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春が来て、いつか咲く  作者: ゲコゲコ侍
3/5

交わる二人

いつものようにと呼べるほどは慣れ親しんではいないが、二週間もたてば張り詰めていた気も少しは緩められるというものだ。今日も教室に入ると静かな空間が広がっている。

「早くきすぎかな・・・」なんて一人で呟いて見ても返事はない。

この教室にいるのは実質俺一人だからだ。実質というのも、俺の席の後ろにはどれだけ早く登校してるかも不明なねむり魔がいる。うちのクラスでは眠り姫と言われているがこいつはあれだ。あれなんだよ。まぁ上田だ。眠り姫と言われるだけあって寝方が綺麗すぎる。いや綺麗すぎて逆にキモい。

どうしてそんなに背筋を伸ばしたまま眠れるんだ?顔が美人なだけあって人からはチヤホヤされてるみたいだが、この思い込みの強い女のせいで俺は悲劇を見た。(※もう一度見ます。)

別に嫌いではないが関わり合いたいとは思わない。と言っても俺は高校では関わり合いそのものを減らしたいのだ。それは決して上田に限らない。

俺は物理の参考書を開き一問一問に集中力をさく。そうしているといつの間にか教室も賑やかになっていた。松がいろんなやつに挨拶しながら俺のとこまでやってきた。


「おはよう松。」そう言ってキモきもスマイルをぶちかます。


「おっす裕太、部活何か決めたか?」


松は俺の机に腰掛けた。まーた唐突だな。まぁ今はそういう気色悪い季節だもんな。青春臭!


「文芸部にしようかなと思ってるよ。」


理由は単純、放課後、教室を自由に使うことができるからである。

文芸部は部員三年生の女子三人男子三人、二年生の女子一人の計七名で構成されており、先輩たちはとても優しいし、おとなしいそれに加え、空き教室を使い活動を行っており、活動内容は自由らしい・・・一年に一回小説コンテストに応募するらしいが、締め切り一週間前から徹夜も覚悟で行うためほぼ普段の活動はないという。

コンテスト前地獄じゃんと思ったのだが、現唯一の二年生である冴島先輩がいくつか小説を書き溜めていて、それを提出する予定なので心配ないらしい。

すなわち少なくとも俺が文芸部に所属する三年間はその小説でなんとかなる。ちなみに冴島さんがいなかった一昨年は部員一人一人、バトン形式で一人最低二十万字を書かせていたらしい。ということは冴島さんは一人で百四十万字近く書いているのか、しかも何個も・・・化け物かよ。しかしその化け物っぷりは性格にも現れているらしく、三年生がうるさくなると突如ブチギレるらしい、それがゆえほとんどは冴島さんが一人で教室を使うらしい、部員が五人いないと部活にならないので新入生を集めるため、今は三年生が教室にたくさんいて、冴島さんもヘッドホンを装着し煩さを防いでいるらしい。初めからヘッドホンすれば三年生がキレられることもなかったんじゃね?まぁどっちにせよ俺にとってこれ以上ない好条件だ。

冴島とかいうばけも・・・おっと、番犬を教室に置いておけば静かな環境で勉強が可能なのだ。神すぎる。どうして家で勉強しないのかって?自分の部屋は誘惑が多く勉強に向かないのだ。

主にテレビ・・・あれを思いついたやつは天才だな。

そんなこんなで文芸部に入部することが自分の中でも文芸部内でも確定しているのだ。


「え?相田くんが文芸部?なんの冗談?」松との会話の中に本多が首を突っ込んできた。


おいおいどれだけ中学時代のことを掘り下げるつもりなんだ?

「冗談じゃないよ。本気で文芸部にしようと思ってるし、文芸部の人も僕を歓迎してくれてるよ。」


「へーもうサッカーはいいの?」


「いいんだよ。それより松はどんな部活にしようと思ってるの?」この言葉を発したとき俺は少し動揺していた。


本多に悪気がないのはわかっているから、無視するというわけにもいかないが、どうにかしてこの話題は避けたい。


「俺はサッカー部にしようかなって思ってんだ。な、稔?」松は稔に同意を求めた。


「ああ。二人で見学に行ってるんだけどとてもいい雰囲気なんだ。超弱小サッカー部らしいけど楽しくサッカーができるならその方がいいって人ばかりだったよ。」稔は笑顔で言う。


どうしてだろうこの時ばかりは稔の笑顔が憎く感じられる。てかお前いつの間にそこにいたんだ?


