うぃー、きちぃー。何だよこいつ・・・めちゃくちゃおもしれえじゃん。
「いやそんな法律に関わってくるような話にはならないから通さなくてもいいんじゃないかな。」
めっちゃのってやりたいけど今は我慢。
「つまり告白ね。」
「・・・」
「つまりこ」
「ちげーよ。発想ぶっ飛びすぎだよ。ぶっ飛ばすのは輪ゴムだけで十分だよ。」なんなんだこいつは・・・
「輪ゴム?あーこれの事?」そう言って三浦は輪ゴム銃を取り出した。
「そうだよ・・・えっと、お願いしたいんだけど、僕に罪をなすりつけるのはやめてくれないか?」ほんと迷惑なんだけどとは言わず・・・
「あなた私を発言一つでぼっちに仕立てあげたにも関わらず、よくもそんな口が聞けたものね。」
彼女はとても不気味な笑顔で語りかけてきた。
何だろうこの感情は、罪悪感が襲いかかってくるのは確かだ。それと同時に自分に対する怒りがこみ上げてくる。俺は結局自分を諌めてそこで終わりなんだ、彼女の苦しみなんて一つも考えようともしなかったし、これから考えることもしないのだろう。それは何よりも三浦が他人以外の何でもないからという理由だ。実に素晴らしい考えだと思う自分に無性に腹がたつ。だがこの怒りは偽りに過ぎない、だから自分の感情がわからない、いやわかりたくない。
「その件に関しては本当にすみませんでした。」
何で謝らないといけないのかという感情が浮かばないように必死でこらえた。
「まぁ、いいわ。気にしてないし。君が迷惑だっていうのなら、この銃を打つのをやめるわ。」
何でだ?こいつはどうしてこいつはこんな物分かりがいいように振る舞っている?そんな簡単に解決する問題なのか?まぁいい。俺は興味がないんだ。解決するなら、それでいい。
「ありがとう本当に感謝するよ。」僕はそう言って、自分の席に戻ろうとした。
「どうしてこの銃を撃っていたか?理由を聞かなくてもいいの?そこからあなたのラブコメが始まるかもしれないのに。」
何なんだこいつ?自分でいうのかそういう事・・・普通にキモい、ドン引きだわー。
「何で輪ゴム銃を撃ってたの?」一応聞いてやった。
「撃ちたかったからよ。」彼女は俺に最高の笑顔を見せた。
というか俺には最高の笑顔に見えた、とても眩しかった。俺はその眩しさに吐き気がした、無性に腹がたった。
「そうか、よかったな。」
俺は目の色が死んでしまっている自分がいることに気づいた。しかしその色を取り戻す気などさらさらない。俺もあんな目をしていた時があったな。
三浦と話したことで俺はこのままではいけないような気がした。