桜に揺られる少女
「で?流石に二回目はないだろ・・・サイ、相田。」
なぜ俺は先生からの尋問を受けなきゃならない、何度あの輪ゴム銃野郎が悪いと言ったらわかるんだ。
もう小一時間は経ってるぞ。あと今こいつ『サイ』って発音しただろ。なんだ?こいつ俺を裏で『サイ田』って呼んでんのか?
「いい加減にしなさいよ、サイ田」
被害者上田は俺をゴミだと思っている様子・・・お前がサイ田だよ!
「僕はそもそも本多に謝っていただけで、それはサイ・・・いや上田さんも見ていたはずです。」
「嘘つくんじゃないわよ、そんな嘘私すぐわかっちゃうんだから。」サイ田は妄言をぶちまけているご様子。
お前が嘘ついてんだろ!?、斜め後ろであんな綺麗なお辞儀決め込んでたら普通、謝ってんだなってわかるだろ。あ、わかったぞ。
「おい、そんな口を叩いているが、お前どうせ寝てて何も見てないんだろ。」
上田がわかりやすく動揺した。目が泳ぎまくってるんですけど。さらにいえば急に貧乏ゆすりし始めちゃったんですけど。なんなんのこいつ可愛い、めちゃくちゃ可愛い。ああーそういう意味じゃないからね。
「もういいわよ!サイ田なんかと同じ空間にいると脳みそが食われちゃうわ。先生!もう正直こんなことどうでもいいんで気にしないでください。でももう次はないわよ。次やったら絶対に退学させてやる。私の家大金持ちでパパとうちの学校の理事長、仲いいんだから!覚悟しなさい!」
そう言い残し上田は職員室を出た。うわー私立の闇がぁぁ、金持ちはこれだから嫌なんだよ。上田ってあんなどぎつい性格だったんだな・・・かわいい顔だけど性格がアウトか。神様ってほんと平等って感じたの初めて説。
俺はようやく職員室から解放された。あの輪ゴム銃女について授業中は考えられなかったし、部活で相談してみるか。
「こんにちは。」そう言いながら、俺は教室のドアに手をかけた。
そこはまるで絵画の中のようだった。
窓から吹きつける桜吹雪、窓の外を眺めながらたそがれる黒髪少女、その長い髪がゆらゆら揺れて太陽の光に反射している様に見える。整った顔立ちに、魅惑的なスタイル、どこを取っても絵になる少女がそこにはいた。なぜ彼女の目はあんなにも悲しげで儚いのか?俺は彼女に恋したのかもしれない。一目惚れかもしれない。俺はこの教室から青春を・・・
「始めません・・・」
正直、眠い以外の感情がわかない。なぜ電気をつけていないのか?三年生はどこに行ったのか?という疑問が残る中、俺が恋したという設定の冴島先輩に声をかけて見た。
「こんにちは冴島先輩。」 俺渾身の優しげなトーンで話しかけて見た。しかし彼女からの反応はない。
「こんにちは冴島先輩。」 同じ言葉を繰り返して見たが反応はない。
「なんで無視するんですか?冴島先輩。」 彼女からの返答はない。
当たり前と言われれば当たり前なのだ。なぜなら彼女は現在伝説のヘッドホンを装着中だからだ。まぁそのうち気づいてくれるだろう。それにどこまで気づかれないのか?試しておきたいし。
それから三十分くらい彼女に話しかけているだろうか。彼女からの返答はない。いい加減にしろよこの女。まぁ聞こえてないならホント何言ってもいいんじゃね?どうやら俺は考える事を放棄しストレスを解放しようと考えたみたいだ。
「ウェーイ冴島」ヤンキーみたいなノリで。
「・・・」
「さえちゃーん」幼稚園児を呼ぶ感覚で。
「・・・」
「文学少女きどってんちゃうぞ、そんな奴は小説の中だけで十分じゃ。現実で文学少女て、厨二もええとこよのう。」中学の時のノリで。
「・・・」
「は〜まぁ番犬としては使い勝手良さそうやし、ええけどな。お前と会話せんでもしょーみなんの問題もないわけやし。まぁブスとは喋りたがらないビッチの習性かな。文学少女が聞いてあきれるぜ。文学ビッチにシフトしてたのかよ、ビチ島かよ。清楚系ビッチ、ワロタ」思ったことをそのまま口に出してゲラゲラ一人で笑っていた。
彼女の手が動き出した、ついに俺の存在に気がついたか、ヘッドホンを外しながらこっちを見つめた。なぜか顔を真っ赤に赤らめていた。
「私は処女だーーーーーー!」彼女は叫んだ。
「文学・・・処女?」脊髄で会話していた。
脳の思考が完全に立たれてしまった。こいつの叫びがあまりにも衝撃的すぎて・・・。
「いやー悪気があったわけではなくて・・・なんというか思ったままを口にしてしまったわけで・・・」
俺は冴島の背中をさすっていた。彼女の涙は止まることを知らないようだった。今回の一件は確実に俺に非がある。ヘッドホンをしているから何も聞こえてないのだと甘い解釈を行った俺が悪い。ということはこいつガチで俺のこと無視してたのかよ。泣かして正解だったな。
冴島が泣き止むまで十分もかかった。
「じゃ、あんなたは私を馬鹿にはしないことね!」
「僕はビッチが大嫌いなので心配しないでください。」俺たちはホント何の会話をしているのだろうか?