「なんだ、それなら相田くんもサッカー部行ってみたらいいじゃない?」


本多の言葉を俺は無視しようとした。だが次の言葉を聞いて黙ってはいられなかった。


「春樹もその方が絶対喜ぶって!」


『春樹』


俺は彼の名前をよく知っている、しかし忘れたように振舞おうと決めた、俺は逃げたんだ。春樹から・・・


「俺はお前らみたいに綺麗な青春なんて望んじゃいない!俺はおとなしくなりたいんだよ、まじできもい陰キャラに、ぼっちになりたいんだ・・・もうきちーんだよ。中途半端が一番嫌なんだ、本多、お前そもそも俺になんの関係があって話しかけてきてんだ?友達でもない奴がペラペラ俺について語るんじゃねぇよ。そもそも、てめーメガネはどうしたんだよ。ずっと陰キャラだったくせにイキってんじゃねぇーぞインキャが・・・」


僕の口からは言いたくもない言葉が漏れ出ていた。ダメだなー、思っている以上に春樹のこと言われたことに腹が立っているんだなー。自分がとてつもない怒りに囚われているというのは案外自分が一番わかるものだ。


「ごめん、そんなつもりじゃなかったんだよ・・・」本多は半泣きだった。


そんなつもりってどんなつもりだよ、ってよく思うんだけどここではどうでもよかったな。それよりも早く弁解しないと松と稔が何をいうかわからないなー。


「すまん、俺も急にキレちまった。まぁお前も知ってのとうり俺はよくわからないことでキレる癖があるんだ、とりわけ春樹のこと言われるのはきちーんだよ。だからあいつの話題だけは避けてくれ。」


「わかったよ、なんか地雷踏んだみたいでごめんね。」本多は頭を下げた。


見たいじゃなくて完全に踏んでるんだけどね、正直本多のことはどうでもいいんだよね。問題はあの二人なんだけど・・・

「裕太お前、マジで最低な奴だな・・・」松が冷めた目で僕を見つめている。


「わかってるよ、俺が最低な奴だってくらい、好きに失望してくれ。」


まぁいじめてこなければいいんだけどなぁ


「ど、どうしたんだ裕太、急に?」稔がすごく動揺しているのがわかる。


「すまんなお前が想像していたような人間ではないというのが衝撃的というのはわかるが、お前ら二人に危害を加えようと思うほどクソ人間ではないから安心してくれ。だから俺に危害を加えるのだけはやめてね。」


本当に僕は何を言ってるんだ。自分でもわからない。


「は?何意味わかんないこと言ってんだよ。腐っても俺達は友達なんだから、そんなことはしねーよ。俺が言いたいのはあんな風に女に当たるのは間違ってるって言いたいんだ。」


松は真剣に僕を叱ってくれている。面倒だな・・・どれだけ青春好きなんだよこいつらは。っていうか僕は腐ってもって言われるほど腐ってはいないんだけど・・・


「ありがとう、松。僕を叱ってくれて。今の一言で目が覚めたよ。」


なんだよ目が覚めたって、もともと覚めっぱなしだよビンビンだよ。まぁこういう青春くさいのこいつら好きそうだしな。


「ま、まぁ裕太にも色々事情があるんだろう。しかし、女にああ強く当たるのは良くないぞ。」稔はやはり平和主義者であった。


「いやお前がわかったんならいいよ・・・何つーか俺も言いすぎた。」


なんかその発言テンプレすぎてキモいな松・・・


「いや、ほんと僕が悪かったよ…ごめん」


ここで相田選手、華麗な笑顔を決め込みました!いやーキモい。


「相田くん、その・・・私も・・・」彼女が俺に放とうとした言葉が謝罪であることを俺は察した。ならとるべき行動は一つ。


「ほんとごめん、本多」


俺は謝った、九十度のお辞儀を決め込んだ。そこに謝罪の気持ちなど微塵もなかった。俺は本当に賢い。ここで本多に謝りさえすればことが簡単に片付き、青春好きのこいつらと俺の仲直りが綺麗に決まる。

これが自分の嫌いなやり方だとわかっていてもやめられない。俺はそんな自分が許せない。へへ、それもちょっと違うか。自分を責めることにより俺は心のバランスを取ろうとしているのか・・・

今の今でさえ俺は自分のことしか考えられないのだ。


春樹、お前はどこまで見えていたんだ?


そんな事をふと考えていた矢先だった。

「パン!」そんな銃声が教室に響いた。俺の上を何かが通り過ぎていくのを感じた。あまりに一瞬すぎて、何が起こったのかもわからず、後ろを振り返って見た。そこにはまたも赤く頬を染め、かつ涙で頬を濡らす上田の姿があった。おいおい・・・俺は正面を向いた瞬間に見たのだ、

あいつが銃口にキスしているところを、しかし俺が頭をあげたせいで上田にはあの銃が見えていないことに気づく、


「あれだよ、あの銃だよ。」


俺はあいつ、えっと誰だっけ?まぁいい、輪ゴム銃女を指差しながら上田に訴えかけた。


「死ね!」


だが現実は悲惨すぎた。帰ってきたのはビンタ一撃と『死ね!』という罵声、それだけだった。

 確かにあの状況で『あれだよ』と言われてもなんのことかわかりにくかったな・・・


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