「それよりもどうして僕のことを無視してたんですか?」ホントなんなのこの女。
「私、人見知りで人との接し方がわからないの!あなたを無視してたんじゃなくて、何を話そうか迷ってただけ!」
ものすごい荒げた口調になっている、相当興奮気味のご様子で・・・
「その割には、今めっちゃ喋ってるじゃないですか?」
「今は・・・その・・・怒ってるからだよ!」何でこいつキレたらこうなるんだよ。
「ああ、そうなんですね」
もういいや、興味ねぇ。僕はカバンを床に置き、机を一つ借り、イヤホンを装着しようとした。
「いやいや、話は終わってない!」冴島がしつこく言いよってきた。
何なんだこいつ?そんなに俺のことが好きなのか?残念俺はお前が好きではない。好きなのは設定の中だけだ。あんな設定するんじゃなかったな。仕様変更はお早めに。
「んー、まぁホント悪かったですよ。人に悪口を直接ふっかけるなんてのは道理違いも良いところですよね。二度とあんなことはしません。なのでお気になさらず作業を続けてください。っていうか窓を儚げに見つめといてください。こっちも至急仕様変更を行わなければいけないので・・・」
さっきの脳内妄想を一掃しなければ気が済まない。
「作業って何よ?窓?儚げ?仕様変更?君は何を言ってるの?」
うわーミスった。きちー。自分の世界に入り込みすぎたせいで自分の言動が相手には伝わらないってことにきづかなかったのかよ。いかんいかん水羊羹。って全然おもんね。
「すみません、言葉足らずでした。僕が教室に入った時先輩が窓を見て、たそがれていたので、そういう作業をしているのかな?と思いまして。その姿が儚い感じに見えたといか、冴島先輩があえてそうしているというか、とにかく儚そうだったので・・・あと仕様変更はこちらの話なのでお気になさらず。」これで伝わるな。
「そういうって何よ?私がたそがれてるのがそんなにおかしいの?その仕様変更って私で勝手に清純な文学少女を妄想してたのを修正するって意味でしょ。ふざけんな!後輩のくせして、私を妄想に使うなんて。妄想癖?痛すぎよね。死ねばいいのに。二度と私をその妄想のだしにしないでよね!」一段と怒りのギアが上がったご様子だ。
伝わりすぎだろ!なぜ仕様変更の意味がわかったんだ?怖!俺、この女を妄想に二度と使わないと決心した。
「悪意はなかったんです。本当にすみません。」謝り方に悪意を感じるな、自分でいうのも何だが。
「謝り方に悪意を感じるわ。」
彼女は俺をゴミだと思っている様子。どっかで見たことある表情だこと。
後、びっくりするくらいこの人俺の心にシンクロしてくるんだけど・・・何?好きなの?いやもうやめよう・・・
特に話すこともないのでイヤホンを装着した。あ、でも輪ゴム銃女の事、相談しようと思ってたんだ。まぁ相談したところで解決するわけではないのだけれど。ので一人で考えます。
どうして輪ゴム少女・・・えっと、あ!確か三浦だ、三浦!そうそうその三浦はどうして毎回上田を狙い撃ちするのか?正直そんなことはどうでもいい。俺に被害が出ているというのが問題なのだ。
だからこそあいつに・・・あ、わかったあいつに直接言えばいいのか。馬鹿だったなー俺。それが一番早い。無駄なことを考えずに済んだ。
とりわけ考えることもなくなったので物理の参考書を開こうとしたが、開かない。というか開けない?いや開かせてくれない。なぜなら冴島が俺の物理の参考書を彼女の右手で押さえ込んでいるからだ。
おいおい、こいつどこまでめんどくさいんだよ。イヤホンを外してみた。
「あなたね、ホントわかってるの?だいたい・・・」
すぐにイヤホンを装着した。どうりで三年生が来ないわけだ。こんなものと一緒にいたら三日でノイローゼだぜ。まぁいい、番犬を飼いならすためのクエストだと思って、こいつの説教聞いてやるか。
「武蔵が覚醒するとこカッコよすぎない?」もうそろそろ二時間はたつだろうか。
「いやいやそれもかっこいいけど、小次郎が泣き崩れるところ一択でしょ。」
なんだこの会話・・・
「あー、わかるわ。まさか転生先で若くして死んだお母さんが生きてたってシーンね。私個人的にもあのシーンが一番好きだけど、相田に合わせて戦闘パートについて語り合おうと思ってたのに、意外とロマンチストだったのね。てかあのお母さんをみて泣き崩れる小次郎の名言覚えてるかしら?」
めちゃくちゃ・・・
「『母さんどうして生きているんだ?俺はもう二度と母さんが死ぬとこは見たくなかったのに・・・』でしょ!あっっっっっっつい!あれはまじで名シーンすね!」
楽しすぎる!
「さすが相田、わかってるわね。」冴島は俺にグッドサインを向けてきた。
「冴島先輩こそ!」俺もグッドサインを投げ返した。
「凛子でいいわよ。」
「じゃ俺も裕太で。」
もうそこには争いなんてなかったかのような平和な世界が広がっていた。
なぜこうなった?確か二時間前まで彼女を号泣させた挙句、ブチギレさせて、死ねばいいのにとまで言われていたのに・・・
確かに最初の十五分間は説教だった。しかし、十五分を過ぎた辺りから急に好きな本の話をし始めたのだ。彼女に何があったのか、わからない。が予想以上に本の趣味が合い、漫画やアニメの趣味までも合い興奮した俺たちは、今期イチオシのアニメ『僕の人生転生』について語りあっていたところだったのだ。
「じゃあ、僕は先に帰りますね。」彼女に手をふった。
「いつでも語り合おうな、同志よ。」凛子は男口調を真似てそう言い放った。
今日一日わかったことは冴島凛子はやベぇやつであるということだ。